ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
私は少し遠くの方で、其の様子を見て居た。
焦り慌てる住民達が野次馬の様に、其の光景をまじまじと見て居た。眼の前には10匹が武器を掲げて居る。然し、上の方、未だ未だ居る。棚引く叢雲の仮壁に隠れて居る兵が居る。数で言えば、此方側が不利。然し、泉側の兵や住民以外、私の存在を認知して居ない。つまり、私が奇襲でも仕掛けて、撃退出来れば、勝利の硝煙が舞う事に成る。
「別に殺さなければ良いのだろう?半殺し程度の力加減で命の別状は無い程度の軽い怪我済まさ無いとな、下手に殺せば、私にも害が生じて仕舞うからな...」
臘月の紫煙な吐息。
其れが私の本性の息吹にして、大衆の目を向かす狼煙の一つでも在った。泉の兵は20程度、泰西文化に傾倒し、染み付いたので在ろう、近代と言う言葉が相応しい装備を携え、凛々しく佇んで居る。歪んだ空気感が其処に普通と正常に彩られて流れて居る。其れを狂気や違和感で済ます事なのかも解らない。唯、そんなに時間を掛けて、戦の火蓋を切らないのか、火蓋が枯れて萎むだろうが、中々に怠けた者達の様だ。袖口から開戦の一弾は直ぐに放てるのだぞ。
然し、そんな事は無かった。
睨み合う双方の軍隊は、ものの数分で瓦解した。いや、何と言えば良いのかは、解らないが、中途半端に睨み合って、戦の火蓋を踏み潰して、其の儘、和の服を着こなす兵共は何か折れたのか、聞こえなかったが、捨て台詞でも言って、何処かへ行って仕舞った。何だよ、詰まらないな、途中から物語方式の演劇でも視て居る様な感覚だ。何だ、此の國では、見つめ合って折れたら負けな意味不明な勝負が理なのか?
「之も馴れない異境の文化の一つなのか?だとしても、私も此奴等、もとい、お前等も全く状況が精確に掴めないだろうが...」
本当に何だったのだろう。まるで無駄と言う言葉に過ぎなかった。殺すなら、殺せ。こっちは言葉巧みに話して、状況を切り抜いたと言うのに、まるで水泡に帰ったと言わざるを得ない状況だ。そんな柔な感じなのか、此処の兵士と言う者は?兵士ごっこをする貧相な子供みたいな事をして居る。私は腹立たしく思って仕舞う。独裁者ってこう言う時に使うのだろう、粛清を。
歯と歯の隙間に物が詰まって不快に思う位に歯痒い苛立ちを覚えて仕舞う。何だろうか、何時もよりも怒りの噴きが勇ましく感じる。其の日の調子で狂う時は有るが、腹の底から苛立ちの溶解液が噴き出るのは、逆に面白い。
静かなる足音を弾ませ、何時もの森へ誘われる。畝々とした年輪の刻まれた樹々の剥げた天幕に淡柔らかく触れられる様な感覚の中を切り裂く様に行く。耳に削ぐ様な駒切の風が吹いて居る。握る拳、力の入れ過ぎで朱く夥しい程に染まって居る。青い血管も陽気に小さな山脈みたいに成って居る。
「クソがッ!!」
歪な弾道線を描く左拳の殴り込みが、一つの樹に減り込む。
グギバギと音を立てて、きっぱりと刻まれた私の殴り跡、煙草の根性焼きみたいに丸な跡が樹に入って居る。或る意味、藝術的にも見えて来る。手の甲、飛び出る骨の部分に樹の粉が付いて居る。フッと軽い息で吹き飛ばす。
「此のッ!!」
今度は右足で思いっ切り、回し蹴りをお見舞いする。
鋼の様な光沢が僅かに見えた私の脚、瞬間的な速度は収まる事を忘れて...
バゴンッ!!
まるで砲撃でも起きた様な音みたいな囂々しい音が杜に響き渡る。
足枷が外れる様に怒りの鎖がバラバラに錆びれ切れ、解放された様に感じた。
蹴った所が思いっ切り、丸く湾曲して居る。よく、私に耐えたな。じゃあ、祝福の意味を込めて、伐るね。
「あ~、すっきりした...帰るか...」
薄く吹かす煙草を銜え乍ら、屋敷の帰路に着く。非情な煙草の紫煙が上へ上りながら、私は屋敷へ辿る、無一文な樹々の枝の天幕が張られて居る。地面も白く成り、冬の息吹が怱々に姿形を現わしつつ有る。まぁ、関係の無い事だ。時間も季節も立ち止まってはくれ無い。逆に嘆く方が秒針にも置いて行かれる冷酷で寒風が有れる冬の一時。
私は何をして居るんだろうな...
