十三英傑と凡才の男 作:鴉の巣
今日も今日とて戦闘ばっかり、そんな日々。
死が間近なんて当たり前になってしまったが、本当なら勘弁願いたい。
武器の心配はクラインのおかげで(無茶をしなければ)問題ないが、体の方は違う。
崩壊獣の攻撃が直撃すれば重症は免れない。
だからこそ、気をつけなければならないのだ。
「こんなふうに、なっ!!」
後ろから忍び寄っていた崩壊獣の前脚を斬り飛ばし、さらに上から真っ二つにする。
崩れ落ちる崩壊獣を見届けて、ようやく一息ついた。
我流に過ぎないが、それでも少しは昔に比べて様になってきた剣術に少し感慨深くなる。
……って、危ない危ない。
戦いから離れたいのに、戦いで満足してどうする。
生き残るために訓練してんのに、これじゃ本末転倒だ。
「ほんっと、早くこんな日常から抜け出したいよ……」
いつか自分が戦闘狂になってしまいそうで怖いが、そんなことは無いと信じて帰還の準備を始める。
オペレーターへの報告と、戦闘の後始末を終えて、ようやく寝床に帰還できるというわけだ。
と考えながら報告を始めようとした時────
どこからか、爆炎が上った。
唐突に上空へと立ち上ったそれは、一目見るだけで通常の現象ではないと察する。
黒と橙が混ざり合う、不気味で、それでいて力強い印象を抱く配色のその煙。
まず間違いなく、なにかの攻撃。
「………オペレーター、あれなに?」
『────こちらオペレーター、あれとは?』
たまらず何か知っていそうなオペレーターに聞いてみる。
しかし返ってきたのは疑問系の返事。
「いや、あれだよあれ、爆炎」
『爆炎………?ああ、千劫様の……』
「千劫?それって確か……」
さらに詳しく質問してみれば、なんか聞いたことがある人物名が返ってきた。
今世でも、前世でも。
今世に於いては同じ組織の最高戦力的存在であり、前世では画面の中の人物。
崩壊3rdに出てくる人物だった。
「融合戦士の一人……だよな」
『よく知っていますね、部隊すら違うのに』
「今同じ部隊でしか友好関係築けないやつって言った?」
『そんなこと言ってませんが、自意識過剰ですか?』
少しボケたらものすごく辛辣な言葉をオペレーターから頂戴したが、おかげで疑問は晴れた。
実際意図していない何かの攻撃だったらどうしようかと思っていたところだ。
崩壊獣だったらマジで命懸けの戦闘になりそうだったし、敵前逃亡も辞さない覚悟だった。
まあそんな心配はなさそうで安心安心。
『まあ貴方が違う部隊の人間とも、それ以前に同じ部隊の人間ともうまくコミュニケーション出来ていないのは知っていますが』
「なんでそんな酷いこと言うの?」
安心してたら急に味方撃ちされた。
少しふざけたのは悪かったけど、そこまで言わなくてもいいんじゃないか?
