ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
「はい、
小っちゃな
「はい、北國サンドと冬サンド」
紺色と銀葉樹が描かれ添えられた平たい皿の上に分厚い立体三角の柔らかい黄金小麦色のパンに挟まれた輪切りビーツと薄切りの赤身残る肉、焦げ跡の在る分厚く丸型に切られたジャガイモ等が挟まれて居て、湯気と言うか淡く仄かな白煙が吹いて居る。
心の中で頂きますと言う数秒の空白を開けて、其の大きな口で思いっ切り噛り喰らう。無感な表情描いて刻まれる味付け。
古臭い田舎の草書体の繋ぎ文字みたいに、連続的且つ田舎の自然な味が舌を何度も障り感じる。素朴と言う二文字では完結出来ない、感じた事の無い味が舌を越え脳に渦巻く。
ビーツの軽快にして水々しいサクッな食感、所謂レアみたいな焼き加減の肉には単調な黒胡椒と山椒?の香辛料が散りばめられ、絶妙に柔らかい肉と脂を解す様にビーツが抑えて来る。肉みたいに硬いそうな見た目した丸ジャガイモも噛めば直ぐに砂に成って解けた。
何かトマトソースと香辛料の味、ジャガイモに塩味も感じる。だが、サンドと言えど、横置きのサンド、肉汁の潤滑油の僅かが掌の手相大河跡に注がれ流れる。
私にとって、此のサンドは掌くらいの大きさ。
巨大な悪魔が何かを飲み込む様に一桁の口数でサラリと食べ終わり、我なりの紳士姿勢で優雅な持ち方で珈琲をゆっくり啜り飲む。
其時、店長さんが調理室から出て来る。
何処かほどやかな表情で軽く腕組み、一種の捨て台詞な姿勢で立ち竦む。
其れに薦が世間話の煙を吹きかける。
「最近の売り上げは?」
「上々だよ、今日の珈琲豆は高級品だ、それくらいは余裕が有る」
「其れは良かった、そう言えば、運転手は如何したんだ?」
「今は昼休憩中で皆、食堂へ行ったさ」
「此処で喰わないのか?」
「まぁ、軽食しか作らないからな、皆、昼はがっつり喰う奴しか居ないしな」
「成る程、で此の珈琲豆にしろ、前よりも店内豪華に成って無いか?」
「まぁな、こう見えて色々と儲かってるんだよ」
「へぇ、勝手に其処までかと思ってた」
「失礼だな、知り合いのコネで貿易船での調理師をやって居るんだよ、給料も良いが、如何せん、揺れる船内で包丁とか危険な物を扱うからな、かなり身体に来るさ」
「其れはご苦労さんですね」
「そう言うお前も最近はどうだ?本職の作家は?」
「本は何冊か、出版して居るさ、売り上げも良い所さ、まぁ、最近出した所だから、未だ未だ之からに期待するしか無い」
「お前も其れなりには頑張って居るんだな、何時も異国へ渡航してる、豪遊者だと思って居るよ」
「豪遊者ねぇ..一応、ちゃんと本職関係では在るさ、此方もまぁまぁ、苦労するさ」
「お互い様だな」
「そうだな..はい、飲み終わったぞ、確かに前の珈琲よりも味がこう濃くて深いな、旨い」
「其れなら良かった、其れと隣二人のコップもくれ、もう飲み終わってる筈だ」
「解った」
そうしたら、「飲み終わった?」とイデナに尋ね、同時に私のとイデナの盃を取って、店長さんに渡す。匂いの強い花の蜜の匂いの様に珈琲豆の華の匂いが聴こえ感じる。新聞紙のクシャる皺波の漣、風が吹きガラガラと鳴らす硝子窓の揺れ声、カランカランと甲高い金属みたいな音で盃を洗う水の叫びが聞こえる。
数分だろうか、水流れが止まり、音の水面が揺れ誘われる。同時に外からガラガラと喧騒の声の群れが聴こえて来る。
「そろそろ、昼休憩も終わりか」
「じゃあ、そろそろだな」
「あいよ、お代は引いて置くぞ」
「有り難い」
紙幣数枚と硬貨何枚かを店長に渡す薦。
「丁度だな」
「其れじゃあ、私は之で、亦、来るよ」
「おぅ、待ってる」
そう言えば、私達は店を出る。
心地良い風が吹き、奇劇的な漫ろの風が其処には吹いて居て、多くの樹々が激しく搖れ巻き上げられて居る。そして...
