ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか—   作:南部 八十一朗

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馬人の街 Ⅻ

途中の停車駅、シュチ、カラヴィザル、シュワス、シャクルカラぐらいを超えれば、カルパドルアへ着く。後二日だ、其れさえ耐えれば、私の仕事は一先ず終わる。

 

翌日は、朝食を4人で食べ終わると、直ぐにシュチ駅に着いて、数十分の探索が出来た。此の列車は、少し豪華な寝台列車だ。名目上は、カルパドルアまでの短い寝台列車、裏面は馬人盟の保護対象《ユジノー》の輸送だ。カルパドルアには、既に騎兵民族《コサック》の亡命者達が着いて居る。数は数十名規模だがな...

 

彼女らにとって、逃げは恥じるべき行為なのかもしれない...

私も其の血を汲む者だが、育ちは此方だから、彼方の事は深くは知らないからな...

 

カルパドルアに着く迄の時間は、案外早かった。同室の彼女《ユジノー》とずっと話していた。煙草を吸いながら、聞いて居たが、不機嫌な顔をされたので、吸うの辞めながら、我ながらには真剣に聞いた。そうすると、彼女が陽気に話してくれる。

 

だが、口調は穏やかに聞こえるのに、何処か哀愁さが響き香って来る。内容は様々だが、其処まで悲しい事でも無い筈なのに、聞いて居る内に、何処か彼女に情が湧いて来る。ただの愛着とは違って、私には、何か出来ないのか?と言う疑問が産まれた。

 

彼女は、幼少期の話を教えてくれた。陽気な口調とは裏腹に、内容は惨かった。

両親の顔も知らず、貧相な暮らし、其れだけでも悲しく感じる。ただ、もう一人の仲間と一緒に暮らしていたと言うのが、唯一の救いで有ったのだろう...

 

其の人に会えれば、良いのだが...

そんな事を振り替えながら、カルパドルアの駅に着いた。

私は、此処までだな...

少しは彼女《ユジノー》の支えには生れないかな...

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「此処がカルパドルア、馬人達の都市《まち》です。ようこそ」

「何と言うか、馬人塗れだな...絵画も像も馬人...」

「住民も馬人しか居なさそう」

「同胞達は居るかな...」

「...先ず、行くところが在りますので、着いて来て下さい」

 

徒歩、数分で着いた。正確には、馬人《二人》が速すぎた事だ。歩きだけでも、あんなに早いのか...恐るべし、馬人。

 

目の前に建つのは、立派な石造りの建物。いかにも歴史が在りそうな外観だ。街中も何処か古都の様な古き建物の景観だが、外歩く者の殆どが馬人《ドラフチェラ》か、他の亜人ぐらいで、人間が見当たらない。

 

人間禁制の都市なのか?

其れなら面白いな。

「お前らが、ロヴァノリヤからの民か?」

 

背後から声がする。振り返れば、白毛の美しい鬣《髪》の馬人《ドラフチェラ》が立って居る。洒落た立ち姿をしている。

「何だ、ヴロツレスカか...」

「何だ、其の態度は。私の方が立場が上だろう?」

「...其処まで立場の差は無いだろうが...」

「まぁ、いい。さぁ、此方に来い、案内してやる」

「彼奴は誰だ?」

「同僚のヴロツレスカ...あんな口調をするけど、根は優しいから...」

「そうなのか...」

「何をしている!!早く来い!!」

「はいはい...」

 

何だか、双方、仲が良さそうだな...

「じゃあ、彼奴《ヴロツレスカ》に着いていきましょうか...」

 

白毛の馬人の導きに連れ、目の前の建物に入る。

仕事中の者達の唸りが聞こえて来る。

「此の部屋に入れ、だが、其処の狼と禽は、外で待っとけ」

「馬人限定の事なのか?」

「そういう事だ」

 

そうして、部屋に入る二人を見送った。

「私らは何すればいいんだ?」

「待機しとけ...」

「退屈だなぁ~」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

扉を開けると其処には、緑の平原が広がって居た。雪一粒も無い草原。

状況が解らない、建物の一つの扉から、草原が広がって居る...

「...如何いう事?」

「此処が、馬人盟加入の申請室...」

「此の平原が?」

「いや、もう少し奥まで行こう、其処に建物が在るから...」

「...一体如何いう事...?」

「私も、さっぱり解らないが、とりあえず、薄っすらと道が在るでしょ?之を辿れば、行けるから...」

「...そうなのかぁ...」

 

薄い砂利道を歩く、周囲は本当に何も無い。地平線まで草原が続いていて、空は程好く白い叢《雲》が蠢いている。寒くも暑くも無い空気で僅かに風が吹いている。

何か身体に異変を感じる。別に痛いとかでは無いから、良いけど...

 

「あっ、あれだ!!見えるか」

「...あの山小屋みたいんば建物?」

「そうだ、あれが申請所だ」

「...随分と遠いなぁ...」

「其れなら、あそこまで走るか?勝負って奴だ」

「面白いね、良いよ」

「じゃあ買ったら、酒一瓶奢ってね」

「良いぞ、ならよーいドンのドンで開始だぞ...」

「オッケー」

「良いか?じゃあ...よーい...」

 

双方、一気に走る体勢に成る。

「ドン!!」

 

その言葉の弾丸が耳に入った、刹那に、私は走り出した。

しかし、異変の原因が分かった。能力《力》が使えない!!如何やら素の力でやらないと駄目なのか...

(面白い!!)

 

例え、能力《力》が使えなくとも、私の筋力は裏切らない。

脚の筋肉のエンジン(機関)は好調。速度は落ちるが、行ける筈。

 

砂利道を深く抉る様に足の力を入れ、前進する。

僅かに私が優勢だ。

(このまま、行けば勝てる...!!)

