ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
巨大な狼に麗しい翼の禽 Ⅰ
荒ぶる煙草の煙の排出。
蜿蜒と昇る紫煙は、突如として矢の様に主導権が奪取された腕に突き刺さる。
痛くは無い、ただ...不思議な光景だ。あれ程、荒波の様に毛羽立っていた血脈が一気に沈み込んで行く。あっと言う間に右腕は使用可能に戻った。ちょっと汗搔いたな...
頭の中は不可思議な第二世界が構築されかけてたよ。気味悪い創造物が、産声を上げていた。とっと、始末出来て良かった。ただ、また席に戻るのも勘弁したい事だ。あんな有る意味、貧困と言って良い場所で食事はしたく無い。塵の幼少期が復古して来そうだよ、当分の間はあそこで食事をする羽目に成るから慣れも必要だが、其れが躾では無く拷問の様だ。
金の腐臭を巻く物と一緒に食事したく無い。
謎の匂いも難なのか解らないし、曖昧な事が多いな...
新しく白い山岳の下に騎兵が描かれた煙草紙箱から一本煙草を取り出す。
之も何時も吸ってる煙草と同じで白一色の煙草。煙さえ出れば、何でも良い。
手際よく、煙草に火を点ける。
何時も通り、物静かに煙草を吸う、弱い息で吸わないと本来の味は感じれない。
と言うか、そう言う煙草なんだよ。弱い力ですっと吸うのが、一番だな。
僅かに傾くウシャンカ。戻さず吸う半血ロヴァノヤンカ。
誰も皆、食堂に居るようで、甲板上には誰の煙も無い。
静かに中り揺れる水飛沫と鈍い音、蜾蠃乙女や纏足の様な不気味さを感じる。
グロロと肺に周る煙の乞え、ジリジリと削れる煙草。
煙が少々と吹き出る中、船の先端の方の甲板盤上へ赴く。
銜えたまま、両腕を伸ばす。先端近く、船の方を向く。
其れと同時に何時も使っているナガンと打って変わり、ノヴォークを取り出す。
満6発装填完了、何時でも発砲は可能だ。
謎の匂い、其れは魔物と言う者だ。
お前らが想う魔物通り、所謂人型の何かか罪を犯した大罪人か、人外か...
魔物は人間でも有る。
そう言う幻覚を操る魔法を使ってるだけかもしれないがね...
目の前には、人間の皮と血を装った人間擬きが佇んで居る。ただ、残念な事に気配と言う天然の香水が溶けて、本来の体臭が溢れている。人喰った時の特有の生臭い匂いが漂って居る。此奴が同胞?そんな訳が無かろう?私も人や同胞は喰うが、売るだけだから大丈夫、永眠させるけどね。
左手にノヴォークを移すと、右手を外套《コート》から入る筈の無い程の長さの両手剣を取り出す。ただ、此の両手剣は私にとっては片手剣しか過ぎない。丁寧丁寧に色んな雑血で浸し研いで澄んだ此の鉛色の大剣。偽クォデネンツだ。
鉛色の大剣、欠けたガード、ただ無駄に光沢が響いている。
煙が漏れる老衰目前の煙草を銜えたまま、左に銃で右の大剣を持ったまま、目の前に居る人間擬きを眺める。一度の瞬きが済むと、宣戦布告の瞬きに成った。
人間擬きが早い速度で、突進攻撃をして来た。叢雲の隙間から溢れ出る月光が人擬きを照らし、光る爪の様な刃物を私に近づけようとする。
「遅いし、弱いね」
専制攻撃は私の好物。口から溢れる煙が人擬きに刺さる。煙は煙の振りをした剣で有った。左右の手に握られた武器で攻撃するとでも思ったか?剣は勢い良く、擬きの腹部に完全に刺さった。
甲板に滴る腹部原産の血。擬きはそのまま仰向けに斃れ、更に血が溢れ、か細い猥らな声を漏らす...痛みの声と言ってもいいだろう。
私は何時も通り、相手の状態を見る。
...此奴、人間に擬態した魔物の女か...
鋭く短剣の様な爪...切り味は悪そうだな。
魔物っていうのはね、言わば罪人何だよ、食人したり、殺したり、其の癖、魔法を使うし、厄介だけど、今回は楽々だったなぁ...
「...して...」
「あ?」
「許...して...」
「...は?」
「ご...めん...な..さい...」
「...」
私は面倒だから、そのまま煙にして取り込んだ。
血が色々な臓器に既に回ったのか、濁った唸りの様な声で、私に命乞いをしてくると言う意味の解らない事をしてくる。
もう売れるような状態では無いので、近日には黄金の地底湖で処理する予定だ。
こうやって、命乞いしてくる奴らって、腹が立つんだよね。
ついつい、気が昂ってしまったが、何とか落ち着いた。甲板に滴る血池もちゃんと取り込んだよ。完全隠蔽完了、お前らは見えても危害は加えれないし、ただ私の作業見ただけ。
「もう部屋に戻ろうか...」
銃を袖口に入れて取り込み、剣は外套《コート》の中に入れて、そのまま、私の體の中に仕舞い込む。何時の間にか老衰した煙草も掌で握り潰し、掌から消えた。
「...もう、之でも匂いは消えないのか?未だ、此の船内には此奴みたいな奴が居るのか?」
目の前で殺した奴と似た別の匂い、之は化け物の体臭と思って良いのだろうか...?
