ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
「本当にミュハなのか?」
「本当だ、私はミュハだよ」
「じゃあ、私と自分の名前を言って」
「私はミュハーン・イリノヴィチ=ノルド・ゼムリャツキで、イデナウアーだろ?」
「...そうね...でも、あの状況から、どうやって...?」
「何故かは知らないけど、撃たれて死んだとかじゃ無くて、命が尽きそうな瀕死の状態だっただけ、でも何とか煙の力で何とか戻った」
「私は嬉しいよ、何とか生きてて、でも...私の涙返して!!」
「許してよ...」
「許す」
(早い...)
「それでなんだけど、私が寝てた間に何が在った?」
「話せば長くなるけどいい?」
「ok」
...
私が撃たれて後。撃った者はヴルジアの国境山岳兵だった。その後、私含め、四人はヴルジア軍に捕まったが、ハルィーヴがヴルジア軍と交渉?弁明?して、何とか不法入国は免れたらしく、私もヴルジア軍の軍医の下に連れていかれて、数日たったけど、全然進捗が聞かれなくて、軍に問いに行ったら...みたいな感じだ。
「何となく解った...」
「でも本当に生きてて良かった」
「...なんかそんなに心配される様な言い方されれば、私も何か恥ずかしい気がして来た」
「何で...」
「まぁでも、ようやくヴルジアに来たんだ...之で少しは大人しく過ごせるな」
「それはそう...でも、もう一つ伝える事が有って...」
「何だ?」
「私達、直ぐにヴルジアから出国して、ハルィーヴの母国、トゥラードに行く事に成ったから、だから明日には此処、スフィチを抜け、沿岸のバフーミ行きの鉄道に乗る事に成ってる」
「如何して?」
「ハルィーヴが属する馬人盟がユジノーを招いたかららしい、ミュハが数日起きるの遅かったら、私だけに成ってた可能性も有る」
「...そうなんだな、なぁ、イデナは母の國に行くんだろ?」
「一応、母の國の情報は掴んだよ、出航する艦船に国の名前、料金とか...」
「じゃあ、行けばいいじゃないか」
「お前が居ないと何とも思えないんだ...」
「何じゃそれ...」
「だがな、ミュハは蘇ったんだ、ハルィーヴも驚くよ」
「で、ハルィーヴは何処なんだ?」
「今は此処に居ない、先にバフーミに言って、トゥラードの国境の検問所で交渉?してるらしい...」
「じゃあ、私達もバフーミに行くか」
「...でも今はミュハは...」
其の時、独りの軍人が此方に来る。
「君がミュハーンさんですか?」
「はい...(何だ?)」
「少し問いたい事が有りましてね、中に入ってくれませんか?」
「まぁ良いですよ...」
「すみませんね、会話を遮ってしまい」
「別に良いですよ」
「では、中に...」
軍舎の中、一室に入る。中は渋い家具群、所謂格式の高い者が座ってそうな部屋だ。
私と一人の軍人が対する様に座る。
「今から、私の質問に答えてくれませんか」
「いいですよ」
「...先ずは、貴方の名前と年齢、出身国と都市を答えてください」
「ミュハーン・イリノヴィチ=ノルド・ゼムリャツキ、25歳。ロヴァノリヤ帝国ウラテリンブルク州ウラテリンブルク市出身だ...」
「ありがとうございます...次に...」
こうして、私は数個の質問、いや尋問をされた。其処まで、苦しい事では無かった。
国内の状況や国内で何をしたか、身の回りで体験した革命の出来事とか。私は、其処まで革命に触れていない、ただの旅人だから、殆ど僅かな事しか話せなかった。
そして、再度解放された私は、イデナと合流して、軍の命令の下、鉄道に成る事に成った。其れも、民間の列車とは違い、軍専用の大き目の列車だ。と言うか、多分、レールとかの規定が違う気がする、ロヴァノよりも幅が少し太く、車体が横に伸びている。
そうして、私とイデナは列車に乗り込んだ。中は案外質素であった。しかし...流石に私らだけではなく、普通に軍関係者も乗り込んでいた。其れも見た通り、其処らの兵よりかは階級は高い奴らだ。胸周りの勲章や襟の階級の星が明らかに多く、自らを照らしている。同時に私らを煽っている様にも見える。
