ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
あれから、数日経った中、カルパドルア市。
タイプライターの成る音と共に、紅きインクが付いた判子を強く押す音が響く。
「よし、之で認定証は出来たぞ...」
「お疲れ、ハルィーヴ」
「おぅ、セリィートルか...疲れたよ...」
「だから、カロードニキって呼ばれるんじゃないの?其れに今、23時だぞ?」
「何で、其の渾名を知ってるの!?」
「最近、加入した同胞が広めてたぞ」
「ユジノーかぁ...」
「あっ、後ヴロツレスカとか」
「はぁ~また職場が癖強く成りそうだ」
「あぁ...其のユジノーって奴が外交関係職へ志願しようとしてるらしいな」
「...外交関係職は、他の職と違って、休みが多いな分、一つ一つの仕事が長期だから、新規の奴が直ぐに抜けてしまうし...」
「何時まで、耐えるかね」
「...まぁ、別に個性が強くても、もう既に狂った奴しか居ないしな...」
「特にお前とヴロツレスカ」
「お前も大概だろ、申請所が草原の中って如何してああなるんだ?」
「私は力を制限するだけで、草原とかは他の奴らがやってるから分らねぇ」
「ともかく、新規の奴が入るから、任せたよ」
「...はいはい...そう言えば、また旧パシャ派が此方へ来ないか?って誘って来たぞ」
「旧パシャ派か...また、派閥争いでも起きてるの?」
「どうせ予算会議で揉めたんだろ、文化振興派と政党振興派の中に複数の派閥が在るから、良く解らないな」
「同盟内情勢、複雑怪奇」
「外交関係職って、政党か文化と言えば、どっちにつかずの職派だから、何方かに傾倒すると、他の奴らがめんどく成るんだよな...」
「中立的だからね...」
「あーあ、今から入るユジノーって奴も苦労人に成りそうだな...」
「...そう言えば、ユジノーと一緒に居たミュハとイデナは?」
「あの狼の獣半人と翼人か?あいつらは、其のユジノーとは違って、イデナって奴の國に行くらしい、言わば此処で別れるんじゃないか?だから、トルミール港への鉄道の予約とか船の予約をしてるってヴロツレスカが言ってたぞ」
「そう...」
「何か思う所が有るのか?」
「多少ね...」
「そうか.....そろそろ、帰らないとまた怒られるぞ」
「そうだな...」
此の書類は、明日で良いか。
私は革のトランクケースに書類や持ち物を入れ、セリィートルと一緒に外へ出る。
入り口前
「もうこんなに老けて来てるじゃないか、家まで送ってやるよ」
「あぁ、ありがとう...」
路肩の一台の車の中、しわけた煙草の匂いがする。
「シートベルトは着けたか?」
「ああ」
「じゃあ、行くぞ」
渋いエンジン始動と共に、軽快にギアを変え、前進する。
真夜中の道は閑散とそして、車一台も無い、孤独の走行だ。
ギアのガチャガチャ音にエンジンの低く渋い唸りが車内には響いている。
街中を駆ける車の中
「なぁ、ハルィーヴ」
「如何した?」
「明日は休期日だろ?」
「まぁ、そうだけど」
「朝、家に行って良い?」
「何で?」
「お前の家、郊外の所に有るから、人気の無い所が好きな私にはうってつけの場所だし、其れに酒やら何かしらの飯は持ってくるからさ」
「はいはい...」
「ありがとな」
明日は家にセリィートルが家に来ると、覚えておかないとな...
そうこうしながらも、私の家の前に着いた。
「わざわざ、送ってありがとうね」
「別にいいさ、じゃあな」
「ばいばい」
直ぐにセリィートルの乗る車は、すぐさまは遠くへ消えて行った。
家の方へ向く。
(あれ?窓開けてたっけ?)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
目の前には乱雑した多言語の新聞、ロヴァノリヤの通貨ルーヴルからトゥラードの通貨リラへ換金した札束の砦。紙幣も硬貨の価値も低くて、予定よりも多く金が減ったな...まぁ、まだまだ売れる者は有るから良いか。
にしても、何処の出版社の新聞もかなり偏った内容だな。と言うか、革命に刺激された政党やら組織が結成やら活動が活発に成ったから、其の責任をロヴァノリヤの民族にしてやがるな。之だから、権力が零れる者は嫌いなんだよ。
何が極悪非道だ、何が違反者だ。
元を辿れば、階級が上の奴らが鈍った政策が打ち続けたが末に起きた革命なのに、其の責任を耐えきれなくった労働者《プロレタリア》に関係の無いロヴァノリヤの他民族にしている。
こうでもしないと、利益が生れないからだ。新聞と言うのは真実を土と言う民に水撒く者だろう?水では無く、水銀でも流しているのか?
僅かに欠けた硝子の灰皿、新聞の見出しの上に煙草の火を擦り付ける。
反吐の紫煙が出る。そんな利益の為に他者を軽蔑するか、之が大人の世界か、鮮やかな赤煉瓦が暗い朱の粗悪な煉瓦の様な落差だ。
少しは磨きがいの有る鉱石な世の中には出来ない様だ。
お前らも世の中を磨く鑢ぐらいは在るだろ?嘘を真実に、真実を偽りに磨ける鑢が在るだろ?
