ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
「一回、話を整理しよう。此奴はユジノーの友人で、昨日は酒宴か何かして、開催地が私の家の近くだったから、私の家に来たけど、扉開いてなくて、何故か窓は開いていたから其処から入って、で家の中で寝たと...」
「はい...ごめんなさい...」
「すみません...」
「...今日は此処で寝なさい」
「ありがとうございます...でも...」
「縄を解いてください...」
「...駄目」
「「えっ...?」」
「罰として縛ったままで寝ろ、じゃあ私はもう寝るから」
「えっ、ちょっ、ちょっと待ってください!!」
ガチャ
「あっ...」
「...別で縛られたら、まだ自由なのに、よりにもよって二人で縛られちゃった...」
「...ハルィーヴさんってこういうのが好み...?」
「変な事言わないで」
「...もう、リューリヤちゃんは、まだこう言うのに慣れて無いもんね、大丈夫、私も無い!!」
「駄目じゃん!!...いや、駄目じゃんでも無いんだよ」
「もう準備は出来てるんだね...」
「キモ...」
「...グサッ」
「何だよ此の時間...」
「束縛二人会話兼イチャt...」
「何言ってんの?」
「之がハルィーヴさんの狙いかも知れない...」
「絶対、お前の狙いだろ!!」
「解らないじゃん、本当にそう言う...」
「何でディープな事になるんだよ!!」
......朝まで縛られたまま、酔いも宵も明けた。
「最悪な目覚めだよ、ほんと...下半身が痺れる...」
「やっと起きたね」
「うわ、びっくりした、もう起きていたのか...」
「ずっと寝顔見てましたぁ!!」
「何でこう、キモさを混ぜるの?ツッコミよりも精神の狂気に私引くぞ」
「いいじゃん、いいじゃん」
「良くは無いだよ」
「はいはい」
「で、此の状況は何時終わるんだ?」
「さぁ?目の前にハルィーヴさん居るのに、縄解いてくれないもん」
「えっ?...こわ...」
「そんな事言ったら、ずっと縛ったままにするぞ」
「其れは勘弁して下さい、本当に。此の鹿毛と栗毛のチュウトハンパナナニカとの束縛生活何か嫌だよ!!」
「何て事言うの!?まるで私がやばい奴みたい」
「「実際にそう」」
「何で其処で共鳴するの!?」
「...よし、縄は解いてあげるよ」
「やったー!!人生安泰だ!!」
「そんな訳無い」
......
豪快に大きいパンを豪勢に輪切りに切り、小皿にはジャムや副菜の烏合の衆。
机上に広がるのは料理の巨大な城塞と林に地形を創る神の様に其の城塞と林をスプーンやフォーク、手で整える。
地鳴りの様に咀嚼を鳴らし、果実ジャムの火海をパンで消し、鋭利な白銀色に輝るフォークで抉る、パンの断面地層...うん美味しい...
久しぶりに真面な食事をした気がする...
「どう?家事下手だから、味が変かも知れないけど」
「いや、普通に...」
「「美味しいです!!」」
「其処で合うのか...でも、嬉しいな」
(褒めたら、普通は顔が笑ったりしてる筈なのに、顔が笑ってない...)
(...スプーンやフォークの使い方が独特だなぁ...別に食べ方が汚いとは言えないけど、何でスプーンやフォークを握ると小刻みに震えるんだろう?)
(視線が凄い...こんな鋭利な視線で良くユジノーは食べれるな...飯に目が眩んでいるのか...何か駄目な事でもしちゃった...?行儀悪いかな...)
(何でリューリヤ、食べるのが消極的に成ってるんだ?さっきまで旺盛に食べてたのに?まぁ、いいや、飯飯...)
不穏な時間が濁々と流れている、濁りよりも透明気質な風と時の色だけどね...
