ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
宿に泊まってから、三日の陽が越えた。
その間、私達は退屈ながらも、十分に癒しを得ることが出来た。バルコニーから見える、壮大な草原と山岳の風景。冬の寒風が吹きながら、煙草を吸い、酒を流し込む、私。煙草を吸いながらも、本やら新聞を読みながら、自らの麗しき翼を手入れをする、イデナ。早朝から雪積もりながらも、通常通り雪を薙ぎ払いながら、走るユジノー。何処かに行きながらも、ユジノーと話し合うハルィーヴ。
其れなりには、良い雰囲気が漂っている様だ。しかし、時はやって来た。今日に、ハルィーヴが属する組織、馬人盟の本拠のカルパドルアと言う所に行く事になった。
勿論、列車だ。しかも、かなり性能の良い車両で、夜通し連続で動かしても、壊れないと言う優れ物だ。本当かは不明だがな...
革命は、まだまだ、終わる気配が無い。融けも消えもしない蝋燭で、尚且つで多民族と多勢力だから、一本の蝋燭では無く、複数の蝋燭と来た。しかし、どれも之も粗悪で不毛な机上で、火を出している。穴が開いて、厳冬の息吹が入るロヴァノリヤと言うボロ小屋で。まだまだ、鬥うのだろう。
「此の三日間、あっと言う間に過ぎてしまったなぁ...」
「まぁ、休暇に使えれたから、まだ良いだろ」
「此処から、また変な事に巻き来れる可能性も経てい出来ないだろ?」
「もう、勘弁して欲しいな」
「まぁ、此処《トゥラード》は、平穏だ。まだ、戦火の影響は少ない筈」
「新聞も革命三昧だが、影響は其れなりには在るだろうね」
「とりあえず、影響受けた馬鹿共が、蜂起でもして、巻き込まれる。何て事が起きなければ良いだけだ」
「其れは、此処からカルパドルアって所まで行くまで、警戒しないとね...」
「あーあ、もう面倒くさいな」
「第二祖国に行くまでの辛抱」
「はいはい...」
而して、何時も通り、酒を飲む。
「そう言えば、ユジノーは馬人盟?に入る可能性が高そうだな」
「...そうだな」
「まぁ、同胞達がいっぱい居る方が良いだろうし...旅なんかよりも今は平穏を求める方が、正常だろうし...」
「...どっちも正常さ」
「...確かにね...」
「どっちにしろ、ユジノーが決める事なんだから、私が口出すなんて事が無い様に見守るしかない」
「まぁな...」
襟締の付ける必要の無い外套《コート》の襟を弄り、嚢《ポケット》に両手を突っ込み、怠けた姿勢で座る。おまけに口には何時も通り、紫煙を吐く煙草を銜えている。対するイデナは、綺麗な姿勢で、尚且つ黒い翼を隠して、如何にも人間にしか見えない。
「...少し、私の話を聞いてくれないか?」
「...良いぞ、何だ?」
「私は、生まれこそ、ロヴァノリヤで在ったが、血筋で言えば、泰西と東方の混血人で亜人だ。母が未開地の民族で、父が旅する泰西人で、翼人には色々な種類が有るんだ、例えば人間みたいに地域毎に○○人が存在するみたいに土地毎によって、翼人には体格やら見た目とか文化の差が有るんだ。父も母も同じ翼人でもかなり違いが有った。そんな者同士で産れた翼人はどうなると思う?」
「うぅ~ん、違う部分が混ざり合って、別の何かに成るとか?」
「半分は正解。確かに、違う所が混ざって、何かに成った所も有るけど、正解は、双方の遺伝関係無く、周りが騒がしく成る事」
「...?」
「私の見た目は、かなり不気味だった。泰西人には、黒髪は悪に等しかった。今は染めて茶髪にも見える様にしたけど、幼少期は蔭の様に暗い髪色だった。母譲りの髪色で父譲りの大きな翼の翼人。他者からは不気味でしょうがなかったのだろう...幼少期は職も住処も点々と暮らしていた。私も母も見た目で迫害を受けていた、だから、ロヴァノ人でも、父の民族のカルマーク人も好きでは無かったし、迫害をして来た奴も人間も同じ翼人もミュハと同じ獣系亜人もして来た...ミュハと一緒に旅する時、私はミュハの事をあまり友好的は見る事が出来なかった。表の演技をしながら、裏では、此奴も裏切るのでは無いかと猜疑心が蔓延っていた。でも、此処まで来ると、はっきりと判ったんだ、ミュハはそんな卑劣な者では無いって、私を迫害やら暴行を振るう事も無い、大丈夫な者だって...だからさ、之からも一緒に居てくれない?」
「...そうか、私何かで良いんだな?」
「あぁ...良いとも」
「...思った通り、面白い奴だな」
「それなら良かった」
片手を嚢《ポケット》から出し、イデナの方に差し出す。イデナも直ぐに反応して、片手を差し出し、互いに握手をした。
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列車は、延々と煙噴きながら、馬人盟の本拠地へ向かう。カルパドルア、其れは古来から馬人達の地。戦乱も疫病の時代も乗り越え、今日まで馬人の地としての長い歴史を持つ由緒ある土地だ。
外交官として勤めて、五年《六年少し》。十四で、自警団《民営武装組織》に入団し、其処から馬人盟へ入り、今では五年目の外交官。ようやく、祖国へ帰還出来た。もう異国への仕事は勘弁したい...