マジで泣きそうになったんだが。
『……その割にはクライン助手とも仲がいいのは不思議ですね』
「まあ……クラインとは色々あるんで……」
クラインとの出会いはその、なんというか。
結構酷いものだったから、今でも仲良く出来てるのが不思議なんだよな。
仕事は空いた時間に手伝ってたけど、役に立ってたかというとそうでもないし。
ほんと不思議だ。
「とりあえず、帰還しますわ」
『はい、お疲れ様です。戦闘資料などは後ほど提出ください』
「うげー」
そんなやり取りを終えて、通信が切断される。
やることも大体終わったし、さっさと帰ろうと踵を返す。
その帰りに、爆炎の上がった方向をもう一度見る。
すっかり消えているが、先ほどあそこでとんでもない戦闘があったのだろう。
恐ろしい力だ、さすがは融合戦士。
正式な人類の希望だ。
本人に言ったら殴られそうだが。
「俺もあんなふうに力があったら生きやすいんだろうか……な訳ないか」
力を持ってても、この世界ではそれ以上の力に潰されるか酷使されるかであまり変わらんだろう。
特にこの、破滅が確定した前文明ではな。
「さっさと帰ろ」
そんなことを思いながら、俺は帰還した。
◇◇───────────────────◇◇
漂っている。
まさしく人外未知の領域と言えるそこに、今の俺はいる。
光さえ移動を妨げられるその空間に、生身で漂うことなど普通はできない。
しかし俺は現にそこにいて、水に浮くかのように漂い続けている。
手を動かそうとしても、ちっとも動いてくれない。
金縛りか何かにあったかのようだった。
ふと、何かが見えた。
いや、見えたのではない。
その空間が消えたのだ、跡形もなく。
光さえ脱出困難な黒き穴に吸い込まれるように、事象の地平線に向かって収束した。
そうだ、見えなくなったのだ。
消えたんじゃなく、光さえ届かぬ深淵そのものに収束するように、そこにあるものを⬛︎⬛︎に上書きしたように。
そしてそれは、さらに飲み込み続けて広がっていく。
事象を上書きし、
ただただ全てを飲み込む、意思なき災害が如く。
俺は、それを受け入れるしかない。
逃げようにも体が動かない。
それに、アレに対してどこに逃げれば良いというのか。
そうして、俺はその身で⬛︎⬛︎を────
光が見えた。
決して優しいものではない。
逆だ。全てを滅するような光が、そちらへと誘うが如く。
激しく輝きを増し、それを伝えている。
落ちようとしたその身を引き上げようとするわけでもなく、ただただ見ている。
まるで俺が選択することを望むように。
その光に俺は。
「おとといきやがれ、クソ野郎ども」
気づけば罵倒を投げつけていた。
◇◇◇
ベットから身を起こした俺は、汗でびっしょりの服を不快に思いながら、窓から月夜を見上げる。
月は何も変わらない。
それが少し他人事みたいで憎らしい。
「………なんだあの夢」
普通に考えればただの悪夢なのだが、いつもはあまり夢を見ないので見たらこんなものなのかと考えた。
が、おそらく違うだろう。
あんなのが日常なら、世の中の人間は精神が強靭すぎる。
クラインみたいにそもそも寝てなきゃ見ないだろうけど。
「………気晴らしに散歩でも行くか」
そうして、簡易的に着替えを終えた俺は部屋を出て裏庭のような場所へと向かった。
そこは元々、戦闘員たちが気分を少しでも休めるようにと作られた場所だったと聞いている。
だから(一応は)戦闘員である俺が使うのは問題ない……筈だ。
「はぁ─────………」
芝生の上に設置されているベンチに腰掛け、俺は思い切りため息をつく。
主に先ほどの悪夢が頭を悩ます原因なのだが、それだけではない。
元々この世界に転生してから、ずっと考えないようにしていたことがある。
正確には、考えたところでどうしようもないことというだけだが。
(───前文明……か……)
考えないようにしていたこと、それは今生きている時代が前文明だということ。
崩壊3rdに於いて、前文明というものは確かに登場する。
そう、
それは前文明という名前が物語っているだろう。
つまり何が言いたいかというと、世界が崩壊するということは、俺も十中八九死ぬということだ。
生き残る方法も無いではないが、それを俺が使えるかというと無理。
(せめて現文明にしてくれよな………)
生き残りたい俺にとって、泣きたくなるような事実だった。
しかもそれを覆せるほど俺は強くないというおまけつき。
「ふざけんなって話だよほんと……」
今の所愚痴れる相手もいないため、せいぜいため息をつくのが精一杯だ。
だがそんなこと考えたってどうしようもない。
今はこの夜の静けさに身を任せていた方が楽だ。
そうして、ベンチによれかかりながら星空を見上げる。
相変わらず、むかつくほど綺麗だった。
歌でも流せば、博物館に飾ってある絵にも劣らないだろう。
そうそう、ちょうどこんなふうな綺麗な歌声が────
「────ん?歌声?」
なんで歌声が聞こえるんだ?
