これもアリサの脆弱な精神が悪いんだ
そうして今回の件は最悪の結果に終わった。
私のせいで借金は増え、利子も取り返しのつかないほど膨らんでしまった。
当然空気は死んでいる。どんよりとした気がこちらにも伝わってきそうだ…私も同じ部屋にいるけど。
まさかカイザーに目をつけられてたとは…そりゃあんだけ暴れてたら注目されるか…
黒服も一枚噛んでるしどうしたものか…もっと仕返しして金を巻き上げればいいだろうけど眼を売るのはもう対策されているだろうから別の方法で考えないと。
犯罪…は先輩に禁止されてるんだった。でももうなりふりかまっていられない。
もう黒服にでも連絡して交渉なりすればなんとかなるだろう。あいつらは私の身体を欲しがってるんだからいくらでも交渉できるはず。それか腕くらいくれてやればいいかな。
怪我はK社のアンプルで治せるから実質ノーリスクだしそうしてやろうか。
「………」
“……”
「な、何…なんで見てるの?」
“アリサちゃんが危ないことしそうだなって”
「こういう時アリサちゃん自分一人で片付けようとするでしょ?」
「…そんな事ないよ…でも腕の一本でもくれてやればマシになるでしょ?」
“そうかも知れないけど自分を犠牲にしないでほしいな”
「うんうん。おじさんも皆も悲しんじゃうよ〜」
「…私にそんな価値ある?」
少なくとも水のペットボトルを私の口にねじ込みながら言うことじゃないと思うけど。
今は目下の課題に集中しないといけない。手っ取り早いのは私をカイザーなり黒服なりに渡す方法だけどそれをしたら皆を悲しませてしまう。私だってそこまで自分のことを考えてないわけではない。
さっさとカイザーを潰せばいいけどそしたら残ったカイザーから難癖つけられて学校ごと潰される。
それはできる限り避けたい。
もっとも私は皆が無事で居てくれさえするのならばそれでいいんだけど。
シャーレに借金返済してもらおうにもそれは借金相手がカイザーからシャーレに変わるだけのこと。
そんな事したらむしろ私達にかかっている首輪はきつく締められるだけだ。先生はそんな事しないだろうけど。
「アリサ先輩…」
「そんな顔しないでよ。私だって賛成したんだし、借金が増えたのだって私のせいなんだからそう思い詰めないで」
「でも私が提案しなければ…」
わかりやすく落ち込んでる……これは重傷だ。
どう元気づければいいのやら。ドンキちゃんは落ち込むということを知らなそうだしヒースも落ち込まなさそうだ。ヒースバカだし。
もういっそのことカイザーから攻め込んできてくれたらいいのに。そしたら正当防衛で遠慮なく叩き潰せる。
“辛くなったらいつでも言ってね”
「おじさんはいつでも大歓迎だよ〜」
「私は大丈夫だけど…」
いやだからなんでそんな目で見るの。大丈夫だってば。
「……アヤネちゃん。この後時間ある?」
「へ?」
私はさておきまずは可愛い後輩のメンタルケアにしよう。
◼️◼️◼️
「はい抹茶フラペチーノ」
「あ、ありがとうございます。その、お金とかは…」
「今日くらい私に奢らせてよ。それにお金ないんでしょ?バイトの交通費とかで」
「バレてましたか…」
私もクリームが乗ったカフェオレにストローを突き刺して中身を吸う。
アヤネちゃんの顔色も多少良くなっている。ここは少し高いけど連れてきてよかった。
借金の返済方法とかは明日にでも先輩と相談しよう。
「アリサ先輩…もしかしてですけど自分を犠牲にして借金減らそうとか思ってないですよね…?」
「…まさか」
「でも先輩ならそうします。だってわ、私達のことこんなに大事にしてくれているじゃないですか」
「カイザーの言った条件が本当なら腕一本、足一本だけでもかなり楽になると思わない?」
それが答えだった。しばらくジュースを飲む音だけが聞こえてこちらをじっと見据えるアヤネちゃんの目から顔をそらしてため息をついた。
「これ以外に方法があると思う?」
「それは……でも先輩が自分を壊すのはやめてください…」