私はロヴァノリヤで見て仕舞った。地獄に等しい何かを。表は、賑やかな街並みなのに、裏では犯罪が跋扈していたし、繁華街の隙間の路地や建物に囲まれた日陰には貧しい人達が座っている。子供も大人も死んだ眼で空を眺めたり、口を開けながら、何もせずに、前を見つめて来たりと、違和感しか無い所だ。
同時に此処には希望が無いんだなと思ってしまう、風と瞳が見えて、哀愁が心を重くして来たし、中には、頂戴頂戴と嗄れた声で物求める、孤児が縋り寄って来た時。もうどうすれば良いか、解らなくなってしまった。
此処で渡しても、あくまで一時的な解決策なだけで、また物乞いをしてしまう、餓えてしまう。渡さなくとも、餓えてしまう。本当に此処では生きた心地がしなかったし、此処で生活する者の神経が異常だととも思ったし、之が日常と化した社会に苛立ちを覚えてしまった、救えない自分の力を呪いそうに成った。
彼女《ユジノー》も、また被害者なのだろうか。此処で被害者と決めつけても、彼女の考えでは被害者じゃないかも知れない、本当に救いが居るのだろうか...私はどうすれば良いのだろうか、本当に救われるべき人物は、何者なのか。誰が正義で誰が悪だなんて、もう解らない。
喜怒哀楽の哀が、味を入れて来る、舌が感じる。不味いとか、苦いとか辛いとか、甘いとかじゃない、濁りが有って、複雑なんだ。貧しいと言えど、病の貧しさ、愛の貧しさ、食の貧しさ、そんな貧しさが混ざり合って、逃避したい程の現実が吐き気を催して来るんだ。
貧乏は色の様に多様で、尚且つ、救いや助けが出せない程、既に底無し沼に沈んでいる。
私らが思う程に、助けの舟も、声を掛ける事すら、迷って終うだろう。
だから、もう...怖いんだ。自分が楽しむ、其の一秒一秒にあの時に観た物乞いや掠れた声で助けを求める声が微かに囁いて来るんだ...
其の声を聴くと、自分はこんな事が出来るけど、向こうは...と考えてしまう。
疲れてしまったな...
彼女《ユジノー》は寝ている、部屋の床で。私も寝ようかな...
眠気が急に襲ってきて、床に伏せる様に横たわる。
そのまま、瞼を閉じた。
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産まれた。其れはどれだけめでたい言葉だろう。しかし、愛は無かった。
物心付いた時から、スラムの砦に棲み、汚れた帽子を被り、塵砦に棲んで居た。勿論、独りでは無かった。一人仲間が居た、私と同じで、親を知らない馬人《ドラフチェラ》が居た。名前はリューリヤ、銀色の雪雲みたいな色が特徴の馬人で、仲間と言うか家族に等しい存在だった。
少なくとも、私が十五の時までは一緒だった。其々、別々の道を行く事にしたからだった。私は旅人で、彼女《リューリヤ》は、軍職へ行った。
別れの日の宵は色々と厚い夜だった。もう何年も会って居ない。...革命で、軍を指揮して...生きている事を信じよう。
幼少期から、二人で飢えの生活を送って来た。苔の様な何かが生えたパンを分け合い、時には、二人で協力して、食糧を盗み、砦の中、大きな防寒具で身を寄せ合いながら、冬を凌ぎ、春は林の中を流れる河で、体を洗い、夏と秋は近くの穀物畑から、作物を盗んで食べたり、食料が尽きた時なんかは雑草やら、作物の全てを食べた。
懐かしいな...
二人で何時も助け合い、喧嘩したり、良く生きてこれたな...
また会いたいな...
すると、冬の涙が降って来る。目の前には懐かしの塵の砦が見える。其処には幼き私と彼女の姿。
「あっ!!私の麦食べたでしょ!!」
「食べて無いよ~」
「じゃあ、何で口元に麦粒が?」
「...逃げろ~!!」
「あっ、待てー!!」
懐かしいな...之は回想か?其れとも...
「...あれ?此処は?」
...どうやら夢だったらしいな。懐かしい思い出だったな...何時も夢を見ても、起きる時は窓が曇る様にはっきりと内容が思い出せないのに、今のは、刻々と頭を染めて来た。
「.....!?」
ぼやけた視界が晴れると、私とハルィーヴが、かなり積極的に接触していた。...何か、私、抱き枕みたいな扱いにされて居るんだけど...
「ぎゃっ...」
後ろから、髪を吸われている、嗅がれてるし...後ろから抱き締められている。どうしようかな...
これ...
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続