死んでもいいデスゲーム   作:働け蜂

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I を取り戻せ

 

 

《問》

 なかよしのお友だち6人で1つのチームをつくりましょう。

 ひろばには45人のお友だちがいます。

 チームはぜんぶでいくつつくれるでしょうか?

 

《答》

 仲良しじゃない子もいるので一概にどうなるとも言えない。

 

 

 攻略会議に集った面々には会議の途中から内容そっちのけでずっと気にしていたことがある。

 

 あの骨仮面、制御できるやついるのか?

 

 という、ある意味当然の疑問である。

 

 この場に集う攻略の最前線を走るプレイヤーたちの中でも頭ひとつ抜けて統率力が高いであろうディアベルですら、アヤのことは持て余していそうな様子なのだ。

 というか「うちのパーティの人じゃないですあくまで協力者です」と念押しまでして他人アピールもしていたことだし、制御できるやつだとハナから思っていなさそうな節がある。

 

 とはいえだ。

 先ほどディアベルからも説明があったように、このゲームのフロアボス戦における主要な戦法は8組のパーティによるレイドを形成することが前提となっている。

 主としてボスとの攻防を行う部隊はもちろんのこと、いざとなったら敵の攻勢を一手に引き受けるタンク部隊や、ボスが召喚するモブの相手をする部隊などなど。目的に合わせて役割分担を行なったほうが安全かつ確実にボス戦を進めることができるというのは、たとえ何の説明もなかったとしてもゲームをしたことがある人間なら直感的にわかることである。

 普通のゲームであればボス戦に失敗したところで「しくじったな次は上手くやろう」で済むのだろうが、このデスゲームにおいてはそうではない。「上手くやらなければ次など無い」ので、可能な限り不安材料は排除しておきたいものなのだ。

 

 みんなわかってはいる。

 別に彼は話の通じないやつではない。ベータテスターであることを公言しつつも彼なりに貢献してきたことを理路整然と説明して見せたことであるし、破天荒な外見や振る舞いとは反して人柄は意外とまともそうである。

 

 おそらく戦力としてもこの中で最上位であろうことは装備の充実ぶりを見ればわかることだ。.

 .....そうか? あれ強そうに見えるか? いや絶対強いでしょ。ゲーマー的には強そうでしかない。見た目が犠牲になるほど強いのはゲームのお約束でしょ。でも紙装甲なんじゃないの。ワンパンで乙りそう。

 誰も口に出さずアイコンタクトだけで物議を醸すという器用なマネをしていたがとにかく、あの格好でかつベータテスターという経歴の人間が弱いとは到底考えにくいというのが共通認識だ。

 

 ただ一点。

 行動が読めないのが怖い。

 怖いから組むのに躊躇しているのである。

 

 なので、元から6人でフルパーティだったところは当然静観。

 人数が少し足りなかったところは早々に無難そうなプレイヤーに声をかけてパーティを埋めてしまい骨仮面が入り込む余地をなくす。

 そうしてきわめてスムーズに6人組の7パーティが組み上がっていった。ほとんど全員他人同士なのに意思統一がばっちりできていた。

 

 

 45-6×7= ?

 まだパーティを組んでいないのはアヤと、それぞれソロプレイヤーらしき2人の計3人である。必然、この余り物たちでパーティを組むしかない状況になった。

 

 自分が敬遠されていることを理解しつつパーティが組み上がっていく様子をぼーっと眺めていたアヤがここでようやく動いた。

 

 ガシャガシャと甲冑の足音を鳴らしながら、どちらかというと近くにいたほうのソロプレイヤーに歩み寄っていく。

 比較的小柄な男性と思われる黒髪のそのプレイヤーは顔を引き攣らせていた。

 

「良い片手剣持ってるね。頼りになりそうだ。

 だが、俺のコボルド・エリートスピア+6だって捨てたもんじゃないぜ」

 

 もう余り物同士でパーティを組むことは確定してるんだから腹を括れと、武器自慢をかましつつパーティ申請を送る。

 黒髪の男性プレイヤーはやはり引き攣った顔のまま、しかし観念したようにそれを受理した。

 

 《kirito》がパーティに参加しました

 

 表示されたシステムログを見て、アヤにしては珍しいことに目を見開いた。

 

「あー.......なるほどそゆことね。

 いや。よろしくな、キリトさん」

 

