ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか—   作:南部 八十一朗

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永い変わりの夜 XVIII

列車に揺られに揺られ、終点トルミール駅へ着いた。

黎明開けの6時半、列車は着いた。其の頃には私もイデナも起きていた。駅の停車の時間に売店行って、時間潰しに使えそうな遊戯を買って、何日も二人で遊戯をしていた。いや、正確にはどういう奴なのか、どう遊べばいいのかで苦戦しまくった。

 

駅を抜け、眼と鼻の先に港は在った。巨大な金属の聚合体が停まって居た。あれが船と言う物か。こんな早朝からでも、街は賑やかだ、徘徊する老人やら、早朝の散歩が日課の者達の繁華街だった。

 

道の迷宮の耐久戦に苦戦しながらも、何とか船の停留所らしき処、所謂港に着いた。

「何とか着いたな...」

「40分くらいは掛った気がするよ...」

「まぁ、何とか着けたし、後はミズホ行きの船へ乗るだけだ」

「じゃあ、券買わないと...」

「じゃあ行くか...」

 

安心しろよ、此処まで行けたし、地図でも目の前の建物が券を買う場所だ。此処までの時間で僅かに言語を磨いたからな...

 

トルミール港船券販所

駅の乗車券を買う時みたいな雰囲気だった。でも、何か普通にロヴァノ語で通用したし、何か私が馬鹿に感じた。金額も十分で足りたし、出航は明日の夜7時。その間は、此処トルミールで満喫だ。

 

トルミール市内の喫茶店内

「あぁ、何か恥かいた気分」

「何でよ?」

「頑張ってトゥラード語を少しでも話せるように頑張ったのに、普通にロヴァノ語で話されて、努力が無くなちゃった...」

「でも、別に損はしてないじゃん」

「まぁ、そうだから、変な感じだよ」

「まぁ、切り替えて行こう」

「そうだな...」

 

しかし、こんな朝早くからでも店は開いてるんだな。

普通に店員も元気そうに接客してるし、此の街では早朝からの営業が常識なのか?

面白い街だな、治安が凄い。カルパドルアに比べたら、圧倒的に悪い。人間と亜人は互いに決別してるのか、双方で争ってる。

 

之だけでも、此処は真面な街では無い筈だが...

一番は、宗教かな。此処では、宗教が混在して様々な宗教の信仰者同士で聖典燃やしたり、建物壊したりしてたし、券を買う時に序でに配布されてたロヴァノ語版新聞も有ったから読んだけど、此の街では毎日一件は事件は起きると言われる程、治安が悪いらしい...

 

でも、殺人とかは起きないし、事件と言えど、宗教間の争いが一番らしい。

ロヴァノ正教会と違って、トゥラードは違う宗教、違う宗教観だし、勧誘目的で絡まれると面倒。そいつ等の聖典《コーラン》を破いて、火事で燃え上がる宗教建築に放り込んだ、2回ぐらい...

 

不味い、コーランって言ったら、描写事修正されてしまう...

お前らの世界の言葉を使ったら、露呈してしまうな。でももしかしたら、反対派か別の信仰者かもしれないし、大丈夫か。怒られたら、亦燃やせば良いか...

 

特に思う当たる程の事も無く、夜まで時間潰した。

淡い暖色の雨の夜景、電光が凄まじい鉄の大船が目の前に佇んで居る。

気温は、10もを越えず、雪も揺らない絶妙な気温の中、大きな階段が船の中へ続いている。

 

コツコツと金属音が響きながら、乗客の群れは船内へ入っていく。

私らも其の中の者だ。広い船内、其れは絢爛豪華な宿や食事の様に煌びやかで、恍惚とした可憐さが在る装飾品が舞うとでも称した方が良いだろうか。正直、私には反射した白光が煩わしいと感じるし、其れでキャッキャッと喜ぶ甲高い餓鬼の声が五月蠅く感じる。

 

其れに、何か嫌な違和感...予感がする...

臭い香水の叢雲の中に、別の臭い、毒々しい何かを感じる。怪しいし、まるで瘴気の様に何処か危険な雰囲気を感じる。まさに事件の黎明前で、此の船上で何かが起きるかも知れない...

 

ただ、私の鼻が枯れて居るだけかも知れないけどな、亜人か人間かは知らないが、普通には稀有な匂いがする。香ばしいとか鼻を突くとか、細かく砕けるかは解らないが、私にとっては面白さが増すだけに事さ...

