ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
悲しみの夏は往き、我が思い燃え上がる。
数日の時が経て、秋の息吹が高々と靡く様に成った。草木から朱染まりとなった老葉が雨の様に降り落ち、其処等の径の端に咲く花も埋もれて仕舞った。其れ位、秋が力を悠々と降り注いで居るのだ。
あれから、イデナの一族が儀の屋敷に来たが、一族の数は想像以上に少なかった。皆、イデナに嵌まる様に見惚れて居た。身長も私より遥かに下だが、彼女等から見れば、巨体で豊満的に見えるのだろう。本当はそんな事も無いと思うがな、集落を歩けば、私もイデナも何時も一直線上な視線の的で、其処に壁が有ろうが出て来る。其れ位、或る意味、有名人の気分だ。
「其れにしても、長閑な処だな」
「そうだね」
屋敷と叢がる住宅地帯には、何も無い。
雜草が占める小平野に寂寞に佇む樹々くらいで、高低差の其れなり有る為、より一層綺麗に山岳が斫られ、裂いた傷の様な処から見える山の景色。
「最近さ...」
そうイデナが世間話の弾丸を放つ前の装填の言葉。
悩み話が最近の日課に成って居る。イデナにとって、此処は或る意味、故郷では有る。然し、馴染みも無い、遠い國を故郷と言えるか?本格的な文化を前に、教わった一部の文化では太刀打ち出来ないし、私は此処に何も思い出も無いのに、如何すれば良いのか?経験者みたいに問て来る。煙草みたいに煙らして、何時も難を逃れて居るが、其れでも、何時までも逸らしても、真実的な回答を求めて来る。其れに少し腹が立って来る。表面の仮面が剥がれて欠けて居る。溜池の水面に反射する私の顔の瞳は、刹那に暗い朱い瞳をして、直ぐに黒みたいな茶色い瞳に戻り変わる。
彼女の思うミュハが少しずつ、本当の私が剥がれて来る。だから...
少し、息抜きに趣味的で刺激的な事を少し見せてやるよ。
何時も目立ちたがり屋な嫌いな月が今夜は都合の良いの様に、新月で私は嬉しい。
寂寥な空気が柔らかく包み込む、屋敷外れの遠い処、食人と共食いの思考回路しか刻まれて居ない能無しに等しい馬鹿な奇者が葉の様に塗れた杜の中。人間や奇者の欠けた死骸の一部が平然と転がって居る。蠅が昂り、死臭の香水が降りかかって居る。そうさ、此処に人権と言う物は無い、弱肉強食で自由な夜の世界に過ぎない。
星光に照らされて、白光を燈す、偽クォデネンツの刀身。
そりゃ、色々な人達の解体作業で培った怨念と穢れで磨かれた鋼の刀身だ、本来は両手剣の役割を片手剣で補って居るし、私が滅ぼした貴族の末裔の一家を襲撃して、強奪した時に得た地域伝説の品だ。品質も申し分も無いし、切り味も悪く無い。救世の伝説は血の伝説に成った。
ほら、私を狙って、能無しな魔物もとい奇者は来たよ。
一つは大きな白毛の魔獣で、もう一つは多腕で血に染まった武器や腕をした異形の存在。言語では描写も表現もしにくい、声を放ち、私を血染めにして来る。いや、面白いなぁ...
「はい、終了」
目の前には綺麗に多腕から人間染みた二本腕に進化した異形、滝な出血で像みたいに成り、白毛は判子を連続的に押す感覚で剣を抜き刺し繰り返して居る。今回は商品では無くて、単なる日頃の疲労の発散に過ぎない。何時もならこんな派手に殺す事何てしない。煙で首絞め同然に処理してからじゃ無いと、風で消える灰の様に、証拠も存在も事件の発生も君の記憶も煙の様に白から無色に還る事出来る、煙と年月で。
「ソレ、タベテイイ?」
樹々の隙間を縫って、別の奇者が出て来る。今度は意思疎通も出来そうな人型な存在。羨望な瞳で此方を見つめて来る。
「別に食べて良いよ」
「ホントウ?」
「良いって」
「アリガトウ!!」
そう言うと、私が疲労発散目的で処した二つの骸を群れる蛆と蠅の様な勢いと、野生な口先で、本能の儘に、肉骨を抉り、血を吸って、猥らな姿にして行く。大口で一瞬にして、もの数分で骸は空に等しい状態に成った。
「オイシカッタ!!」
「其れは良かった、私に感謝は?」
「アリガトウ!!」
「おう、可愛いな」
「ホントウ?」
「ああ、可愛い」
「ウレシイ!!」
バンッ!!
