ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
途中の停車駅、シュチ、カラヴィザル、シュワス、シャクルカラぐらいを超えれば、カルパドルアへ着く。後二日だ、其れさえ耐えれば、私の仕事は一先ず終わる。
翌日は、朝食を4人で食べ終わると、直ぐにシュチ駅に着いて、数十分の探索が出来た。此の列車は、少し豪華な寝台列車だ。名目上は、カルパドルアまでの短い寝台列車、裏面は馬人盟の保護対象《ユジノー》の輸送だ。カルパドルアには、既に騎兵民族《コサック》の亡命者達が着いて居る。数は数十名規模だがな...
彼女らにとって、逃げは恥じるべき行為なのかもしれない...
私も其の血を汲む者だが、育ちは此方だから、彼方の事は深くは知らないからな...
カルパドルアに着く迄の時間は、案外早かった。同室の彼女《ユジノー》とずっと話していた。煙草を吸いながら、聞いて居たが、不機嫌な顔をされたので、吸うの辞めながら、我ながらには真剣に聞いた。そうすると、彼女が陽気に話してくれる。
だが、口調は穏やかに聞こえるのに、何処か哀愁さが響き香って来る。内容は様々だが、其処まで悲しい事でも無い筈なのに、聞いて居る内に、何処か彼女に情が湧いて来る。ただの愛着とは違って、私には、何か出来ないのか?と言う疑問が産まれた。
彼女は、幼少期の話を教えてくれた。陽気な口調とは裏腹に、内容は惨かった。
両親の顔も知らず、貧相な暮らし、其れだけでも悲しく感じる。ただ、もう一人の仲間と一緒に暮らしていたと言うのが、唯一の救いで有ったのだろう...
其の人に会えれば、良いのだが...
そんな事を振り替えながら、カルパドルアの駅に着いた。
私は、此処までだな...
少しは彼女《ユジノー》の支えには生れないかな...
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「此処がカルパドルア、馬人達の都市《まち》です。ようこそ」
「何と言うか、馬人塗れだな...絵画も像も馬人...」
「住民も馬人しか居なさそう」
「同胞達は居るかな...」
「...先ず、行くところが在りますので、着いて来て下さい」
徒歩、数分で着いた。正確には、馬人《二人》が速すぎた事だ。歩きだけでも、あんなに早いのか...恐るべし、馬人。
目の前に建つのは、立派な石造りの建物。いかにも歴史が在りそうな外観だ。街中も何処か古都の様な古き建物の景観だが、外歩く者の殆どが馬人《ドラフチェラ》か、他の亜人ぐらいで、人間が見当たらない。
人間禁制の都市なのか?
其れなら面白いな。
「お前らが、ロヴァノリヤからの民か?」
背後から声がする。振り返れば、白毛の美しい鬣《髪》の馬人《ドラフチェラ》が立って居る。洒落た立ち姿をしている。
「何だ、ヴロツレスカか...」
「何だ、其の態度は。私の方が立場が上だろう?」
「...其処まで立場の差は無いだろうが...」
「まぁ、いい。さぁ、此方に来い、案内してやる」
「彼奴は誰だ?」
「同僚のヴロツレスカ...あんな口調をするけど、根は優しいから...」
「そうなのか...」
「何をしている!!早く来い!!」
「はいはい...」
何だか、双方、仲が良さそうだな...
「じゃあ、彼奴《ヴロツレスカ》に着いていきましょうか...」
白毛の馬人の導きに連れ、目の前の建物に入る。
仕事中の者達の唸りが聞こえて来る。
「此の部屋に入れ、だが、其処の狼と禽は、外で待っとけ」
「馬人限定の事なのか?」
「そういう事だ」
そうして、部屋に入る二人を見送った。
「私らは何すればいいんだ?」
「待機しとけ...」
「退屈だなぁ~」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
扉を開けると其処には、緑の平原が広がって居た。雪一粒も無い草原。
状況が解らない、建物の一つの扉から、草原が広がって居る...
「...如何いう事?」
「此処が、馬人盟加入の申請室...」
「此の平原が?」
「いや、もう少し奥まで行こう、其処に建物が在るから...」
「...一体如何いう事...?」
「私も、さっぱり解らないが、とりあえず、薄っすらと道が在るでしょ?之を辿れば、行けるから...」
「...そうなのかぁ...」
薄い砂利道を歩く、周囲は本当に何も無い。地平線まで草原が続いていて、空は程好く白い叢《雲》が蠢いている。寒くも暑くも無い空気で僅かに風が吹いている。
何か身体に異変を感じる。別に痛いとかでは無いから、良いけど...
「あっ、あれだ!!見えるか」
「...あの山小屋みたいんば建物?」
「そうだ、あれが申請所だ」
「...随分と遠いなぁ...」
「其れなら、あそこまで走るか?勝負って奴だ」
「面白いね、良いよ」
「じゃあ買ったら、酒一瓶奢ってね」
「良いぞ、ならよーいドンのドンで開始だぞ...」
「オッケー」
「良いか?じゃあ...よーい...」
双方、一気に走る体勢に成る。
「ドン!!」
その言葉の弾丸が耳に入った、刹那に、私は走り出した。
しかし、異変の原因が分かった。能力《力》が使えない!!如何やら素の力でやらないと駄目なのか...
(面白い!!)
例え、能力《力》が使えなくとも、私の筋力は裏切らない。
脚の筋肉の
砂利道を深く抉る様に足の力を入れ、前進する。
僅かに私が優勢だ。
(このまま、行けば勝てる...!!)
