死んでもいいデスゲーム   作:働け蜂

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from Diavel

 

 久しぶり。

 最近、どうしてるんだ?

 どこにいても目立つはずのお前の噂すらも聞こえてこなくなって久しい。

 なんなら死亡説まで一瞬流れてたぞ。

 お前のことだから元気ではいるんだろうけど、少し心配だ。

 

 《聖剣騎士団》のことは心配無用だ。

 いや、まあ、多少ごたついてはいるけど。

 よりにもよって副マス2人が不仲なのが困るんだけど。

 

 お前に愚痴っても仕方がないのはわかってる。

 いや仕方なくはないか。お前も関係者だし。

 つまりまあ、組織の長としては気苦労が絶えないって話だ。

 たまには誰かに吐き出したくもなる。

 

 とにかく。

 ときどきでいいから攻略会議に顔を出してくれ。

 リンドとキバオウの間でゲ⚪︎ドウみたいなポーズ取りながら話を詰めてるときとか、話じゃなくて息が詰まるんだよ。

 アヤにバカやってもらって空気を変えてもらいたい瞬間が多々ある。

 

 最後まで愚痴っぽくなってすまん。

 返信待ってるぜ。

 

 

「ねえ。

 誰からのメッセージだったの?」

 

「......あー。

 攻略組のリーダー的なやつ。

 最近サボってるから。いやサボってはないけど。

 ここ一ヶ月ほど前線に顔出してないから生存確認、みたいな」

 

「そう、なんだ」

 

「そ。いや、気にすんなって。

 俺はやりたいことをやってるだけだ。

 ちょうど攻略のモチベ上がってないだけだからいやマジで」

 

「......ごめんね。

 わたしのせいだよね。

 足、引っ張ってるよね」

 

「あーあーあー!マジでそうじゃねンだって!

 大丈夫だから。俺強いから。多少の遅れなんてモノともしてねぇから」

 

 アヤはあわてふためいた。

 このデスゲームが始まって以来、幾度目かになるピンチを迎えていた。

 

 手足が吹き飛ぼうが防具が弾け飛ぼうが、結晶禁止エリアに閉じ込められて敵に取り囲まれようが、さして取り乱したことなどない。

 少しくらいは取り乱せよ、と一部の人間からバケモノでも見るような目を向けられても気にしたこともない。

 根本的に自分にも他人にもあまり興味がないゆえにそうなっている、と彼自身は自己分析している。

 

 そんなアヤにも苦手なことはある。

 少しばかりおかしな精神構造をしてはいても、彼も人間だから。

 

「あーそうだ!

 ちょっと買い出し行ってくるわ。

 おみやげいるか? いるよな?

 ちょっと奮発してケーキとか買っちゃおっかなぁ今日は!」

 

 アヤは女性の扱いが兎角ヘタだった。

 とりあえずモノで釣ればいいと思っているタイプだった。

 

 眼前にいる、泣き出しそうな......というかもう涙がこぼれ始めている()()()()()()をなだめすかすにはそれしかないと思ったのだ。

 

「行ってきます!

 外に出る時はメッセージくれよ!」

 

 逃げるように家を飛び出した。

 買い出しなんて嘘である。

 道具屋にも武具店にも用事はない。頭の中はアインクラッド中のお菓子屋さんのデータでいっぱいであった。

 

 いっぱいいっぱいであった。

 

 

「結婚したのか、オレっち以外のヤツと......」

 

「いやしてないしてない。

 え。てかアルゴ。お、お前、俺のこと好きだったの?」

 

「......そういうネットミームだヨ。

 キョドるなヨ、ちょっとキモいゾ」

 

「ンだよびっくりさせんな。

 モテ期きたのかと思っただろうが」

 

「で。どういう状況なんダ?

 同居人テ。しかも女の子テ。あのアヤが?

 冗談は存在だけにしといたほうがいいゾ」

 

 家を飛び出して間も無くのこと。

 攻略が24層まで進んでいる今となってはもはや懐かしい5層《カルルイン》の街。

 スイーツといったらこの街の名物《ブルーブルーベリータルト》は外せないよな、売り切れる前に確保しとかないと。

 と、朝も早くから店を訪れていたときのことだった。

 

 オマエ捜索願い出てるゾ。

 事情があるなら居場所は黙っといてやル。

 ちょっと話聞かせロ。

 

 いつの間にやら背後に忍び寄られ、そう囁かれたアヤは飛び上がるはめになった。

 いくら敏捷型ビルドのアヤといえど、敏捷に特化しているうえにスキル面でも隠密・追跡向きの構成をしているアルゴから逃げ切ることはできない。捕捉された時点で詰みである。

 というか逃げる理由もない。別に後ろめたいことをしているわけでは......ないのだから。

 

 そんなわけで、せっかくだからとそのまま店に連れ込まれ、口止め料も兼ねた朝食を奢らされるはめになる。

 そうして、近頃前線に出ていない理由をぽつりぽつりと話し始めたのがたった今のことなのであった。

 