「あ、ああ。よろしくアヤさん」

 

 さらりと挨拶をしてから、残ったもう一人を見やる。

 フード付きケープですっぽりと覆われていてどういった人相かは判別できないが、体格からするにおそらくは女性プレイヤーである。

 装備しているのは細剣。すでにパーティを組んでいるキリトが盾を持たないスタイルの片手剣使いであることを考えると、かなり攻撃的な構成のパーティになりそうだ。

 

「そっちのあんたも、俺らと組むってことでいいね?」

 

「......かまいません」

 

 パーティ申請、受理。

 プレイヤーネームはアスナというらしい。

 

「よろしくな、アスナさん。

 余り物同士、仲良くしようぜ」

 

「攻略に必要なこと以上には関わるつもりはありません」

 

 フレンドリーに挨拶してみたら、返ってきたのはとんだ塩対応であった。

 触れるものみな傷つけそうな勢いでトゲトゲしい。

 

 まあ、この人のことは一旦置いておいていいか。

 それよりも。

 

 目下のところ気になることのあったアヤはアスナの塩対応は一旦脇に置き、メニュー画面を素早く操作した。

 口頭会話ではなく、個人に向けてインスタントメッセージを送信するために。

 

 

from: aaaaaaaa

 攻略会議が終わって、もし気が向いたら俺の部屋を訪ねてくれ。

 俺はトールバーナ大通りにある《雄熊の微睡亭》の203号室に部屋をとってる。

 亭主がむさくるしいおじさんの宿ね。ボアステーキが美味いとこだ。

 

 キリトは苦虫を噛み潰したような顔で立ち竦んでいた。

 攻略会議の最中、パーティを組んだ男からこのようなメッセージが送られてきたからである。

 

 行くかどうか迷ったが、結局来てしまっている。

 逡巡しているうちに随分と夜も遅くなってしまった。もう寝てるんじゃないか。こんな時間に訪ねるのは非常識じゃないか。やっぱやめとこうかな。などと思い始めている。

 

 目の前には件の彼のメッセージに記されていた「203」の数字。

 来たはいいが扉をノックするのに気が進まない。

 

 キリトはあのアヤというプレイヤーを知っている。

 パーティを組んだ際に視界の左側に躍り出たaaaaaaaaという文字列を見てそれは確信に変わった。

 そしておそらくは、彼のほうもキリトのことを知っている。

 

 知り合いなのかというと、そうではない。

 互いに一方的に知っているだけである。

 それもそうだ。ベータ時代には二人ともそれなりに有名なプレイヤーだったのだから、名前くらい知っていても何の不思議もない。

 

 かたやソロプレイヤーながら最前線を走り続けた剣士キリト。

 かたや検証プレイヤーとして歩く攻略本などとあだ名されたアヤ。

 互いの気質的にあまり他者とつるむようなスタイルではなかったので直接的に関わりを持ったことはなかったが、まさかこんな形であい見えることになろうとは。

 

 アヤがキリトを呼び出した要件はわからない。

 現状、会議に参加したプレイヤーたちの中でキリトがベータテスターであったことを知っていそうなのは彼だけだ。

 そんな彼からの接触を断るのはいささか怖い。

 

 会議の時の振る舞いからして「おいディアベル!こいつ超ツエー元ベータテスターだぜ!俺らのパーティをボス戦の主力部隊にしてくれYO!」とか言い兼ねないと思ったからだ。

 接触を無視した結果、そのようなことが起きてしまったら目も当てられない。

 

 キリトには、元ベータテスターであることに負い目がある。

 このデスゲームが始まったその時、キリトは一人の初心者プレイヤーと行動を共にしていた。気のいいやつだった。

 しかし。些細は省くが、キリトはその初心者を見捨てた。

 

 MMORPGは極論リソースを奪い合うゲームだ。誰かが何かを得たならば、その分他の誰かが得られるものが減ずるという構造になっている。

 その構造を理解しており、かつこのゲームについての知識が豊富なキリトには、誰よりも先んじてリソースを回収すべく動き出さなければならないという強迫観念があった。

 ゆえに、見捨てた。

 我が身可愛さに、ほんの一時とはいえ一緒にゲームをプレイした知人をはじまりの街に残して駆け出してしまったのだ。

 