兵に案内され、車両の一室に入れられる。意外と広く二人には充分であった、部屋の中には、其れなりには質感が良い家具に大机の上には灰皿もある要は禁煙車両では無い、何なら、扉付きの棚の中には酒が入っている。
時間は其れなりには時間が掛かる。要は酒が多く飲めるし、煙草も吸える。其れに本も有る、見た通り、地形図や地図、推理小説や社会派小説も完備しているし、部屋を出てすぐにお手洗いも有る。十分すぎる、逆に妖しく感じる。
だが、私は兵に去ったあと、真っ先に酒瓶に手を付ける。
「之はウォッカ...之はスコッチ...ウイスキーや果実酒も有る...」
酒瓶の隣には大中小の洒落た盃《グラス》も有る。だが、私にはこれくらいの容量の酒瓶はそのままで行けるから、使う必要は無い。
「いやぁ...酒はいつも美味い」
「そりゃあ、瀕死からの酒なんだから、格別に美味いんでしょ」
「イデナも飲まない?」
「私は今は気分じゃない...」
そう言うと、煙草を取り出し、火点け機《ライター》では無く、マッチ棒で火を点ける。何と言うか、かなり渋く見える仕草に、何処か凛々しさが薫っていた。
「そう言えば、ユジノーは?」
尋問前には居た筈のユジノーの姿を視ていない。何か有ったのだろうか?
「彼奴は別車両に居るよ、ヴルジアの馬人《ドラフチェラ》兵達と仲良く話していたから、多分、そいつ等と居る筈...」
「何か、何となく、想像できたわ」
「でも、こっちにも来るでしょ」
「まぁ、今はこっちも酒が在るし、いいや...」
そうして、私は、再び酒を一気飲み干す。泡を建てながら、物の数秒で一瓶、二瓶と酒を飲んでしまう。イデナは、私を視ながらも、煙草を吸う。
「なぁ、ミュハ」
「ん?何だ?」
「ミュハって、男装したら、かなりの美形に成りそう」
「そうか?」
「髪がショートとかだったら、男に視えそうだし、声もかなり低いし...」
「男装したって、別にモテる訳ないだろう...」
「いいや、男装したら、女にモテて...で、女って判明して、恋した女の顔を見たい」
「何、普通に癖を暴露してんだ」
「...良いなぁ...」
「あのなぁ、私はそもそも、恋愛には興味が無いんだ、異性も同性も興味ないんだ...其れに男装も興味ないぞ」
「えぇ~面白く無いなぁ~」
「お前は癖に刺さって、興奮するだけだろ」
「もう...折角の高身長と低い声、普通に女性に刺さる要素だと思うよ...と言うか、身長高くなって無い?」
「そりゃそうよ、私の成長期はまだまだ...」
「...良いなぁ...」
「だから、興奮するな」
「駄目だ...」
「何が?」
「普通に刺さる...」
「...もう此の話は終わりだ!!」
「何で!?」
「お前の癖なんてどうでもいい!!私は酒を飲んでいるんだ。癖とかで酒味を濁さないでくれ...」
「ぬぅ...」
「そんな顔すんじゃねぇ」
六瓶、七瓶目...体が暖かく感じて来た...
「いやぁ...何か穏やかだなぁ...」
「本当にそうだな...」
「今までのストと暴動で列車止まって、イラついて石壁殴って、凹ましたのは良い思い出だなぁ...」
「ンン!?...ゴホッゴホッ...」
「如何した?急に咽て?」
「今何って言った?」
「だから...ストと暴動で列車止まって、イラついて石壁殴って、凹ましたのは良い思い出って」
「頭可笑しいよ...」
「まだ、人殴ってないから、マシだろ?」
「思考が脳筋寄り...属性が多くて...良いなぁ...」
「黙れ」
「...ハイ...」
「何か、今日のイデナは色々と可笑しいぞ...如何したんだ、頭が可笑しく成ってしまったのか...?」
「...なんか、前に比べて、ミュハが魅力的に視える様に成ったんだよね...」
「えぇ...(少し引いている)」
「だって、高身長で低く凛々しくて、顔つきも良くて...良いなぁ...」
「興奮するな!!......駄目だ、変な奴に成っちゃった...」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続