ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
「そうか、
小刻みに震える列車、広大豊沃のロマンチックな緑の山河が広がって居る。そして、其の奥には街々が点々と佇んで居る。展望台から見た夜景の様に疎らに散らばる釦みたいに建って居る。
蒸気機関の運動音、黒煙が白々しく森々の隙間を縫って行く。大自然特有の染み付いた緑黄の匂いが淡々と花を霞める、見た事も無い花々の円らな瞳の花弁が下に俯きながら、列車の風にそよりと揺れ、樹々もバサッと靡いて居る。何処から聞こえる囀りの民謡に訝し気に笑い吹く風の声、人の音等、御構い無しに自然と言う者が感じ取れた。
何時も通りの煙草、ロヴァノの何処かで売って居る、独特な煙草。水色と白の山脈の煙草箱に何処かの山河が描かれた煙草箱、其れ以外なら原産も販売元も不明な不思議な煙草しか無い。巨人用の大きい煙草をずっと吸って居るが、値段が高値なのも相まって、ロヴァノだとそう言う闇市的な所で買った方が断然安い。
或る意味、闇市が一番の市場だ。
価値の無い紙幣よりも何かしらの道具とか物の方が通貨よりも価値の有る物だ。そんな光景が慣れ切って居たから、此処数か月の大旅は違和感と驚きと退屈の連続だ、やはり、自国の文化が一番と言うと時も在れば、羨望する文化・習慣も有った。
其れでも結局は歴史に流された。
あーあ、何でこう愉しい事よりも不幸的な事しか起きないの?
お前らもこっちに来いよ、或る意味楽しいぞ?根性焼きしたるからな?な?な?
まぁ、いいさ、話題は大きく変わるが直接的と間接的に経験する不幸って何か全然体感が違うと言うか、不安感と絶望感半端無いよね、私、表情を表に出さないと言うか出しにくいからさ、心の中の秘密の窓で感情の日差しが出るんだよね。
所詮、私もそう言うまるで、操られた人物の様に不可解な行動は出来ないが、こうやって、見ず知らずの訳分からない存在に挨拶やら持論展開に世間話を仕掛けてる時点で私と言う存在は一種の精神異常の症状の一つ様に感じ取れるだろうし、お前らが常日頃読んで居る他作品何ざ知る由も無いし、私みたいに直接的に話しかけて来る奴は居るのか知らんが、まぁ今はこんな感じで装って居ないとな。伏線何ざ知らん。余に党派たるもの知らぬ、私に伏線たるもの知らぬ。
「なぁ、私は之から何をすれば良いんだ?自国も革命で帰れる気配も無いし、何も知らない異文化の國に快適に過ごせるのかも解らない、イデナの一族に会うと言う事に釣られて、結局、自分自身は何も欲求も無い儘、此処まで来てしまった、どう責任取ってくれんだぁ?」
「何で私が悪いみたいな言い方に成って居るんだ...いや、確かに此処に来る最大の目的は私の事で、ミュハ何ら関係事だよ?でも、此処まで来るのに、何度もミュハに助けられた、だから...」
「(ちょっと待ってくれ、此の展開、何か知って居るぞ、お前らの世界に干渉して居た時に読んだ何冊かの書籍で見た光景...かも知れない)」
「之からも私の相方として、ミュハの相方として居て欲しい」
そう頬を赤める事も無く、何時もイデナの口調で何ら変化の無い声で、そう言う。
うん、凄く欠けた屑花なロマンチックを感じる。私が読んだ題名知らずの良く解らない本だと...あぁ、其れ恋愛か、之は恋愛じゃ無くて、殺し合いみたい物だから、違って当然か...
