ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
血脈星夜誘う異国臭 Ⅰ
そして、船上の平凡時間が早々颯爽と過ぎる。此の大海原とも
播津大輪田港、イデナの母方の一族が住むと言う国の港、窓から見えた港や周辺の地域風景からも既に異国の匂いが駄々漏れ状態で在った。他の蒸気船が止まり立ち並び、栄繁した人々の一駒一駒が騒々的な声を上げ、盛況を醸し出して居る。
私の乗る船も其の港に止まった。
荷物を革のトランクに積め、服の皺や微量の埃を手で払い、イデナは両腕を伸ばし、軽く身体を伸ばし、薦は首を回し、髪が揺れて居る。しゃがみ込みながら扉を越え、甲板へ出ると...
「..こりゃ凄いな..」
芳しい風景が目の先で広々と栄えて居る。
数多の國々の旗が風に翻り揺れ、風吹く港町には見た事の無い服装を来た者達が歓喜的な喧騒を産み出して居る。だが、其れが何故か奇妙に見えた。人々が嬉々的な声を上げながら栄える街だ何て何度も見て来た事だ。
だが、今回は何処か活気が有った。いや、簡単に言えば、泰西的な所も有るが、彼らの独特な文化も入り混じり、新しい文化が開花して居る様に感じた。男女共に伝統衣装みたいな服も着ているが、泰西で良く見る
少し鋭い風が吹き、船の旗は揺れ翻る。
街の奥、聳える山々に丸型な叢雲が淡々と棚引く、其れが
少し錆びれた金属の階段を下りれば、港の桟橋と同時に異文化の地面が足に染み渡る。足裏の血管がブチッと破裂したかの様な痛みが先行して来た。何か高い処から着地する時、偶に足裏が痛い時が有る、其れと同じ痛みが此処初めて感覚だ、最悪だな、異国の土もとい地面踏み体験、身体の痛みで初体験が奪われた。
「さっ、私も帰国に済んだ事ですし、此処に来るのも二人共、初めてでしょう?」
「まぁ..」「そうですね、初めてです」
「折角、初めて此処へ来たんですから、お薦めの場所、紹介しますよ」
「えっ..」「何でですか?何かの店?食事処?」
「まぁ、其れは入国審査を終えてからにしましょう、此方に審査場が在りますし、行きましょうか」
「さっ、ミュハ行くよ」「..うん」
ちょっと景色に見惚れてた。何かね、ロヴァノに居た時の感覚とはまた別の感覚が宿ってる様な気がする。瑞穂版ミュハーンって事かな?意味が解らない...
兎も角、私達は桟橋を歩き、目の前に有る大きく泰西な建物に入る。
「次のかt...」
「すみません、三人分、審査行けます?」
「..あっ、はい、行けます」
「頼みますね、はい、之三人分の奴ね」
「はい、確認します、少々お待ちを...(お、大きい...)」
「何で、私を視たら驚くんだって言いたい所だが、当たり前か」
「ミュハさん、私達、瑞穂の人から見れば巨人と言っても過言では無いからね、人によっては怖いと思う人も居るから、気を付けてね」
「良かったね、ミュハ、恐怖の対象だって、或る意味凄いね」
「褒め言葉として受け取るわ」
「まぁ、イデナさんも相当大きい部類に入りますけどね」
「じゃあ、イデナも大概?だな」
「二人仲良く、恐怖です」
「何で私まで、ミュハの方が圧倒的に恐怖に見えるけど(外観も言動も中身も)」
「やっぱり、赤の他人から見れば、外観で偏見を決めるから、見た目一番だろうな」
「まぁ、ミュハさんの言ってる通りですね、私もそんな感じです」
「なら、薦さん、最初、私達を見て、如何思ったんですか?」
「でかいなぁ、って思いましたね」
「率直」「案外、凄い偏見とか言ってるイメージが有った」
「まぁ、私はこう思っただけで、他は物凄い言葉遣いの偏見を抱く人も零とは言い切れないですし、あくまで、一人の意見として受け取って欲しい」
「言われなくても、何時もそうですよ」
「なら、良かったよ」
「あっ..えっと...」
「あっ、すみませんね、話に夢中に成ってましてね、其れで如何ですか?」
「確認しました、入国出来ますまで、心配は無用です」
「良かった、ミュハさん、イデナさん、入国できるよ、良かったね」
「やったな、腹が減って来たぞ」「何で、こう言う時に空腹に成るの?」
「はは、準備は出来ている様だね」
「では、どうぞ、彼方から入国出来ます、お帰りなさい、そして、ようこそ、瑞穂へ良い旅を」
「
「さっ、二人共行こうか」
入国側の出口を出ると、其処には瑞穂と言う国の港町が広がって居る。
播津大輪田港が有る港町、播津大輪田。目の前には人間も居れば、亜人も双種族、仲良く生活している様に見える。其れが私には違和感で在った。
尖ったラッパの様な高音の声が響く街中、木造と石造の建物が入り混じり、服装もバラバラな人達で繁盛して居る。其れは軽蔑の言葉では無い、本当だ。だが、私の目には本当に不思議にしか見えない。人間と亜人が敵対と友好を築いて居る光景は何度も見て来た。だが、此処まで友好的な日常風景を見たのは初めてだ。
「こっちだよ、付いて来な」
薦に連れられ、街中を三人が歩く。
だから...