 

段々、目的地の建物が地平線が昇って来る。

砂利の粒が踏まれ、霜踏む様にザクザクと音立てながら、風の砦を突き通る。

そして...

「よし、私の勝ち!!」

「凄いな、如何したらあんな大きな歩幅を維持しながら、早く走れるんだ?私だったら、途中で体力が切れてしまいそうだよ...」

「ふふーん、秘密」

「少しぐらいは、教えてくれよ...」

「強いて言えば、筋力かな...」

「...脳筋...」

「...賢さ何かねぇよ、筋肉こそ全て」

「ガチガチの脳筋じゃん...」

「...切り替えて、申請しに行こう!!」

「其れ、どっちかと言うと私の台詞の筈なんだけどね...」

 

小屋の扉を開けると、独りの馬人の女?が座っている。いや、どっちだ?

男にも女にも見える...

「君が、新手の加入希望者?そうだよな、ハルィーヴ?」

「そうだ、如何した?セリィートル、退屈だからイライラしてるのか?」

「忙しいんだよ、とっと加入希望書に記入してくれ」

「態度が荒々しいぞ、落ち着いて対応」

「うるせー!!私は疲れたんだよ!!とっと、記入しやがれ!!私に休みを寄越しれがれ!!」

「あーあ、壊れちゃった...まぁ、普通にじっくり読んで記入してね」

「あっはい...」

 

記入用紙には、こう書いて居た。

馬人盟の加入は、誇り高き馬人の地位と其の尊き命を保証する。

異国の馬人も自国の馬人も互いに手を取り合い、課題を協力して倒す義務が有る。

また、馬人盟での活動以外の生活を許可し、自由な生活も良しとする。

これ等盟約は命尽きる其の時まで、硬く腐る事無く保証する。

また、脅かす賊共から同胞を衛るため、自衛兵として志願する権利が含まれる。

また、異国の馬人は、其の文化を尊重し、互いの文化を称賛・嗜む義務がある。

盟友の侵害は、懲役刑に処す。職業の自由を尊重する。笑顔が溢れる街造りをする義務が有る。

 

これ等を同意できる者は、此処に自らの全名を記せ。

 

此の盟約は、千切れる事も如何なる時も馬人の名誉を衛る為に発動される。

我らの権利である。

決して、此の契りは消える事も滅びる事勿れ。

これ等、麗しきカルパドルアの馬人の盟約の同盟、馬人盟の契りで在る。

 

普通に素晴らしい盟約と同盟のモットーじゃない?

生活の自由、職業の自由...

決めた。

 

ペンで、名前記入の所に名前を記す。

全名でしょ、コクラスティン・プハスノスチ=テュルクコサック・ユジノー。

今や、私にロヴァノの名は要らない。

此の自分で創り上げた、此の真名を記すのみ...

架空の父称、名字に真実の名前を記す。

汚い荒れたペン使いで、丁寧に丁寧に全名を書く。

 

名前を書き終わった、其の時。

紙が光り出し、私の名前が浮かび上がる。

すると、輝る紙から、色々な形の文字が出て来る。

其れはまるで手の様に見えた。

 

私の名前の文字列が、其の文字列に近づくと合体して、一つの輪に成った。

あらゆる名前が繋がって、一つの大きな輪になった。

 

すると、何処からか声がする。

「コクラスティン・プハスノスチ=テュルクコサック・ユジノー。其方を馬人盟に加入する事を許可する、我らの意志を引き継ぎ、馬人の誇りを拡げる事を願う」

 

そう言うと、謎の声は聞こえなくなった。

すると、今度はハルィーヴが問いて来た。

「頭の中に謎の声が聞こえたでしょ?許可とか言われた?」

「うん、何か加入を許可するとか言われた」

「おめでとう!!今日から同胞だ!!ほら、セリィートルも!!」

「...おめでとう...」

 

何時の間にか、文字の輪は消えて、光る紙も光って無く、ひらひらと横たわって居た。そうして、私とハルィーヴは、セリィートル?と言う人に別れ、草原から、さっきの所まで戻る。

「...さっきの馬人は誰?」

「彼奴はセリィートルって言って、同僚、何時もあんなに怒ってないよ、口調は少し喧嘩口調だけどね。で、此処来る前に居た白毛の馬人はヴロツレスカって奴で、同僚。何だけど、何故か上から目線で話して来る」

「...個性強いね」

「みんな、そうだよ... 何なら、同盟内には、亡国の王族、貴族の末裔も居るし、階級関係無く、色々な馬人《同胞》が居るからね...」

「...加入したら、此処で仕事する?」

「其れは個人の自由だよ、街で商売しても良いし、自衛兵として志願しても良いし、此処で働くのもまた、自由」

「此処って何の仕事するの?」

「...色々と在る。私みたいに、異国の馬人《アトイルサン》と関係を深める為に異国へ渡る仕事も在るし、文化尊重の為に本や祭りで異文化交流をする仕事も在るし、同盟運営の為に資金管理とかも...」

「多様なんだね...」

「まぁ、別に強制はしないよ?自由が一番だし...」

「遊牧民で良い?」

「...良いんじゃない...?」

「何でちょっと、曖昧なの?本当はどう思ってるの...?」

「外交官枠が空いてるから、其処に入って欲しいのが、本音」

「...まぁ、考えとくよ...」

「嬉しい」

「決定してないからね...」

 

そんな話をしていると、さっきの所まで戻って来た。

「改めて見ると違和感しか無いね...」

「何か、何処へでも行けそうな扉だね...」

「なぁ、戻ろう」

「そうだね...」

 

そうして、扉を開けた

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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