「この借金を完済と言わずとも少し返すには犠牲がいるんだ。何かを成すためには何かを犠牲にしなきゃいけない」
それが時間であれ腕であれ同じ事。犠牲にするものが違うだけで何ら代わりはない。
むしろ戻るってだけで腕のほうが安い。
「それでも先輩が犠牲になる必要はないはずです」
「そう言って行動していないうちに手遅れになるかもよ?だったらやったほうがマシでしょ。……一口貰っていい?」
「…どうぞ」
カフェラテを差し出して抹茶フラペチーノを飲む。美味しい。さすが期間限定。
…関係ないけど。借金が完済できたらこれも遠慮なく飲めるのかな。
「ありがとね。……ま、こういうこと言ったけど流石にしないよ。カイザーがいくら私に興味を持っているとはいえアレが私に求めているのは私の力。これを解析されて兵器とか作られたらたまったもんじゃないしね」
「……先輩はもっと大事にされてることを自覚してください」
「え、私バカにされてる?」
思わずジト目でアヤネちゃんを見るけどその表情は変わらない。
気づくと二人のジュースはなくなっていて底に溜まった少しのカフェラテと溶け始めている氷だけが残った。
アヤネちゃんもなんとか持ち直したみたいだしここらへんで帰ろう。
一応先生にも連絡するとして…先輩……はなんか抱えてるだろうし伝えなくていいや。心労を増やしたくはない。
「それじゃ、また明日ね」
「はい。先輩。ありがとうございました。奢っていただいて」
「私がしたかったことだから」
踵を返して学校に帰ろうと一歩踏み出した私の背中に声がかけられる。
「あの…居なくなったりしませんよね?」
「…私はここにいるよ」
でも、ずっとじゃない。
◼️◼️◼️
「…ということがあってさ…もうわかんなくなって」
「それでへこんでたのか…」
都市のとある裏路地で私とヒースはお互いに帳簿に線を引きながら話していた。
学校の皆には言えないようなことも家族になら言えるから気が楽だ。
「そのカイザー?もさっさと帳簿に書けばいいだろ。それにお似合いのやつもあるんだしよ」
「そうしたいのは山々だけどねぇ…ゲヘナと違って一歩間違ったら私が死にかねない。いざとなったらこっち来ればいいけどさ…友達がさぁ…」
「シンクレアが言ってたみたいにとりあえずぶん殴ってから考えればいいだろ。オレならそうする」
残念ながら私はそこまで暴に染まってない。むしろ狂いきれていたほうが良かったのかも。
「しかも傷ならアンプルで治せるからノーダメージなのに皆止めてくるしさ…」
「それはここのことあいつらが知らねぇからじゃねぇのか?なんで姉貴は言ってねぇんだ」
「そりゃぁ…巻き込めるわけないでしょ。こんな物に。正直言って今の私を信じてくれるのがおかしいのに」
一旦全員を片付け終わったので死体の上に座りながら二人して帳簿に線を引きながら話し続ける。
ここの組織は結構デカかったからな…ヒースと二人で行けばたいてい大丈夫だけど。
「ま〜今の姉貴はアレだしな」
「なにさ〜ヒースもかよ…」
「姉貴…違ったら悪いけど酒飲んでるか?」
「残念ながらシラフだよ」
初めて人殺した時もずっと正気だよ。
「でもその借金先も潰せばいいだろ?オレたちそういうの専門だしな」
「それもそうだけどね……そうもできないのがめんどくさいんだよ……」
「オレたちも世話になった分の恩を姉貴に返してやりてぇが…姉貴なしじゃもわかんねぇ、ボスは機械だからそもそも頭に潰される…クソだな」
「そんな事しなくていいよ。当然の事なんだし」
そもそも人殺しとあの子達は関わっちゃいけないんだから余程の緊急事態じゃない限りは安々と連れて行けはしない。私に盛大なブーメランが刺さっているのは分かっているけど。
その時ホログラムが映し出されてシンクレアが投影された。どうしたんだ、こんな時間に。
もう7時だけど…そうか、もう7時か。一個片付けたら私達も帰らないとな。
「ん、シンクレアか、どうした?」
『東部に兄貴が好きっておっしゃっていたローストダックが売られていましたが……長姉様もいらっしゃるんですか?』
