ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
雰囲気の有る季節が彩が咲く乱れる山道。
路には木の実が転がり、早くも落ち葉が悠々と小さい絨毯の様に敷かれて居る。
クシャクシャと其の道を踏み越える革靴の音、葉の囀りが聴こえる。種類も知れない樹々の垂れ幕を払って、道を歩む事、数分の所、石像が数体ポツンと佇んで居た。未だ新品な藁で逢われた円柱型の帽子が被されて、手前に置かれた石の器には新鮮な果実が置かれて居る。之が菩薩って物か...
此の山道で間違いは無い。
その後も上へ上へと昇る、急勾配で畝々とした路を渡り、路沿いに少し大きな澄んだ河と立派な滝が見えて来る。取り敢えず、一旦、此処で休憩する事に成った。
(其れにしても、奇怪な所だな)
ロヴァノの環境とは一味違う処だ。空気に重みを感じるし、水も何か柔らかく感じる。不思議な感覚だ、御伽噺にでも出て来る、異境の國みたいだ。自分達とは違う環境で文化で戸惑うみたいな感じで、面白い。
白い石の滝下に拡がる川、浅くて、靴と靴下を脱いで、素足を川の中へ突っ込む。
微妙に冷たい。いや、正確には、皮に足が浸かって居ない、煙だから水に触れたら、脚が儚く消える様な状態なのだ。滝の水飛沫が頬に着いて、冷たく感じてるだけだ。
「長閑な風景だな」
「そうだねと言いたいけど、其れどう言う状況?」
「気にするな」
「えっ、凄くに違和感しか無いけど、浸かってるの、足?もしかして、浮いてる?」
「浮いてる」
「えっ、其れで空とか飛べると言うか、もっと高く浮かないの?」
「其れだと、焚火とか煙突から出る煙みたいに、煙が長い様な処じゃないと出来ない」
「一応は出来るんだ」
「でも、無風じゃ無いとかなり位置が変わって浮く事にも成るし、実用性とか汎用性は皆無だけどな」
「そうか...」
其の儘、岸へ出る。
そうしたら、素足がモクモクと出て来る。滑々とか白い雪な肌みたいな事でも無い。
ズボンよりも少し長く薄くモサモサとした体毛が食み出して居る。靴下を強く引っ張る様に履き、靴を強引に入れる。足が少し軽く成った様に感じた。
また、山道を歩む。
少し
吹き抜ける山風が樹を靡いて、路に葉の小雨、僅かに土が砂の様に吹き飛ぶ。
翳に包まれた時に染まった影色が僅かに、軽く、浸かる濁り銀の髪。
「...あれじゃないか?」
遠くに見えるは大きな山門。
其の大きな門の中には、長閑な建物の羣れ、所謂、集落と言っても良いだろう。
寂寞な雑木林とは違い、向こうには、榮の刺激臭が漂って居る。だが、容易には、山門を通る事が出来るのだろうかな、此の気配、門付近に何か警備兵か知らないが、誰かが居る。敵か味方かはそんな事、解らないが、警戒はした方が良い。
「あそこに一族が居るのかも知れない...」
少し興奮と興味が占め現れた様な表情で山門を見つめるイデナ。
対照的に私はズボンの
取り敢えず、掌や服の袖の隙間に煙に化けた武器を納める。
淡々と山門が近づいて来る。殺す事は辞めて置こうか、下手したら、面倒な事に巻き込まれる可能性が高いし、信用が崩れるだろう。
そうこうしてる間に、山門に到着した。
其の時だろうか、門の向こうの方から二人の翼人が出て来る。
瑞穂と泰西の混じった服装で、刃の長い様の鞘だが、服装の一部に既視感を感じる。
見た目はこそは、独特だが、体格は私やイデナよりも低い。
「此処では視ない顔だな、此処は
「あー、少し聞きたい事が在ってな」
「ほう、何だ?」
「泉北鵬と言う人物を知って居るか?」
「...何故か、其方が其の事を知って居る?」
「隣に言ってくれ」
当たりだ。私はイデナもとい北鵬の方に指を指す。
「信じて貰えるかは解らないが、私が其の泉北鵬なんだ」
「...はっ?」
「証拠として、手紙も有るんだ、ほら」
何通もの手紙を手渡す。
古臭いそうな紙質の手紙で深々と手紙を読む二人の警備兵?