疲れる物だね、都合って。
もういいや、こっちに戻ろう、何とか乗る船舶の支払い料分と其れとは別の金が用意出来た、次はロヴァノリヤ人と解らせないための国籍の変更だな。あんなロヴァノリヤの自己証明書《パスポート》は、まだ残ってる。此処で一時的な国籍が取りたい。
某日某所
「何?一時的な自己証明書《パスポート》を創りたい?」
「そうだ、二人分だ」
「...其れなりには時間と金が掛かるぞ?」
「其れでも良い、別に今は時間は有るしな...」
「解った、だが先に払ってもらわないとな」
「ほら、之位か?」
分厚い紙幣の束を渡す。
「十分すぎる、之位で良い」
束の半分を残した。
「此のくらいで十分だ、後はお前ともう一人の分の情報が無いと」
「之でどうだ?」
私の自己証明書《パスポート》とイデナのを手渡す。
「...確かにこれなら、行けるな、でも之、お前のじゃない奴もあるが、何で持ってるんだ?」
「頼まれただけだ」
「...そうなのか、じゃあこれで一時的な奴を創っとくよ、国籍と言うより、就職とかの奴になるかもれないけどな」
「どっちでも良い、じゃあ頼んだよ、グゴール」
「あいよ、ミュハ」
後は発行が終わってからにしよう。その間は、何か街を周っていようかな...
酒屋でも本屋でも服屋でも、行こうかな...
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
パパーハを被り、チェルケスカに来て、ズボンも靴も大丈夫。
今日は、仲間達と宴をするんだ。
数日が過ぎて、私も早くも此処に慣れて来た、平穏で楽しい。
郊外の台地の中、其処が同胞達の集結所。皆で食事したり、革命も忘れ、童心へ戻り、愉快に豪快に遊んでいる。ハルィーヴに連れられて、馬人盟でハルィーヴの仕事を補助してる時に、声を掛けられた。騎兵民族《仲間》だった、革命から逃れた仲間達が集まって色々としてるから、君も来ないかって誘われた。
来る時は、仲間って解る様に
「おっ、来た来た」
「ようこそ!!」
「良い服だな!!」
「さっ、始めよう」
「今日は何をする?」
「俺は肉とかグリル持って来たぞ」
「私は、奮発して酒樽二つも買って来たよ」
「俺も肉買って来た」
「じゃあ、今日は皆で肉焼こう!!」
「「「おおー!!」」」
色違いチェルケスカ、パパーハ。其れは各地の同胞達の印、革命には逃れても自由は守られた。戦いに成れば、自由を守るために立ち上がる。負けても勝っても宴会を開く、酒と食事の薫り、談笑の胡椒が馨る。
目の前には、三〇人くらいは居る。私と似た服装の同胞も居れば、弾薬入れぐらいしか共通天が無いほど、服装が違う奴もいる。でも、パパーハは変わらない。
大きなグリル、肉に酒に笑い。
「はい、酒」
「ありがとう」
「此処で少しでも楽しめよ」
「うん」
盃《グラス》に入った酒、周りは話したり、酒飲みながら休んでいる者に肉が焼きあがるのを未だかと待ち侘びる者が居る。
周りを見る、座る場所が無いかとウロチョロと徘徊している。
其の時、一人の同胞に目が入る。美しい芦毛で、何処か彼奴《リューリヤ》に似てる、でも何処か負に降りた顔に見える。
他人だろうが、私は放って置く何て事が出来なかった。
「こんにちは...」
「...どうも」
此方に顔を合わせてくれない。
だが、僅かに何処か寂びた風を感じる、其れが彼女の負の感情の源なのだろう。
「何かしないの?」
「...疲れたんだ...戦った、けど、結局逃げた...私は駄目駄目だ...」
「...」
下に俯きながら、淡々と語る。
「私には、守りたい者が居た、幼少期から一緒に暮らして、困難も二人で乗り越えて来た、けど互いに違う夢を持って別れた...でも、そいつは私の願いを流し、旅へ行ってしまった...本当は、彼女を守りたかった、革命で一緒に逃げたかった...でも...探せなかった...私だけ逃げてしまった...」
私はそっと、彼女の背中を摩る。
「...お疲れ様、”リューリヤ”」
「...!?...ユ、ユジノーなのか?」
彼女が私の顔を見た。
其の瞬間、私は抱き締められた。
「生きてくれて、有難う...」
「...ちょっと、恥ずかしい...」
「....ごめん...」
抱擁が終わると、リューリヤはすっかり元気に成って居た。
其れと僅かに涙の跡が見えた。
「肉焼けたぞー!!」
「肉食べに行こ?」
「...うん、でも、ちょっと手を貸してくれない?」
「...はい」
「ありがと...じゃあ行こうか」
零れて空っぽの盃、まぁ別に後からまた注げばいい。
私とリューリヤは、肉が焼けて皆が集まる所に行く。
「大丈夫?歩きが鈍く見えるけど...」
「まだ、脚が麻痺してるだけだよ」
「そう...」
私とリューリヤは、肉に酒を飲んだ。其れ其れは多量にね...
周りも酔いが周り、笑ってる。
「私ね、まだ此処に来て、少ししか経ってないから、全然生活に成れなくて...」
「私もそうだよ、でも、頼れる人が出来たんだ」
「そうなの?良いなぁ~」
「リューリヤも来たら?多分、助けてくれるよ!!」
「本当にぃ?私も行こうかな?」
そういう、此処での話も交えながらも、昔の話もして、酒で嫌な事を忘れた。
そんなこんなで、私とリューリヤは、私を泊めてくれるハルィーヴさんの家に行った。幸い、ハルィーヴさんの家の近くでやっていた事も有って、直ぐに着いた。
扉が開いてなかったけど、窓が開いていたから、其処から入った。
「ハルィーヴさぁん~」
返事が無い、何処かに出かけたのかなぁ?
...眠たくなっちゃった...
あれ?リューリヤ、其処のソファでもう寝てる...
私も眠くなっちゃった...
そのまま、倒れる様に寝てしまった...
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続