 何となく探られていたことは察していたし、別に逃げていたわけではない。アルゴとはメッセージで情報のやりとりくらいはしていた。

 しかし、自身の近況については一切話していなかった。

 話したくない事情と話せない事情をはらんでいたからだ。

 

「......まあ、冗談みてぇに思われるのは否定しねぇよ。なんなら俺自身が一番そう思ってる」

 

「ネカマに入れ上げて貢いでた過去から随分進歩したじゃないカ。

 まさか家に連れ込むような度胸があったなんテ。

 おねーさんフクザツな気持ちだゾ」

 

「......そんなんじゃねぇよ。

 俺もな、まさかだったんだ。

 まさか、こんなデスゲームの真っ只中でリアルの知り合いに出くわすとは思っちゃいなかったんだよ」

 

 あれは今を遡ること一ヶ月前。

 未発見のクエストでも探そうかと、20層のフィールドを探索しているときのことだった。

 

 

 第20層《ひだまりの森》

 自然豊かな文字通りひだまりの......というのは外縁部の話。奥地のほうはひだまりの名に反してほんのり薄暗い、鬱蒼としたという言葉の似合う光景のフィールドである。

 階層が解放された当時こそ天然の迷路とも呼べる森林フィールドと、そこに跋扈するシンプルに硬くて強い昆虫系モンスター、いやらしい状態異常を駆使する植物系モンスターたちにプレイヤーたちは苦しめられたものだが、研究の進んだ今となってはさほど危険なフィールドというわけではない。

 

 とは言っても、それは攻略組のプレイヤーにとっての話である。

 ここで言う攻略組とは一般的にはその時点での最前線で戦っている者たちのことを指す。

 すべてのプレイヤーたちの中でも上澄の上澄。

 未探索のフィールドをも恐れず、しかし決して無謀にはならず着々と攻略を進めていくフロントランナーたちのことである。

 

 現在の攻略組はいくつかのギルドの連合軍といった様相を呈している。

 その中でも中核を担う大ギルドと、それを支える中小ギルドがそれぞれの意見を持ち寄りながら攻略を進めている形である。

 

 大ギルドと呼ばれるものの中でも、このゲームの攻略黎明期より存在する《聖剣騎士団》はその筆頭格と言える。

 やたらとヒロイックな名称のこのギルドは《はじまりの騎士》と渾名されるディアベルを団長とし、その下に副団長のリンド、キバオウといった最初期からこのゲームの攻略に携わる面々が連なる大集団である。

 団長ディアベルが掲げるスローガンは「ノブリス・オブリージュ」。フランス語で「高貴なる者には義務が伴う」と訳されるこの言葉はいかにも騎士然とした振る舞いをする彼の人柄を表していよう。

 

 そして、アヤもこの《聖剣騎士団》に所属する攻略組の一員であった。

 と言っても、「資金とか経験値とかプールすんのに貢献はすっからあとは自由にやらせてくれ。固定パーティも組まん。性に合わん。ギルド関連のバフの恩恵にはあやかりたい。攻略会議には顔出すつもりなんでヨロシク」とワガママ全開の半幽霊団員であったが。

 一部団員たちからは白い目で見られていたが、そもそも団長ディアベルがじきじきに勧誘した人物であること、そのディアベルの命を過去に救ったことがあるといった経歴を持ち、そも本人の性格がナゾであり掴みどころがない、といった諸々の理由からアンタッチャブルなやつだと見做されている。

 

 話を戻すが、20層のフィールドはアヤのような最前線のプレイヤーにとってはさほど危険な場所ではない。

 しかし。ゲーム開始からしばらく経ってから行動を始めた後発のプレイヤー、一般に中層プレイヤーと呼ばれる者たちにとってはまだまだ危険な場所であった。

 

「うわああああー!

 やめろ、来るなぁあああ‼︎」

 

 鼻歌混じりに虫を叩きのめし、草を細切れにし、獣に至っては生肉を見る目で槍で突きながら探索を続けていたアヤは、森の中に響き渡る悲鳴と怒号の入り混じった声を聞きつけた。

 

 アヤが探索していたのは森の奥深く。

 この森は深くに潜れば潜るほど視界が悪くなり、太い木の根が足場を悪くする。出現するモンスターも奥地へ行くほどレベルが高く、強い。

 逆に外縁のほうは生温い。視界もまだ通りやすいし足場も良い。また、出現するモンスターも低級のものに絞られる。

 

 だから時々いるのだ。森の外縁で楽に狩りができたからと、少し危険でも見入りの良い奥のほうにも挑戦してみようというプレイヤーたちが。

 そして、そういうやつは大抵痛い目を見る。

 徐々に徐々に、本当にじわじわと敵が強くなっていく、環境が悪くなっていく。

 まだいける、まだいける、もうちょっと。あと少しだけ。

 そして......最後には。

 そんな悪意ある構成の森であった。まるで餌を垂らして奥地へと旅人を招き入れているかのように。

 