「私もいるよ」
『だったら鉄板焼も買っておくか…』
「よし、ローストダック人数分買ってきてくれ。カードは持ってるな?んで…」
『分かってますよ。口当たりフサフサのやつですね!』
「へっ、頼んだぜ?」
プツンと途切れた通信機器をしまってから機嫌よく歩き出す。
好物があるんだから尚更早く帰らないと。キヴォトスの時間と都市の時間は違うんだしここで長居しても構わないだろうし。
んで終わったら黒服との交渉の時間だ。
なんとかして、何を捧げてもいいから借金を下げるなり利子を無くすなりしないと。
「おい、いんだろ!見せ閉じてごまかせんと思ってんのか?あん?」
「今月の保護費まだだぞ!中指の保護下の奴は金払う!分かってんだろ」
仕方ないので扉を殴り飛ばして無理やり中にはいる。末兄と長姉の登場に威圧感を出していた雑魚達も萎縮する。
こっからテンション上げていこう。お楽しみの時間だ。
「早く払うってんならこれ以上悪いようには……」
「う…うるせぇ!もう…もう金がねぇんだよ!だからさっさと死ねよぉ!!」
顔を見合わせて笑い、二人合わせて敵に突っ込んでいった。
◼️◼️◼️
「最期まで戦おうとしたのはいいけどやっぱ弱いね。なんで逆らおうと思ったんだか」
「めんどくせぇなぁ。せっかくシンクレアが用意してくれたローストダックが冷めちまうってのに…これも帳簿に書いてから執行すりゃ良かった」
「ま、他の奴らでその恨みも晴らそう……じゃ、私はここで」
そう言って立ち止まると一歩分前を歩いたヒースが驚いたようにこちらを見る。
「時間あるんじゃなかったのか?」
「そうだけど緊急で用事ができて…ごめんね。この埋め合わせは後で必ずするから。そうドンキちゃんたちにも伝えといて」
「おう…じゃあな。姉貴」
キヴォトスの方だと夜の11時くらいだからちょうどいい。あいつらが無駄に抵抗しなけりゃ晩飯も食えたのに…
やっぱもう一回殺しとけばよかったな…残念。
「どうしてこうも長居できないのか…これも都市ってやつの仕業かぁ」
小さく呟いて以前送られたきり記憶からできるだけ排除していた記憶を思い出して廃ビル問事になっている建物に到着する。ここに黒服がいるらしい。
会って先輩とかを害すること言ったら容赦なくぶち殺してやる。
そう考えてからその至高が浮かんで自分に少し驚く。やっと元の調子が戻ってきたかな?
なんだだかんだでメンタルへこんでたからな…やっぱ殺人は癖になる。
「おや?どちらで……見鷹アリサ」
「あぁ、そうだ。来てやったぞ」
「これは失礼しました。メールを読まないものかと…」
初っ端から失礼なやつだな。そう思いながら椅子に座って足を組みタバコを吸う。またたく間に煙が充満し黒服は静かに窓を開けた。
「それでアリサさん…どうしてここに?貴女は契約しないと仰っていたようですが」
「状況が変わった。金がいるんだよ。特にカイザーと繋がりがあるお前だったら借金減らせるだろ」
「つまり契約に同意すると?」
「ハァ〜…内容と対価は私が決める。私の体が欲しいんなら爪の一欠片くらいはくれてやる」
こういうのは上手く口車に乗せてくるか狡猾だからな。油断はしないようにしないと。
「では貴女は何を求めるのです?借金の一部返済でしょうか?それとも土地の返還?」
「腕の一本差し出すと言ったらお前はいくら出す?」
「……前にも貴女に言いましたが貴女の身体は暁のホルスと同等かそれ以上に興味深い…できればその全てをいただきたいのですが……」
「立場分かってる?私はお前のこといつでも殺せるんだからな」
「……腕でしたら…借金の四分の一を返済、土地の半分を戻す、というのが妥当でしょうか」
「腕一本ごときなのにずいぶん出すね」
「貴女は未知そのものと言える存在ですので。未知を解明する手がかりを手に入れるにはいくらでも出しますよ」
望を纏わせた銃を向け、いつでも撃てるぞとアピールする。ヒースと同じくヘイローは持っていなさそうだから撃ち抜けば壊れるか?