 先ほどの攻略会議でディアベルとキバオウは言っていた。

 初心者を助けようとしない心無いベータテスターもいる、と。

 心無い、ベータテスター。

 

 それは、俺のことじゃないか。

 

 責められている気になった。

 責められても仕方がないとも思った。

 実際、見捨てたという自覚があったのだから。

 

 さらに引け目を感じるのは、アヤの立ち回りだ。

 検証プレイヤーとして、あるいはキリト以上にこのゲームに詳しいかもしれないあの男は、しかしキリトのように初心者を見捨てたりはしなかった。

 それどころか、情報屋......彼女についてはキリトにとっても知人であるが、発信力のある人間を介して多くのプレイヤーの助けになろうと尽力していたというではないか。

 

 みじめな気持ちになった。

 お門違いだとわかっていたが、嫉妬もした。

 どうして俺はそうできなかったんだ、と。

 それがまた自己嫌悪を強めた。

 

 そんな風に思っていたところにアヤからの呼び出しである。

 先ほどの飛躍しまくった懸念を仮に無視できたとしても、だったら要件は何なのかと言えば他に考えられるのは......糾弾、かもしれない。

 元トッププレイヤーがなんたるザマか、だなんて。

 被害妄想じみてきているのは自覚があったが、自罰的な感情に支配される今のキリトにはネガティブな思考が止められなかった。

 

 やっぱり、会いたくない。帰ろう。

 

 逡巡ののち、キリトは踵を返して扉から離れた。

 その時。

 

 ガチャリ

 

「うわ、人いた。

 すんませんぶつかりませんでした?

 って、あれ。なんだ来てたのかよ。来ないのかと思ったわ」

 

 とんでもなく間の悪いことにも、部屋から出てきたアヤ......とおぼしき人物と出くわしてしまった。

 

 ザ・布の服です、みたいな村人ルックのお団子頭の青年だったので、会議の場でのごちゃついた格好をしたプレイヤーと同一人物なのか判別し難いが、口ぶりからするにそうなのだろう。

 

「まあ上がってよ。野菜ジュースあるぜ野菜ジュース。

 なんの野菜かは知らんけど」

 

 ドアを開いてどうぞどうぞとにこやかに招いてくる。

 こちらの気も知らないで、と言いたくなるが、もたもたしている間に背を押されて中に連れ込まれてしまった。

 

 こうなってはもう腹を括るしかなかった。

 

 

「知ってたか? この宿な、亭主のおやっさんが冒険者贔屓でな、仲良くなったら疲労回復に効くと銘打ったスペシャルドリンクをサービスしてくれるようになるんだぜ」

 

 ピッチャーからコップへとやたらと粘度の高そうな緑色の液体を注ぎつつ、アヤは言った。

 

「これがまたな、アタリハズレが激しくてな。

 ま、今日のやつは比較的アタリなほうだ。

 よく噛んで味わえばリンゴっぽいフレーバーも感じられないこともない出来栄えだぜ」

 

 ドリンクなのに噛むってなんだよ。

 そもそもいるって言ってないよ野菜ジュース。野菜ジュースかこれ?

 

「あー、でも。

 ホルンカの民家に部屋借りてるあんたからすりゃ、あのミルクに勝るモンはなかなかねぇか。美味いよなあれ」

 

 おいちょっと待て聞き捨てならん。

 

「待て。待ってくれ」

 

 ここまでただただ無言だったキリトはあまりの聞き捨てならない発言にとうとう声を上げた。

 

「ん。どした?」

 

 なんで知ってる?

 

「なんで俺の宿を知ってるんだ?」

 

 とうとう心の声と肉声が一致した瞬間であった。

 いやほんとになんで知ってんの怖いんだけど。

 キリトは身震いした。

 

「そりゃ、調べたからだよ。

 なかなか来ないからこっちから出向こうかと思ってな」

 

「メッセには気が向いたら来てくれって書いてただろ!

 ああいう書き方だったら普通、会っても会わなくてもいいやつなんじゃないのか⁉︎

 なんで宿を調べてまで俺に会おうとしてるんだよ怖いよ⁉︎」

 

「"行けたら行く"っつったら絶対行かないだろ?