ここは裏庭であって、コンサート会場ではない筈だが。
というかなんだこの歌声、めっちゃ綺麗だな……
「誰か歌の練習でもしてんのか?というか練習ってレベルじゃないよな………」
どこからどう聞いてもプロの歌声である。
これが初心者とか言われたら世の中の歌手やスターが廃業になるレベル。
気になったから、その歌声に誘われるまま、俺は林の奥へと進んでいく。
月の光が葉の隙間から差し込み、虫の鳴き声がそれを彩る。
何よりも奥から響く歌が、この林にいっそうの色彩を加えているように思う。
この歌声にかかれば、どんな石ころも宝石に見えるだろう。
やがて見えてくる。
それは、女神と見紛うほどの美貌を持つ月光に照らされる女性。
その赤みががった長い黒髪は、美しきドレスと相まって神秘性さえ携えるよう。
まさしく絶世の美女、と言って憚られないだろう。
そんな女性が、木々の中で歌っていた。
「───あら、お客さんかしら」
そうこう考えている内に、彼女がこちらに気づいたようだ。
黄金の美しい瞳をこちらに向けて、優しく問いかけてくる。
それに対して、思わず見惚れていたことを振り切り、答える。
「あ、ああ、いや……歌声に釣られてきたんだ……あんただったんだな」
そうして振り切って初めて、俺はその人物を
後に、火を追う十三英傑『黄金』のエデンと呼ばれることになる世界的大スター。
大金持ちでは言い表せないほどの富豪であり、これまたのちの拠点である黄金の庭園を買い取ったのも彼女。
決して仲良しこよしとは言えない十三英傑の中でも、露骨に避ける人はいないほどのコミュ強。
……俺と違って。
………やめよう、言ってて悲しくなってくる。
前世でもそんなに友達多くなかったんだよなぁ。
話を戻して、そんな大物の彼女とこんなところで会うとは思わなかった。
「ふふ、嬉しいわ。まだ私の歌にも、人を惹きつける力があったのね」
「そんな謙遜しなくても、やばいほどすごい歌だと思うが……」
そう、彼女の歌は、音楽に全く興味がない俺にも響くものだった。
そんな歌声を持つ彼女が、謙遜など全くもって似合わない。
何かを成せる人は、胸を張るべきだ。
「そう言ってくれてありがとう、名も知らぬ人……よかったらあなたの名前を教えてくれないかしら?」
そうやって聞かれたら答えないわけにはいかないだろう。
断る理由もない。
歌声に当てられたのか、やたらと素直にスラスラと言葉が出てくる。
「俺は、ゲンって言うんだ」
「ゲン……良い名前ね。私は、エデンよ」
「エデンか……綺麗な名前だな」
そうやって返答すると、彼女の顔が少しの驚きに染まる。
その後に微笑し、こちらを揶揄うように言葉を紡ぐ。
「────意外とロマンチックなのね?」
「あ、いや!その………ごめん」
「謝らないで?すごく嬉しかったから」
意図せずなんかナンパみたいな言葉選びになってしまった。
初対面の女性に何を言っているんだ俺は。
そして、少し静寂が場を支配する。
木々に隠れた虫や生き物の声だけが、こちらに存在を伝えてくる。
月光に照らされる小岩に座るエデンは、立ち上がってこちらに寄ってくる。
「大丈夫よ、怒ったりしないわ」
「すんませんした」
「ううん、そんな言葉より、私が聞きたい言葉があるわ」
それはどういう────という言葉が発される前に、彼女の口は開いていた。
歌が、流れる。
流麗に、輝かしく。
この絶望の時代の空気をかき消さんとするように、彼女の口は音を紡ぐ。
栄華も、希望を目の前で奪われても。彼女が折れないことの象徴のように。
知識だけで知るそれよりも、はるかに力強く美しい。
しばらくして、聞き終えた時。
俺は無意識に拍手をしていた。
ただ心の底から、感動を告げるが如く。
「────やっぱり、すごいな」
無意識に溢れた言葉に、彼女が反応する。
それを知ってか知らずか、俺の口は止まることなく動き続ける。