ただ、私はもう疲れた、食事も残して居ないし、此の儘、部屋に戻っても別に良いのだろう。
亦、要らない刺激が来る。
年単位で、休みと言う物が欲しいな、本当に。
ただ、之は序章では無い、之が。此の物語が誰かの手に渡り、翻訳され、あらゆる人に知れ渡るのならば、之は単なる紀行書でも無い。
此処に書かされて居る文は全て本当の意味では無い。
原語本来の意味の薫りがしない、他国の言葉の知らない異国の者達の為に、翻訳家達が原文の風味と同時に翻訳家自身の好みの味付けやトッピングをする。其れが良い味にするか粗悪品するかは其の言語による。
しかし、此の物語に主人公と言う物は無いんだ。真の主人公は人間や亜人、自然、出来事、全てなのだ。だが、そんな曖昧な物だと、誰にも其の意味を知って貰う事は難しいし、知らない国の日常や自分に被害の無い歴史など興味は湧かないし、直ぐに忘れるのだろう。
だから、目線を書かれた。異なる地位、文化、生い立ち、人生、其々に違う風景が視れる。同じ景色でも何かが少しでも違えば、其れは天国にも地獄にも成り得る。
此の物語をノンフィクションと断言できる訳では無い。理由は、此の世界を嘘とも真実とも言えないからだ。君たちが此の世界を異世界と言う様に私は君たちの世界を異世界と言える。似た所在れば、違う所も有る。
急なお前らから君達なんて、上品さが零れる言い方に驚いたか?
まぁ、そんな事はどうでも良い。
私がお前らの世界を認知しているのは、此の物語を忠実にそして、本当の世界を見せたいのだ。
此の物語は、お前らの世界の人物に翻訳されて、話が展開されている。
しかし、其の一文字一文字に本当の意味が込められていると言う確固たる証拠は無いのだ。この世界もお前らの世界も人生安泰に生ける程、甘い世界では無いし、異世界だからと言って、自分達は楽な生活を送って居るなんて事は現地では単なる妄想だ。
此の物語にカタルシスと言う語る質は無いのだ。
現実逃避か知らないが、彼方も此方も辛い事の連続だ。
だが、だからと言って避けるのは勘弁して欲しい、其れは真実を知って落胆するし、私も困る、其れにこんなに長々と語ると、また翻訳家達に意味の解らない自己都合だけの抄訳をされてしまう。だから、之だけは言いたい。
私もお前らも本当の真実じゃない、全てが真実と称された偽物の殻を被って居るんだ、だから...自分の手で朽ちる前に、真の景色を視てくれ。
干渉の頻度は減ってしまうのだろう。
全ては其の目に映る歴史なのだ。此の物語はヴォイニッチの亜種だ。
すまないが、此処までだ。
こんな私の一方的な持論を読んでくれてありがとうな、じゃあ、また。
魔物と思わしき匂いが燈る中、食堂の賑わいとは裏腹に静寂一色の風音が聞こえる。
其れは怪しい空気では無いが、其れは冬の一景色の類似していた。閑散とした雪原の絵の一種の様に色の寂しさが視える様に、目の前は人気と言う陽光が無い夜の冬の様だった。
此の現象に怖さ等と言う感情は湧かない、之はただの日常の一つに過ぎない。
扉の林廊下、赤い絨毯床が誘う仕掛けの無い迷宮の道、部屋の扉を当てるだけの遊戯。でも、部屋番号在るから成立はして居ない。
じゃあ、意味の無い退屈な遊戯擬きだ、何を考えていたのだろう。
深い藍色の海を渡る一隻の船。複数の煙突から猛々と黒煙を吐き、何も無い海の道を渡る、未だ後方にはトルミールの街光りが薄らに光っている。
其れは此処から助けられる確率の低下で在り、より深く、より広く、怪奇と猟奇の匂いが船内の檻に拡がる。綺麗な紳士服やドレスを身に纏った、生命体達の笑い声。裏の顔を厚化粧で隠し、顔の深い法令線を笑い皺と騙し、震えて間違えた礼儀作法を犯した者を圧かましい不気味な瞳の照準で捉えて、視線の砲撃を行う。
此の船に乗る客達は表で踊って居る。其れはボード遊戯の盤上の様で乗る駒の一つ一つに名前や種族が刻まれている。王や女王も居なければ、騎士や兵隊も居ない。其の駒に宿された役職は皆、人としか解らない。
ただ、其の中に本当に生命体か解らない奴も居る。食人をする奴で居るかもしれない。上級階級の皮を被った偽物かも知れない。ただ、此処で起こりゆる事は悲惨な事かもしれない、しかし、一つ言える事ならば、平和と言う物は一時的な優雅に過ぎない事だ。
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続