 此度上がった悲鳴もそういった中層プレイヤーのものと思われた。

 おおかた、外縁では出くわさないような強力なモンスターにエンカウントしたのだろう。

 悲鳴の出所は近い。見捨てるのも寝覚めが悪いか。

 

 アヤは駆け出した。

 声の出所に近づくにつれ、悲鳴の中に特徴的な羽音が混じり始める。

 

 《キラーマンティス》、しかも飛行種だな。運の悪いやつらだ。

 

 走りつつメニュー画面を操作し、装備を切り替える。

 森の中で長物は振り回しづらいからと、得意の長槍ではなく短槍と小盾を装備していたのだが、これから出くわす可能性が高いモンスターとは相性が悪いと判断したのだった。

 それに加えて今は一刻を争う。

 邪魔な枝葉は切り払って進んだほうが速い。

 

 《ブロード・マチェット》を装備する。カテゴリは片手斧。斧の中では比較的筋力要求値が低い一品だ。

 見た目はまごうことなき鉈である。マチェット......要は伐採用の大型ナイフの一種であるが、その名称を冠しているにも関わらず外見はそれと似ても似つかぬ鉈である。ちゃんと《ブロード》ってついてるでしょ?幅広のマチェットなんですよと言わんばかりのミスマッチ具合がお気に入りポイントである。

 

 木々を切り払いつつ現場に辿り着いてみれば、そこにはアヤの予想と違わぬ光景が広がっていた。

 

 男女合わせて5人。みな恐慌状態である。

 彼らを襲っているのはアヤの予想通り、キラーマンティス......巨大なカマキリ型のモンスターであり、この森に潜む最上位の捕食者の一種だった。

 そのうえ、このキラーマンティスは通常種ではなく、特に翅が大きく発達した飛行能力の高い変種である。短時間とはいえ飛行しつつ切り掛かってくる特殊行動を持ち、手練のタンクですら盾受けの難しさから苦戦を強いられやすい難敵であった。

 

 現に、パーティメンバーの一人は盾を破損しているようだ。盾とメイスで武装したそのプレイヤーがこの中層パーティの前衛なのだろう。

 他の構成員の武装は見たところ両手槍2人、両手棍、片手剣。

 ものの見事にこのカマキリと相性が悪い。硬い外殻に太刀打ちできそうなやつがメイス使い以外一人もいないうえ、そのメイス使いはタンクときた。これはキツい。

 

 普通のMMOでは狩場の横入りはマナー違反である。

 他のプレイヤーが戦っているモンスターを横から殴りつけて倒してしまうなど、迷惑プレイヤーとして掲示板で晒されても文句は言えない所業である。

 が、デスゲームと化したこのSAOにおいては人命救助は何よりも優先される事柄だ。

 この状況で彼らが体勢を立て直して奇跡の大逆転勝利を飾れる見込みは皆無である。

 

 故に。

 

 《ハードスリング》発動。

 斧を振りかぶって投擲する単発高威力のソードスキルだ。

 え、投げちゃうんですか⁉︎ 武器を手放すとか正気なんですか⁉︎

 と多くのプレイヤーが困惑し使用を躊躇うスキルである。

 実際、愛用者は少ない。というかたぶんいない。

 投げてしまったら投げっぱなしのスキルである。ブーメランみたいに手元に返ってきたりはしない。一度放てば強制的にファンブル状態が確定する。

 

 アヤはそんなスキルを躊躇いなく放った。

 彼の手元を離れた鉈はライトエフェクトを纏いながら高速回転し、今まさにメイス使いにトドメを刺そうと飛びかかりつつあったキラーマンティスへと光線のような速度で飛来する。

 

「ギ、ギィッ⁉︎」

 

 そして、アヤの狙い通り、発達した翅の片側を切り飛ばした。

 無機質な悲鳴を上げつつ、空中でバランスを崩し墜落する。

 強力なモンスターである変種キラーマンティスの弱点のひとつ、飛行中の特殊ダウンである。

 成立条件は翅を広げている最中にその翅を欠損させるダメージを与えること、という正直《ハードスリング》のようなリスキーなスキル以外でどうやって達成するんだよというマイナーな弱点であるが、この場面においては極めて効果的な一手であった。

 

「あんたら、まだここを離れるなよ。

 こいつの羽音はサインにもなってる。近くにいるツガイを呼び寄せるんだ。

 つまりもう一匹近くにいる可能性が高い。見つかったら死ぬぜ」

 

「あ、あなたは......」

 

「自己紹介は後にしよう。

 とりあえず固まって周りを警戒しときなよ」

 

 呆気に取られた様子の、パーティリーダーとおぼしき男。

 そんな彼を一瞥しつつ、アヤはメニュー画面を操作した。

 

 ファンブル状態の《ブロード・マチェット》を解除。

 もう一本の《ブロード・マチェット》を装備する。

 

 《ライオット・スマッシュ》発動

 ダウンし地面をもがくキラーマンティスに対し、鉈をひたすら打ち付ける。叩いて、叩いて、叩きのめす。

 起動モーションから終わりまでをある程度コントロールすることのできるこのソードスキルは、ダメージブーストの乗った斧の連撃を雑に叩き込みつつフィニッシュブローのモーションに派生することができる脳筋御用達の攻撃スキルである。