 それと一緒で、"気が向いたら来い"は"絶対に来い"という意味だ。

 なのに来ないもんだからさ」

 

「初耳だよ⁉︎」

 

 なんなんだこいつ。

 キリトは肩で息をしつつ、得体の知れないものを見る目をアヤに向けた。

 

「まあ飲め。喉乾いたろそんだけ騒いだら」

 

どう見ても喉を潤すのに適してないだろこの物体は⁉︎

 

 ドスッと鈍い音を立てて目の前に置かれたカップの中の物体は波紋ひとつ立ててはいなかった。

 

 ぜぇはぁと息を切らせるキリトに対し、アヤはのほほんとしていた。

 手元のカップを手に取り中身をすすっている。

 ていうかそれお茶だろ。あんたは飲まないのかよ野菜ジュース。

 疲れたので心の中だけでツッコんだ。

 

「なんか警戒してたみたいだけどさ」

 

 機を見計らったように、アヤは呟いた。

 

「俺は単にあんたが変に気負ってないかが気になってたから会って話がしたかっただけなんだよ」

 

 自分より少し歳上に見える青年は苦笑いをしていた。

 キリトが緊張していたことはわかっていたらしい。

 

「......どういう意味?」

 

「俺が会議の場で善人ぶったことぺらぺら喋ったもんだから、あんたは自分のことを悪人か何かだと思って自分を責めちゃいねぇかと思ってね」

 

 キリトに会って話がしたかった理由を説明しているようだが、未だ要領を得なかった。

 善人?悪人?何の話をしているのか。

 

「あんたは善人だろ。情報を広めたり、自分で検証したり。攻略もしながら。それに俺は......」

 

「クラインっつープレイヤーから伝言だ。

 

 "こっちはダチとも合流できてなんとか上手くやってる。あの時はおめぇを一人にしちまってすまねぇ。あとそれから、あー、なんつったらいいのかな。ちょっと待ってくれよ、今考えてっから。ああそうだ!おめぇが責任を感じる必要は一切ねぇよ。立場が逆だったら俺も同じことをしたかもしれねぇしな。だから気にすんな。ああそうそう、いい加減メッセージ返してくれよな。何通か送ってあるだろ? 音沙汰ねぇとハラハラしちまうからよ。あー、こんなもんか? あと、そうだ。がんばれ、死ぬなよ! っと、こんな感じかな。長ぇかな。ま、いい感じに要約して伝えておいてくれ。もしあいつに会うことがあったらでいいからよ"

 

 以上、一言一句違わず伝えたぜ。

 もう一回聞きたかったらリピートもできるぞ。覚えてるからな全部」

 

 キリトは絶句した。

 声音まで真似たアヤの放った言葉はあまりにも衝撃的だった。

 

「な、なんで」

 

 まるで彼が......初日にキリトが見捨ててしまったプレイヤー、クラインが目の前にいるのかと錯覚してしまいそうだった。

 

「はじまりの街でNPCをナンパしてる、俺と同レベルのイカレ方してるプレイヤーがいやがってな。

 おもしれぇからNPCの口説き方教えてやったんだよ。

 相手がクエストNPCなら、いい結末を迎えさせてやればすれ違うとき軽く微笑んでくれたり手を振ってくれたりするようになるぜ、って。

 詳しく教えろっつーから一緒にクエやったりしてな。仲良くなったんだよ」

 

 情景が目に浮かぶようだった。

 確かにあいつはそういうことをしそうだ、と思った。

 

「俺がやたらと詳しいもんだから、まあ当然元ベータテスターであることはわかるわな。俺もバレても構わないから肯定したわけだ。

 そしたら身の上話をし始めてな。

 サービス初日に仲良くなったベータテスターは元気にしているだろうか、と。自分とその仲間が足を引っ張るような実力でさえなければ、そいつを一人で突っ走らせることもなかったのに、と」

 

 置いていったのは俺のほうだというのに、クライン、どうしてお前は。

 

 キリトはうつむいて手を固く握りしめた。

 ペインアブソーバーの機能がなければきっと痛みで躊躇していただろうほどに強く。

 

「で、そのプレイヤーの名前訊いたらkiritoっつーんだから驚いた。

 ベータ時代の超トッププレイヤーじゃねぇかってな。

 俺も攻略がんばってるほうだからさ、もし前線で会うことがあったら伝言くらい承るぜって提案した結果、お出しされたのがさっきのやつってわけ」

 

