ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
有明の月が誘う処へ Ⅰ
門を潜れば、其の先に視えゆる景色は木造住宅の街が広がって居る。
しかし、門前と比べて急に人気が多く成り、色々な服装の多種族の栄えが見える。
瑞穂文化の服装の者も居れば、私と同じ泰西文化の服装を着こなす者も居れば、馴染みの無い何処かの國の伝統衣装を着た者も居る。
建物は瑞穂の建築物。しかし、看板には瑞穂や蓬莱で見た角々しい文字以外にも他の言語文字も存在した。其れもロヴァノ語の看板も有ったのだ。流石に驚いた、こんな辺鄙な土地で自国の文字が視れるとはな。其れに此の大通り、私の様に所謂巨体な人物が平然と居る。周りの視線も熱くも鋭くも無い普通と言うに相応しかった。
此処も多文化と言う言葉が似合う程に、違和感と興味の好奇心数値がガラガラと上がって居た。空には青に紛れて聳える欠け月が地を見下ろして居た。煌々に輝る店看板が優々と手招きの誘惑をして来る。多言語の看板、食事処、雑貨屋、書林、宿屋。見た目こそは瑞穂伝統の建物なのだろうが、其処に住まい暮らす者達は私達とも似て居る、いや、瑞穂人も泰西人も人種も民族も文化も関係無しに和気藹々と会話を交わし、軽やかに踊る様に歩いて居る。
其れに喉か頭、耳に違和感を感じる。
眼の前には多文化・多言語の人たちがそんな事関係無く、何かしらに会話を交わし、笑顔を浮かべて居る。其の言葉が解るのだ、解らない筈の瑞穂語も聞いた事も無い国の言葉もまるで其れが常識みたいな感じで耳にスッと内容や言って事が解るのだ。農作物の収穫量、最近の日課、自慢話、お薦めの本紹介に読書会、感想の話す、其の一秒一秒に動く口の動き、喉から放たれる高低差の激しい声が全て意味が解る。
凄く不思議で、ビクッと耳を乱暴に触られた様な強い刺激だ。
擽ったいとか痛いとかでは無い音圧が凄い耳を刺激して来る、まるで知らぬ間に何かしらの魔法でも掛けれた様に感じる。翻訳の呪いに掛けられた、零時の標を越えれば、此の呪いは解かれるのかな?そんな事は無いか。
「「...」」
私もイデナもそう簡単に言葉を口に出せなかった。
圧巻と又違う、驚愕と言えば、そうでは有るが、何かこう、言葉の角度が違う。
絆された思考回路から違和感の故障煙が噴いて居る。脳は「???」みたいな未だ理解が完全に追いついて居ない状況に等しい。お前らで言う処の現代美術でも見て、之が藝術?と疑問を投げかける様なそんな状況に似た感じだ。今迄、色々な言語が世間では放たれる中で急にみんなが、皆の言葉や癖が全部解る様に成ると、???と疑問に思うだろと思ったが、よく考えれば翻訳と言う言葉が有るんだから、まぁ...何だろうな...今度は締め切る言葉が想い付無く成って仕舞った。
「此処は何だ?皆、見た目も服装も文化も違う様に見えるのに、言葉がハッキリと聞こえるんだが...」
「解る、何かこう...急過ぎて、どう言葉に表したら良いか解らないけど、之も理想郷なのかも知れない、此処の常識なのかも知れないしね...」
常識...か。
個々人で思考も思想も違うから、大衆や社会の常識何て、深々と考えた事は無い。
馬鹿だ阿保だ、訳アリ者、非文明者と不称号を讃え合う常識社会に慣れ合って居た私には少し違和感の有る事だ。
だって、多文化で多民族で多種族な此の世界に真の平等だ何て、存在意義も存在証明も出来ない孤高に等しい言葉で意味で在った。宗教観も価値観も思考回路も個人や集団で大きく異なるのに、其れを纏め、一つに出来る訳が無い。お前等で言う処で言う歴史が紡いだ各国の問題を完全に無くす程に難しい事だと思う。だって時が経てば、其れはあくまで一時的な平等で有り、本当の平等では無いし、エデンには成れない。
齢が刻まれる毎に、孤独と孤高の菌が心傷に蔓延るから、命に流れる欲の血が脈打つから、此の物語は刻まれる。此の三文以下の三厘小説とロンリネスティックの光りで極光を唸らす様にするよ。
「此処の書籍屋、瑞穂語の本も有れば、ロヴァノ語で書かれた本も普通に置かれているんだな...」
「文字は別々だな、何か安心したな、文字もどれもこれも同じ文字かと思った」
「其れは其れで逆に、どんな感じの文字に成るのか、気に成るけどね」
「之は..魯場之里屋神
「こっちは逆に瑞穂の物語をロヴァノ語訳されてる」
今度は雑貨屋。
よく見掛けた植物柄の緑淵な白皿や
何か普通にルーヴル紙幣で買えた。
其れも凄く安く買えた、こんな我楽多紙幣にも価値が有っただなんてな。
革の長財布に仕舞われ寝かし熟成された
「本当に此処は凄い処だよ、色々な国の人達が何も疑問に思わず、話したり、食べたり、種族も関係無しにこんな生活を送れるだなんてな...」
「ミュハみたいに巨体な人も普通に街中を徘徊して居るんだから、何と言うか、今まで見て来た光景から振り返ると、本当に違和感だらけだよ、此処は」
「取り敢えず、私は腹が減ったし、あそこに食事処が在るから、行こう」
「相変わらず、空腹に成るのが速いな」
今度は近代的な建物が大きく建って居る。
何故か普通に読める看板、食堂の文字列が大々的に掲げられて居る。
格子状の窓が着いた扉を開け、入店する。其処には、色々と装飾が施された、或る意味、眩しい食堂が広がって居た。取り敢えず、大きい網目格子の窓が目の前に有る席に座った。
白いローブの様なゆったりな綿の質感のしたテーブルクロスの上、几帳面に食具が置かれて居る。箸やスプーン、フォーク等、食文化関係無しに色々な食具が有る。取り敢えず、ナイフとスプーンとフォークを取った。綺麗に磨かれ洗われ、異端な程に光沢を発する金属の食具だった。食器は無かったし、
「今日の料理です」
和洋折衷的な調理服装をした者が、淡々とそう言いながら、芳ばしい匂いを醸す料理品をテーブルに置く。白く丸い淵在りの皿には、緑豊かな生ハムサラダに輪切り檸檬が添えられたヴォルシチみたいなスープ、柑橘系の果汁が贅沢に掛けれた
「凄く美味しそうだな」
「何か案外、泰西の料理に見えるね、特に此のサラダとかスープとか」
「そりゃ、ケールとクレソン合わせのサラダにオリーブっぽいドレッシングを掛けられて居るからな、似た奴なら食べた事在るし、スープもヴォルシチっぽいしな」
そう会話をドレッシングの様に交えながらも、食事をする。
格子窓の一つの隙間から、青天に孤高的に浮かぶ、有明月が淡々と佇んで居る。
丁寧に口に運び、舌に触れる味覚の痺れが頭に直撃する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続