 

船券に記された部屋番号へ参る。繫華街な大通り風の扉が連続に立ち並ぶ廊下、立派な照明で明るい筈なのに、何処か変な空気が漂っている様に感じる。他の乗客も少ないのも相まって、其れなりには何か言葉では表せない独特な静寂感が感じれる。

「此処か...」

「早速入ろう」

 

鍵穴も無い扉、押せばそのまま開いた、何かしらの犯罪に巻き込まれそうだ。

部屋は既に照明が点いており、確かに二人なら十分に行ける程の広さは在る部屋。

勿論、何かの模様が彫られた机上には灰皿が聳えている。

「中々、良い部屋じゃない?」

「まぁ、そうだな」

 

机周辺に佇む、独りソファの上に荷物を置き、伸び伸びと腕を伸ばす。

「之から、数か月は船上で暮らすのか...」

「...十分に楽しめるのかなぁ」

「もう、煙草吸ってる...」

 

船内の食堂...

白いテーブルクロスの上、銀色の蝋燭台に刺さり火輝る鮮やかな猩々色の蝋燭が燈る。淡い白色の皿の上、断面は紅い焼けた肉と緑黄色野菜の耀き、其れに硝子の盃には葡萄酒の濁り光。少し橙色の照明が照らす中、食堂の中央で何処かの民族衣装を来た物達が楽器を弾いている。

 

円状に並ぶテーブルで、私らは端の所を座って居る。

「凄く騒がしいね...」

「酒場みたいだな...」

 

馬鹿騒ぎする乗客、酒が注がれた盃をカランと鳴らし響かせ、談笑している。

乗客の中には、豪華な服装の者も居れば、少し見窄らしい雰囲気が漂っている者も居る。男女関係無く、酒杯を交わし、長い葉巻吹かしてる奴や隆々と料理を机上へ築く者も居る、まさに祭の様だ。

 

カンカンとナイフとフォークが皿に当たる音を奏でながらも、未だ少し切れて居ない赤さを残す焼肉をギコギコ切り、ドレッシングが掛けられた緑黄色野菜の林をフォークを突き刺す、陽の様に。

 

しっかし、さっきから、謎の匂いがする。乗る時の匂いがまた漂って居る、誰かの体臭なのか?其れともまた別の何か?何だろうな...

 

だが、無心に肉と野菜を交互に喰らう。他者から見れば、無心で空虚な瞳で、皿をずっと見ながら、口と両手、両腕だけが動いているだけの状態かも知れない。けれども、イデナもそんな感じ。こう言う大勢の所は慣れているが、こうも高級と言って良いのかは判らないけど、食料を無視して、仕来りの戦場は、私には似合わないね。

 

だって、周辺の物は量では無くて、上品さの香水を醸し出してる。表は喜んでいる様に見えるけど、眼は笑みの光は消えてるし、本当の楽しさでは無く、上と言う物共の使命なのだろう。上品さや礼儀が成って居ないと名誉や権利でも剝奪去れるのだろうか?私には、そんな者、元から無いから、大丈夫だな。

 

勿論、葉巻を吸っている奴も、一見すればただの喫煙者の様に思えるが、眼は笑って居ない。見窄らしい雰囲気の輩も其の瞳は光を失い、六等以下へ落ちぶれる星の様だ。つまり、此処の食堂は、偽りの娯楽の華が薫る何かだ。

 

名誉、権利、威信、財力、欲と称しても違和感は無い物達の毒々しい花の蜜の淡い馨り、家無し地位無し権利無しの私には異質な空間だ。目の前に在る食事を美味しく食べようとして居ない。食に使われた命は上流階級にとって、自らの尊厳の為に繰り出させる当たり前に過ぎないのか?