「薦さん、此の人、乗りますかねぇ...」
「う〜ん、2台で行く?」
「いやぁ、今日は休みの奴等が多くてね、運転手が少ないんだよ、行けるかなぁ」
「あぁ〜、じゃあ、私助手席乗って、二人後ろに何とか乗って貰う感じかな?」
「其れなら、行けるかも知れませんね、取り敢えず、乗れるかやってみましょう」
巨体なお陰で色々と不便が浮き彫りに成っちゃった。目の前に佇む車、天井が在る感じの車では無く帆を張って天井にする、所謂、オープンの車だ。其れが一番の救いだ、ヒリヒリする後頭部、腫れたりして無いと思うが、風が掠めると何かスースーする、凄く気持ち悪く不快な感覚だ。
「...何とか行けたが..」
「車体が沈みますね」
「大丈夫ですか?行く場所によれば、擦りませんか?」
「いやいや、こんな事、珍しい事では無いですよ、前にも似た様な事も有りましたから、まぁ、慣れた事では有りますよ」
「其れなら...まぁ?行けるんですか?」
「まぁ..そうですね...はい..」
「頼みますよ」
「はい..其れで何処へ行きますか?」
「取り敢えず、自邸..中山の觀音在るじゃないですか」
「はいはい、有りますね」
「彼処の觀音の前の大門かな?彼処まで行ってください」
「成る程、解かりました、觀音の大門前ですね、少し時間は掛かりますが、じゃあ行きましょうか」
鍵穴に車用の鍵を差し込み、大きく、そして、勢い良く差した鍵を捻り強く廻す。其の瞬間、重低音の唸り声を奏でながら、僅かな振動を発するエンジンが点き始める。
「では行きますよ」
運転手の馬人がそう言うと、ガチャガチャとギアを弄ると、車は動き始める。遷り往く風景、列車の車窓から見る景色の二番煎じの様な感じ。でも、見える景色が違う、何か高低差が烈しく、同時に佇む建物達が違うのも相俟って見た事の無い異国と言う言葉が真に輝く様な所だ。
植物性枯草色の屋根の邸宅も在れば、泰西の影響を直進的に受けた建物、服装もバラバラで其れなのに何処か一体感と言うか、顔立ちや風格、雰囲気が違うのか、私達の文化品に似て居る筈なのに、全然別物の様に感じ魅える。
聞いた事も見た事も無い。奇怪な文字列の看板が軒並み掲げられて居る繁華街の横幅の大きい路。芳ばしい匂いが漂うと言う事は、恐らく食事屋の叢雲通りだ。
何もかもが新鮮で或る意味、眩しく見える。
整った街並み、麗しい建物の色、軽やかに笑みと歩く民達、ロヴァノとは違う風景。巧妙で奇々怪々な詐欺に騙されて居ても可笑しくは無い程、別世界の光景が私の濁る瞳には綴られ映り描かれて居た。
蒼い風が吹く、可愛げの搖れ。
座っても高い私に集中砲火な風揺浴の包囲網に囲まれる。吹き飛ば無い私の耳、黄昏る様に萎びる毛並み、街中に異様な者が居る、私だ。
「見て見て、あの狼さん、凄くかっこいい!!私もあんな風に大きく成りたいぃ!!」
「そんな大きな声を上げないの、周りに迷惑が掛かるでしょ」
「すげぇ...」
「絶世の
イデナに何て言って居るのか、聞いたらこんな感じって教えてくれた。
何前の会話もイデナに翻訳して貰って理解して居る。それにしても男子...か。
やはり、私は男性に見えるのか、まぁ確かに、今の私は髪を切って、肩に髪がフラリと当たる位短いし、顔付きも何方かと言うと男性寄りなのかも知れない。斜めの傷が前髪の様に垂れて居る。
「私はやはり、男の様に見えるか?」
田舎訛りな早口且つ独特に感じるので在ろうロヴァノ語でイデナに語る。
お前らには、私らの言語の壁は感じないあくまで、同じ言語での会話だと思って居そうだな。
「まぁ、そう見えても仕方無いと思うよ、そう言う所が良いと私は思うよ」
「???...最後の言葉は要らないぞ、欲が沁み出て居るぞ」
「すまんすまん、つい出て仕舞った...」
「お前、だいぶ変わったな、何か馬鹿鳥みたい」
「普通に悪口辞めてね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続