「はいはい、居てやるよ、私が払った分の金を返済するまでな」
「...ははは、ミュハらしいな、まぁ、そうだろうな、やっぱり、変わらないな」
「何だ、其の意味深な言い方、馬鹿げた事でも起こす気なのか?」
「そうじゃ無いよ、ちょっと不安と言うか疑問が有ったんだ」
「何の?」
「此処まで、色々と変な事に巻き込まれて来た、増しては死ぬかも知れない絶体絶命だったかも知れない状況も幾つも有った、だからこそ、そう言う経験が何かこう...何と言うか...其の言葉には言い表すのが難しいと言うか、前よりも変化した別の何かに成ってそうと勝手に勘違いして居たんだ」
「...何だ?そんな事か?身体は大きく変わったが、意志は変わってねぇんだよ、確かに色々と在ったよ、別れに出会いに事件、でも此処まで来てるってことは生きてる、其れだけでも身体は変化して居る、仕草や言い方に変化は無くても、此の一秒一秒、私達は変わってる、良いか悪いかは知らないが、永遠何て無いのさ」
「...」
「取り敢えず、私に切ない事は通用しないぞ、そう言う事には凄く疎いからな、喜怒哀楽が欠如してる奴だから、暗い話をしても受け流すだけの無礼者さ」
「直ぐに此の話も忘れるって事?」
「当たり前、一々、そんな事覚えて居る訳無いだろ、そんな記憶力無いんだよ」
「ちゃんと覚えてな」
「返済の事はな」
「はぁ...」
「そう落ち込むなって、ちゃんと記憶に残ってる」
「千振茶飲む?」
「二度と呑まない、あれ、めちゃくちゃ苦味強いし、不味い」
「千振茶割り」
「酒に謝れ」
「何時も通りだね」
「平常に決まってるだろ、何だろ、そんな猟奇的な所在ったか?」
「十分有った」
「おい」
「嘘、冗談、ジョーク」
「めちゃくちゃ言い逃れしようとしてるじゃん」
疾風の如く進む、此の黒き列車は線路の上を駆けて居る。
硝子玉の叢雲が悠々と棚引き、無も知らぬ花と樹が青風が吹き撫でて、可憐に搖れて居て、青葉色の若い葉髪が靡く、私のモサ尽きた毛も僅かに流れて居る。
単調の弦楽器が弾かす黒い瞳の民謡が流れる様な軽快さも感じて来る。此の時間が流れて、此の列車は丹國へ往くのだった。
緑豊かな山間の園、木造と黒い屋根の建物が点々と並び、緑黄色の畠が立ち並ぶ長閑な処が拡がって居る。此処が
静かで淡々と雲が流れる中、活気も薄い山間の田舎町に着いたと思ったが、何か凄く大きい石垣が眼の前に聳え居る。
此の國の城らしい。
其れに全然、城の形が違うし、見た事の無い造りだ。こう言う処が面白い要因では有る。
車も無く、榮えて居る街中を歩いて居る。
港町とは違う木造ばかりの建物の叢り、威勢の良い人達の声と共に新鮮な野菜や何処からか薫る料理の誘惑、弾み笑い合う人々、私もこう言う日常を送りたかった。そう羨望が垂れ洩れる程に見た事の無い平穏さが出て居た。
無一文だから品質の悪い食品盗んで、店員にボコボコにされてる孤児や其処らで餓え蹲ってる貧民街が軒並み立ち込む自国との違いに驚きと羨望が込み上がって来る。
私もこう言う処で産まれて居たら、酒、煙草を吸う嫌な奴には成らなかったのかな?いや、どうせ表裏は有る、「良い事在れば、裏に悪が生えて居る。」そう言う諺がロヴァノには有る。良い事でも裏では何かの策略かも知れない、本当に善意でしたのなら、無礼だが、ロヴァノだと本当に善を演じて利用する奴居るから、或る意味、諺と言うよりも教育に必要な言葉だ。
そんな事は置いて、亦だ。
男女見境無しに私に其の細く鋭い瞳で見つめて来るのは何だ?羨望か?
体格の渇望なのか解らないが、何か頬赤らめてる奴も驚愕してる奴も青ざめてる奴も居るし、どう言う状況なのか解ら無い。
ゴヤゴヤとガジャガジャの話し声の渦が聴こえて来る。
其れが批難なのか、称賛なのか、驚愕なのか、其れすら解らない、此の状況。
そんなひそり蔭口的な喧騒の渦の中を突き通し、少し人気の少ない場所に映る。
路の両端の畠、畠...
土路の上、山と林と畠しか見えない。
之が瑞穂の田舎街の風景か、中々に良い景色じゃ無いか、全然スラムの建物が無い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続