 

音楽で本来の楽しいと言う物が首の皮一枚の状態で成立している。

さっきから、謎の匂いはするし、楽しいと言う名前をした偽物の雰囲気は此の食堂全体を包み込む。金の匂いがする芳香剤が醸し出した尊厳の戦争が大いに感じられる最悪の空間さ。もう、之は一種の監獄と称しても相応しい程に終わって居る空気感だ。

 

何か笑い声もあくまで表上は楽しいと表現しているけど、裏側は相手に愉快な人物と印象付ける事で財力的な関係を維持するために媚び諂っている様だ。此処はやっぱり、監獄、囚人と看守が舐め腐った監獄。金属の塊が数か月の時を駆けて、向こうまで行って釈放してくれない限り、疑似囚人生活は続く、最悪だ。まさに縮図にされたロヴァノリヤの上級階級の社会の様だ。贅の異臭がする。

 

とっと、飯食って別の所へ行きたい。そう思うと、怱々と肉野菜関係無く、口に駆け込ます。黄金に輝く地底湖の胃袋、鍾乳洞に浮島に化した消化完了前の骸達が歓迎してくれるよ。もし、私に喰われたら挨拶しとけ、先駆者達だぞ。

 

14月28日午後7時トルミール港~播津大輪田港行き出航

トゥラード船籍クザロクイワ号

出航トルミール港~第一経由バリガルール港~第二経由大鵬南港~播津大輪田港

約6~7カ月の航海予定、言わば長期的な海上の生活。

 

其れにしても、何とも、気味悪いんだ。監獄の食堂、偏頭痛の種が播種する前に芽生えてしまった。鮮血が滴る皿の上、紙屑の様な野菜と肉の粉、偽りの笑みと笑いを散り撒く、他者の表情、愛想笑いが酷い。歪に広がる不協和音と嗄れた掠れる金属が奏でるオルゴール。砂を漁る様な豪雨の音、連続に鳴る誰かの笑い声、鼻を刺す金の異臭、権利の鎖の掠れ、紙幣の林、金属の湖、肉肉しい生命と夥しい程の都合の馨り、錬成された欲の薫り。

 

子供の甲高い声も大人の低い笑いもどれも之も醜い。口から放たれる言葉の火薬の一粒一粒に起爆性よりも精神の深部を抉る長身の刃物だ。金に縛られた表情、本来の笑みなど、遠の昔に売り、産み堕ちた其の子達に、金の情しか解らぬ。金で正義は買える、人権は買える、土地利権は買える、他者の安々の人生は買える、国民を愛すると称する政治家も国も買える、愛も家族も買える。

 

歯切れ悪い呪文物を持つ戦列歩兵、構える銃は都合式の言葉の弾を出す、気味悪い口。多感で肌荒れ酷く、整備もされて居ない、能無しの口の銃。

塹壕に隠れる者は批判され、過度に撃つと潰れてしまう。

 

銀盃に盛られた葡萄酒の海、溺れる権力者、助け舟は沈み、銀の岸に座るは平民に農民に商人、嘲笑うかの様に荒波の聲で笑う。大きな大陸の地図、あらゆる国の民族の土地が描かれている、其処にナイフを刺す、城や人の置物を置く、盤上の遊戯。

笑う福は金で雇われ、不幸は解雇され、貧困に雇われる。

 

口を開け、涎が垂れる。

尖った血塗の槍、弱弱しい碧い掌、汚れた革靴に踏まれる真実、鳴り響く偽自由の雄叫び、無視する民衆、目元は暗く化粧を被っている。金が雲ならば、我々は塵のまた塵だ。本当に楽しいと思えるものは此処には無い。

 

頭を二分にする様な激しい痛み、片目を閉じてしまう。だって、眼に映るのは金や利権、利益に乗っ取られた物達の悍ましい魔力擬きが瘴気と病気の様に体内に入ろうとして来るからだ。

 

空の皿、其れは私もイデナもそうだ。

「...大丈夫?」

「すまん、ちょっと外行って、空気吸って来る、自由にしてて」

「あぁ...」

 

不味い、非常に。

こんな薄汚い擾乱の毒沼は反吐が出る。

外へ出ると、荒い呼吸を整える、船の揺れでは無く、変な者に爛れて仕舞った...

直ぐに煙草を吸い始める。あの時、私の指の一本一本、血脈が騒々しく唸って居た。

煙草の煙が体内に入ると、偏頭痛の胡桃は割れ沈み、吐いた紫煙は黒煙だった。

「くそが...ふざけんなよ...」

 

右腕、碧い動脈が浮き彫りに成って居る。裏方に主導権奪われた!!

左手でめきめきと抑え、袖から僅かに露出する毛深い体毛を横目に、力一杯に抑え込む、何の前触れも無く争奪しやがって、乱期には生りたくないのだ。

「愚図が...」

 

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