だから普段だったら絶対しないような選択や言動だってしちゃいます
こうして調査は最悪の結果に終わった。
借金と利子は今までの比べ物にならないほどに増え、空気は最悪。
アヤネちゃんは力なくうなだれそれをセリカちゃんが慰めている。
私の案に反対したのはアヤネちゃんだし言いたくないけどこれもある意味はアヤネちゃんのせいとも言える。
…いや。アヤネちゃんのせいなんかじゃない。これは私のせいだ。
まさか目をつけられていたとは…あんだけ暴れればそうもなるか。
後悔はしてないけど。
“アリサちゃん、大丈夫?”
「私はね。それより皆の事心配してあげて。借金増額されたから返す額もデカくなったし…」
“そうじゃなくて!君は……”
らしくないな…年長者がこのザマじゃ皆が危ないのに。
でもまずは借金をどうするか…先にカイザーをなんとかしたほうが良い?
カイザーが攻め込んでくればそこを正当な権利で叩き潰せる。中指が単独で殺るっていう手もあるけどそれを使ったら立場が悪くなるのはアビドスだ。
実質翼であるカイザーを潰せばキヴォトスが大混乱に陥りいくら先生が養護してくれようと強制的に廃校になってしまうのは確実……あぁ、クソ!
……カイザーが狙っているのが私なら私さえいなくなれば皆は……
「アリサちゃん〜?ちょっと考えすぎなんじゃない?」
「え?あ…あ〜…そうだね…そう…かも」
いつの間にか考えすぎていたせいか顔をホシノ先輩に覗き込まれていた。近い。
額を指で押しやって顔を遠下げながらため息をつく。逢魔ヶ時に差し掛かってオレンジに照らされる部室は未だ後悔に包まれたままだ。
「……で、これからどうする?
「借金を返す…にしてもこの量をどうすれば……」
「私が余計なこと言ったから…ごめんなさい先輩…!ごめんなさいっ…!」
「アヤネちゃんのせいじゃないよ。悪いのはカイザーなんだしさ……私も…お金稼いでくる」
アヤネちゃんの手を握ってから立ち上がり、扉に向かう。
それを引き留めようとしてかシロコが私の腕を掴んだ。顔を見ると純粋な心配が見て取れる。
でも都市に行かせるわけにはいかない。
「私も手伝う。二人でやればきっと効率もいい」
「…いや、ブラックマーケットの暗部に行くからシロコじゃ危ない。ここに残ってて」
「アリサ先輩そんな危ない方法で…!」
焦燥感すら見えるシロコの肩を掴んで私から遠下げる。
「時間がない以上早く金を集めないといけない。だから邪魔しないで」
「……!」
「アリサ先輩…」
歯を食いしばって逃げるように学校から去り、都市への道を拓いた。
◼️◼️◼️
「侮辱」
「ぐぁっ…!」
「お前ら早くしろ!全員殺されるぞ!」
殺したやつから眼を奪い取りポケットに入れる。処罰者はこんなにいるんだからただひたすらに殺して心を鎮めるにはちょうどいい。
「一万眼か…」
「これだけしかないんです…どうか息子だけは…」
銃で頭を撃ち抜き沈黙させる。今日はなぜか銃を使いたい気分だった。身体がだるくて動かしにくい。
引き金を引くだけで返り血に染まれるんだからこれが一番いい方法だ。
これが私に思いつくたった一つの冴えたやり方だった。シロコに…キヴォトスの誰にでも都市のことはバレちゃいけない。だから突き放してでも止めなきゃいけなかった。
「………」
「死ねッ!…化物!」
普段なら殴って蹴って切り飛ばせば笑えていた。でも今日は何もしたくない。
「…疲れた…」
ぐちゃ、と音を立てて先程作った屍の上に座って顔を手で覆う。
白いコートも赤くなって髪も白髪から赤髪に変わってしまっている。銃に加えて頭を握り砕いたからそりゃそうだ。
いつの間にかポケットにはかなりの眼が集まっていた。
…でも眼を売る方法はもう対策されてしまっているだろう。これ以上集めて何になる?
「きっと意味はあるはずだ」
呟いて帳簿を開き、次の対象者の元へと向かった。
◼️◼️◼️
「ヒースクリフゥ……」
「どうした姉貴…どうした…そんな顔して」
「いや…ちょっとね…」
ヒースの所に転がり込んでそこら辺においてあるチョコレートを口に放り込む。
冷たいチョコが噛み砕かれ混ざり合いドロっとした食感に変化した。
「元気がないでありまするぞ?長姉様」
「あぁ…ちょっと学校の方でね……」
一瞬あいつらに啖呵を切ったときと同じように弟達に頼るという手もあったがそれをやって万が一キヴォトスに異変が起きたらたまったもんじゃない。
…私がいるし問題ないのかな。
「むぅ。正義を執行するのに当人達は十分な力があると思いまする…それに長姉様の顔色も酷いでありまするよ…?」
ドンキちゃんにまで心配されるとは私は相当ひどい顔をしていたみたいだ。
顔を擦って無表情に戻す。…戻せてるはずだ。
キヴォトスには男性が居ない。獣人やロボットという形でいるけれど人間の男性はいない。
先生だって女性だし。
でも都市というキヴォトスとは何ら関係のない所からいるはずのない男性が居たら?
