「勇者様!魔王討伐おめでとうございます!」
「ありがとうございます…勇者様のお陰でもうおびえなくて済みます!」
「うおおおおお!勇者様バンザアアァァァイ!」
「勇者様をたたえろ!!」
「祝え!今日は祭りだ!勇者様ーーー!!」
「「「「「勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!」」」」」
「はは…みんなありがとう!でも魔王を倒せたのは俺の力だけじゃない。一緒に戦ってくれた仲間、それに応援してくれた君たちの力あってこそだ!」
「なんと…!驕るどころか我々すら労わってくださるとは……!」
「うおおお!なんと奥ゆかしい…!これぞ人間の鏡だ!」
この大陸を…この世界を支配しようとした魔王が死んだ。女神が異世界から召喚した勇者によって、強大だったはずの支配者は屍と化したのだ。
勇者は王国で開かれる受勲式の前に、この世界に来て最初に目にした街を訪れた。勇者が召喚される以前より、魔王の支配下にある魔物、王国からの放置によって寂れていた街は、魔王討伐の報を受けて一気に活気に満ち溢れた。
「まったく現金なもんだぜ、俺が最初に来たときは『余所者は出ていきな!』なんて言ってたのによ」
「まあまあ、当時は誰にも余裕なんてなかったのです。寛大な心で許してあげてください…ねえ『勇者様』?」
「言葉に気を付けろよ。お前が『勇者らしく』とか言って始めたキャラづくりなんだからな」
「そんなこと言うんじゃなかったよ…」
僧侶と戦士の言葉に、勇者はやれやれと肩をすくめて答えた。当初は信頼を得るため、なめられない程度に礼儀正しい言動を心掛けていたが、魔王を倒した今となってはそれが重荷になっていた。今や行ったことのない村にまで「勇者は品行方正」というイメージが広まってしまっている。
「今私たちの周りに防音の結界を張った。言葉だけなら崩していいぞ」
「サンキュー!さすがエルフの魔法使い!伊達に長生きしてないぜ!」
「私はまだ若い。老人扱いするな」
純血のエルフである魔法使いは、勇者とその仲間たちの周りにだけ結界を張った。外からの声は聞こえ、中の声は遮断される程度の簡単な魔法だ。受勲式ならともかく、この場でぐらい楽をさせてもいいだろうという彼女なりの優しさであった。
「お前は今までずっと気を張り巡らせていたんだからな。少しは仲間らしく支えてやろうと思ったんだ」
「ちょっおま……いきなり優しくするなよ泣いちゃうだろ?」
「この程度で勇者が泣くな……いや、やっぱり泣いていいぞ。なんなら胸を貸してやろうか?」
「やめろマジで泣く」
「もう泣いてるじゃないか」
勇者は泣いていた。世界を救えたことによる安堵の涙なのか、仲間の優しさに対する感謝の涙なのか、それらを綯い交ぜにした複雑な気持ちによる涙なのか、勇者本人にも分からなかった。
「……今思い返せば…危ない橋を渡ってばっかりだったな」
「勇者らしく困っている人を助けまくってましたからね」
「助けた人に騙されたりもした」
「どっかの誰かがお人好しだったせいでな」
「お前たちがいてくれたから俺はまだ生きてる」
「それは私たちもそうだ。お前がいてくれたから魔王を倒せたんだ。……本当にありがとう」
「やめろよホントに……これ以上お前らを好きになったら
「えっ……勇者様……?帰るってどういうことですか?」
勇者は一瞬で涙が引っ込んだ。勇者たちの背後に、結界の中にいつの間にか子供が立っていたからだ。
「おいおい…結界が破られた感じはしなかったぞ?どういうことなんだ?」
「……私の不手際だ。どうせもう襲撃されることはないからと結界の設定を出入り自由の簡単なものにしていた」
「ではこの子が隠れた在野の実力者というわけではないのですね?」
「だが聞かれた。面倒だな」
立っていたのは少年とも少女ともとれる、まだ小さな子供だった。
「もっ申し訳ありません!盗み聞きするつもりはなかったんです!ただ勇者様が泣いているのが見えたので……!」
「いやべつにいいよいいよ!……ただ口調の事は黙っててね?飴買ってあげるからさ…」
「そんな恐れ多いです……!そんなことより勇者様……勇者様の世界ってどういうことですか……?」
「うーん、隠してたわけじゃないんだぜ?女神から魔王を倒すために異世界転生…いや転移?させられて、役目が終わったから帰る……それだけのことなんだ」
「そんな……じゃあ勇者様、もう会えなくなるんですか…?」
子供の不安そうな目が勇者の心を抉った。こういう目をした子供にきっぱりと「帰る」ということは勇者には出来なかった。
「いや……もう少しはこの世界にいるよ。お礼を言わなきゃいけない人もいるしな。それに……この世界がピンチになったらまた駆けつけるさ」
「ホントですか?」
「ああ本当だ。勇者は嘘をつかない。約束だ」
「……はい!約束です!」
笑顔になった子供は、勇者に頭を下げると両親のところに戻っていった。しばらく手を振っていた勇者だったが、しばらくしてどっと疲れたように息を吐いた。
「ふ─びっくりした!」
「おいおい、あんな約束していいのかよ?」
「しょうがないじゃん…相手は小さな子供だぜ?勇者らしい対応だったろ?」
「そうだけどなあ……」
勇者たちは知る由もなかった。この時の約束が、時の流れと共に狂信的な熱を帯びていくということに……
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「「「「「勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!勇者!!」」」」」
あの時勇者が訪れた街は、人口が増え、巨大な国となっていた。そこでは多くの民衆が拳を天に突き出し、狂気的な叫びをあげていた。
かつて寂れた街だったその国の名は『神聖勇者帝国』、人間種だけが住むことを許された偽りの理想郷である。異種族にも手を差し伸べた勇者の優しさなど、その国では失われて久しい。
変わってしまった街を、人々を、遠く離れた場所からハーフエルフが見つめていた。
「あの国は狂っている……!!」
勇者がこの国を見たら、きっと泣いてしまうだろう。