ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
淡い照明が薄ら笑いする部屋。
丸く分厚い硝子を眺める、其処には暗く淼漫な海と其の黒い鏡に映る闌干な月。私は憖で淡い明るさの部屋の照明の中、何時もの様に煙草を吸う。鼕々に
開豁な華の様に開く硝子の灰皿、乱雑に煙草の灰と荒い溜息と紫煙を吐き巻く。熟思うが、大人数な食事や雰囲気の所で何かをするよりも、少人数の方が合って居る気がするんだ。食事中も囂々と穢い食べ方を芸と披露するし、其れに齷齪と食べてて、食料一粒一粒を落としているし、汚醜。
之が異文化?其れとも階級別の常識?あれが上品さなの?腕も手も怠けて、料理が冷めて、本来の味が堪能できないだろうが、和気藹々と有る意味猛けてて、腹立たしい。
其れにしても、ミュハは何時帰るんだろう?急に顔悪くして、何処かへ行ってしまった。其れに何と無く感じたけど、何か嫌な予感がするんだ。其れでも、ミュハなら...と思ってしまう。だって、ミュハは嬉々した何かと悍ましい何かが宿っている様に感じるんだ。笑みを浮かべて私に向ける時、其れが本当に友好なのか解らないんだ。
何だろう、ミュハのあの黒と茶色の独特な瞳。底なし沼的な怖さと微笑ましさが両立しているんだ。仲間と思っても、本当に?みたいな疑問と敵に回したら駄目な風格を感じるんだ。でも、私はミュハは戻って来ると思う。
其れに私もちょっと気分悪い...もしかして船酔い?其れなら最悪だ...
「...綺麗だな...」
丸い厚い硝子の外、月光に照らされた黒い海だけの風景。でも、何処か落ち着く。
月光の光に憚れ乍ら、其の光を融かす様に黒い波が流れている。軈て慣れるかも知れないけど、娯楽が無いんだよね。
ミュハが何処かへ行った後、心配と言う言い訳をしながら、捜索の名目で船内を周った。船内は本当に絢爛豪華で目に寄り添ってくれない装飾品ばかりでした。何か娯楽施設みたいには在った。圖書に何か遊戯の施設が数件と在ったけど...圖書ぐらいしか娯楽は無い。数か月も過ごせるかな...?
いや、其の圕に収まる書籍達は読める字なら良いのだがな...
そんな事考えながらも、煙草一本吸い切り、硝子の灰皿に落とす。
硝子の上に藹々と灰に成る煙草を横目にずっと窓の外に映る黒いと月の海を眺める。中途半端で蕞爾な月盈、向こうも此方も蕭寥だし、何か色んな言葉が鑿々と出て来る。
暇だから、手紙を書こうかな。
最近は忙しくて書けて居なかったし、もしかしたら向こうからの手紙も貰ったのに読んで居ない可能性だって有る。
外套《コート》の内側の嚢《ポケット》、何時からか何時も其処に手紙が挟まって居る。手を入れるとカサカサと紙の皺波の音が聞こえる。慎重に其の紙を外へ出す。現れたのは向こうからの手紙で良く使われる枯草色の紙だ。
私は其の手紙を大きく広げて、書かれた内容を読み取る。段落毎に穆々とした言葉遣いで書かれた物も在れば、何処か柔らかい口調的な文字の形をしてたり、婉然とした筆遣いの文字も書かれて居る。内容は、最近書いて無かったから、心配されて居るのとぐらい...
