学園第1位王子様系女子(笑)   作:アスタロット

2 / 4
第二話

 

やあみんな、よく来てくれたね。

僕の名前は狭山ケイ。

燻製の匂いが制服から抜けきっていない、元男性社会人転生者系女子高生さ。

 

朝のホームルームで隣の席の人間に「何かいい匂いする」と言われたときは、軽く微笑んで「香りの研究だ」と返しておいた。

事実なので問題ない。

 

今日は生徒会の仕事が少し長引いた。

会計の確認と、来月の文化祭に向けた仮申請の整理だ。

終わった頃には、もう日が傾き始めていた。

ちくわ部の部室に顔を出すと、部長が「ケイ、今日は試食会やるよ」と声をかけてきた。

ちくわぶを使った新しい煮込み方の検証らしい。

僕は「これは人類の味覚に革命を起こす味だ」と返して、少しだけ付き合った。

出汁の染み込みが前回より良い。

その後、燻製部の方は活動としてチップの在庫確認だけ済ませて、僕は校舎を出た。

自然と足が向く先は、決まっている。

 

英智の部屋だ。

 

インターホンを鳴らすと、すぐに鍵が開いた。英智はいつものように、少し癖のついた髪で出てくる。

 

「また来たのか」

 

「また、ではない。これは運命が定めた定期便だ」

 

「運命とか言うな。ただの押し掛けだろ」

 

「押し掛けではない。君の人生を豊かにするための、神聖な奉仕だ」

 

「奉仕とか変に聞こえるからやめろ。俺の人生、ケイが来なくても普通に豊かだ」

 

「それは認識が甘い。僕がいないと、君はきっと栄養バランスの崩壊した深淵に落ちる」

 

「昨日カップ麺食っただけだぞ」

 

「ほら、やっぱり深淵だ」

 

それでも英智はドアを開けたまま、中へ入れた。

いつものことだ。

ソファに座る。

コントローラが二本、テーブルの上に並んでいる。

 

「ケイ、今日は何やる?」

 

「前回の続きだ。セーブデータはあるだろう?」

 

「おう」

 

ゲームを始める。

画面の光が、薄暗い部屋を青白く照らす。

英智は真剣に操作していて、僕は時々アドバイスを挟む。

 

「そこで左に寄りすぎだ。敵の射程に入る。君の立ち回りは、まるで嵐の中の小舟だ」

 

「また小舟言うな」

 

「小舟を超えて、今や宇宙の真理から外れている。右に寄れ」

 

「宇宙とか出すな!ただのゲームだろ!」

 

「ゲームの中にも真理はある。僕はそれを君に伝えているだけだ」

 

「伝わらねえよ、そんな真理」

 

英智が「はいはい」と流すように返事をする。その横顔を、僕はちらりと見た。

昨日のざわつきが、今日も残っている。

 

(……気のせいだ)

 

そう自分に言い聞かせる。心配なだけだ。あいつは鈍い。放っておけば、また誰かに流される。

 

「英智」

 

「ん」

 

「今日、学校で誰かと話したか」

 

「またそれかよ」

 

「また、ではない。これは毎日の重要機密確認だ」

 

「機密とか言うな。ただの世間話だろ」

 

英智はコントローラを操作したまま、少しだけ口の端を上げた。

 

「瀬能先輩には廊下で会った。挨拶しただけ。黒井は同じクラスだから普通に話した。氷川は……今日は見なかったかな」

 

「見なかった、か。それは宇宙のバランスが保たれた証拠だな」

 

「バランスとか言うな。単に見かけなかっただけだ」

 

「見かけないことにも意味がある。僕はそれを深く、そして壮大に考察している」

 

「壮大とかやめろ。目が本気で気にしてるんだけど」

 

「気のせいだ。僕の目は常に真理を見つめている」

 

「真理を見つめる目で俺の交友関係をチェックすんな!」

 

図星を突かれて、僕は画面に視線を戻した。操作は正確だ。

ミスなどしない。

ただ、指先の感覚が、昨日と同じように少しだけ熱い。

 

(……本当に、なんだこれは)

 

「ケイ」

 

「何だ」

 

「なんか、最近変だぞ」

 

「変ではない。僕は常に進化しているだけだ」

 

「進化とか言うな。ただくどくなってるだけだろ」

 

「くどいのではない。愛の確認作業だ」

 

「愛とか出すな!急に怖いわ!」

 

「怖くない。正確な表現だ。君は鈍いから、僕が何度も確認してやる必要がある」

 

「確認とか言うな。監視だろそれ」

 

「監視ではない。守護だ。僕は君の守護者なんだよ」

 

「守護者とかかっこつけんな!ただの面倒くさいやつだ!」

 

英智がコントローラを置いて、こちらを見た。

ぼんやりした目なのに、呆れがかなり混じっている。

 

「……まあ、いいけど」

 

「いいのか」

 

「いい。ケイが変なのは今に始まったことじゃないし」

 

そう言って、英智は再びコントローラを手に取った。

その言葉が、胸の奥に小さく沈む。

 

(……今に始まったことじゃない)

 

そうだ、前からそうだ。

僕はただ、親友の面倒を見ているだけだ。

前世から変わらない、僕の性分だ。

なのに、今日のざわつきも、昨日と同じように質が違う気がした。

画面の中で、キャラクターが倒れていく。

英智が「あ、やられた」と呟く。

僕はすぐに指示を出した。

 

「リトライだ。次は右側から迂回しろ。僕が宇宙の力でカバーする」

 

「宇宙の力とかいらねえ!普通にカバーしろ!」

 

「普通のカバーなど、ありふれていて面白くない。僕は特別な、革命的 社会主義カバーを実践する」

 

「そんなカバーいらねえ!ただのゲームだってば!」

 

二人でゲームを続ける。

英智の部屋の空気が、今日はかなり騒がしく感じられた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。