気になるけど他のゲマトリアで試してもいいな…義体も壊したことこそあれど異形は数えるほどしかない。
よくも悪くも研究者か…研究者とか学者には頭おかしいやつしか居ないと言うが本当だな。
ミレニアムも勝手に爆発物つけるし。
「それにかわいい大事な後輩に言われたんでな。お前の望む契約はハナからしねぇよ」
「そうですか…暁のホルスに加えて変質したセクメトも欲しかったのですが…諦めるしかなさそうですね」
「あ?何の話だよ気持ち悪い」
「いえ、こちらの話です」
ホルスとセクメト…聞き覚えのない名前だな。戯言だろうし気にしないでおこう。
これに関しては誰かが知ってるとは思えない。
言ってるやつが胡散臭いクズだし気にするだけ無駄だ。
「では契約を……」
「だから結ばねぇっつってんだろ。今回は殺さずにしてやるけど次あったらぶっ殺すからな。皆に手を出したとしても、だ。今回大人しく話してやったのだって」
「クックックッ…ええ。了解しました。劇薬は取り扱い注意と言いますしね…では気をつけておかえりください」
吸い殻を床に投げ捨て足で踏み潰し振り返らずにまだ暗い空の下を去った。
◼️◼️◼️
「腕一本で土地の半分ならくれても良かったかな…帰るのやめといたほうが良かったよな…」
缶コーヒーで温まりながら先程の行動と黒服の言っていたことを咀嚼しなおす。
腕一本でこれだけの恩恵があるからこの身全てを差し出したらどれだけ……
「いややらないけどさ」
「なにをやらないの?」
「っ!……あ、先輩か…」
後ろから気配もなく聞こえた声に驚いて振り向きながらティルフィングを突きつける。
そしてその人がホシノ先輩であることに気がついて慌てて剣をしまった。危ない、先輩を攻撃してしまう所だった。
「アリサちゃんは何してたの?」
「夜の散歩がてらコーヒー飲んでた所です。先輩は?」
「ちょっと用事があってね〜探し物」
「手伝う?」
「いや〜自分で手伝えるよ」
ホシノ先輩も自然な動きで私の横にコーヒーを持って滑り込む。私とは違って少し砂糖が入っている。
しばらく無言の時間が続いたがホシノ先輩から話し始めた。
「アリサちゃんは皆のことどう思ってるの?」
「言うまでもなく大事ですよ。先輩も、後輩も、皆」
「うへ、私も…おじさん嬉しいなぁ」
「そりゃそうでしょ」
ぐしゃ、と缶を握りつぶしてゴミ箱に投げ入れる。
よし、成功。
大切じゃなかったら風紀委員壊滅させようなんて思わないわけだし。
「アリサちゃんは突っ走る癖があるからおじさんちょっと心配だな〜」
「突っ走るって…」
「でも皆の事引っ張ってくれたり一番に行動してくれるからおじさんが居なくてもアビドスは……どうかした?」
「……いなくなったりしない…先輩が急に居なくなった後の話するからびっくりしただけです。でもびっくりするからあんまり言わないでください」
心臓止まるかと思った。急な別れというものは哀しいからドッキリでもやめてほしい。
先輩は私達をおいていったりなんてしないだろうけど。
「明日になったら忙しくなりますね…」
「きっと忙しくなるだろうねぇ。おじさんついていけないよ」
「1個上なだけでしょ……はぁ、また明日。先輩」
「…うん、さよなら。アリサちゃん」
言い回しに少し違和感を感じたがそういうもんだと思って手を振り別れいつも通り眠った。
そして朝目が覚めた私を待っていたのはホシノ先輩の退部届けだった。
セリカの元ネタはバステトと一部セクメトという説もあるらしいですけどアリサの元ネタはセクメトです
暴力だし復讐者らしいのでピッタリだね
アリサの一人称視点か三人称視点どっちがいい?
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アリサの一人称時点のまま
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三人称視点
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視点変更したりしなかったり