もう片手に握られた拳銃で目の前の物の脳天目掛けて、撃ち込むは鉛の弾丸。
序でに、撃たれ、斃れる瞬間に、私の剣は、其奴の中心核の心臓目掛けて、突き刺して居た。
「之でもっと可愛く成ったよ?」
「...」
「やっぱ、褒めて落とすのは良い物だな」
骸を無視して、死体を関係無く、踏み越えて、杜の中を歩く。
色々な奇者に出会っては、初めての会話の勢いの儘に力が溢れて、剣が真っ先に相手を斬り付け、無残に死ぬ。狂気を語る、或る意味、痛い人物像を想像して居たか?まぁ、そんな事は無いか。
権利も無く、官憲共に捕まる心配も無い。
其れなのに、豊満で商品的な価値も普通に有る奴等が津々と来る物だから、楽しいね。お陰で服に返り血が凄まじく飛んで来る。もう藝術と言っても過言じゃ無い。球を投げる様な勢いで剣で片腕ふっ飛ばしたり、煙で泡吹く位に悶えるのを観察したりして、好きな新月の中を、存分に観光する様に楽しんだ。
小河の水面に映る私は、朱い瞳をした、本当の私。
胡桃割り人形の様に命を砕き、白鳥の湖の様に儚い雰囲気を包んだ命に呪いを掛けた。氷上や舞台の上を舞う踊子の様に可憐俊敏に命を狩り、
特に狐は、要らないし、細かく解体する。
私を裏方と言う存在にし、翻訳家とか言う悪魔を召喚した、愚か者だ。
其れのせいで、何十話も私の仮面を着けた贋物な私が、物語を牽引する羽目に成って仕舞った。童話と同じで、狼は狐に嵌められた訳だ。復讐は既にしてる、私の腸で原型も無く、融けてる。
「あーあ、もう之位にして置こうかな」
無言に黙り込む、奇者達。
身体の何処かが銃か剣で飛んで、無様な死に方をして居る。
具体的にお前等の世界の言葉で言うと、「1808年5月3日、マドリード」の静かに眠る屍みたいな物が山道に玩具の様に散らかって居る様な状態だ。邪魔だ、こんなに上下左右に高低の激しい山道は初めてだ。
「邪魔だ、退け」
骸を蹴って、強引に径を整える。
径を辿って、またあの小河に辿り着く。冷酷に流れる河を眺めながら、一服。
水面に反射する星空の点々な釦の星々、嬉々とした瞳をした私、久方振りに爽快な事をした。月に一度の趣味程度で今は良いか。
着いた返り血も口から紫煙を吐くと、全体を包み込み、何時しか返り血等無かった様な状態に戻った。山の中の魔物って事も相まって、野蛮の刺激的な味わい、香辛料を直に舐めた様な味、之は賛否の別れる血の味。吸血鬼の個人差で決まる、血の専門家みたいな物だし。まぁ、居ねぇし、死滅したんだったな。所詮、蠟燭の溶ける蠟みたいな奴だった訳だな。
滴る小波の河の流れを其の大きな手で波を解いて、掌の盃に注ぐ澄み色の水。河の上に平然と靴で河中を入る。冷たいだけの感覚しか無い。上を眺めれば、無数の星々の煌めきが、陽の様に
狼人間とて、満月に狼に成るとは思うか?
新月なら人間で、満月なら狼にでも成るみたいな偏見に惑わされて居ないか?
「そうか...」
月と言う存在が居ない限り、星達が一番の表舞台の主演で有り、滑稽な光りの舞をして居る。其れが一番の醍醐味何だ、そんな満月じゃ無いと、狼に成れないとか言う泰西の諸国の童話が出典の妄言は、此処では関係無い、いや、私には関係の無い事だ。
瞳は空を蠢く星に目を惹かれて居る。自然と煙は溢れて、霧の様な位に黙々と出て来る。二つ地上の赤星が煙の霧の中で異彩を放ち、急激に煙は晴れ消える。そうして、晴れた霧煙の中から現れたのは、巨大で濁った銀色の毛並みをした狼一匹で、額に/の傷が付き、暗く反射もしない朱い冷酷な瞳が水面に反射して、異端な色みたいに成って居る。
そんな美麗な白毛でも無いし、殺意だけの赤で染まった訳でも無い暗い朱い瞳。
巨狼とて神話の獣でも、逸話や伝説の華と勲章に飾れた存在でも無い無冠に相応しい狼の一つに数えられる様な物だ。
秋風索漠な杜の中に流れる小河。
白兵戦でも起きたのか、群がり血を流す死体の羣、外観も年齢も知らないし、喧々囂々な断末魔も凪いで、静寂や寂寥でも無い神秘な静けさが広がって居た。今日はこんな物で良いか。
杜を抜けて、何時の間にか、人間寄りの外観と戻り、平常を装うミュハーンを演じる。今日は楽しかったなぁ...
もう一度見上げれば、夜を駆ける星が煌々と輝いて居た。
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続