ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
「あれぇ、何時の間に朝に成って居たんだ」
朝の涼しい匂いと白光が部屋で差して来る。
酒屋の中には酔いに溺れて、すやすやと深く寝る者達の寝室に成って居る。私は...ずっと酒を飲んで居た。話して居た名知らぬ者と盃を交わしたが、何時の間にか隣席には居なかった。まるで風吹かれ、飛んで行った塵の如く。
「頭が痛い、飲み過ぎた」
「調子が狂うなぁ、可哀そうに」
「何で私よりも倍以上に呑んだお前が痛みを得て無いんだよ」
「圧倒的強者」
「飲酒だけだけどな」
「煙草も」
「不健康的だな」
「渋さが際立ってる」
「或る意味でな」
柳靡く大通り。未だ早朝で人気も無い静寂と閑散な大通りに成って居る。コツコツと響く靴音。無人的で退屈の症状が出て居る、涼風が吹く中で。
「未だ、店も開いて居ないし、何処か時間潰せそうな場所も無さそうだけど、如何するんだ?」
「私にも解らない、ただ単に無意識に足を動かしてるだけで、何処かに行く訳でも無い、ブラブラ此の大通りを彷徨ってみようか」
「はぁ、まぁ、こう言う人気の無い大通りも味が有って良いとは思うなぁ」
和洋折衷な建物が増え、店の群れが早朝の冬眠を未だして居る。
食品店も燈は着かず、天で光る生意気な陽だけが、私達と此の大通りを照らして居る。少し歩いて居れば、アーチ状の石橋を通り、橋下には澄んだ碧河が濁々にして、蕭々と流れている、青葉の骸を添えて。
橋を渡り、続く大通り。
今度は建物の大きさが小さく成り、何処かしら田舎味が溢れて来た。街路樹の様に聳える樹々の風に靡かれ、青葉の髪を抜かす中を、周囲を覗きながら、歩く私達に擽る様に迫って来る。
「其れなりに、建物も落ち着いたと言うか、息苦しい都会感は消えたな」
「何か街路樹みたいな植物が少しでも有ると、洒落た感じに見えるのが良い」
「之は何と樹何だろうな」
掌に小さく蹲る様に丸く曲がる青葉。
ギザギザした触り心地で、深緑な葉色をして居る。其れが軽い降雪の様にカラカラと落ちて来る、碧い風の夏将軍にでも、切られた様に葉の矢が吹き飛んで来る。
先々と進む中で遂には通りが無く成って、舗装もされて居ない土道に成った。其れと同時に、強く鋭い風が吹く。其れは強風の様で、私らに警告を促して居る様にも感じ取れた。緑茶畠の様に続く緑黄の叢の平野。槍的な山岳、蜿蜒な大河、深々な森林、自然の風景が其処には広がって居る。其れは広大なロヴァノの大地の様で風が煽る様に心が好奇に包み込まれた。
「凄い風景、本当に大自然の言葉が相応しい位に綺麗」
「でも、気を付けないとな、怪我したら奇者に襲われるぞ」
「...あぁ」
「まぁ、其れはそうとして、如何する?あの大通りへ戻るか、もう少し此の大自然へ赴くか、私は何方でも構わない」
「...」
...数分後...
「ちゃんと飛べよ!!」
「お前重いんだよ!!」
大空を翔る一つの者達。
大翼羽搏かせ、曇の壁を避け翔るはイデナ。
服の肩を摘ままれ、一緒に飛んで居る。鋭い風が全身に大きく当たる中、鋭い容の一つの山の方へ行って居る。不安定に小刻みに揺れ飛ぶイデナの大翼、徐々に顔を近づけて来る一つの山。風切る音が響く中で、大自然の光景が其処には映って居た。
「あ~疲れた」
「はい、お疲れさん」
鋭い槍みたいな山の頂。
低い叢と大岩が群がって居る、見晴らしの良い処だ。此処も下も緑が広がって、碧い風に靡かれ、雲は蠢き棚引いて居る。
「良い景色だな」
「そうだな...」
腰を軽く摩りながら佇み、山下の景色を悠々と眺める。人気も極端に薄く、その代わりに狂気的な異端者たちの視線を感じる、食人だけしか脳内に無い単色者達の熱烈な誘惑。単身で魔物が蔓延る処に突撃する馬鹿は居ないが、魔物を■害する奴は普通に存在する、ミュハーンと言う存在が。シャツの空いた袖の隙間、銃口が顔出して居る。
「で、之から如何するんだ?」
「一族を探したいけど...」
「手掛かりは?」
「全然、貰った手紙も何か何時の間にか破れてるし、其れも丁度、場所が書かれた処..最悪だよ」
「偶然的な運命の悪戯だな」
