ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
船の上にも生活も慣れ染め始めた3月初旬。
果て亡き此の大海原に一時的な終止符を打つかの如く、泰西や泰東では表せ無い、未知の世界で在る、東奥への第一歩では無いが、東奥の空気や未だ解らない雰囲気が鼻や肌を擦る。感じた事の無い違和感な空気感、燦々にして僅かに芳しい。
時刻13の標を針が越え、同時に船は東奥初めての港、バリガルールに到着した。
外も中も暑苦しいと言うか空気は重く感じるし、何もかも初体験と言う言葉が一番輝く程に似合って居た。しかし、其れが最悪な言葉の一つでも在り、白襯衣の袖を捲り、濁り銀色な体毛が完全に露見して居た。毛深いのも相まって暑さが密集しており、ゴワゴワと嫌な違和感ばかりで少し苛立ちが開花し掛ける様な状態で在った。
剃っても生えるのは早いし、冬場は防寒としての役目も在る為に下手に剃ったら、冬はより寒く感じて仕舞う。美容よりも本来の生物的機能の方が生活には便利なのだが...やはり、悩みの種と言う物は必ずしも播種されて仕舞うのだ。
気を紛らわす様に煙草や酒を豪雨を浴びる様に溢れ飲む時間が酒瓶に残る酒の量の様に刻々と減り過ぎる。バリガルール港、窓から見た景色は異文化と言う三漢字がお似合いだった。
緑色の海の先、凄く陽が濃密な花蜜の様に甘く融ける様に鋭い日差しの矢を放ち、港や遠くに見える街、増しては僅かに見える者達は、私達の様にスーツも着ず、恐らく彼、彼女らの民族、國の伝統的な衣装を着て居る。色取り取りで太陽や濃い果実の色をした暖色系の服が多くて、顔が濃い様に見える。別に穢いとかそういう事では無い、凄く面白いと思う。此の世界の広さを今一度実感した。
しかし、向こう側に立つ者達は、全員笑みを浮かべては居なかった。
或る者は過度な労働でもしたのか、疲労困憊の四字熟語が顔も体にも蔓延り、在る者は子供なのに、其処等の大人の様に仕事をして居る、正確には仕事をして居る様に見えると言った方が解り易いか...
人間が私ら、亜人を軽蔑したり差別する様に同じ人間同士でもこんなに差別や格差が深い根を張って居るのか。其れも泰西の奴等が此の地に棲む民族達を虐げている。之は所謂奴隷と言う奴なのだろうか...
腕に汗が滴り、額からも頭の外出血の様にタラタラと汗の血が流れる、タオルで拭きながらも、虎視眈々な興味と好奇心で研ぎ澄まされた、此の瞳は向こう側の情景を深く見詰めて居る。
幼少期の私に見える、向こう側の風景。幼い人間の子供が大人同然に扱われ、未熟と言う言葉を殺す様に平気で仕事態度への暴行や子供の悲しむ表情を肴にして居る。其の薄汚い吐瀉物みたいな拳で子供に圧力を加えて居る。しかし、其の大人としての果実も紳士の欠片も無い大人に一人の老人が出て来る。
見た目は誠実そうで立派な白い長髭を生やした老人で子供を見る限り、大人に詰め寄り、平手打ちからの怒鳴る様な仕草を見せる。しかし、大人は反撃はせずに老人に頭を下げ、大人げ無く逃げた。老人は現地の子供を見ると、少し哀愁漂う様な馨りの仕草放ちながら、子供にお金や食べ物を上げて居た。
あれが紳士と言う物なのだろうか。
見た目や外観はどうでも良い、他者を救う者はそんな世間や大衆の目の前に現れる、英雄や勇者と言う者では無いと思う。此の世界には、正義も悪も有象無象な星夜の様に光り、此の緑碧の海の様に果て亡き様に数知らずに広がって居るのかも知らない。
「ミュハ」
「んっ?..如何した?」
「大丈夫?凄く汗が掻いてるけど、水飲まないと倒れるよ」
「あぁ、すまんすまん、少しボーとしてた、水入れてくれ無い?」
「はいはい...」
部屋の窓は全開だ。
しかし、温風も涼風の一粒も入ってくれ無い。其れ所か要らない暑さの温もりの沼手が窓からドロドロと入って来る様に感じる。其れに汗の仙水が艶め滴る、厭らしい気持ち悪さが露見して居る。
注がれた水の盃を一気に飲み干す。冷え冷えとした柔らかい液体の感覚が舌を通じ、冷気が細かい血脈を巡り頭の中で動乱を起し、液体は喉を通り、下半身の方へ降りて行った。頭から変な金切り声の様な冷気の哭が聴こえる。
暑さを萎むのに夕焼けの時間まで耐えなければ生けなかった。