「人々に希望を、光を与えられる……そんな歌声だった」
無意識に口から溢れ出た言葉。
彼女の歌のお礼は、こんなチンケな言葉じや足りないだろうけど。
それでも今は、この言葉を送ろう。
「────あんたは、世界一の歌姫だよ」
いずれ、ヒーローになろうとする貴女に。
やっぱり、折れてほしくないから。
何かを成そうとしたものが、報われて欲しいから。
そんな思いは、伝わったかわからないけれど。
彼女は笑って────
「ありがとう、観客さん……是非また、私の歌を聴きに来てちょうだい」
そう、俺に告げた。
「あら?エデン?それにゲンも……何してるの?」
「ドワア!?」
突如後ろからかかった声に、思い切り変な奇声をあげてしまった。
ギギギとなりそうな動作で後ろを振り返れば、そこにいたのはエリシアだった。
相変わらず誰でも友達にしちゃいそうなオーラを醸し出しながら、こちらを見ていた。
不思議そうな顔で。
「エリ!やっと来たのね?」
「ごめんなさいエデン、ちょっと遅くなっちゃったわ♩」
エデンが声をかけると、エリシアも笑顔で答える。
そういえば、この二人って友達だったっけ。
もう転生したのも結構前だから忘れていた。
「それにしても、エデンが珍しく歌ってたから来てみたら、ゲンまでいるなんて驚きだわ」
「彼は歌声に誘われてここに来たそうなの、とっても素敵な感想までくれて、本当に嬉しかったわ」
「まあ!エデンをここまで言わせるなんて、罪な人ね?」
なんか俺を置いて話がどんどん広がっている。
このままではなんかマズイ方向にいきそうだなんだが……大丈夫だろうか。
具体的にはなんかこのまま話に混ぜられそうな、そんな予感がする。
勘弁しろ、俺に女子と長話できるトークスキルなんてないぞ。
「せっかくだし、三人でお茶でもしない?」
「夜のティータイムね?いいと思うわ」
やっぱりねー!!
こうなると思いましたよ、このコミュ強達なら!!
そうと決まればとか言って背中を押すな!俺はまだ出ると言ってないぞ!
「ちょっちょっと待て!俺は別に行くとは────!」
そう言って手を止めさせようとして、彼女達はカウンターのように言い放った。
「「私たちとお茶するのは、嫌かしら?」」
そう少し寂しそうに言われて、俺は固まった。
エデンは初対面なのでわからないが、エリシアがよく俺に話しかけてきていたのは知っている。
きっと部隊と離れて一人でいることが多い俺を気遣ってくれいていたのだろうが、あんまり原作キャラに影響を与えるのもなーと思い遠慮していた。
クライン?あいつは社畜すぎてみてられなかったから………
ともかく、彼女を露骨に避けることはなかった俺だが、誘いに乗ることもまたなかった。
ここまで避けてきたのだし、少しくらいなら乗っても────いやいやさっき言っただろ、このトークスキルで女子と長話は無理だって。
いやでもなー………はあ……。
「わかったよ、行くわ」
「エデンやったわ!やっぱり
「おいこら待てや」
一応上官なのにも関わらず口調が強くなった。
………やっぱり早まったか?
そんなことを思いながらも俺は、二人に連れて行かれるのだった。
エデンが歌わなくなったって言うのって何故でしょうね?
個人的には嫌だとかじゃなくて、自分の歌にはもう人に希望を与える力はないから、これからは融合戦士として人を助けようとか思ってたのでしょうか?
ちなみにエリシアやエデン、クラインからの印象はこんな感じ。
エリシア→「なんだか不思議な人、いつの間にか消えちゃいそうで心配だった」
クライン→「最初に愚痴を聞かせ合うとか言って戦場の不満をぶつけてきた時はなんだこいつと思いましたけど、それから仕事を手伝ってくれるようになって少し楽になりましたし感謝してます………戦いであんな怖い顔を、何かを壊したくてたまらないなんて顔をするのは、少し不安です」
エデン→「私の観客さん、また私の舞台に来てね。精一杯歌うから」