ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
或る一つ部屋の扉、其処だけ他の扉と違って、色々と紙が貼られて居る。篠硲新聞、そう硬く黴れ破けた紙が大きく貼られて居る。聞いた事も無い新聞、当たり前か。
少し錆びたドアノブ、少し騒々しい装飾の扉の奥から気配が確実に感じる。
「如何します?」
「...開けてみないと何が在るか解らない..開けてみよう」
「何か有ったら任せろ」
「...」
扉を大きく開ける。少し建付けが悪いのか、扉が重い。
ギギギギと軋む扉を全開する。部屋の中の白光の照明が目を二点蒐集に差し込んで来る、凄く眩い光、廊下との照明の角さが激しい...
中は作業室みたいな処で、色々と散らばった書類、書籍や何かしらの道具に銃等、単なる作業部屋と言うよりも作業兼自室みたいな感じだ。宿泊部屋よりも広く、泊まる感じの部屋では無さそうだ。だけども、気配はしても、誰も居ない。姿一欠片も無い無人の作業室。
「...之は新聞の作業室みたいですね、書類も見た限り、取材のメモとか言葉、場所、細かい処一つ一つ丁寧に纏められて居る、かなり凄腕の記者が製作する新聞みたいだ...」
そう薦さんが呟く。確かに此の部屋に散らばって居る書類や何かしら書かれた紙には、丁寧な字で何かの会話を書いた様な文章や何かの関係図?みたいな物も在るし、何かタイプライターとかそう言う機械も置かれて居る。
「何勝手に作業工程を見てるんだぁ!!」
「「「!?」」」
其の瞬間、立派な角を生やした、男性が部屋に現れる。
片手に湯気立つコップを持ち、優雅な立ち姿をして居る、鹿な男性が佇んで居る。
几帳面な感じな人で、服には皺一つも無い綺麗な状態で完璧な清潔感が漂って居る。
「す、すみません」
「お前ら、他社の記者だな!?俺の技術でも奪いに来たのか!?」
「ちょっ、ちょっと待ってください」
「何だ!?言ってみろ、遺言にしてやるからな!!」
「話を聞いてくださいよ」
事情を説明中…
「成る程、だとしてもよう、此処まで来れたな」
「如何言う意味ですか?」
「此処は篠硲、其れは解る筈だろう?」
「はい」
「昔、此処は秘境的な温泉街だった、今は殆どの建物が解体して跡形も無いがな、此処は旧篠硲地区って言って、人が全然棲んで居ない過疎な地区さ、其れに此処等の地区は怪魔が蔓延って入るから神隠しが多いぞ、だから此処等に来る連中は自殺したい奴か狂気的な奴か住み慣れた奴しか居ないんだ」
「怪魔...?」
「お前さん、怪魔も知らないのか、面白いな」
「怪魔って言うのは、ようは害を与える存在って思えば良いですよ、魔物、妖怪、物の怪とも言います、ただ怪魔と言ってもね...」
「人間共が俺ら亜人を蔑む時に使う言葉でも有るから、日常的に使える言葉では無い、所謂、差別言葉って奴だ。だから亜人か人外と言った方が良い、害を与えると言えど、殺人や連続放火、普通に死者が出る事も起きてる、本当に気を付けろ、簡単に首から下が無くなるぞ」
「特にそう言う事を知らないイデナさんやミュハさんの様に異国の人には解りにくいのが難点で在り、怪魔にとって餌の様な存在ですからね...」
「...(何かミュハと仲良く成れそう...)」
「..其処の翼人は異国の人なのか?」
「母が瑞穂人で父が泰西の人です」
「へぇ、そうなのか、確かに異国の人特有の特徴が有るな...」
「...あの、如何して怪魔の蔓延る処でこんな新聞を製作して居るんですか?だって殺される可能性、十二分に有るじゃ無いですか、普通に考えれば、自殺行為じゃないですか?」
「...目の前に居る俺が其の怪魔だとしたら?」
「「え?」」
(何の話をして居るんだ?瑞穂語解らないから理解出来無いんだけど...)
「正確にはそう言う害の行為何ぞ、一回もした事無い、普通の亜人と変わらない奴さ、俺は」
「理解が追い付かない」「...?」
「此処で何か事件に巻き込まれ無いのは、俺も怪魔だからだよ、其れに
「狼男じゃなくて狼女だよ」
「そうかい.....ん?えっ?は?"あれで"狼女は可笑しい、男装でもして居るのか?」
「素でアレだよ」
「駄目だな、アレは」
(やはり私は女二人を家に居れていたのか...二股の不倫に感じて仕舞うな...)
