ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
翌日の早朝。
橙色の耀きが叢雲の隙間処か、全体を薄く輝かせる程に燦々と照り付いて居る。其れと同時に朝の寒風轟き、樹々靡く。朝一番に洒落込む様に煙草を吸うのは私だけ。曙の芳醇な焼け匂いが漂っては、煙草の煙と燃ゆる匂いに塗り替えられて居る。誰も起きずに眠気の吐息が背後からすうすうと聞こえて来る。相反して、嬉々として囀り啼く禽の聲、自我持つ様に揺らし靡き楽しむ風の噴き。
「全然、起きないな、此奴等...早く朝食が食べたいなぁ...」
勝手に人の家の台所で食料漁る事何て失礼極まり無い事だ。だから、こうやって、外を眺めながら、一途に吹く風やら囀りとかの自然に大いに触れて時間を雪
(ちょっと、外へ散歩にでも行こうかな)
静かな足取りで長い廊下を渡り、玄関へ行く。
誰も居ない静寂極まる家内、玄関に行けば、一際目立つ私の大きな革靴。
履くのと同時にズボンを中に入れ、堅く紐を結ぶ。
ガラガラと戸を開けて、外へ出る。
未だ陽も光りも弱く、橙色から朱色に成り掛けて居る陽を横目に適当に徘徊し始めた。巨体で一歩一歩の歩幅も大きい事も相まって、風景の移り変わりも劇しい。此方の建物は面白い、焼いた木材を使って壁にしてたり、何か近代的な建物も並んで居て、混同的な風景と成って居るからだ。儀の様に私達と似た泰西文化の服を装って居た様に、建物にも泰西的な奴も在れば、此処の文化の面影も有る建物も有る。だが、早朝で誰も居ないし、人気も薄く、私だけの孤高状態に相応しい。
何か気配は感じるんだけども、姿容は一切見えない、そんな感じだ。段々丘な畠に濁々と荒れる様に流るる澄んだ河、清閑に佇む民家や施設。舗装はされては居ないが、或る程度に丁寧に整った土径が雰囲気を醸し出して居る。径の上には、巨体な
「本当に誰も居ないな...其れにしても、静かな所だな、まるで誰も居ないみたいだ、まさかな...」
今が何時かは知らないが、流石に早い時間帯だったかな?まぁ、良いか。色々な径を歩いて廻って行く。両端に芒みたいな艸の群が生ゆる叢の径、農具がカランと置かれる畠の径、哀愁さが十分に薫って来る。体感では一時間は経過しただろうか、そろそろ、家に帰ろう。
儀の屋敷への戻る最中、一本に大きな楠が立って居る処に立ち寄った。まぁ、軽く休憩する為にね。誰も居ないと思って、隆起する樹の根の椅子に足組んで座った。其の時、上の方、誰かが私の後ろ、音一つも立てずに迫り来る。其れが敵対行為なのか、将又、違う事なのかは解らないと思ったが、迫り来る気配と同時に鋭い刃物の冷酷さと殺気を背後から感じた。
私の
「何しようとして居るんだ?」
背後を視る。
其処には血飛沫の代りに、煙が液の様に垂れて居る私の身体をマジマジと鋭い瞳で見詰める、白髪搖れる
見詰め、私の身体を貫通させて居る、其の刃物を直ぐ様、バサッと抜いた。其れと同時に私は何時も通りに作業を始めた。刃が抜かれ、私の大きな手が其奴の首根を鷲掴みにする。
武器を手放し、必死に掴む手を払おうと悶え苦しみながら、口から煌々と陽に当って、反射する唾液の似非光沢。私の大きな手を前にして、其の小さな手で引っ掻いたりする事も儘成ら無い程に息と視界が霞んで来たのだろうな。
流石に、此処は手加減した方が良いだろうし、残念だけど、此処迄か、首根を深く掴み締める、大きな手をパタッと瞬時に離す。深く咳き込み悶えて居る。そんな事、お構い無しに私は、此奴の武器を触る、鉈型な剱。打撃で一気に斬り崩すみたいな感じの武器、持ち手をしっかり握り締めて、思いっ切り振り、樹に減り込むに斫る。
ギリギリ、蟀谷に入るか位の近さ、引き抜くのに時間掛かる位に減り込む武器。悶え怯える姿を横目に、淡々と屋敷へ戻る。やっぱり、奇者って奴は大胆不敵で何が何だろうが、手に掛けて来るんだな、気を付けないとな。
袖口の隙間、拳銃が顔を覗かす。
薄い硝煙の様に募り積もる露、枯れ色肌の雜草、捻くれ育ちの樹々の
モクモクと歩く私と晴れ散る叢雲の軍勢。
最後に掲げられる旗は、丸い朱の陽の旗、煌々と飜えり靡く燦の豪雨の矢、日差しが囂々と降って来る。自前の渋柄渋色なハンチング帽を少し前に向く様に弄りながら、屋敷の佇む石畳の路、小早に歩く。サクザクと小石床を踏み進み、冷酷非情な北風擬きが流れ吹く。
ガラガラと玄関を引いて、靴を脱ぐ。
長々とした廊下をギカギカ唸らせ轟くは私の
何度も感じる哀愁が
懐かしいなぁ...
結局、そんな思い出も今と成ったら、貴族の嗜好品の様に高値な平穏に過ぎない。
今の
...結局、戦火やら、今までの薄汚い生活を打破する様に、祖国から
一族皆殺しにしてるし、実質的で直接的な被害者は天か土に飛ぶか埋まってるし、惨劇と称す様な事では無いだろ。自分か自分に関する事や人達に被害が無い限り、関係無い事に過ぎないんだから。別にお前等を殺しても、何か得る物が在るか解らないし、採算が取れない可能性も否めない。人間が嫌いとか同じ、
「如何したんですか?そんな暗い顔をして、何か嫌な事でも有ったんですか?」
確かに
「腹減って、調子が狂ってるだけだ、未だ朝食も出来ないのか?」
「未だ早いですよ」
「未だか...」
「もうお腹空いたんですか?一杯食べそうですし、作るのに時間掛かりそうですし...」
「...何か食べるでも無いか?軽い果実でも菓子でも、何なら飲み物でも良いからさ...」
「じゃあ、菓子持って来るんで、さっきの部屋に戻ってください」
「おぅ、ありがと、じゃあ戻ってる」
何か悪戯でも企んだ様な瞳をして、何処かへ行って仕舞った...
まぁ、良いか、取り敢えず、部屋に戻ろうかな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続