私は其処までの馬鹿では無い、朝方から酒で入り浸る様な飲酒の中毒者では在るが、こんな暑い時に酒なんか飲んだら体温が限界突破するだろう。飲めるのは
聞いた事も無い、未知な伝統音楽みたいな不思議な音楽が流れて居る。
窓の先は暗く成り、暖色光の花畠が広がって居た。其れも海の様に地平線まで果てし亡くバサバサと橙色の燈の柑橘みたいな丸い光の地上星の星夜平原が広がって居た。
「此の謎の音楽は何?」
「解らないけど、向こう側の岸から聞こえるよ」
「何か祭りみたいなの開て居るんじゃない?」
「にしても、凄く独特な音楽だな、何かこう、低い唸りのを引き延ばしたかの様な音は何だろうな?」
「確かに何か低い不気味だけど不思議な音が聞こえる」
「何か弦楽器みたいな弦とかが独特な感じだからこう言う摩訶不思議な唸りみたいな音が出るんじゃないか?」
「本当に異文化と言う言葉が完璧に似合う所に足を踏み入れたって訳だな」
「海だから踏めないけどな」
「甲板なんでしょ」
「気取ってるだけか」
「何でそんな曲解するんだ?」
そんな少し馬鹿げた会話を弾ませれば、夏夜と変わら無い。冬は踵翻し、月日と言う恋にして分断の壁の前に立ち竦む様に双方は変わってしまったか。朱幕も青幕も閉幕し、黒幕の夜の演劇が始まった。刺激的な星々の誘い、青白の光が天幕空を色付けて窓の奥に見ゆる街の方からは独特な弦楽器の様な演奏が聴こえる。
媚びり付く低い間延びした呻きな其の楽器の様な音が耳に響く。
刺激臭を嗅覚で感じる様に耳の深部まで其の音色は刻々と広がる、其れは大きく掌を伸ばす様に、皺山聳える布を大きく広げる様に。
私らは此の船の食堂へ行った。
夜の影響で暑さはかなり沈んだものの其れでもこう、此処特有の暑さの針茨がチクチク、古時計の様に服布を突き通して来る。白襯衣と下着の軽装では在るものの多少なりは暑さの光は和らぐと思ったのだがな...全然効果を実感出来ない。
薄い朱い熱気のカーテンが辺りを張って居るかの様に空気感が可笑しく感じる。
纏わり付く気持ち悪さと生暖かさが絶望的で鼕々的な苛立ちの朱薔薇が開花する。
食堂は少しまぁ、細かい所が磨けて居ない様な状態で在った。正確にはクザロクイワの食堂が金属に反射する光の様に眩く眩暈でも起こしそうな絢爛豪華の閃光が溢れる様な食堂だったから、此処の食堂はただただ、普通の平凡的で落ち着く場所だ。
食事は独特な見た目と言うか雰囲気が醸し出て居た。
料理自体は何方かと言うか泰西の料理だが、皿が何か独特だった。
濃い色の皿で立派な紫紺色の大きな蕾を持つ花二輪が描かれた皿に乗る黄金小麦とは違う白く所々、斑点状の焦げ跡みたいなのが付いて居る薄く円いパンに何かビーツな朱い冷水スープ。凄く香辛料の過剰的な刺激の連続、お陰で見目麗しい饑いの産声がバグバグと聴こえる。
三人の食事の呻き声が聴こえる。
無我夢中で貪る食事は最悪で称せば生塵を漁る浮浪者、最高で称せば礼儀を貫く品格者とでも言えるだろう。パンを細かく千切って、スープに浸して食べる。此のスープ、甘いトマトが独特な味を醸し出すビーツと相殺して丁度良い味に成って居るし、此のパンみたいな奴も全体的に凄く柔らかく、何か感じた事も無い味が口内に頭中に味わい広がる。
モサモサとしたパンみたいな白いパン擬きに滴り染みるスープの果汁が口の中に溢れ零れる。千言万語の巧みなる味言葉がシャグシャグと出て来るが、好い意味での真の味言葉が之位しか無かった。攀じる味が頭に響き伝わるのと同時に抗戦を起す様に頭から言葉の弾丸、海馬の機関銃から放たれる。
濃い色付きの皿々は、どれも之も皿の窪みの中心に数輪の花が描かれて居る。其れは恋に酔える奴等みたいに抱き合う様に絡み合う花の絵も在れば、手に束ねられ、銀杏の葉みたいに花や蕾、茎が視えて居る絵皿も在る、と言うか皆バラバラの絵皿だったし、此処の土地の伝統品か何かなのだろうか?花の絵と言えど、私が良く目にする泰西画と比べて、かなり癖の在る画風だと思う、筆圧とか配色とかかな。
食事が終わる頃には、夜は銀色の星光が無数に放つ鈴蘭の花畠が黝い夜の土壌に咲いて居た。
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続