「いや…考えすぎだ。きっと…んんっ、ドンキちゃん?食べたいものある?奢るよ」
「い!良いのでありまするか!?そ…それなら当人はアイスクリィムが食べたいので…ありまするが……」
「仕方ないな〜」
だがカイザーに私を渡した所で本当に進行を止めてくれるとは限らない。
やるとしたら契約書…ゲマトリアに頼もう。あいつなら多少は詳しいはずだ。
妙な真似をしたら殺せば良い。
「あ……?」
「げっ!中指!」
「何してんだよ早く逃げ……」
「中指に対する暴力、逃亡」
香りを残さないように普通の銃弾でぶつかった男達の頭を貫く。
黒服も他のゲマトリアもカイザーも全員こうしてしまえば良い。簡単なことだ。
「お…おぉ…!鮮やかな執行!長姉様はすごいでありまするなぁ……!」
「はいはい。で、何食べたい?」
「ストロベリィと…チョコレィトと……むむ、イワシもいいでございまするな…」
イワシ…?
アイスを口いっぱいに頬張る姿になぜかセリカちゃんを重ねながら缶コーヒーを開けた。
両手に握ると温かさが手に…いや熱いな。だいぶ熱いなこれ。
なんでセリカちゃんが…ツンデレだから?言ったら怒るけど。
「今日は私だいぶメンタルやられてるみたい……ハァ…」
声に出してつぶやきコーヒーを煽る。黒い液体が喉を伝って胃に落ちる。
そして中身を空っぽにして私は立ち上がった。
今日はもう帰ろう。怨恨を処理する気分にもなれないしかと言ってこのまま家族の所に帰るのもあれだ。
缶コーヒーをゴミ箱に放り投げてふと思い出した。
ゴミ箱と言えば蜘蛛の巣プロジェクトはどうだろうか。
最近計画を変えたと聞いていたが……
「どうでもいっか」
「先に帰るのでありまするか?」
「うん…それじゃ、さよなら」
どうせ進捗はあるだろうしその時に…あぁ、もう戻らないんだっけ?
けど一欠片くらい希望は抱いてもいいはずだ。
◼️◼️◼️
いつもの所でタバコを2カートン分買いそのうちの一本に火をつけて歩いた。
タバコの匂いが心を落ち着かせていく。一旦帰ろう。
そして先生と一緒これからの対策を…いやもう帰ってるか?
ま、やってみないとわからない。
「と、思ったら」
“アリサちゃん!って、またタバコ吸ってる!”
「先生も吸う?」
“生徒の前では吸えないよ。そもそもタバコ好きじゃないし”
「そうですか〜…にしても大変なことになったね…」
“うん…”
「先生も気の毒だねぇ。初めての出張先がこんなややこしいになっちゃって」
“いや、生徒のためならこれくらい大丈夫だよ”
「………私は正直アビドスなんてどうでもいいんだよね。ただみんなが無事でいてくれさえいればそれでいい。あ、これ皆には内緒にしてね」
そこに私がいなくてもみんなが笑ってくれさえするならそれでいい。
言ったら怒られちゃうしみんなが大切なものは私も精一杯守らないといけないからそんなこと口が裂けても言えないけど。
“そう言えば聞きそびれてたけど結局あの力って…?光る刺青とか…”
「話さずに入れると思ったのに…私も詳しくは知らないけどインクが作用して身体が強くなるんだって。頑丈になったりする」
“インク…ってことはもう戻せないの?”
「シールタイプもあるみたいだけどこれはそれじゃないからね…」
シールの存在を知ったのも最近なんだしこればっかりはどうしようもない。消そうとしても簡単に消せないのは同じだしそんなに変わらないけど。
“アリサちゃん。コーヒー甘いの好き?苦いの好き?”
「ブラックで」
そこら辺のベンチに腰掛け缶を再び開ける。
裏路地の劣悪なコーヒーよりこっちの方が美味しい。
“今日は色々あったね…”
「砂漠で借金の主を突き止めて…利子が増えて、敵も増えて…どうする?今回から他校の襲撃と一緒にカイザーの侵攻も考慮しないといけなくなった」
“あの子達はそんなことしないよ”
「どんなに手を差し伸べたって変われない救いようのない悪党ってのもいるんですよ。んな事よりカイザーは?狙いは私だから今も後ろから先生の頭を撃ち抜こうと狙ってる輩がいるかもね」
“私は大丈夫だよ!”
