ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
大きく鋭い爪が私の片腹を切り裂いて居た。
白襯衣が朱い私血色に染まり、如何してだろうか、痛みを感じない。
ポタポタと垂れ零れる私の血、恍惚的に微笑む様な表情をした餓えた狼。
白い紙塵みたいな雪が頬を掠める。
其れすら、関係無く、濁々と流れる血も、痛みは無くても、過呼吸な白い息。片腹を抑える其の掌、潤沢した血油色染まりに成って居る。
「解って居るんだろ?」
今迄、一言も言って居なかった、裏方が口を開く。其れも私と同じ声で、白い煙が裏方から溢れ、少し経てば、暗く朱い瞳をした私が佇んで居た。余裕そうな表情と好奇心的な瞳をして居る。
「お前はあくまで、私の模写、改竄された贋物に過ぎ無い、解って居る事だろ?」
無造作に命を手球に取れる様な可笑しい手、平然と殺作業の出来そうな恍惚孤高な表情。相反して、真実の様に印刷と改竄された偽物には本物の輝きを出す事は不可能だ。私は所詮、捏ち上げられ、廃棄される者に過ぎ無かったのだ。
「お前は、よくもまぁ、此処等、イデナとか言う相方と来たな、面白い事はしてるなぁ」
興味と猟奇的な瞳と口で私に声を突き通す。
同じ私でもこんなに違いが明確に区別出来る程に、存在感、空気感の重さが断然的に違う。眼の前の此奴は殺戮的な存在其の者だ。
其の瞬間、此奴は鋭い短剣の様な爪で、私の片腹を深く突き刺して来る。噴火する様な勢いで血が噴く。
「虚像な血だな、訳有り商品としての価値も無い、やはり、私の影として等しいお前は影に戻るべきだな」
其の瞬間、私は此奴の影に沈む様に、黒い地面に減り込む。理解も準備も全て解って居た。だが、最後に運命に従順に従う事が孤高で傀儡な私の最後の抵抗運動になのだ。
「最後くらい、何か黙り込んで無いで、何か一言位は何か言えよ、退屈に成って仕舞うだろ?」
「...」
「はっ、之が最後だと思って居ないのか、まぁ良いさ、後ろから見とけ」
沈み往く黒海。
腹部を抑えて、完全に沈んだ、其時だろうか。
一時の意識が飛び、再度、意識が戻ると、私は映画館の一つの席に深く座って居た。周りには誰も居らず、双方の席には、食料や缶飲料、酒も置かれて居た。
片腹の傷も何事も無かったかの様に無く。
先程迄、過呼吸に成って居たみたいな状況だった。すると、ガラガラと映像を写す機械が音を掻き立てながら、内容を包む白光を一つのスクリーンに拡がる。
如何やら、私もお前等と同じ、傍観者の一人として扱われる様に成った様だ。之から宜しく頼むよ。
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目が覚めた。
未だ早朝なのか、寒気と橙の丸い陽が早々と光って居る。先程に在った溜池に私の顔を見る。暗く朱色の瞳が其処には反射して映っていた。だが、水分の多い絵の具の様に、朱い瞳は黒寄りの茶色の瞳に色変わりした。
今は、此の役演じて居ないとな。
皮と厚化粧が砕ける瞬間は未だ、不明の存在。
本当の主人公と言う歪な概念、他者の都合によって描かれた偽ドミトリーな者寄りも、本物が出て来る様な状況だ。
そうだ、本当のミュハーンにして、彼奴が裏方と呼んで居た者だ。
まぁ、急な文章変革は無いし、其処まで演じる役の変化は無いと想え、急的な変化は、
本性を完全に明かす事は未だ無いと思う。
其れに安定した状況に成ってからの方が良いと思うし、此処は平然を装い、狂気を嘘に調合して、無差別に殺人した、馬鹿者と違って、食品の様に、厳選した人選の籤で命の処断を決めてるし、貧民に手を掛ける事は無いし、男女でも子供でも、煙死出来る程、冷静なのが私の取り柄だ。
其れにしても、一話から改竄されて居る。
両親が遠くへ逃げろ?官憲が文字を教えた?イデナとの出会いも違う。真実を改変しやがって...両親から愛情も無く、虐待の狂愛なら感じたし、単なる今までの感謝をしただけだし、誤った
本当の