 大体四連撃ほど加えたところで、敵のHPの減り具合からフィニッシュブローに移行しても良いと判断。狙い過たず、最後の一撃をその細長い首に叩き込み切断する。

 あまりにも猟奇的でおそろしい光景に、その場にいた唯一の女性プレイヤーから「ひっ」と短い悲鳴が上がった。

 

 さて、ツガイがそろそろやってくる頃だと思うが。

 

 アヤは鉈の背の部分をパシンパシンと掌に打ち付けながら敵の増援を待っている。

 

 ちなみに、ここまで描写してこなかったが。

 この時のアヤの主な武装は......

 

 頭: 蛮勇王の飾り面

 胴: 銀蛾の糸衣

 腕: ライトメタルアーム

 脚: ライトメタルグリーヴ

 

 となっている。

 もうわざわざ描写しなくともわかると思うが不審者全開の装備構成なのは相変わらずであり、それに加えてイカつい鉈を携えているものだから見た目が大変なことになっている。

 

 まるで夜空めいた暗い蒼地に銀糸が縫い込まれた派手派手しいローブと、手足を覆うこれまた銀ピカな金属製の鎧で身体を包み。

 頭部はいつぞやの彼が愛用していた蛮勇の仮面の上位版である、羽飾りなどがマシマシでド派手になった骨仮面ですっぽり覆い隠されている。

 そんなやつが虫の体液をしたたらせた分厚い鉈を携えているのである。

 

 もはやどちらがモンスターかわからない有様であった。

 

「......来ねぇな。

 ツガイはどこかで討伐済みか?

 んだよ、つまんねぇな」

 

 そんな見た目でこの言動。

 中層プレイヤーたちは自分たちが今何に怯えているのかちょっとわからなくなった。

 

「あ、あのー」

 

 とはいえ、窮地を救ってもらったことには違いない。

 パーティリーダーと思しき青年は、勇気をたくさん振り絞った顔でアヤに声をかけた。

 

「ん。ああ、わりぃ。

 一旦、警戒は解いてもらっていいと思うぞ。

 俺の《索敵》にも他の敵は引っかかってこねぇし。

 大丈夫だったか? 全員生きてるか?」

 

「はい。おかげさまで......」

 

 見た目に頓着のないアヤは彼らが未だ怯えた様子なのに「すげぇ怖い思いしたんだろなぁ」とのんきな心地であった。

 とはいえ、一応は攻略組の一員として、無謀な冒険をした彼らに忠告もしておかなければならない。

 

「無事だったなら何よりだ。

 しかし、あんたら、危ないぜ。

 見たとこ中層プレイヤーだよな?

 メンバーの装備構成が最適化されてるんならともかく、その感じで森の奥地に挑むのはちょっとばかしリスキーだと思うぞ」

 

 改めて、この中層パーティの面々を見やる。

 長物持ちが5人中3人。森の中ではあちこち引っかかってまともに武器も振れまい、というやつが半分以上を占めている。

 特に槍2人。あんたらどっちか別の武器に転向できんかったんか、と軽くお説教じみたことをしようとしたその時である。

 

「ん。んん?

 あれ。あんた......」

 

 槍使い2人のうちのひとり。

 幸の薄そうな面立ちの、泣きぼくろが特徴的な女性プレイヤー。

 年代的にはアヤよりも少し下に見える少女である。

 そんな彼女に強烈な既視感をおぼえたアヤは、思わずズイッと彼女に顔を寄せた。

 

「ひっ」

 

 少女、涙目である。

 アヤはここにきてようやく自分の格好を思い出した。

 頓着なさすぎるので普段はまったく気にしていないが、さすがに周りからどう見られるかくらいはわかっている。

 こんなやばい格好で近寄られたくはないわな、しまったな、と。

 

「わり。

 とりあえず頭装備オフにするわ」

 

 メニューを操作し仮面を外す。

 すると、今度は少女のほうが驚き目を見開いた。

 

「えっ。ええっ⁉︎

 ひょっとして、()()()くん......?」

 

雨城あまぎだよ。

 まだ勘違いしてたんか、()()()()()

 

 互いに確信する。

 二人は、リアルでの知り合いだった。

 

 

 積もる話もあるだろう、と。

 無事に街に辿り着いた面々は、宿屋で共に夕食をとることになった。

 

 ギルド《月夜の黒猫団》。

 アヤのリアルでの知人である少女、プレイヤーネーム: サチが所属しているギルドである。

 構成員はひだまりの森で無謀な狩りをしていた5名で全員。

 リアルでの彼女らが通う高校のPC研究部の部員たちで構成されているとのことだ。

 

「と、いうことは。

 アヤさんとサチはいわゆる幼馴染ってやつなんですね?」

 

 部長でありギルドリーダーでもあるケイタは、確認をとるようにアヤに尋ねてきた。

 