「何を自信満々に…あ、シャーレの権限でカイザー潰せたりとかは……」
“私もそこまではできないしやったらキヴォトスの物流が危ないよ”
理事さえ潰せれば…それかPMCを叩き潰せればなんとかなるかな?
アビドスから完全に撤退させて二度と手出しできないようにすればいいんだからそれでも……
“顔に皺できてるよー?”
「ほっぺた触るのやめてください…汚いですよ…」
“汚くないよ”
わお。
「もう10時だね…」
“帰らなくていいの?”
「最後に寄り道してから……ん、それじゃさよなら。先生」
“うん。前にも言ったけど何かあったらいつでも私を頼っていいからね!また明日!”
振り返らずに手を振って歩き始めた。
向かうのは黒服のところ。ここでどれだけ有利な条件で契約できるかが大事だ。
「頼る…」
◼️◼️◼️
「どうやら…気が変わったようですね?」
「癪だけどね。お前と契約しにきた。カイザーと繋がってんだろ?」
「クックックッ…ええ。私はカイザーPMCのスポンサーです」
思った通りだ。
どうでもいいけど…
「ま、いいや。私はお前と契約しにきた」
「ふむ。むしろ私達を消しにくるのかと思いましたが…」
「事情が変わった。お前も知ってるだろ?借金を消せるだけの力があるんだよ」
できればこいつには頼りたくなかったがなるふり構ってはいられない。
優先順位は低いとは言え学校がピンチなんだ。そのためなら何だってしないと。
そしてこれが私が思いつく中でもっとも安全で全てを解決する選択だ。
「では貴女は何を求め、何を差し出すのでしょうか?」
「借金全額免除。カイザーコーポレーション名義の土地の返還とカイザーPMCのアビドスからの撤退。そして私を差し出す」
「…なるほど。私としましても貴女の体は興味深い。しかし何を言ってるのか分かっていますか?今後貴女は実験に使い潰され日の目を見ることもないのですよ?」
「分かってる。私は私が大切な人たちが笑顔ならそれでいいから」
そして契約書が作られる。あとはこれにサインをするだけだ。
長ったらしく、わかりにくく書き連ねられた文章の中には確かに私が言った通りのことがある。
借金の完全返済。土地のすべてをアビドス名義に。カイザーの撤退。対価として私という未知を好き勝手に暴く権利。
これ以上セリカちゃんが睡眠時間を削ってバイトする必要もない。
アヤネちゃんが残った借金と少ない弾丸にため息をつくこともなくなる。
シロコが何の気兼ねもなくサイクリング用品を買って銀行強盗を……するんだろうな。
ノノミは変わらないだろうけどホシノ先輩だっていい寝具も買えるだろう。
だからこそ後悔はない。ここに私はいなくていい。真っ赤な私が笑っていい場所じゃないんだ。
「……したぞ」
「はい。確かに。これで契約完了です。それではよろしくお願いします。見鷹アリサさん」
時刻はもう深夜の12時になっていた。外からは何も聞こえずに冷たい風が頬を撫でる。
陳腐な表現かもしれないが私にとってこれができる精一杯だった。
「あ、でも最後に用事を済ませてくる」
「…できるだけ早くしてください」
◼️◼️◼️
「退部届…こんなもんでいいか」
目の前にはアビドス廃校対策委員会の退部届と退学届の2枚がある。それらを手紙といっしょに入れ、机の上に置く。
これで私は何者でもなくなった。学籍がないということはキヴォトスではマトモな生活を送れないことと同義。
あの子達が後悔しないように手紙書いたけどちゃんと読んでくれるかな。
セリカちゃんとかが間違って破きそうだな…
「その時は誰にも読まれずに闇に葬られるのみ、だ」
呟いて席をたった。手紙には後悔と感謝と謝罪をしたためたけどうまく伝わってくれるだろうか。
先生には悪いな…初めての大きな仕事でこんなクソみたいなやつと知り合って。
皆には一週間前からずいぶん心配をかけてしまった。
家族たちにも何一つ恩を返せてない。ヒースがいなかったらきっと私は裏路地の早々にのたれ死んでしまっただろう。私には恩知らずという言葉がお似合いだ。
だからこの手紙はこの文始めるのがちょうどいい。
恥の多い生涯を送ってきました、と。
関係ないですけど躁状態の人ってやけに浪費したり奢ったりするみたいですね。関係ないですよ?
キヴォトスの医療は殴って解決するのと負傷者を投げるタイプだからメンタルケアには間違いなく向いてないし都市は論外だから仕方ないね
そして何も知らないホシノもアビドスを去りました
黒次回、カイザーVS対策委員会(アリサ&ホシノ抜き)です
アリサの一人称視点か三人称視点どっちがいい?
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アリサの一人称時点のまま
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三人称視点
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視点変更したりしなかったり