ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
此の儘、上手く行く事は有るだろうか。物語には、重要で尚且つ、致命的な弱点が有る。其れは、刺激で有る。例えば、事件が起きたとか登場人物が覚醒したとか、見所が無い限り、物語は面白く無い。其れは此の物語もそうかも知れない、何だ、此の戦記風のファンタジーは、幸せ要素が無いじゃないか、と言う奴も居るだろう。
私の幸せ要素は、お前らの世界の傍観。お前らの幸せ要素は、作品を何度も漁り、何度も捨てる事が出来るだろう。今乗っている、此の列車、お前らと言うエンジンの為に燃やされる石炭の気分だ。
燃費も環境にも悪い癖に一丁前に見栄を張り、人権やら言葉遣いを気を付けろと言いながら、過度で低俗な言葉で汚物を魅せて来る。やっている事は石炭の様な腹黒さを蛋白石の様な心と称す騙し狐の様だ。
列車は多量の泡の黒煙を吐き、果てなく続く線路の上を進み続ける。バフーミ、ヴルジアの港湾都市にして、国内最大級の貿易都市で在り、ヴルジアの収入を補っているしかし、このご時世、金と言う物は他者に影響力を持つ者で在り、其の慾さは、何時の間にか戦にも殺しにも成る物だ。しかし、此処までの疲れを僅かでも融かすなら、この上ない事だ。
しかし、何もかもが平穏では無い。何かしらの刺激が起きるのがお約束だ。何処か重い空気が漂う中、列車も情景も物語も前に進む。一匹狼と一羽の禽に二馬、女の旅が有る。其れは其れは愉快も無い、不快で不壊な歴史の渦に飲まれる旅物語だ、何もが、希望の薫りも漂わない。
新聞には、読めない所を省いて大まかに、ロヴァノリヤの戦況にヴルジア国内の状況、そして、我らの様な難民・亡命者の事が報道されている。どれも之も酷い表現と言葉遣いで我らを悪の様に糾弾する内容で、平気であらゆる否定をする。私達は歓迎されて居ない、車窓からの景色、其れは美しい海原と反射する孤狼の我が顔。車窓の奥の海原には、鉄の塊何隻かが黒煙吹いているのが視える、距離的にも近くも遠くも無い絶妙な距離。しかし、途端、列車は線路の途中で止まる。
「何だ?」
「急に止まったな...何か有ったのかな..?」
そんな困惑を遮るかの如く、廊下からは急ぐ足音が響き、同時に何処からか、重い砲撃が聞こえる。如何やら、あっちから刺激の風がやって来た。頭の中は、
「何か、危うい気配がして来た...」
「...ユジノー探してとっと逃げるぞ」
「あぁ..」
如何やら、何か物騒な事が起きたらしいな。廊下も外からも、喧騒を感じる。そして、同時に私は気にも留められず、置いて行かれて居る可能性が高いだろう...しかし、其処まで”私”には感じない。刺激は無い、凍傷にでも成って仕舞ったかの様に何の心情が浮かばない。私の感情の海は津波に生る以前に、凍結しているのだ。
例え、勇ましの軍人でも緊急時は驚くだろう。必ずしも恐怖も驚愕は生命の感情の要素の一部だ。しかし、其れは々命同士、地位と権力で容易に改造されてしまう。旧型《時代遅れ》の傀儡人形《操りの弱者》は、そう思う。
「何処に居るんだ、ユジノーは...」
「...何か、酒の飲んだ酒とは違う酒の匂い、あっちの部屋からするぞ、行くぞ」
「よし、急ごう」
私らは、既に空白化した列車の廊下を走って渡り続ける。同じの部屋に扉、床の直線迷路を
扉を開け、部屋の中に入る。そして、見つけた。
「ユジノー!?」
「...」
其処には、ただただ酔いが広がる酒の部屋では無かった。机に凭れて、顔が見えないユジノーに壁に靠れかかり、腹部が紅く染まって、アイスピックが刺さって居るヴルジアの軍人一人、壁には血飛沫も在る。イデナは驚きと恐怖を感じた顔付きで、私は何だろうか...ただ、一つ言える事は、興奮と殺気だろうか。血が水と思ってしまう、私には何とも思えない血飛沫の量。しかし、ユジノーに手を出した事は許せん。
急いで、ユジノーの傍に駆け寄る。しかし、首周りには紐の跡。私もイデナも悟ってしまった。
「嘘だろ...」
「...」
私は、何とも言葉が口からは出なかった、悲しみも生半端で、自分が憎しい。そう卑下を自分に降す。空気が重く生った時、私は視えた、ユジノーの指が僅かに動いた事に。
「...ユジノーはまだ生きてる」
「...ほ、本当か...!?..でも..助かるのか...?」
「取り敢えず、ユジノーを外へ運ぶ、こうやってな...」
そう言って、私は大きい車窓を拳で殴り割った。硝子の崩壊音と共に、私は車窓から外へ降りる。
「イデナ、ユジノーをそっと、窓の所まで運べるか...?」
「...何とか、やってみる...」
数秒もしない内に、ユジノーの体が窓から少し顔出す。
「十分だ、そのままにしてくれ」
「あぁ...分かった」
私は、背中と手に意識を集中させる。芽が大樹に成る様に、煙が薄く募った後、曇の様に濃く大きく成る。其の煙は...