段々、目的地の建物が地平線が昇って来る。
砂利の粒が踏まれ、霜踏む様にザクザクと音立てながら、風の砦を突き通る。
そして...
「よし、私の勝ち!!」
「凄いな、如何したらあんな大きな歩幅を維持しながら、早く走れるんだ?私だったら、途中で体力が切れてしまいそうだよ...」
「ふふーん、秘密」
「少しぐらいは、教えてくれよ...」
「強いて言えば、筋力かな...」
「...脳筋...」
「...賢さ何かねぇよ、筋肉こそ全て」
「ガチガチの脳筋じゃん...」
「...切り替えて、申請しに行こう!!」
「其れ、どっちかと言うと私の台詞の筈なんだけどね...」
小屋の扉を開けると、独りの馬人の女?が座っている。いや、どっちだ?
男にも女にも見える...
「君が、新手の加入希望者?そうだよな、ハルィーヴ?」
「そうだ、如何した?セリィートル、退屈だからイライラしてるのか?」
「忙しいんだよ、とっと加入希望書に記入してくれ」
「態度が荒々しいぞ、落ち着いて対応」
「うるせー!!私は疲れたんだよ!!とっと、記入しやがれ!!私に休みを寄越しれがれ!!」
「あーあ、壊れちゃった...まぁ、普通にじっくり読んで記入してね」
「あっはい...」
記入用紙には、こう書いて居た。
馬人盟の加入は、誇り高き馬人の地位と其の尊き命を保証する。
異国の馬人も自国の馬人も互いに手を取り合い、課題を協力して倒す義務が有る。
また、馬人盟での活動以外の生活を許可し、自由な生活も良しとする。
これ等盟約は命尽きる其の時まで、硬く腐る事無く保証する。
また、脅かす賊共から同胞を衛るため、自衛兵として志願する権利が含まれる。
また、異国の馬人は、其の文化を尊重し、互いの文化を称賛・嗜む義務がある。
盟友の侵害は、懲役刑に処す。職業の自由を尊重する。笑顔が溢れる街造りをする義務が有る。
これ等を同意できる者は、此処に自らの全名を記せ。
此の盟約は、千切れる事も如何なる時も馬人の名誉を衛る為に発動される。
我らの権利である。
決して、此の契りは消える事も滅びる事勿れ。
これ等、麗しきカルパドルアの馬人の盟約の同盟、馬人盟の契りで在る。
普通に素晴らしい盟約と同盟のモットーじゃない?
生活の自由、職業の自由...
決めた。
ペンで、名前記入の所に名前を記す。
全名でしょ、コクラスティン・プハスノスチ=テュルクコサック・ユジノー。
今や、私にロヴァノの名は要らない。
此の自分で創り上げた、此の真名を記すのみ...
架空の父称、名字に真実の名前を記す。
汚い荒れたペン使いで、丁寧に丁寧に全名を書く。
名前を書き終わった、其の時。
紙が光り出し、私の名前が浮かび上がる。
すると、輝る紙から、色々な形の文字が出て来る。
其れはまるで手の様に見えた。
私の名前の文字列が、其の文字列に近づくと合体して、一つの輪に成った。
あらゆる名前が繋がって、一つの大きな輪になった。
すると、何処からか声がする。
「コクラスティン・プハスノスチ=テュルクコサック・ユジノー。其方を馬人盟に加入する事を許可する、我らの意志を引き継ぎ、馬人の誇りを拡げる事を願う」
そう言うと、謎の声は聞こえなくなった。
すると、今度はハルィーヴが問いて来た。
「頭の中に謎の声が聞こえたでしょ?許可とか言われた?」
「うん、何か加入を許可するとか言われた」
「おめでとう!!今日から同胞だ!!ほら、セリィートルも!!」
「...おめでとう...」
何時の間にか、文字の輪は消えて、光る紙も光って無く、ひらひらと横たわって居た。そうして、私とハルィーヴは、セリィートル?と言う人に別れ、草原から、さっきの所まで戻る。
「...さっきの馬人は誰?」
「彼奴はセリィートルって言って、同僚、何時もあんなに怒ってないよ、口調は少し喧嘩口調だけどね。で、此処来る前に居た白毛の馬人はヴロツレスカって奴で、同僚。何だけど、何故か上から目線で話して来る」
「...個性強いね」
「みんな、そうだよ... 何なら、同盟内には、亡国の王族、貴族の末裔も居るし、階級関係無く、色々な馬人《同胞》が居るからね...」
「...加入したら、此処で仕事する?」
「其れは個人の自由だよ、街で商売しても良いし、自衛兵として志願しても良いし、此処で働くのもまた、自由」
「此処って何の仕事するの?」
「...色々と在る。私みたいに、異国の馬人《アトイルサン》と関係を深める為に異国へ渡る仕事も在るし、文化尊重の為に本や祭りで異文化交流をする仕事も在るし、同盟運営の為に資金管理とかも...」
「多様なんだね...」
「まぁ、別に強制はしないよ?自由が一番だし...」
「遊牧民で良い?」
「...良いんじゃない...?」
「何でちょっと、曖昧なの?本当はどう思ってるの...?」
「外交官枠が空いてるから、其処に入って欲しいのが、本音」
「...まぁ、考えとくよ...」
「嬉しい」
「決定してないからね...」
そんな話をしていると、さっきの所まで戻って来た。
「改めて見ると違和感しか無いね...」
「何か、何処へでも行けそうな扉だね...」
「なぁ、戻ろう」
「そうだね...」
そうして、扉を開けた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続