ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
ナランブランと緑碧の海の上、泰西の近代船の一隻が黒煙の蒸気の紫煙を吐きながら、白濁の泡飛沫を豪快に散乱させ、ドクドクと脈打つ血脈の様に水を渡る。細かい糸縫いの針を突かれた様な鋭い太陽の光と暑さ、其れは地獄の空気感で移動しようが、薄い白布の様な重い空気の幕が体に付いて動きにくい。
光りが集まりにくい、白い襯衣を身に纏い、全体的に雪色漂う服装だ。
こんな日差しの針矢が飛び交う日中は冬眠でもする様に移動の鈍さが際立つ。
冷水を盃に注いで、喉を氷河にするかの如く、何度も一気飲みしても全然、体が快適を求める声は絶えない。
毎日、暑さの曙が幕を開ける。日中は暑く、夜は逆に落差の影響で寒く感じる。
そんな冬場のロヴァノに比べて、極寒と言う意味では無い。寒暖差が酷いのだ、季節の気温差ならまだしも、朝と夜で気温の変化が凄まじく感じるのだ。
世界はこんなにも可笑しいと言うのに満ち溢れて居るのか。
可愛げの無い、暑さの抱擁等、真っ平御免だ。とっととこんな馬鹿な熱気温の束縛的な呪いから解放させてくれ、夜にしか、酒が飲めないでは無いか。巫山戯けるなよ、
凄く怒りが憚って来るし、一部の血管区が膨らむ位に怒りの栄養が塗れ込んで居る。
泰西画の連続的な船の情景みたいだ。
自分も知らない未知数な色共々が塗られ光沢や儚さが露に成る様に、眼を凝らせば、僅かに違う色達の群れが溢れて居る。其れは言葉では無く色の付いた筆で書かれた多色と言う広大な文字色の連続で出来た文章と言う色合いの絵画だった。大海原に港町に海岸線が見える様な風景画。
其れが美しいとか綺麗とか儚いとか単調的な言葉で表現するよりも繊細で美醜の両極端な言葉の色で表した方が真の意味が目に染まるんじゃないか。明暗も詳しくは解らないが、哀愁の保護剤で護られた記憶絵画と言う渋い柑橘果実色の酒の様な子供には未だ早い年齢の世界が広がって居るみたいな様だ。
暑さで脳が刺激されて、蓄積された古的な言葉が鑿々と海馬の盃から溢れ零落し、口や心に滴り濡れる。多彩な言葉が交じり合って、一つの色や絵画が産れて居る。記憶と言う情景の宝庫から出るのは哀愁や旅愁が薫る言葉絵の具で塗られた物ばかりだ。
まるで、アコーディオンで終秋の漣を奏で居る様な感じだ。そう単調端的な事よりも何かこう、簡単で容易な言葉で表させるよりも複雑で大いなる言葉で彩られた風景も中々の趣が在ると思う。
でも、頭の中は思考と言葉の絵の具の大量在庫残る状況なだけで、現実基、今、此の二つの瞳の奥に見ゆる世界は、そんな複雑怪奇な言葉で飾る様な空気では無い。要約すれば、他者と自分の中では違う事を思ったり感じたりするみたい感じさ。
荒い粼が聴こえる。其れが涼しさを呼び込んで居る様に感じる。
有難い事だ、でも、暑さで感覚が可笑し成ってて、本当は暑い儘なのかも知れない。
もう、暑さで幻覚か現実的な悪夢でも見て居る様だ。
タオルで顔や首筋等を拭く。汗の雪崩と黒く濡れる汗の斑点が見える。
之じゃあ、煙草の濡れて使い物に成れないだろうし、本当に退屈の凌ぎが無い。
時間は重々だが、刻々と過ぎて、宵が始まった。
汗も消え去り、煙草を吸って吐く。酒を豪快に何本も飲み、三人で談笑をする、娯楽的な夜だ。此の生活は何時まで続くのだろうか...
3月の中旬ぐらいだろうか、猛々的な暑さが途端に引いて、何方かと言うと、空気が重く成った。其れに雨の日が多く成り、波が少し激しい時も在った。そんな中でも三人で他愛の無い会話が募り言葉の塔が築ける程に会話で時間を削った。
話題も内容も曖昧で其の場凌ぎな言葉遣いで必死に会話を永続させる三人の会話遊戯がずっと続いた。盤上で競う遊戯の様に攻めや守りも在れば、良く解らない展開も存在した。
3月28日、此の船は大鵬南港に到着した。此処でペーテとは別れるのだ。
午後7時、朝陽が登るのと同時に船は港の停泊地へ到着した。錨が降ろされる音と共に船は揺れた。其の時には三人起きており、私は既に朝酒をして居たし、ペーテやイデナは喫煙をしながら、三人で会話して居た。
ただ、ペーテは革の四角い鞄を携え、足元等辺に置いて居た。
尖ったラッパの哀愁歌が流れる様な情景が広がって居た、別れと言う演出の曲だ。
だが、其の瞬間、ガサガサと言う音と共に
バゴォォォーン!!