「そだね。

 ご近所さんだったんだ。

 俺は鍵っ子だったから、彼女の親御さんが随分気にかけてくれてな。結構家にお邪魔させてもらったりもしてた。

 俺が言うことじゃないかもしれんが、ほとんど兄妹みたいなもんだったと思ってるよ」

 

「そうだったね。よく遊んでもらってたし。

 でも、小学校の卒業前に急に転校しちゃったんだよね。

 わたし、悲しくてすごく泣いたんだからね?」

 

 サチは昔を懐かしむように言った。

 アヤが転校した後、中学校からの同級生である他の面々は興味深そうに話を聞いている。

 

「本当に急な話で連絡もろくにできなかったのは悪かったよ。

 当時、携帯電話なんて持ってなかったし。住所は覚えてたけど、忙しくて手紙を出したりする暇もないくらいばたばたしてたし。

 それがまさか、こんなところでこんなときに再会することになるとはね」

 

 アヤはしげしげと言った。

 再会は喜ぶべきことではあるが、何もこんな極限状態でなくともよかったろうに、と。

 

 それとなくサチを見やる。次いで他の面々も。

 彼女たちは今でこそ朗らかな笑みを浮かべているが、つい先程まで命の危機に瀕していたことを忘れたわけではあるまい。

 そう、目の前で昔話に花を咲かせる彼女たちはあの時。偶然、あの場所にアヤがいなければ死んでいた可能性があったのだ。

 

「髪、伸びたね。昔はもっと短かった。

 それでもちゃんと、誰だかわかったよ」

 

「このほうがかえって楽でな。

 結んどきゃ邪魔にならんし」

 

「似合ってるよ。

 えっと、アヤ.......でいいんだよね。

 聞きたいことあるんだけどいい?」

 

「ん。そだね。

 ここではそう名乗ってる。

 だから俺も君のことはサチと呼ぶ。

 で、どうした?」

 

「......ちょっと寂しいけど、わかった。

 あ、ちがくて。えっとね。

 アヤは、その、攻略組なんだよね?」

 

「そう呼ばれてはいるな」

 

 なんだこいつあざといな。

 アヤは喉元まで出かかったデリカシー皆無な言葉を飲み込んだ。

 致命傷になりうる上目遣いであった。

 

「そっかぁ。ギルドにも入ってるんだよね?」

 

「一応ね。カーソルにエンブレムついてるっしょ」

 

「ああっ! そのエンブレム!

 ひょっとして《聖剣騎士団》っすか⁉︎」

 

 身を乗り出すように茶髪の少年、ダッカーが言った。

 合っているので頷く。

 

「さ、最大手の⁉︎

 トッププレイヤーだったんですかアヤさん⁉︎」

 

「半分幽霊部員だよ。

 俺はあくまで検証勢だから中核メンバーたちより実力は何枚も劣る。

 ただ、団長と友達だからコネで入れてもらってる感じなだけ」

 

「ええっ⁉︎

 《はじまりの騎士》の友達なんすか⁉︎

 すっげー‼︎」

 

 ダッカーのリアクションが少年すぎて眩しい。

 そんなに歳変わんないはずなのに。

 俺、なんか精神的に老けすぎちゃいないか。

 アヤはほんの少しだけ悲しくなった。

 

「うーん......そっかぁ。

 アヤはもうギルド入ってるんだ。

 うちに入ってくれたらいいのに、って思ってたのにな」

 

 そんな二人の会話を聞いていたサチがしょぼくれた様子でつぶやいた。

 ケイタが苦笑する。

 

「おいおい、サチ。

 あの時俺らを助けてくれたアヤさんの実力は見てただろ。

 全然釣り合ってないって。

 俺らは俺らでレベル上げてさ、いつか攻略組に追いつこうってみんなで話し合ったところだったじゃないか。

 いきなり強い人に入ってもらったってレベルが合わないんじゃ、きっと足の引っ張り合いにしかならないよ」

 

 彼の言い分はもっともであった。

 仮にアヤがフリーだったとしても、このギルドにお邪魔するのは立場上はばかられる。

 確かにアヤはやりたいようにやる、をモットーに生きており、どこでどう過ごすかは自由にしたいタチである。

 しかしながら、いくら可愛い妹分が所属しているギルドとはいえど、レベルが噛み合わないメンバーと一緒にいても互いにとって為にならない。

 彼女らのリーダーたるケイタはしっかりした人物のようで、その辺の現実がよく見えている。

 

「同感だね。

 これは嫌味でもなんでもない事実だ。

 俺は《月夜の黒猫団》のメンバーより数段レベルが高い。

 適した狩場も装備構成も違う。一緒にやってくのは難しいだろうね」

 

「うー......」

 

 なんだこいつあざといな。

 頬を膨らませむくれるサチを見て、アヤは再び喉から半分くらい出かけた言葉を飲み込んだ。

 

 そんなこんなで夜も更け、そろそろ解散かというとき。

 今後とも協力できることはする、連絡してくれたら暇だったら対応する、とざっくりとした約束をリーダーのケイタとは取り交わす。

 黒猫団の面々からフレンド登録を依頼されるが、フレンドリストがすでにいっぱいになりかけているアヤは窓口となる代表者だけで、とお願いした。

 そして。

 

「じゃあ、ギルドリーダーの俺が」

 

 とケイタが手を挙げかけたところで、すでにサチが嬉々としてアヤにフレンド申請を送っており、アヤもこれを受諾。

 まあ、誰が窓口でもいいんじゃね? とアヤが言ったことにより、連絡係はサチとなったのだった。

 

 

from Sachi

 

 ケイタがね、そろそろギルドホームを買いたいんだって。

 おすすめの物件知らない?