持って居たペンで、紙の下部の方に返信をする。
少し前よりも綺麗に整った文字の形、其れに向こうへ向かっている事を書いた。
之で良いかな、そう思って直ぐに伝聞紙送で送り返す。掌に乗った手紙は煌々と耀き、瞬く間に向こうへ消えて行った。
「"何時でも待って居る"か...」
其の時、扉が開く音が聞こえ、私は扉の方を振り向く。ミュハが帰って来たのだ。
「おかえり、大丈夫?」
「ちょっと疲れた」
「そう...」
白いベッドの海に飛び込むミュハ。
私は相変わらず、椅子に座って居るが、窓に映る風景を視ずに、ミュハの方に顔を向ける。
「大丈夫?顔色悪かったし...」
「何か変な事考えてて、気持ち悪く成って居ただけだよ」
「そうだったんだ」
「...やっぱり、人気の少ない所が丁度良いなぁ」
そう愚痴をポタポタと零すミュハ、白いベッドの上で片腕を顔の上に乗せて両目を隠している。疲れたと言う風が私の方にも吹いて来るし、部屋に漂う薫りが一気に何処か暗く重怠い様な者に傾倒する黒い匂いがする。
歪んだ蓄音機の様な不気味な空気感、服の布さえも貫いて感じさせる静寂の矢。足汲みながら、片手の指爪がズボンのベルトの金属部品を当てて、甲高い声を垂らす。突く以外の動作は蠢々としている。
「もう、私は寝る、おやすみ」
「そう...おやすみ」
ベッド付近の照明を消すと、直ぐに眠りの息吹が聞こえ始める。
「...寝るの早いな...」
そう小言を口から漏らしながらも、部屋の照明を全部消し、さっき迄座って居た椅子に再度座る。丸い窓から淡い紺色と白い光が照らし出ている、其の光が当たる場所に硝子の灰皿に煙草の箱、
箱から一本取り出しては慣れた染まった手つきで寂寞な窓の外から空気を吸い込みながら、煙草に火を点ける。そっと銀色の
何時もの味、何時もの煙、何時もの灰。
ふと窓の外側を視れば、さっきとは変わって燦爛な鮮彩の星々が曠茫な空海に散乱している。でも、音も発さずに静かに空海を蠢いている。でも明るさだけなら、喧騒を感じるし、支離滅裂な音楽にも聞こえる。
白い吐息とは違う灰色の吐息が窓前を通る。靴底が床を擦り、紙を撫でる様な音が鳴り、赤と青の根が淡く浮き出る手の甲、燦と言う耀さも満ちない其の瞳に映るる景色は本当に綺麗。
手の甲を回して、掌を大きく葉の様に広げる。有象無象に拡がる手相地図。3本の大きな線は大河で、細かい線は道の様だ。
(白い部分と紅い部分は高低差で碧い所は...)
そんな事を想像しながら煙草を吸い上げて灰皿に沈み込ませる。
既に私も眠りの波が押し寄せている。僅かに低く軋む床を渡り、夜も私も沈んだ。
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船内には確実に妖しい奴が居る。其れは確かな事だ。
しかし、奴らは賢いんだ。面倒事を興したくない権力者の様に静かにそして蕭々と言う物を纏いながら、他者を殺す。誰が常人で誰が異常者だなんて解る筈が無い。病の様に刻々と恐れが進行していくのだろう。
此の船に乗る者達の出自は多彩だ。所謂上級階級みたいな奴に中流階級も居ると思うし、其処まで稼いでいない奴だって居る。其れは日々の生活から滲み出る行動で解る事だ。死ぬ者が誰からだろうか。
魔物にとって権力に階級何ぞ、ただの香辛料みたいな味付けに過ぎない。其れに此の時代の魔物と言う存在は曖昧だ。混種に溢れ、先代の様な残虐非道な者等、少数な数に陥っているかもしれない。もう彼らは神話などに絶滅したエルフやオークに本筋のドワーフ等の様に完全なる血筋の魔物や魔人はもう居ないのかも知れない、其れか過去の遺産と称され、言葉の樹の一つ葉に成ったのかもしれない。
しかし、私は此の世界を統べる神じゃない、ただの一つの生命。之はあくまで、私の仮説に過ぎない。其れ位、大衆は曖昧に生った気がするんだ。
夜明けの黎明が来た。老いた者みたいに今日は早く起きて仕舞った。
未だ薄く淡い朝陽の光が窓から照り出ている。薄ら笑いな床の声を静めながら、服を変える。毛皮の大外套に付いて汚れを手で叩いて、襯衣《シャツ》やら外套《コート》を変える。
別に脱がずに服を煙にして、別の服に変えれる事に最近気付いた。って事で脱がずに服を煙にして、別の服に着替えた?いや、変えたの方が合っているか...
二つ目の毛皮の大外套に全身黒い外套やらズボン。革靴の中にズボンの裾を入れている。其れだけは何時もの事の服装。
丸い窓から見える淡い碧の海と暖色の陽色。今日から向こうへ着くまで、船の中での生活か。偶に鈍く上下左右に搖れたりするけれど、別にそんな大した事では無いなと思う。
絶対ロヴァノよりも快適な朝だ。そう感覚が豪語して居るんだ。靂々とそう気に痺れを感じる。今日は何が待ち受けているのだろうか、其れは未来の事だから解らないけど、何かこう爽やかと評するには重い朝の匂いが華を飾る。
其の華の飾りはどうやら毒性だった様で、表側はただの船客達の船上生活。しかし、もう犠牲者は居る。判る、此の匂い。血特有の甘い果物の様で酒の様に何処か穀物か果実を握りつぶしたかの様な少しの禍々しさの味、匂いが漂って居る。
十人十色と言う言葉が在る様に血の匂いも多種多様だ。船内には既に三つ位の血の匂いがする。単に怪我して出血したと言う可能性も否めないが、そうとは断言できない程、濃い血の匂いがする。閉ざされた扉の隙間を縫って通して私に届いて来る。
どうやら、此の数か月も塵の予感しか無い様だな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続