長々しい説明は之位で十分だ。
今はこんな嘘の瘴気に満ち溢れた
此処から本編と言う事でも無いが、少しは歪な事に成る事は間違い無いな、お詫びは翻訳者達に請求してくれよ。
今は早朝。消えて微かに煙を放つ焚火の跡。もう一つの倒木の長椅子には、イデナがスヤスヤと眠って居る。重々しく落ちる金属の様に欠け地に果てる月、相反して表舞台で華麗なる光りの舞を披露する陽。
「良い朝だな...」
ずっと翳に潜んで居た者だから、新鮮味が存分に感じる。
慣れた手付きで煙草に火を点ける。朝一番の煙草は一番舌に刺激が感じて美味しい。
服に着いた汚れを払い、大きく紫煙を描く。彩雲では無いが、色鮮やかに写る現実の世界の色が懐かしい。
「うぅん、あぁぁ..朝か...」
「おはよう」
「あぁ、おはよう、ミュハ」
萎びれた過去の新聞紙をクシャリと丸め、火を点けて、再度、火を焚く。
燃え盛る新聞紙、大々的に掲げられる見出しに刻まれた太い黒字のロヴァノ語。
直ぐに灰色に染まり、直に煙の一色に成って、天に昇って行った。
石を積み上げて、薄い天板、鉄板染みた平らな石を置く。
簡素のフライパン擬きだ、私がズボンの方の
フンッ!!と少し血管に膨らむのと同時に掌に乗る珈琲豆が粉々に成り、水泡が白濁色に成る程、瞬時に沸騰した。水の入れる蓋から砕いた粉の珈琲豆を入れる。そして、
茶色に濁る水、其れと同時に珈琲特有の芳醇で香ばしい匂いが漂って来る。
持ち手の部分を熱さとか関係無く、軽々と持ち上げ、開いた蓋から薄々しい蒸気が淡々と棚引いて居る。持って居ない方の手を再度、ズボンの
弱火に成った焚火の上に二盃を置き、珈琲が入った
朝の珈琲も又、美味しい物だ、少し溢れ掛けたが、何とか丁度良い位に淹れれた。
「はい、珈琲、冷める前に飲んだが良いぞ」
「あぁ、ありがとう」
凄く眠気が顔に張り付いた様な表情で、湯気の溢れる珈琲を啜る。
私もコクコクと珈琲を身体の中に流し込む、やっぱり、美味しい物だ。
水と言っても、少量の酒を混ぜた奴だったかも知れない...珈琲の味に酒の癖味を感じる...まぁ、其れは其れで良いか。
時間は少し過ぎ……
「其れで、何時に成ったら、一族の元に着くんだ?」
「其れは私が一番知りたい事だよ」
「手紙は一番の重要な部分が破れ、何処かも解らない未知な所に居る、詰みに等しい状態だな」
「...」
「本当に如何するんだ?選択によったら、普通に死ぬ可能性も否めないぞ」
「ミュハの言ってる事も解るよ、でも、私の勘の羅針盤は、こっちだって針が刺してるんだよ」
「左右にゆらゆら揺れてるんじゃねぇのか、其の針?」
「そんな直ぐに見つけられるのかも解らないんだよ?」
「早く見つけて、ちゃんとした床か寝具で寝たい物だ、背中が痛い」
「...」
……
深い深い森の中、ようやく、真面に会話出来そうな
見た目は翁な爺。何かの文字か模様の入った仮面を被り、僅かに長く灰色な顎髭が靡いて居る。
「君達は遠い処から来たのかい、随分ご苦労な事だねぇ」
「そうなんだよ、其れでね、行きたい処と言うか、或る一族と言うか人達を探して居るんだ」
「んっ?其れは何だい?」
「泉と言う名字の天狗を知らないかい?」
「泉....あー、聞いた事は有るねぇ」
「本当かい?其の人達に用が在ってね、地図を無くしてね、困ってるんだ、何処かに有るか、教えてくれないかい?」
「良いぞ、今居る所から左を向いて、少し歩けば、少し整った山道に出る、其の道を上に辿ると着く筈だよぉ、途中、菩薩や祠が在るから、其れが確認に成る筈だよぉ」
「教えてくれて、有難うね、行って見るよ」
「そうかい、旅の幸運を祈るよ」
「...有難う」
そうして、左を向いて、歩き出す。
五分もしない内に確かに整った山道に出る。
「本当の事だな」
「じゃあ、此の道を登れば」
「ようやく、辿り着けるかもな」
...飛べば良くね...?
まぁ、良いか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続