ロヴァノリヤ禽獣旅紀 —広大なる多民族國家の命運、大衆の暗く斃れる先には、何が在るのか— 作:南部 八十一朗
血族な地に着いて Ⅰ
深く瞑る瞳を大きく開く。
其処には地平線迄、果て亡く続く緑交じりな平野が淡々と拡がって居た。
何も無い単調な平野、粗悪な土径一本道だけが其処には綴られて居る。看板も無く、誰かの気配も一切、漂って来ない、孤独と言う事だけが解った。黒い木苺が生えて、微風の様に吹き荒れる寒風だけが其処にしか無かった。
「...取り敢えず、何処か街でも無いか...」
周囲を見渡しも、平原と言う情報しか得れない。
此の粗悪な土路を歩く位しか選択肢は無いのだろうな...
「...行って見るか...」
そうして、雪の小雨と風が吹き荒れる中を一人の狼女が粗悪にして、自由に等しい土径を歩いて居る。慣れた様な表情で冬の抱擁を躱して、其の渋い色の防寒具、隙間を埋めた、其の冷酷な防寒具には何の銃口が隠れて居るのだろうか?
何処かも解らない儘、大地を踏み締めて、何処へ向かう?
名前も知らない楽器が奏でる未知の文化の伝統曲でも流れる様な空気感。
雄大にして豊沃な大地が淡々と、そして広々と地平線の先端以上、果て無く続いて居る。銀色の雪を帯びた叢雲、地表に色付くは灰を浴びた雪の軍勢、冬将軍の加護を享けた十三月の産声が聴こえて来る。其の白身を帯びた灰色の獣の耳に。
何時間だろうか、延々と其の広大な平野に綴られた一本の径の玉結び点に辿り着く事も一切無く、其の巨大な平野と濁った鉛色の雪雨に晒されて、まるで、自然と言う星夜に煌々と耀く一等星の様だ。英雄や物由来の星座の称号に溺れる事も無く、無冠の一等星を貫いて、一光を燈して居る。
其の時だった。
劇しく吹く冬将軍の息吹で前も光りの無い夜景の様な状況の中、橙色の様な燈りが見えて来る。其れは、幻覚や寒さによる症状では無かった。本当に一時の希望と言う存在に始めた発見した気分だった。巨体が故に、寒風が大いに衝突し、其の防寒具も所々、点滅模様な雪が付いて居る。そんな中でも、財宝を手に入れる様な野望の様な身体の力を出して、怪物の足跡遺し乍ら、其のキボウと言う物を完全に捕捉したい。
「之が希望か...?」
其処には何処かの國の田舎の少数民族でも棲んで居そうな村だった。
円形の白布に覆われた特徴的な造りの住宅で、上には黒く鉛色の細い煙突から佇み、鉛色の煙を出して居る。扉は私よりも断然小さく、独特な模様が彫られて居る。数軒の其の独特な白い円形住宅が私の目の前には存在して居た。細く枯れた色をした丸太の柵、積もる雪の地雲。
(寒い...)
其の時、偶然にも冬将軍の息吹は途端に止み。
雨が死ぬ様に空が大いに晴れの天候に成る。未だ、白い円形住宅と私には少し距離が有る。厚い絨毯の様に積もる雪を蹴り飛ばして、急ぐ様に歩く。然し、ふと、脳裏に過る疑問。
(目の前に人が居たとしても言葉は通ずるのだろうか?)
囹圄國では、民族関係無く、文字以外の話す事は何故か出来た。
然し、此処は囹圄國では無い。つまり、ロヴァノ語を知らない民族じゃ無いと、言葉は通じない、意思疎通が出来ない訳だ、其れにこんな巨体が来たら、一見すれば、敵?と誤解される可能性も十分有る。然し、雪国慣れた私でも此処の冬は寒い。瑞穂や囹圄國の冬とは全然違う、天壌の差位は有るだろう。
だからこそ、少し温もりを感じたい。
こんな寒さだと、火も点くか、解らない...普通に防寒具を万全に着こんで置かないと、凍死とか普通に有り得る。もう四肢の先端等辺は、冷たく、感覚がかなり鈍く感じる。煙草も真面に吸えない、酒も蓋開けるのに、手古摺るだろうな。
そんな事を思いながらも、一軒の白い円形住宅に着く。
壁に耳を当てて、中から何か物音でもしないか、耳を澄ませる。
「......」
何も物音を感じない。
恐らく、寝ているのだろう。急に叩き起こすのは、失礼かも知れないし、何処の勢力で、敵か味方も解らない奴だし、警戒されそうだな...いや、尋ねよう、私が凍える。
「其処の巨人!!俺の家の前で何してやがる!!」
「!?」
地方特有の訛った発音のロヴァノリア語。
後ろを振り返れば、立派な長く特徴的な髭を生やした馬人が佇んで居る。
見た事の無い特徴的にして、伝統衣装と言っても過言では無い服装、色鮮やかにして、毛皮を纏って居る。
「...見ない顔だな、旅人か?...其れとも、革命で此処迄、逃げて来たのか?...ロヴァノ語は話せるのか...?」
「..安心しろ、ロヴァノ語は話せる」