 あと、おすすめの金策ももし良かったら。

 って、相談してくれって頼まれた。

 忙しいのにごめんね。お返事待ってるね。

 

 

 

from Sachi

 

 物件探し、手伝ってくれてありがとう。

 20万コルはお買い得ってケイタは言ってたけど、わたしは値段聞いてびっくりしちゃった。まだ全然資金が足りないよ。

 教えてくれた金策のほうは......わたしたちでもなんとか出来そうな絶妙なラインのクエストだった。

 攻略方法模索中です。わたしもがんばるね。

 

 

 

from Sachi

 

 ねえ聞いて。

 みんながね、わたしに武器変更しろって言うの。

 メンバー構成的にそうしたほうがいいって。

 片手剣と盾にしてみてくれって。

 そんなの怖いよ。前に出て、攻撃を受けるなんて。ムリだよわたしには。

 

 

 

from Sachi

 

 いつになったらこのゲームはクリアされるのかな。

 いつになったら帰れるのかな。

 そうだ。帰ったらまた向こうでも会えるよね?

 はやくそうならないかな。

 

 

 

from Sachi

 

 この間はごめんね。

 よく考えてみたら、攻略組でがんばってくれてるあなたに言うことじゃなかったよね。

 わたしたちもいつかは追いついて、このゲームをクリアする力になれたらってみんなでがんばってるけど......まだまだずっと先になっちゃうと思う。

 わたしの盾転向、ぜんぜん上手くいってないんだ。

 やっぱり、怖い。

 

 

 

from Sachi

 

 ね。今日、会えない?

 時間があったらでいいの。ちょっとだけ。

 お願い。

 

 

「......日に日に追い詰められてんじゃんやべぇよこれ」

 

 毎日のように送られてくるサチからのフレンドメッセージに、アヤはひとり頭を抱えた。

 

 最初のうちはケイタが彼女を介して相談事をしてきている風な内容であったのだが、日毎にサチの私用でのメッセージの頻度が増えているような気がするのはきっと気のせいではない。

 

 もともと引っ込み思案で怖がりな子であったことは記憶している。

 そんな彼女が昔のままであるならば、このデスゲームと化したSAOに適合できるとは到底思えない。

 身近なギルドメンバーには見せがたい不安を発露するのに都合の良いアヤという人物とのつながりを偶然にも得たことで、溜め込んでいたものが一気に噴き出しているように見受けられた。

 

 ぜってぇ相談相手間違ってるって。俺だぜ?

 

 アヤは自分が人を慰めるのに向いていない人間であると思っている。

 共感性に乏しいからだ。

 怖いとか悲しいとかネガティブな感情で訴えかけられても、その相手がそうなっている理由までは推察できても、それに寄り添ってあげることができないのである。

 それらしい根拠を並べて言いくるめ、感情の向かう先を変えてやることには時として成功する。しかし、それは単なる結果論である。往々にして言えることであるが、偶然上手くハマっただけであり、狙ってやったわけでは断じてない。

 そもそも寄り添うって狙ってやるもんなのか? その考え自体がすでに打算的で寄り添うこととは程遠いんじゃないか? などと考えるのは潔癖が過ぎるであろうか。

 

 とにかく、アヤは今、自分の超苦手分野と相対していた。

 

 なんて言えばいいんだよ。捨て置くのはさすがになぁ。

 

 メッセージウィンドウを指が行ったり来たりする。

 なにやら追い詰められている様子の妹分の力になってあげたいが、かといって無責任なことも言えない。そんな逡巡であった。

 

 そうして頭を捻っていると。

 

 《新規メッセージ有り》

 

 システムログが音を鳴らす。

 

 おそるおそる確認してみると、案の定というかなんというか、差出人にはSachiの文字である。

 内容を確認しようとタップしてみれば。

 

 

 

from Sachi

 

 ごめん。もう来ちゃった。

 

 

 

 これである。

 

 嘘だろ。

 そう口に出す前に、ドアがノックされた。

 大枚はたいて買ったマイホームの玄関ドアがである。

 実はまだ誰も招いたことはない。

 そも購入したのはつい最近である。たぶんアルゴも知らない。

 いやあいつは勝手に調べて知ってるかも。

 

 不意打ちを食らったアヤは一瞬、思考がよそへ行くもすぐに立ち直る。

 