「もしかして、本物か?」
「俺らでは解らない...」
「泉様の所まで連れて行くか?」
「こんな怪しい奴を入れて、もし何か起きたら、俺らも責任取れるし...」
「一旦、俺が此の手紙を持って、泉様の所まで行って来るよ」
「じゃあ、俺が此の二人を見張って置くぞ」
「じゃあ、俺は之持って行ってくるわ」
小話みたいに話して居るが、私は聞こえが鋭いんだ。
会話は刻々と読み取られて居るぞ。
「其処の二人、少し此処で待機してくれ、本当に北鵬様なのか、確認しなければ成らない」
こうして、数分の待機時間が産まれる事に成った。正直、何もする事が無いから退屈の一点張りだ。其の辺の雑木林を眺めるか、山門の奥に拡がる街を虎視眈々と眺める位しか無かった。対して、イデナは何か警備兵と話して居る、何か弁明でもして居るのか、証明でも必死にして居るのか、せっせと慌ただしい仕草で会話を弾まして居る。興味の無い事だな、でも退屈だな。
十数分は掛かったかな、もう一人の警備兵が戻って来る。そして、ゴニャゴニャと潜んだ声で近耳で話す二人。そして...
「お二人共、此方へ」
其の言葉に従って、山門を潜った。
榮の匂いが鼻を突く、段々丘な水田で作業する者、木造の瑞穂文化の建築群。淡々と土を踏む音に流れる河の音が聴こえる。河沿いの路を歩む、少し近代的な服装をした奴も多少見るが、其れでも異境感が半端無い。
河沿いの路を越え、短い畝々な登り路を登れる。閑散とした自然と近しい集落の風景にしか見え無い。そうして短い登り路を越えたら、又も大門が表れたが、門は大きく開いており、其処から立派な屋敷が鎮座して居た。門の入り口、焼杉の厚い表札に白字で泉みたいな角々しい字の板が掛けられて居る。
「此処が...」
大門を潜り、綺麗に整った石畳の径。
背後には視えはしないが、兵が佇んで居る様な気配がする。
...あっ、これ、少ししゃがんだ方がすんなり入る感じの玄関か、面倒だな。
誰も居ないのに、勝手に扉は開き、靴を脱がされ、無駄に広い屋敷の奥地へ行かされる。中庭の見える長廊下、紙品質の模様付きの引き戸、小さい中庭、畝った樹が一本静かに佇む。そんな長い廊下の先、一つの大きそうな部屋が目の前に現れる。
「此の中に、泉様もとい、北鵬様を持つ者達が居ります...どうぞ、ご自身でお開けください」
「私の連れは入れても?」
「どうぞ、ご自由に」
「...開ける準備は出来てるのか?」
「...大丈夫、襖だから、引いて開ける、引いて開ける...」
「何だ、万全か」
被って居る獣人用の大きなハンチング帽をクイッと直線に向け、服をササッと手で払う。此の引き戸も私よりも若干小さいから、しゃがんで入らないと行けないのか、此処等に来て、段々、不便に感じて来る、私の身体の大きさ。
「よし、行こう」
引き戸を大きく開け、中に入るイデナ、其の次に私も入る。
濃い漆色の模様の彫られた
「...写真通りの顔、本当に貴方が泉
「はい、私が泉北鵬です、其の写真は大分前の写真ですので、多少の変化は在りますがね...」
「いえいえ、之で本物と言う事が解りましたので、其の後ろの巨大な狼女は?」
「私の相方です」
「そうですか、中々の巨体で凄く迫力の有る方ですね」
「其れは褒め言葉なのか?」
「ふふ、私としては褒め言葉のつもりで言いましたがね...」
「おう、そうか、ありがと」
「かなり、さっぱりしてそうな人ですね、自己紹介が遅れましたね、私は
「成る程...」
「私は、ミュハーン・ゼムリャツキ。イデナもとい北鵬の相方さ」
「ミュハーン...面白い名前ですね、本当に異国の者なのですね...」
「私は正確には半分ですが、ミュハは完全に...」
「異国の人だよ」
「まぁ、お二人共、宜しくお願いします」
「宜しく」「宜しくお願いします...」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続