食事が終わると、私とユジノーは座らされた。無色風が窓を揺らし、椅子が軋む音、遠くから機械の唸りが聞こえる少し重い雰囲気。
「二人は之から如何するんだ?此処で暮らすのか、将又、革命が終わったら、故郷へ還るのか」
少し重い空気を割る様にハルィーヴさんが声を上げる。
之からの事...私にはまだ考え切れて居ない事...何も将来計画も練らずに軍馬人として職を全うして来た。けど、私はまた戦場と血が見たく無くて、規律が売りの軍職の雰囲気を壊して、意のままに逃げて来た。
迷惑を掛けた者は殺される。其れが騎兵民族《コサック》の掟の一つ、裁判無しに即座に処刑され、遺体放棄される。嘘は駄目な事、命を賭ける者は其れ相当の褒美と罰が譲渡される。子供に憧れ、世間から正義の代名詞を謳われ、心が枯れる。
自分だけで精一杯で戦争さえも置き去りしてしまった。
だから、他人も戦友も見殺しにしてしまった...故郷を火の海にしてしまった...
自分の愚かさと役立たずと言う言葉の弾丸が心を貪って来て、生きると言う意味も儚くも無く消えてしまった。正義が怖くなった...銃を握る手が震え、脚も意志も生存を望んだ、火の海に包まれる街の中、膝から崩れ落ちて、涙さえも焼けて終って、落ち葉の様に広がる命の骸で...
...帰りたくない帰りたくない帰りたくない
死にたくない死にたくない死にたくない
こんな日常は終わりたくない終わりたくない...
私は震える手でテーブルを倒し、ハルィーヴへ掴み掛かる。
椅子を飛ばし、ハルィーヴを床に仰向けに倒し、胸倉を掴む。
「帰りたくない!!死にたくない!!」
自然と涙を流し、彼女の服へ滴っていた。
無我夢中で声を荒げ、胸倉から首筋へ手を伸ばす。
其の時、横から抱かれる様に倒され、今度は私が床に背を向けられた、過呼吸で涙を流す私。
「落ち着いて、息を吸って...大丈夫だから、私が居るから...」
深くギューと抱き締められる。
其処には温かみと安心感が有って、息が穏やかに成って...
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「...とりあえず私の家で暮らしなさい」
「い、いいんですか?」
「ただ、条件は在る」
「条件...」
「私の仕事を手伝いなさい...やり方とか教えはするから安心しなさい」
「...どんな仕事ですか?」
「...簡単に言えば、私の雑用みたいな者、其れなりには苦労するかもしれないが...」
「...」
「まだまだ、君も彼奴も表は癒えていても、まだ戦争の傷は癒えきっては居ない、少なくとも気楽に過ごして欲しいし、彼奴に寄り添いなさい」
「...はい」
「...幸せって何だろうな...」
「はい?」
「何でも無い...」
部屋に戻り、灰皿に灰色の煙草の槍先を擦る。
彼奴の気持ちも解ってしまう、軍馬は正義の象徴だ。警察の様に悪人を捕まえる様な者だ、だから市民からの信頼とプレッシャーが凄いし、軍馬は...精神的に厳しいし、礼儀も懇ろも消える。
其れも正義も悪も解らぬ戦争で同胞も大勢死んだのだろう...
少なくともあの頃の日常は消えてしまったのだろう。
私は駄目駄目だ、酒と煙草に染まって、正義人は欠けて仕舞った。
脱走兵でも戦場と言う過酷な世界を生きて逃げた者だ。目の前で誰かが死ぬ中、心を保ちながら、此処まで来たのだろう、其れは本当に凄い事だ。
だから、此処では血は見えぬ日常にしてやらないとな。
ただでさえ、不条理で塵な世界なんだから、不幸を利益に出来る世界なんだから。
紫煙を吐き、無情な煙を眺める。
(今日は之位で良いか...)
其の時、外から車の音が聞こえる。
恐らくセリィートルだろう、今日は家に来るらしいしな...
少し気分換えて行かなくちゃな、生塵に等しい世の中だと、息さえも腐ってしまうからな...