「何を言って居るんだ、イデナ?」
「何でも無いよ」
「そうか...」
「声も外観も男みたいなのだがな、よく見れば喉仏が無いから、本当に女性なのか...最近はそう言う女性が多いのか?」
「知らない」
篠硲新聞、創刊三〇年以上も続く新聞。
取材・発行等の作業を一人で熟す、創刊者の鹿人の
此処、旧篠硲旅館は、今居る、旧篠硲地区で湧いた居た源泉により栄えた篠硲温泉街の栄光を遺した廃墟で在り、所有者は篠硲新聞創刊者の季内孳一郎。新聞発行の作業室や宿泊部屋を改装した生活空間や其処までの廊下等を綺麗にして居るのみで、其れ以外は普通に荒れた廃墟の状態。
「如何して、温泉街が廃墟に成ったんですか?」
「昔、地震が在って、其のせいで地盤?かな、が傾いたのかな、其れで源泉の出る量が激減して倒産して廃墟に成った訳、今は其れなりには温泉として機能は出来ると思う、まぁ、もう此処は怪魔の巣窟みたいな感じだし、妖術使えない亜人や人間には危険な場所みたいなもんだから、廃墟だよ、廃墟」
「えっ、でも駅は何方かと言う此の旅館の近くに在りますけど、人間とか来るんですか?危険だと思いますけど...」
「一応、路線変更の建設計画が有ったが、こんな畝々した土地で建設は建材輸送や事故時の対応で時間が掛かるとかで中止に成った筈、と言うか此処らで採算と言うか利益は其処まで取れないと思うしな、一万も満たない街々が点々とした地域だし、利益が得にくいだよ」
「成る程...」
「取り敢えず、其処の椅子に座れや、ちょっとお茶を持って来る」
「有り難う御座います」
そう言うと、季内さんは、廊下側の扉とは違う扉を開け入って来る。
ガタンと扉が閉まると私も薦さんも適当な椅子に座り、ミュハは少し顰めながら壁に凭れる。窓に水滴の当たる高い音が聞こえる、雨が降って来た。
ポタポタと窓に当たる水飛沫の音。
時計の針が刻々と動く様に一定の飛沫の打撃音が聞こえる。
凄く落ち着きの湿気がゾクゾクと部屋に蔓延するかの様に包みまれる。其の時、扉が開き、トレーに湯気立つ茶を淹れた季内さんが慎重に角が当たら無い様にゆっくりと入って来る。
「はい、お茶ね、机散らかってるけど、適当に紙退かして置いてくれ」
そう言いながら、ドサッと少し力み込む様にトレーを紙が散らばる机の上に置く。何か色々な模様が入った色鮮やかなコップの中には黄緑色の茶が入って居て、芳ばしい葉の匂いがヒワリと鼻を突いて来る。
ズズズと軽く啜る音を立たせながら、茶を飲んで見る。変な苦味が舌先を擽って来る、凄く違和感と言うか不気味、後味も茂る森に生える臭いの強い植物の臭いみたいで、美味しさ一割も感じ取れ無い...
「ぅぅぅ..」
そう唸る様な苦さが感じる。文化の違い、文化の違い、其れが原因だ。薦さんと季内さんは何時も飲んでるかの様に平然と飲んで居るんだ。此のお茶は此の国では主流の飲み物なんだろう、そんな飲み物を飲ま無い私から見れば慣れ無い味付けに驚くのも納得が行く。
ふと、ミュハの方を見ると...
何時も酒を喇叭飲みするかの如く、お茶を一気に飲み干して居た。そうか、チビチビ、微量で飲んでも苦味が長続きするだけだ、一気に飲んだ方が苦味に毒されるかもだが、微量ずつよりは断然マシのマシだ。
一気にお茶を飲み干す。
咳き込む様な苦さの毒が喉を襲撃して来る。
吐き気は流石にしないが、其れに似た様な気持ち悪さを感じる。
(どう言う製法と材料でこんな自然味の強い癖強なお茶が出来るんだ?)
今ので喉の畠が枯れて凶作状態に成った。
異文化にも自分に合う合わない事が沢山有ると思ったが、既にもう幾つか見つけた。
(こんなお茶、酔い止めの時くらいしか、使え無さそうだ...)
何かもう、口の中、変だよ。
舌に合わないとかじゃ無い、舌を枯らす毒だ。
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続