「!?」
ユジノーもイデナ諸共呑み込み、大煙は車窓を出て、外に戻り、地面に薄く広がりては薄く成り、イデナとユジノーの姿が見え始める。今回は良く出来た。生命体を限界まで煙にして、再度生きた状態まで戻す。かなり疲弊する業の一種だ、手汗が留まらない...
「な、何が起きたんだ...?」
「説明は難しいが、煙にして、再度、体を復元した」
「な、なるほど...?」
「...之で行ける筈だ...」
「何がだ?」
「ユジノーを煙にした時に、何とか有害物質を限り無く除いて、尚且つ、秘術をしたし、煙を薄くして、空気を送りやすくした...(其の細かい調整のせいで、手の煙が変化して液体に成ってしまった...)」
「其の秘術って何だ?」
「半煙化」
「半煙化?何だ、其れは...?」
「私の煙は無機質なら、一定の状態で保存出来る、だが、有機物《生命体》は、煙にする時に煙に含まれる有害物質で死んでしまう。しかし、半煙化は細かい調整を代償に、一定時間内は有機物でも保存出来る」
「要は、さっきぐらいの短時間だったら、有機物でも煙にできるんだな?」
「そう言う事」
「でも、其れだと、ユジノーはまだ、危険な状態の儘じゃないのか?」
「だから、今から行う、煙を操れる私にして、私にしか不可能の力業」
「...良く解らないが、頼んだぞ」
「任せろ、唯一の取り柄が唸るぜ...」
半液状化状態の両手に力を入れ、血脈に魔力の流れの皺を感じる、煙の様に形を持たない指先から、新たに煙が出始める。曖昧に再生は合わない物だ。私は成長出来ない、友情も愛情も形には熟れない。だが、今、僅かに感じた、寒風を貫く温もりを。
技名は無い、其れが私の個性だ。歴史に名を持たれぬ、私も私の力も、決してヒーローチックな者では無い。
名を持たぬ、私の"下剋上"だ。
血脈が奮い立ち、魔力が盃から溢れ煙が液の様に出す。揺るぎ無い私の煙達よ、殺しで砥がれた、其の感性を生に集注させろ。計十本の指の先、爪が長く伸びたかの様に、煙が糸状に伸びる。十本の糸は、ユジノーの体の中に入っていく。イデナは其の様子を何とも言わずに、そっと見守っている。自由自在では無いが、或る程度の煙の精度は行けている。
首の絞め跡を煙で搔き消し、
完璧だ。ユジノーの体から、煙の糸を出し、煙のある方に、掌を見せる。その瞬間、煙は吸われる様に、掌へ煙が集まり始める、十本の指から出た煙は途中で切れ、掌の平原に集まる。そうして、血脈と共に体内に流れる、私の煙。
「ふぅ...之でいい筈だ」
「そうか...」
「だが...」
「...?」
「此処も危ないな、ユジノー負ぶって、何処か運ぶから、周り守ってくれ」
「了解」
其の時だった。
「居たぞ!!」
「不法移民共を捕まえろ!!」
「...不味いな、此の状況...」
列車に乗ってた兵士とは違う、制服。バフーミの兵士?なのか?まずいな...近づいて来る...こうなれば...外套《コート》の中から、液が余る九本目の酒瓶を取り出す。開いた瓶口には、私の毛が入り込んでいる。私は、痛みを凌ぎながら、両手に生える腕の毛を瓶口に着け、火点け機《ライター》で火を点ける。
紅い火と碧い火が混じり点く、お手製の火炎瓶。
「喰らえ!!」
火炎瓶を兵士共の方へ大きく投げ飛ばす。
「とっと、逃げるぞ、イデナ!!」
「あぁ...ミュハは前だけ見てろ、後ろは私がやってやるさ」
「ふっ、頼もしい事だ...」
急いで、ユジノーを担いで、前だけを見る。目の前に広がるのは、希望の燈も無い、暗闇と陽が広がる街中街道。妙な汗を僅かに掻かせながら、直線に突っ切る。
後ろには、イデナの気配が漂い、同時に兵士たちで在ろう、油臭い。
「ミュハ、建物隅に寄れ!!」
「!!」
急いで、隅に寄る。其の時、銃弾が響き、先ほどまで走っていた所周辺の地面を抉る。イデナは、ドラムマガジンの軽機関銃を持ちながら、私に告げる。
「あそこ、あの緑茂った林まで走って、隠れろ」
「兵士に露見されないか?」
「私が兵士達の視線を集中させる、その間に全速力で行くんだ」
「...
何処か視線を感じる...
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続