11時半前、ハルィーヴ邸にセリィートルが到着
「今日は此処で何をするんだ?」
「庭で焼肉をするんだよ」
「別に良いが、其れなりには量は在るのか?」
「存分に乗せて来た、機械はお前の家の倉庫に在るだろ?炭とか酒とか持って来たぞ」
「そうか...とりあえず、庭に荷物を運んできてくれ、ちょっと倉庫から機械取って来る」
「解った」
そう言うと、車の方へ行くセリィートルを横目に私は家の中に入る。
「...ユジノー、リューリヤ」
「...はい...」
「...ユジノー、リューリヤを運んで、こっちに来なさい」
「...何かするんですか?」
「焼肉」
......
雪が僅かに積もる中、広い家庭。
燃える炭と焼け薫る肉やドレッシングが掛かり酸味に近しい匂いを放つサラダ。
大きなテーブルには、酒が注がれたジョッキに取り皿、なんなら灰皿や外套《コート》が被される椅子、除雪用のスコップに薄汚れた木箱に入る炭の群れ。
焼かれ滴る肉の汗が火を荒れさせ、取り皿には僅かに血色の肉汁垂らす焼きあがった肉達、其れをソースやら其の儘食べる。
「さぁ、喰え!!」
掌と腕大きく広げ、其処に魔法陣でも有るかの様に、何かの気配がセリィートルから漂っている。其れが何かも知れないが、何かこう、気を感じる。何かが変わった気がする。
フォークで切られた肉を突き食べるユジノー、涎垂らしながら椅子に凭れ寝付き、ブランケットを羽織るリューリヤ、黒紫色の葡萄酒が注がれた盃片手に煌々と光りに当たり輝る雪粒の星々を眺めながら、緑黄色な串焼きを貪る。
案外、悪い空気感でも無かった。
飲酒運転に成るから飲酒できないセリィートルの前で豪快に酒を注ぎ飲む私や肉を平らげ酒で流し込むユジノー、途中起きて直ぐに食べ始めたリューリヤも食欲をグツグツと沸かして来る、セリィートルは気を紛らわす為に数本も煙草に火を点けていた。
焼け物口にし、ハフボフと咽擬きな暑さを乗り越えて、酒を喉に流し注ぐ。
ただ、談笑と言う物よりかは其れなりには和気藹々と化した雰囲気で在った。
灰皿に灰が盛り築かれる城の如く腹の城内に食が積もった。
意外だったのが、ユジノーとリューリヤは其処まで喰わなかった。
見た目に反して、食欲旺盛とか思いきや、食は細かった。
最初は、陽気に貪って居たのに、直ぐに其の勢いは衰えていた。
酒で誤魔化していた様に見えた、でも多分、少ない食事でずっと走れるんだろう。
所謂低燃費って奴か、私の車は反して悪燃費だな...其れに今は車検中だ。
周りが雪景色に反して、黒寄りの朱毛並みのセリィートルと一緒に残りの肉と酒を飲み干した。まるで大喰らいの化け物にでもなった気分で在った。二人は腹一杯に成ると、家の中へ入って行った、肉焼いてる途中に鼾が聞こえたから寝ているのだろうな...
食後は中身の無い軽やかな会話を交わした後、二人で片付けをして...
「じゃあな、明後日から仕事だぞ、明日もちゃんと休めよ」
「そんな事は解ってるさ」
「じゃあな、カロードニキ」
「其の渾名辞めてくれ」
「もう既にヴロツに気に入られてるぞ、弱みに握られたな(笑)」
「何笑み浮かべてんだよ、最悪だ...」
「じゃあ、私は帰る」
「あぁ...じゃあな」
車が見えなくなるまで、見送った後、私は家の中へ吸われる様に入った。
家のリビングにはだらしなく寝ている二人の姿。離れているのに、尻尾は手繋ぐ様に結ばれている。年齢に反してやってる事は幼子みたいで可愛いな...
「此奴ら、寝てる時”だけ”は無駄に可愛いんだよな...」
そう吐き捨てる様に小言を吹く。
...少し落ち着こう、深く息吸って...
「...之が日常か...」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続