学園第1位王子様系女子(笑)   作:アスタロット

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第三話

 

やあみんな、よく来てくれたね。

僕の名前は狭山ケイ。

油断すると制服姿のままコンビニで酒をカゴに入れてしまう、元男性社会人転生者系女子高生さ。

 

今日は文化祭の準備で、生徒会が少し荒れていた。

仮申請の書類が二転三転し、会計の数字も合わない。

僕は淡々と処理を進めた。

感情を挟むと効率が落ちる。

 

ちくわ部には「試食会の候補、考えておいて」とだけ伝えて顔を出した。

燻製部はチップの発注表を更新して終わり。

どちらも短時間で済ませた。

日が傾き始めた頃、僕は校舎の廊下を歩いていた。

 

そこで、氷川蘭と英智が話しているのを見かけた。

氷川が何か提案している。

英智が少し困ったように頭を掻いている。

距離は近い。

胸の奥が、小さく、しかし明確にざわついた。

 

(……なんだ、これ)

 

僕は自然なタイミングで近づいた。

 

「英智。話は終わったか」

 

二人がこちらを見る。

氷川が「あ、狭山さん」と軽く会釈した。

英智は「おう」とだけ返した。

 

「氷川が、今度の昼休みに一緒にどうかって」

 

「ほう」

 

僕の声は平熱だったと思う。

少なくとも、自分ではそう制御していた。

 

「予定がある、と断っておいた」

 

「適切な判断だ」

 

「適切な判断とか言うな。ただ断っただけだ」

 

氷川が「じゃあまた」と笑って離れていく。

その背中を見送りながら、僕は英智の隣に立った。

 

「……報告が遅れたな」

 

「は?何の報告」

 

「重要事項の報告だ。君が他の女子と親密な会話をしている事実は、すぐに僕へ共有されるべきだ」

 

「共有とか言うな。ただの立ち話だろ」

 

「立ち話が人生を変えることもある。僕はそれを知っている」

 

「知りすぎだよ。だいたい、ケイが来た瞬間に雰囲気変わったんだけど」

 

「気のせいだ」

 

「気のせいにしすぎ」

 

二人で校舎を出る。

今日は英智の部屋に向かう途中で、自販機に寄った。

英智がスポーツドリンクを買い、僕は無糖の炭酸を選んだ。

 

「で、ケイは何でそんなに氷川のことが気になるんだよ」

 

「気になっていない。君の安全を確認しているだけだ」

 

「安全とか言うな。昼飯に誘われただけだぞ」

 

「昼飯一つが、関係性を変える入り口になる。入り口を放置するのは、管理者として不適切だ」

 

「管理者とかやめろ。俺はケイの管理下にねえ」

 

「認識が甘い。君は僕の守護対象だ」

 

「守護対象とかかっこつけんな! ただの面倒くさいやつだ!」

 

「面倒くさい、ではない。正確な監督だ」

 

「監督とか言うな。学校の先生かよ」

 

自販機の前で、妙に長く言い合う。

通行する生徒が、ちらちらとこちらを見ていた。僕は気にしない。

事実を述べているだけだ。

英智の部屋に着くと、いつものようにゲームが始まった。

しかし今日は、操作の合間に英智が何度もこちらを見る。

 

「ケイ」

 

「何だ」

 

「さっきから、なんか機嫌悪くないか」

 

「機嫌悪くない。平常だ」

 

「平常の顔が、かなり不機嫌なんだけど」

 

「不機嫌などしていない。これは思考の顔だ」

 

「思考の顔が、氷川の話の後からずっとそのまんまだぞ」

 

図星を突かれて、僕はコントローラを握り直した。

 

「……君は鈍い。だから僕が確認する必要がある」

 

「確認とか言うな。ただの嫉妬だろ」

 

「嫉妬などしていない」

 

「してる。してる目をしてる」

 

「これは守護者の目だ」

 

「守護者とかもうやめろ!二回目だぞ!」

 

英智がコントローラを置いて、本気で呆れた顔をした。

 

「……ケイ、最近本当に変だぞ。前はここまでくどくなかった」

 

「くどいのではない。進化しているだけだ」

 

「進化とか言うな。ただ拗ねてるだけだろ」

 

「拗ねなどしていない。正確な情報を処理した結果だ」

 

「処理の結果が、そんな顔になるかよ」

 

沈黙が、少しだけ落ちる。ゲームのBGMだけが部屋に流れていた。

 

「……しっかり断ったんだから、もういいだろ?」

 

英智がぼそりと言った。

 

「それでいいのか?」

 

「いやこれ以上ないだろ。あー…まぁケイがそこまで気にするなら、次からは、ちゃんと報告するよ」

 

その言葉が、胸の奥に小さく落ちた。

ざわつきが、ほんの少しだけ収まる。

 

(……報告する、か)

 

良かった。

いや、良かったという表現は不適切だ。

単に、管理がしやすくなっただけだ。

僕は親友の面倒を見ているだけだ。

前世から変わらない、僕の性分だ。

 

なのに、安堵した自分の感覚が、少しだけ異物に感じられた。

 

「……適切な判断だ」

 

「適切な判断とか言うな。ただの妥協だ」

 

「妥協ではない。運命的な合意だ」

 

「運命とか出すな!」

 

英智が再びコントローラを手に取った。

僕も操作を再開する。

指先の熱は、まだ完全には引いていなかった。

 

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