 こうなっては致し方ない。

 とりあえず、話を聞くしかないだろう。

 そのあとは出たとこ勝負である。

 

 急ぎ玄関へと向かい、ドアを開けた。

 

 そこにはやはり、俯いていて表情の窺えないサチが立っていた。

 招き入れようと、身を横にずらす。

 

「とりあえず上がりなよ。

 飲み物は何が......」

 

 トッ、と。

 突然。

 胸に顔をうずめるように抱きつかれた。

 その身体は震えている。

 

「ごめん。迷惑だよね。

 でも、わたし......」

 

 こりゃ長くなるぞ。

 その様子を見たアヤは、まるでどこか他人事みたいに思いつつも、彼女の頭にポンと手を置いた。かつての記憶を探るように。

 

 

 なかなか離れようとしないサチの手を引き、なんとか着座させることには成功した。

 

 飲み物は......さすがにキリトに飲ませるために用意してあるスペシャル野菜ジュースは出したらダメだよなぁ。見た目だけまともで味は一段と不味いやつゲットしちゃったもんなぁ。

 と軽くふざけようかと思ったがすんでで堪えて茶を渡す。

 常温ではなくホットである。そのほうが落ち着くだろうと思って。

 

「サチ。

 落ち着くまではここにいていい。

 今日はオフで予定もないから気にするな」

 

 嘘である。

 がっつりキリトと約束していた。

 少し前、アヤが知る中で一番のラッキーボーイである彼が何やらレアモノの肉系食材アイテムを手に入れたらしいのだ。

 料理スキルなんぞ二人とも取得してないが、焼いて塩振れば食えるだろ食おうぜ、と男二人の焼肉パーティを計画していたのである。

 なおその約束はついさっき反故にした。俺は急用ができたからアスナにでもくれてやれ、とメッセを飛ばしておいた。

 

 サチはお茶にも手をつけず潤んだ目でこちらを見ている。

 

 いっそキリトとの焼肉パーティにこの子も巻き込めばよかったんじゃないか、などど血迷った考えが浮かんだが却下した。

 絶対、そういう空気ではない。

 かといって甘い雰囲気でもないのが困りものである。

 

「......戦うの、嫌になったか?

 いや違うな。初めから嫌だった、が正しいか」

 

 このままだと延々とこの気まずい空気のまま時間が過ぎ去りそうだったので話を振った。

 ここに来た理由の核心を突くであろう話を。

 ただ頷かせるための質問を。

 

 予想違わず、彼女は首を縦に振った。

 振ったきり、それが持ち上がることはない。

 

「怖いの」

 

 俯いたまま、言う。

 一般的にはそうだろうな。

 やはり他人事のようにアヤは思う。

 かつての八代やしろならどう思っただろうな、とも。

 

「おそらく突発的な行動だろ。

 黒猫団のみんなはサチがここに来ていることを知らねぇな?」

 

「......うん。逃げてきたから」

 

「逃げた、ね。

 そうしたくなる事情は大体察しはついてる。

 だけど、話してくれるか?

 話すと多少は気持ちに整理がつくかもしれない」

 

「そう、だね。

 あのね、聞いて?」

 

 ぽつぽつと、まるで冬の乾いた空に降る雨のように。

 たどたどしい口調で彼女は語り始めた。

 

 このゲームの世界に閉じ込められたその瞬間からずっと、どうして自分がこんな目に、と怯え続けていること。

 リアルでの知人であるケイタたちのことは心の支えだったが、そんな彼らとギルドを結成するとなったとき、そんなことをしたらもっとたくさん戦わなきゃいけないんじゃないかと否定的な気持ちになった自分を嫌悪したこと。

 みんなが前向きに戦っている中で、今でも自分だけがずっと後ろ向きなままであること。

 そんな自分の本当の気持ちを彼らの前で口に出してしまったら、彼らまで弱気な心に支配されてしまうのではないかとずっと我慢し続けていたこと。

 この前、アヤに助けられたとき。目の前でテツオが死にかけたとき。泣き叫びたいくらいに怖かったこと。

 ずっとずっと、死の恐怖が身も心も苛んでどうしようもなく苦しくて、夜も眠れないこと。

 だけど、あの時助けてくれたのが、むかし兄のように慕ったアヤであったことに心から安堵したこと。

 

 そんなあなたに、頼りたくなってしまったこと。

 

 途中、涙声になりながらも懸命に語る彼女の言葉をアヤは黙って聞いていた。

 

「ごめん、なさい......。

 迷惑なの、わかってるの。

 あなたは攻略組で、それこそわたしたちも含めたこのゲームに閉じ込められたみんなのために戦ってるのに。

 そんなあなたに縋ったって、もうこれ以上ないくらい、助けてもらってるのに」

 

 やがて彼女は顔を覆って泣き始めた。

 アヤはかける言葉もない。

 

 アヤならばこう言う。

 俺は本当にただなんとなく戦っているに過ぎない。

 別にみんなのためだとかそんな高尚な理由は持っちゃいない。

 ただそれで誰かが結果的に助かるならそれでいいと思っているだけ。

 他人事のようにこう言う。

 