「之は、如何にかして、探り当てるしか無いでしょ」
「でも、如何やって探り当てるんだ?」
「そんなの、聞くしか無いでしょ」
「此処等の
「其れ、如何言う意味?」
「彼処、見てみろよ」
「何か有るの?」
私が指差す方、居る頂から見て左の方角。
段々丘みたいな形状の処、奇者かも知れ無い奴が居る。そして、まるで玩具の様に遊ばれて居る人間の遺体が愉快に飛んで居る。
「...」
「あんな奴等が一杯居るかも知れない」
「未だ、判ら無い、見た目こそ怪奇的でも、中身は普通かも知れないでしょ」
「めっちゃ、血飛沫凄いけど?」
「未だ...」
「血をご馳走だと思って居る様な表情だけど?」
「..未だ...」
「何なら、同類とか関係無く、此方も殺して来そうだけど?」
「よし!!別の所に行こう!!」
「其れが良いと思う」
「又、お前を掴まんと行かないのか...」
「...」
無心にイデナの大翼に生える一本の羽を千切り取る。フサフサで光沢の有る黒く小さい羽。装飾用と言うか、書物用の偽物の羽筆とは違って、凄く滑らかな触り心地。
「何勝手に私の羽、引き抜いてるんだ」
「まぁ、見てろって」
羽一本を大きな掌に乗せて、深く息を込み上げる。循環と鼓動の連鎖、掌に分布する手相と血管の二重皴が羽の下に拡がる。ブチブチと膨れる血管が羽を揺らす。其の瞬間、羽は私の掌の中に貫通する様に入る。薄く濃い白煙を濛々と上げながら。
「一体、何をするんだ?手品でもするのか?」
「だから、見てろって焦るなよ」
其の瞬間、バンッ!!と、破裂する様な音が聴こえれば、大きな煙と共に私はイデナの羽に化けて居た。
「えっ、何これ...」
「何って私じゃ無いか」
「羽が喋った」
「之なら、重りが無く成るだろ」
「ちょっ、擽るな、あっ...」
「翼に入らないと意味無いだろ、敏感だな」
「淫ら乱雑に入って来るのが悪い」
「我慢しろ」
黒羽の光沢在りの大翼に入って居る。
眼の前の光景は黒、其れだけの色の風景。
「準備は良い?飛ぶよ」
「大丈夫だよ」
「じゃあ行くよ」
そう言った瞬間に、物凄い風圧が翼の中に響く。ブブブと荒れ苦しい重音が聴こえる。
「落とされるなよ!!」
「落とさない様にしろ!!」
嵐に真正面から浴びに行く様な鋭く激しい風の濤が翼の中を蹂躙して居る。
翼は高く舞う。
隙間から其の光景を眼に焼き付けられて居る。
躍動感の凄まじい羽達の搖れと颯爽とした表情で晴天を飛び走るイデナ、いや、北鵬の顔。
「もう少し優しく飛べ」
「はぁ?!どう見ても優しく飛んで居るだろ」
「翼の中は群雄割拠状態何だよ!!」
「知るかっ!!」
「あぶねっ、落ちかけた」
「落ちるなよ、死ぬぞ」
「二度と会えないかもな」
「なら、ちゃんと耐えるんだな!!」
「之で立場逆転したと思うなよ!!」
グラグラ、ガタガタ、ブーンブーンと響く翼の中、あれだけ黒かった景色もあっという間に何か破裂模様な白光が輝いて居る。
「一旦、何処かに止まれ」
「ん?如何した?」
「何か翼に仕舞い込んだ、銃が落ちそうに成ってるぞ」
「あっ、ちょっと一旦、地上に降りよう」
・・・・・・
何処かの山の開けた処にて
「あー疲れた疲れた」
「私が一番疲れたんだよ」
「運搬機ありがとう」
「誰が運搬機だと?」
「また、乗るからね〜」
「無視するな!!...と言うか此の状況だと、私が一人で何か話してる、ヤバい奴感が半端無いな」
黒羽から白煙が醸し出て、大きく煙が出ると、バチンッ!!と音が聞こえ、本来の私の姿に戻る。
「じゃあ、之で良いか?」
「うん..まぁなぁ..」
「微妙だな」
「まるで、何でも化ける狐みたいだ」
「あぁ!?狐!?狐だと!?巫山戯るなよ、あんな、詐欺屑野郎に同類にするんじゃねぇ!!」
「おぅ、急に如何した、そんなに狐に恨みが在るのか?」
「ロヴァノリヤの童話だと、狐が狼を騙すみたいな馬鹿げた事を仕出かして来るからな、結末は狼が狐を喰らうが、詐欺と虚言の馬鹿狐と同じするな!!」
「禁句?」
「当たり前」
「不快?」
「憤慨」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続