と言う轟音が船内、其れも上の方から聞こえた。
パリンパリンと連続的に硝子の割れる音や家具等が倒れ、船内が傾く。
其れから細かい硝子片が目に入り、痛さの余り、眼を瞑ってしまい、勢い良く転んで、後頭部を何処かで強打した痛みと五月蠅い残響と共に目の前が真っ暗に成った。
気が付けば、辺り一面、雪原な銀景色が続く処に立って居た。
「..何処だ、此処は?」
私はイデナとペーテと共に船に居た筈だ。物凄い轟音と共に急に船内が荒れ始めて、そしたら...何時の間にか、此処に居た。
其れにしても変な所だ。
こんな寒そうな雪の銀景色なのに寒く無い。今の私は白襯衣だ、普通なら凍え死ぬ事も在るかも知れない程に景色が極寒と言える程に本当に白いの言葉だけで証明出来る程に雪景色が広がって居る。
淡々と前に踏み込んでみても、地面に積もる雪の様な何かは少し硬い雪を踏む様な感触と同じなのに、寒気が一厘も感じない。もしかして、寒さで感覚が麻痺して居るのか?
そんなこんなで平坦な雪原擬きな銀景色平原を歩けば、急に白い大きな靄が立ちはだかると、其れは晴れて、大きな黒い巨狼が目の前に現れる。私何か、丸呑み出来そうな巨体で毛羽立つ黒い毛並み、鋭い鋼みたいな爪刃がピカリと光って居る。
私は腰を抜かしたり、怖気付くみたいな事は無かったが、妙な気持ちが占め上がって居た。此の黒い巨狼は、何一つも呻きの声すら一粍も零さず、ただ、其の冷酷極まる瞳は耽々と私を見つめて居る。
何故か私も言葉が出て来なかった。ただ、同時にピリリと辛痺れる頭痛が響く。
其の瞬間、白い地面に一滴一滴の血と共に私の額から突如、血が垂れ滴り出る。
だが、痛みも傷穴の涼やかな感覚も無い、まるで血の様な絵の具が零れて居る様に感じるが此の色は明らかに血だ、私の。
片目が封じられた。あの黒い巨狼を視れば、表情等、一つも変わらず、私の目の前に佇んで居る。其れは張りぼての様だが、モサモサとした黒い毛並みが白風に揺れ、瞳を閉じたり開けたりして居るし、本当に生きて居るのだろう。
其の時だった、黒い巨狼は急に黒い煙に成ったかと思えば、私を貫く様に私の體の中へ入る。大きな衝撃を感じる急に手で押された何かよりも重厚な物に轢かれたみたいな感覚で同時に自分の五臓六腑に影が刺さる様に急に不気味な鼓動が響く。血管も蜿蜒と不可思議な軌道に成り始めて、頭の中には無数の鼓動の不協和音と共に奇々怪々たる甲高い金属の擦り切れる様な声が聞こえる。
でも、何て言っているのかは解らない。
掌から膿が出る様に朱い血の酒がポタポタと溢れ零れ漏れ出て来る。
でも、全部が同じ色の血で亡い、之は雑血の赤色だった。
此の雪もそうだ。分ったんだ、之は雪じゃ無い、私が殺して来た物達の遺灰だ。
地平線まで広がる雪原の様に疎らに降る雪も殺して来た物達の遺灰の雪だった。
其の瞬間、痛みと言う物が戻って来た。
途端に低い呻きと共に私は歯を強く食い縛り、隙間から苦汁の涎が数滴、遺灰の雪に滴る。心臓を握られて居る様な重々しい痛みがする。
之は夢の筈だ。
なのに、本当に痛みを味わって居る様に感じる。
如何いう事なのだ?
だが、其の瞬間、目の前が真っ白に成り、気が付けばベッドの上で横たわって居た。
やはり、夢か幻覚だったのか、でも異様に現実的物凄い痛みが体を蝕んで居た。
..あれが裏方なのだろうか。彼奴が何を私に伝えたいのかは完全には解らない。
掌を大きく広げ見る。其処には血の流れた跡が刻まれて居た。
其れも掌の全体が薄く朱く塗られて居る様に染まって居た。
鼓動のシュプレヒコールが響く中で、私は木造の病室のベッドに寝かされて居た。
私みたいな巨人用のベッドに私は寝かさせていた。
隣に佇む椅子には私の外套がクシャっと置かれて居た。
服も白い襯衣...じゃ無い、何だ、この服は?
淡色の白色の寝具服の様だ。洒落的な服と言うよりも、機能重視な服の様だ。
イデナやペーテは何処に居るんだ?
其れに少し脚が痛いな...
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続