十三英傑と凡才の男 作:鴉の巣
世界は残酷だと、そう思う。
善良に生きた、悪に生きたなんて関係なく、不幸は誰にでも降りかかった。
自分は大丈夫だと思うなかれ、不幸に遭わぬ人間などいないのだから。
そう、だからこれも不幸のうち。
平凡に生きようが、関係なく降りかかった災難。
(……寒い)
体が寒い、いや暑いのだろうか。
ぐるぐるとそんな感覚が渦巻いて、思考が纏まらない。
何かが体から流れ出るような、抜けていくような感触が伝わってくる。
それが気力なのか、それとも血液なのかを判断しようにも、もはや顔を動かすことすら難しい。
(なにが……あったんだっけ……)
霧散しそうになるその思考をかき集めて、俺は思う。
直前の事を思い出そうとして、すぐに浮かんだのはある光景。
(あっ……そうだ、轢かれたんだ、俺)
青白い光が、こちらに向かって猛スピードでやってくる光景。
それが到達した時に起こった激痛と、視界が一瞬白く染まってしまったこと。
そして目を覚ました時には空を見上げていて、運転手らしき人物が走り去っていく様子だったか。
まったく、轢いたなら責任くらい持ってほしいものだ。
「ごほっ……はぁ…あ……」
血を吐く最中にそんな冗談みたいな思考しか湧いてこないことに、軽くガッカリしながら、どんどんと薄くなっていく思考に少し怖くなる。
(死ぬ……んだよな、俺)
わかった気でいたが、それでも納得はいかなかった。
善良に生きていれば報われるなんてのは幻想なのはわかっている、だけど。
それでも、こんな最後はないだろう。
俺よりもこういう最後を迎えるに相応しいやつが五万といるなんてのは傲慢だろうか。
でも、そう思わないとやっていけない。
(あ〜あ……最後に思うのが、恨み言なんて救えないな)
そう思うけど、やっぱり止められない。
だって理不尽じゃないか、こんなこと。
誰だって死にたくないのに、死は理不尽に降りかかる。
人間の手では当然止められず、身を委ねるしかない。
何で何だろう、どうして何だろう。
誰だって、死にたいわけじゃないのに。
(ああ、叶うなら……もう少しだけ生きていたかった)
誰もが願うちっぽけなことを、誰も叶えてはくれない。
そうだ、理想は叶わない。
ああ、⬛︎いな。
どうしようもなく⬛︎らしくて気が狂いそうだ。
どうしてみんな、こんな世界を容認できるのだろう。
なぜ誰も、⬛︎そうと考えないんだ。
なぜ誰もが理不尽に死ななければならない。
なら、そうだ。
こんな世界────⬛︎⬛︎すればいい。
そう最後に、自分ではない誰かの思考が入り込んだように、俺は意識を閉ざした。
◇◇──────────────◇◇
「────司令部、司令部ッ!!応答しろッ!司令部!!」
爆発音と爆炎、そして硝煙の匂いが木霊するその場に俺はいた。
煤汚れた手には近未来的な小銃を抱え、遮蔽物の向こう側で攻撃を浴びている。
なぜまるで戦場、と言うより普通に戦場にいるのかというと、転生したからだ。
このクソッタレで、人類滅亡の危機に立たされている崩壊3rdという作品の世界に。
確かに死にたくないと、もっと生きていたいと願ったさ。
でもだからとってこれはないだろう?ほんとに前世────前前世で何か悪いことでもしたのか?
そんな事を考えている合間にも、奴ら────崩壊獣はこちらに向かって猛攻を続けている。
今もほら、片側の遮蔽物が吹き飛んだ。
爆炎によって焼かれながら、悶え苦しむまもなく死んでいく。
せめて彼らに安らかな来世を────なんて思う暇もない。
あちらが吹きたんだということは、次はこっちだ。
「くっそが!」
そう悪態を吐きながら、俺は小銃を構えて崩壊獣へと向ける。
案の定こちらに向かって攻撃を放つとうとしていたやつの顔面に命中し、顔の一部を吹き飛ばす。
しかしそれだけで止まるような生やさしい相手ではなく、なおも攻撃を続行しようとしている。
それを許さないために、連続で引き金を引きやつの顔にぶち込む。
流石に絶命したのか、全体から力が抜け砂煙をたてて崩れ落ちる。
だが、それだけでは終わらない。
さっきのやつと同じのが数体、別方向から現れる。
明らかにこっちを標的にしている動きだ。
「司令部!司令部!!」
「もう呼びかけたって無駄だよ吹き飛んでんだから!!」
「来いッ!向こうの崩壊獣を食い止める!!」
こんな混沌とした戦場が、俺の今の日常だ。
命を簡単に吹き飛ばすような怪物が、常に命を狙っている。
こっちを見ている。
背中からビームブレードのようなものを抜いて、こちらに向かっている崩壊獣を切り捨てる。
量産品の武器だが、なかなかに使える相棒だ。
「────ほんと、なんでこんなことになるかな」
そう呑気に口を溢しながら、俺は小銃とブレードを手に駆け出していた。
◇◇◇
「────なあ、もうちょっと武器高性能にならんか?クライン」
「今のものでもかなり性能を引き上げたんですから、我慢してください」
「でもいつ死ぬかわかったもんじゃないんだけど」
「生きてるじゃないですか」
「運良くな」
戦闘を終えて、ある研究室にて話をしている俺とクラインというある博士の助手。
先ほどの戦闘は酷いもので、かなりの苦戦を強いられた。
普通に何人か死んだが、それでもこれも日常茶飯事。
誰かが肉塊になることなんて、珍しくない。
「知ってますか?私だって仕事があるんです」
「しょうがないだろ、普通の研究者たちなら一般兵の性能アップなんて興味ないんだから」
今話しているクライン、彼は運良く知り合えて色々話す仲である。
最初は落ちた書類を拾って、互いに愚痴を少し言い合う程度だったのだが、それからは関係が続いている。
武器の性能向上も、クラインが引き受けてくれなかったら自分でやる羽目になっていただろうからそこは感謝である。
「なにが不満なんですか、火力もかなり引き上げたと思うんですが」
「もっと死ににくくして」
「人体改造は専門外です」
そうやって無茶を言ってみるが、やはりにべにもなく断られる。
「死ににくくしたいならアーマーでもつければいいんじゃないですか」なんて前に言われたからな。
そんな機動力下がるもんは付けてられないわ。
「わかったわかった、じゃあ普通に修理頼むわ」
「………また壊したんですか?」
「まあ弾切れでこの小銃を鈍器にしたくらいだが」
「思い切り壊しにいってるじゃないですか」
そんなツッコミを受けながら、俺に差し出された銃を受け取ったクラインは、そそくさと修理を始める。
仕事を増やして申し訳ないが、生命線なので下手なやつに任せるわけにもいかないので我慢してもらおう。
あとでなんか奢ってやろうと、そう思った。
続くかは分かりません。