「でかいなぁ...」
「どうしたら、あんなに大きく成るんだ?」
「俺もあんな感じで大きく成りてぇな」
「やっぱり、ミュハは何処でも驚かれるね」
「誇れる誇れる」
「子供が泣きそうですね」
「殴れる殴れる」
「怖...」
「ミュハさんって、偶に本性出ますよね、ははは」
「何でそんなに冷静に出来るの?可笑しい」
街中の視線暖簾を潜りながら、薦に付いて行く。見た事無い景色の連続の中を歩く、其れが迷宮を歩く様な不思議な感覚とそう暗鬱漂う様な光景では無く、喜々と嬉々の二表情と二言葉の絵が拡がって居る。
歩く事、数分。
或る建物に着いた。数台の白い帆を捲り開いた開放的な黒車が並んで居る。其の車の群れの隣に何かの建物が建って居る。
「此処だよ」
「何これ?」「食事処では無さそう」
「此処はまぁ、入ったら解るよ」
「何だろうな」
薦が其の建物を開けると、洒落た混合文化が漂う喫茶店だった、しゃがみ込んで、扉から中へ入りこむが...
ガガァァーン!!
思いっ切り、後頭部に扉が当たった。
木製扉でもまぁまぁ痛い、何かジンジン痺れ滲みる軽い痛みを感じるけど、大丈夫...な筈。
「痛てぇ」
「大丈夫?」「大丈夫ですか?」
「まぁ、大丈夫だ」
其時だった、調理室?と客室を区分けるカーテンから一人が捲り出て来る。私よりも断然、小さく何処から見ても所謂、頑固な奴にしか見え無い馬人の男が出て来る。
「薦かと思たが、其の後ろの巨体二人は誰だ?異国で友人出来たのか?」
「うん、まぁ、そんな感じな仲では在るさ」
「ハハハハ、そうかい、で席はカウンター?テーブル?何方にするんだ?」
「カウンターで良いさ」
「んじゃ、座ってくれ」
緑と濃い茶色がアクセントな店内、一見すると泰西の文化を色濃く塗られた喫茶店の様だ。だが、良く目を凝らすと刻々と解る彼ら独自の文化品達の駐屯を。
撫で心地の良い艷やかなカウンターの木製の品質、轢かれ砕かれる珈琲豆の焙煎音と共に芳ばしく、そして、渋さと言う曖昧な言葉だが、珈琲豆特有の深みの在る馨りが何十奏にも重なって鼻に引っ掛かる。
「注文は如何する?今回は良い所の珈琲豆を仕入れたから、お薦めだ」
「私は其れだけで良い、お二人は此処に来た事は無いから、店長、メニューを教えて欲しいのだが」
「あいよ、ブラックとミルク珈琲、紅茶、軽食だったら、サラダサンドとか、後、逆のミートサンドとかフルーツサンド、北國サンド、冬サンドとか」
冬サンドって何だ?
パンに雪でも塗すのか?凄く猟奇的な料理だな、之は面白そうな料理だ。
そんな冗談は飛ばして、其の冬サンドにしてみようかな。
「ミュハは如何する?」
「
「ミュハは
「あいよ、少々《しょうしょ》、お待ち」
長い脚を伸ばしながら、店内の装飾を見渡す。
黒寄りの茶色が基調で、色取り取りの鮮やかな多色の装飾品や燈の硝子。
イデナはボーッと無意識に燈無い瞳で真っ直ぐ何処かを覗いて居て、
サクサクと包丁で野菜か何かを細かく切る様な音にグツグツと鍋で何か似る様な音が聞こえ、仄々しく同時に芳しい匂いがまたもする。
「..支持率5割以下に下落...今の内閣も早々に退陣しそうだな、最近の若い奴らは変な事件起こしてばっかだな、穀物の値が上がった所から雲行きが怪しいな...」
此の国の何かをブツブツと零れ垂らす、薦。其の表情は呆れの萎みだった。
(..さすがに此処で煙草は駄目か..)
もう無意識に
だから、まぁ退屈だけど、こうやってボーッと待たないとな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続