「そうか、そうかで、貴様は何者だ?」
「私は旅人だ、だが、此処が何処なのか解らないのだ、ずっと平野を歩いて来たのだ、教えてくれないか?」
「はっ、其れはご苦労、此処はチュエツバル郡のザヴァン集落だ」
「ロヴァノリヤ?」
「いや、此処は隣国のアイラトだ、シャベリン地方の方に位置する隣国だ」
「何時の間にか私は國を跨いで居たのか...」
「アイラトとロヴァノの間には国境の柵とかも曖昧な所が多いし、跨いでも可笑しく無い」
「成る程...」
「其の様子から見て、かなり息吹に晒されたな、中に入れ、暖かいぞ」
「ありがとう」
潜る様に中に入る。
其の瞬間、本当に暖かい空気が私の頬を撫でて来る。
無骨で黒い暖炉が中央に鎮座して、色鮮やかで色々と模様が入った家具、放射状に広がる細い枝の円柱屋根、暖炉の煙突の管が直線状に一番上の屋根を突き刺す様に飛び出て、硝子でも張ってるのか、穴が開いて居るのに、雪も寒気も吹いて居ない。
「まぁ、其処の椅子にでも座ってくれや」
何の柄かは解らないが、取り敢えず、鮮やかな柄が刺繍でもされたソファに座り込む。暖かみを帯びた布が身体に浸透して行く。少し寒暖差で、指先が罅の入る様な不快な感触。何処に目を通しても、鮮やかと言う言葉しか出て来ない。
「..世知辛い世の中に成った物だ」
「と言うと?」
「お前も感じてるだろ、革命の影響、あれは単なる大国の大叛乱では無い、世界を揺るがす、一種の希望に成り掛けて居る」
「革命が?戦争で結局、もっと国土は残酷に成って居るだけにしか、感じないのだが...」
「皆、そう思って居る、だが、此の革命には、社会主義とか言う思想が主導した革命だ」
「其れがどう影響すると?」
「社会主義は王朝とか支配する國では効果の有る思想だ、何せ、階級無くして、皆で平等に生活しよう!!って言ってるからな」
「確かに、上位階級の強欲な生活も贅沢な生活も儘成らない、生活を送って居る物が大半だからな」
「だからこそ、其の思想に傾倒する者が多いのだ、何せ、此の國は産業大革命の波に乗り遅れ、中途半端な近代化しか出来て居ない國だからな、皆、其の中途半端な近代化に苦しんで、貧しい生活を送ってるからな」
「お前は?」
「俺か?俺もそうだ、俺はサランスキー=ルーシフカって処に棲んで居た、其処も不貧しい街だった、俺も貧しい平民階級だった、今はこんな何の所縁も無い此処に居るが、昔はロヴァノに棲んで居た」
「じゃあ、如何して此処に来たのだ?」
「気分だよ」
「気分?」
「俺も一応は旅人をして居た、特にシャベリンを旅して暮らして来た、此処は良い所だ、何の邪魔も無く、長閑に暮らせる、格差も無いし、亜人だろうが、人間だろうが、皆、楽しく暮らして居る、自然豊かで気分も良く成るしな」
「そうなのか」
「でも、全てが良い訳では無い、お前も解って居る事だろう?」
「そう、だな...」
他愛の会話を続ける。
互いに名前も知らない儘、会話だけが延長線上に繰り返される。
綺麗に出来た焼き土の白い盃で酒を交えても、会話をする。此の爺の馬人は、孤独なのかもしれないが、私も同じだ。ぼろぼろと話を私にして来る。会話と暖房の二重構造。
髭が特徴的な馬人から得た情報は之位だ。
先ず、シャベリンは都市と都市の距離が遠く、移動に時間が掛かる。
列車が有るが、革命で運行何かして居る訳無いし、運の悪い時に来て仕舞った。
冬のシャベリヤは積雪が脅威では無い。気温だ、日常の様に零度以下に成る。何重にも防寒具を重ねないと行けない。ウラテリンブルクよりも寒い。
次に、シャベリンは寒い影響で、戦闘が起きにくい。
そりゃそうだ、こんな寒い中で戦闘なんざしたら、凍死して仕舞うだろうな。
だからこそ、敵味方の判別も解らない状況で何処かの勢力に捕まったら、一筋縄では行かないな。危険が降り注いで来て、私の好奇心を刺激してくれる。
後、シャベリンはロヴァノ語話者も居るが、此処等はロヴァノよりも別の文化圏だから、ロヴァノ語とは違う言語で話される事が多い事。此処等で人間の生活をする処は此処、アイラトやウリャンカイと言う処ぐらいらしい。
人も少ないし、自然だけが雄大に広がって居る、一人が行方不明に成っても、気にもされない様な処だ。
体格も小柄で、厚い毛が特徴らしい。
まぁ、此処からは楽しい、辛いなんざ、して見ないと解らないだろ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続