「蛇足的な展開だな...」
こんな奇者と言う処が居る異境から早く出たいと最近思い始めた。何か良く解らないだよ、中途半端で即効性の無いに等しい戦擬き、見慣れ無い、意味不明な掟に伝統。悪習的な藝術だけが其処には根深く張って居るだけで、何かこう言う事が楽しいみたいな事が一つ二つに比べて、楽しく無いが五つ六つ位有るから、逆に知らない辛さで疲労困憊の落ち葉が降り注いで来る。
「そろそろ、曖昧にして居た、ロヴァノリヤ帰国の準備始めるか」
お前等は戦争が起きる処へ行く者を如何思う。其れが戦争に巻き込まれ、貧困生活を送って居る、現地人の支援等だったら、其れは良いと拍手や賞賛すると思う。然し、例えば、其れが旅だとしたら、お前等は批難や批判の銃を放つだろう。然し、其れで死ぬのは、其奴の責任だし、妖しい事を犯さない限り、最低限の自由は確保されて居る筈だ。
今だって、ロヴァノリヤでは泥沼の闘いが繰り広げられて居る。其れに得をするのは、泰西諸国と知る由も無いだろう。抑制と弾圧を受けて来た民族に解放を。と言う泰西諸国は、平然と民族領や文化を踏み潰しながら、朱軍へ立ち向かう。其れで本当に平和は訪れるのか、私には判ら無い。だが、旅をして見ないと解らない。私には家族なんざ、とっくに居ないし殺したし、英雄の様に慕われる事慕う人も一粍も存在しない。然し、だからこそ、自由に旅したいでは無いか。孤独と孤高は個人と世間の様で紙一重な言葉の様に感じる。
禽獣と語る物。禽は自由に羽搏き、旅をする。獣は途無き陸を歩み、旅をする。自分と言う存在を曖昧にそして、季節の風に煽られる中を、貫き往く様に行く。旅紀な事だな、まるで運命の都合の波に流される事も数奇的な歴史に委ねられる時も在るだろう。然し、其れが旅と言う、大きな人生を賭けた博打みたいな物で良いでは無いか!!
まるで白を黒に染める様な大改竄で理不尽な事にも耐える精神力でも無いと自由な旅人の器を持つ事すら、出来ねぇよ。もう決めたぞ、瑞穂の北國はシャベリンが拡がるロヴァノリヤの統治領、泰東の最大港のヴォストダール。私は革命なんざ、如何でも良い。唯、単に変わり往く祖国の姿を蕭々と眺めるだけだし、シャベリンには一体何が在るのか、其れも知りたい。どうせ、厄介事に巻き込まれる事に成るかも知れないと思うがな、まぁ、其れが良い処の一つでも在るけどな。
「とっと、帰ろう、こんな所で長々と考えてる時間では無いな」
急いで屋敷に戻って、自室に戻るので有った...
……
其れからと言う物、時間の針が冷酷で尚且つ、一分が120秒でも有るのかと思う程の退屈さも少々と成って来る様に成って来た。真実か解らない奇者共や國人通の輩共と色々と話して居る内に、此処の彩が見えて来た。囹圄國、囹圄は
如何言う事かと言うと、此処は瑞穂國に囲まれた別國で有り、尚且つ、私等で言えば魔物が色々と人間的な生活をする異様な光景が交わる異境の一つらしい。まぁ、あの神話とかで出て来る伝説の國的な立ち位置だと想え。こう言うのを桃源郷と言うのだろう?
で、其処に何故か私等、泰西の異国の人達及び、奇者も来る様に、現地と泰西で区別する様に成り、生まれたのが國人通。唯、別に泰西人は國人通以外は住めないとか行けないみたいな事も無く、任意で自由な生活を送っても良いよみたいな状況らしい。ただ、此処の奇者は、人間だけ狙うとかじゃ無くて、同じ奇者でも共食いする事も見かけるし、奇者だから、自由的な暮らしを送れる訳では無い様だ。
結局、其の桃源郷と言う言葉通りの理想郷と言う存在も概念も、神話と言う言葉通り、本当か嘘か曖昧に過ぎないんだよね。魔法が存在するんだから、神話の出来事は存在した可能性も否めないし、何とも中途半端な進展をした世界なのだろうか。
「やっぱり、お前等の世界が色々と凄いから、此処でも落差を感じて仕舞うな...」
部屋で僅かに窓を開けた状態で、一本、煙草が燃えて居る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続