 長々と話し終えたアヤはお茶を口に含んだ。

 一方でキリトの喉はカラカラだ。

 

 クラインは許してくれていた。

 いや、初めから恨んですらいなかった。

 対面でのリップサービスなんかではない。

 アヤという、第三者を介してまでキリトを案じていることを伝えてくれた。

 たまらなく嬉しい。

 

「だけど、俺は」

 

 それでも、自責の念は消えてくれない。

 自分の卑怯な行いは決してなくなったわけではないから。

 

「取り返せばいいだろ。その剣は何のために持ってんだ」

 

 キリトがふたたび自罰的になりかけた時。

 アヤはまたしても機を見計らったように呟いた。

 

「自分の身を守るため、もちろん結構。

 そのついででいいから全部やっつけちまいなよ。

 そしたら結果的にみんな助かってハッピーになれる」

 

「いや、そんなメチャクチャな......」

 

「実を言うとな、俺も初心者を見捨てたことがある」

 

 ぽつりと、なんでもないことのように言った。

 キリトの懊悩の理由である、「心無いベータテスター」としての行動をかつてアヤもとったということを。

 

「別におかしな話じゃない。

 詳細は省くが、俺はそいつのことが気に入らなかった。

 だから助ける義理もなかった。

 そもそも自分の身は自分で守れって話だ」

 

 あまり褒められた言い種ではなかった。

 助けられる力があるのにそれを使わないというのは、悪、なのではないだろうか。

 

「だけど、それは優先順位の話だ。

 その時は、そいつに手を貸すことは優先順位が低かった。他にやりたいこと、やったほうがいいことがあったからな。

 落ち着いた頃にアルゴにそいつの所在を調べてもらった。

 初日に置き去りにした詫びってことで、そいつの好きそうな服飾関係のスキルを伸ばせる工房の情報を渡してやったんだよ。

 そいつ、今では活き活きとクラフト職への道を突き進んでるみたいだぜ」

 

 取り返す。

 先ほど、アヤは言った。

 そして彼は有言実行したということなのだろう。

 

「もっとも、もしそいつが死んでたりしたらリカバリー不可能だったわけだけどな。

 詫び入れても許してはくれなかったかもしれねぇ。

 だけど実際の結果は円満解決。

 結果論だよ。良いも、悪いもな。

 キリト。あんたのほうもまだリカバリーがきくじゃねぇか。

 ディアベルじゃねぇけど、元トッププレイヤーのあんたならきっと見せられるだろ。

 希望ってやつを。その剣で」

 

 言いたいことは終わりだ。

 そんな素振りでアヤは立ち上がるとカップに茶を注ぎ始めた。

 

 キリトの固く握りしめられていた拳はいつのまにか解けている。

 

 なんと、言えばいいのか。

 感情がぐちゃぐちゃになっていて、うまく言葉が出てこない。

 それでも、これだけは言わなきゃいけない。

 

「その......ありがとな。クラインのこと、とか」

 

 窓の外ではフクロウが鳴いている。

 時刻はすでに午前1時を回っていた。

 

「いいんだよ。

 やりたいようにやってるだけだから。

 明日からも攻略がんばろうぜ。

 頼りにしてるからな、トッププレイヤー」

 

 へらりと笑うアヤはひたすらに頼もしい。

 そして、自分はそんな彼からはトッププレイヤーだと言われ頼られているらしい。こそばゆいことだった。

 

 その期待に応えられるかはわからないが、この世界での自分は"剣士"キリトだ。剣なら誰にも負けない、負けられない。

 

「ほれ」

 

 アヤがカップをかかげる。

 乾杯、ということだろうか。

 何に? と問うのはヤボというものだろう。

 

 二人のカップが打ち鳴らされる。

 そしてキリトは、その中身に口をつけた。

 

ゴッッッハッ⁉︎まずっ⁉︎

 え、びっくりするくらい不味いんだけど⁉︎

 トマトのヘタみたいな味がする!

 

 激しくむせた。

 

 アヤは爆笑していた。

 

「うはははは‼︎

 比較的アタリっつったけど美味いとは一言も言ってないだろうがよ!ひゃはははははは‼︎」

 

 嘘だろこいつ。

 まじでなに考えてんのかわかんない。

 怖い。

 

 キリトは心の中でアヤの評価を著しく下方修正した。

 

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