 だが、()()ではないなら、きっとこう言うだろう。

 

「わかった。

 もう戦わなくていい。

 ゆきちゃんは、向いてないよそういうの」

 

 かつての八代じぶんを思い出しながら告げた。

 彼女のための言葉だった。

 あくまで思い出しただけであり、昔に戻ったわけではない。

 それでも、今の彼女が求めているのはきっと彼の言葉であっただろうから。

 

「向いてないのに我慢してまでやる必要はない。

 そういうのは向いてるやつにやらせればいい。

 俺は、君にはおだやかに過ごしていて欲しいよ」

 

 テーブルの向こうにいる彼女の手を覆うように握った。

 もういい。どこにも行かなくていい、と。

 

「幸いにしてこのゲームには直接戦闘以外にも道はたくさんあるんだ。

 モンスターと戦わなくても、戦う者の支えとなる方法はいくらでもある。クラフト職とかな。それなら逃げたと言っても後ろめたくはないだろ。

 あー、いい。わかってる。皆まで言うな。それにしたってレベリングは必要だろって話な。

 それも俺が請け負う。他ならない君のためだ。俺が死んでも君を守り抜きながらパワーレベリングする。稼いだスキルポイントはクラフト系に全ツッパだ」

 

 彼女が何かネガティブなことを言い始める前にと一気に捲し立てた。

 結局、アヤはこのやり方しか持ち合わせていない。

 

「......どうして」

 

 サチは彼女の手を包んだアヤの両手にコトリと額を乗せた。

 アヤの手が濡れる。

 

「格好の良いこと言うつもりはない。言えない。

 だからそれらしいことを言わせてもらうなら。

 君が、俺の生きる理由になるかもしれないと思ったからだよ」

 

 そこで一旦、言葉を区切った。

 これは心の中で留めておいたほうがいいだろう、と冷静な自分がいたからだ。

 

 リアルではもう、俺の生きる理由は特にない。

 だからこんな状況でもへらへらしていられる。

 だから、死んでもなんて軽々しく言える。

 

「俺に君を守らせてくれないか」

 

 あえて言葉にしなかった部分さえ除けば、少しは格好良く聞こえただろうか。

 そんな打算的な気持ちが胸の中で澱んでいる気がした。

 

 啜り泣く声が部屋に響いた。

 ずっと長く。

 彼女が泣き疲れて眠りに落ちるまで、アヤは彼女の手を握り続けた。

 

 

「イヤイヤイヤ。

 それはもう実質プロポーズしてるだロ」

 

 アヤがすべてを語り合えたのを聞いたアルゴはツッコんだ。

 気持ちが弱ってるところにそのムーブでつけ込むのは狙ってもできないだロ、と思ったのだった。

 

「なーんダ、あーやんもなかなかスミに置けないナ。

 そんで、今日はそのコイビトのために方々駆け回ってお菓子を買い漁ってるってわけダ」

 

 からかうように言った。

 このドがつく変人の浮いた話など、このゲームが100層攻略を待たずして何らかのアクシデントによって中断されることと同じくらいあり得ないことだと思っていたアルゴにとって、非常に面白いニュースなのだった。

 情報量に換算して3万コルくらいか。流石に事情が事情なので誰にも売らないが。

 

 アヤは頭を抱えている。

 とんでもないやつに全部話してしまったかもしれない、と。

 

「とにかく。

 俺は今、その子を匿ってる状況だ。

 流石にディアベルにだけは、事情は聞かないでくれって頼み込んだうえでギルドを抜けさせてもらってる。

 その子のギルメンには、心の整理がついた頃合いに一緒に事情を話しに行くつもりだ。

 今の彼女には時間が必要なんだよ」

 

 もう恋人云々はツッコまない。

 そんな固い意思を感じさせる声であった。

 もう掘る根も葉もないくらい全部話したんだからこれ以上は勘弁しろと言いたげであった。

 

「オーケー。

 なんかキー坊が心配してオマエを探せって依頼してきてたんだケド、教えないほうがいいナ?」

 

「あいつに限らず攻略組には無条件で伏せといてくれ。

 その......風聞が悪い」

 

「そうかナー?

 オイラはカッコいいと思うゾ、ナイトサマ」

 

「からかうなよ。

 騎士はディアベルの専売特許だ。俺のじゃねぇ。

 これで話は終わり......あぁ?」

 

「ン。どしタ」

 

「いや、メッセが」

 

 

 

from Sachi

 

 帰りは何時頃になりそう?

 ごめんね。急かしてるわけじゃなくって。

 ちょっと気になっただけ。

 

 

 

「......帰るわ」

 

「お、オウ。がんばれヨ」

 

「何をだよ......」

 

 なんかメンヘラ彼女が爆発しないよう適度な距離感で相手してちょっと疲れてる彼氏みたいだナ。

 アルゴは思った。

 

 アヤも同じことを思っていたかはさだかではない。

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