中指の長姉兼アビドスの二年生、見鷹アリサ   作:柚子古豪二千

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失った者、手放さなかった物、あるいは手の中からこぼれ落ちたもの

 

「退部届……」

 

小鳥遊ホシノ、と先輩の字で書かれた字を前にして顔をしかめる。

 

「アリサ先輩…来てたんですね…」

「…そりゃ、学校バックレるわけないでしょ」

“だってアリサちゃん、自分を犠牲にしそうだし…踏みとどまってくれてよかった…”

「先生からもそう思われてたのか」

 

そんなに信頼無いかね、私って。

踏みとどまるって…そんな崖っぷちにいるわけじゃないんだけど。

 

「抱え込むなって言ったのに自分は……帰ったら一発殴っていい?」

「連れ戻すの?」

「連れ戻さないの?」

 

退部届と一緒に同封されていた手紙にはカイザーに同じく、だが一年の頃から勧誘されていたこと、代わりに借金の半分を肩代わりすること。

ホシノ先輩にはこの程度なのに私にはあの好条件……先輩のこともだいぶバカにしているらしい。

 

「アビドスをよろしく…チッ、舐めやがって」

「…アリサ、怒ってる?」

 

人にはああ言うくせに自分のことは顧みないとは…取り返しのつかないことになる前にさっさとカイザーをなんとかしないと。

 

「やっぱ躊躇するんじゃなかったな…理事だけでも殺せれば良かったのに」

“アリサちゃん。気持ちはわかるけど面倒なことになるからダメだよ”

「…先生も怒ってるんだ」

“あっそれはその”

「ん、なんか安心した」

 

口だけでも笑みを形作って手紙の続きを読む。といっても大体読み終えてあとは個人に向けた色々、だ。

アビドスはもう私は守りたくない。だけど皆が大事にして守ろうとしているのならそれは中指のものだ。

私が守るべき。大切にすべきものだ。たとえ砂にまみれて無価値だろうが。

そして私宛のものも当然あった。

大体一人で突っ走るな、皆頼れ、頑張れ、という内容だった。一人で突っ走りがちだけど仲間がいるからもっと頼ってね。とも書かれていた。

 

「シロコ。私って一人で先行くタイプ?」

「うん。あともっと私達を頼ったほうがいい」

 

外からは変わらず風だけが無慈悲に聞こえている。こっからどうしようか。カイザーの所に乗り込んで理事殺して先輩解放するも良し、誘拐か無理やりな契約ってことで建前を作ってから殺すのもありだ。

だがラクに殺してやるのも惜しい。ゆっくり腕をもぎ取って配線を一本ずつ取って金にするのもいいだろう。

 

「きゃっ!」

“うわっ!”

 

その時外から爆発音が響き校舎を揺らした。窓ガラスが割れんばかりに揺れ外の方から複数の足音が聞こえてくる。

 

「…敵だ」

「なんで…カイザー!?」

 

アヤネちゃんの困惑した声が部室中に届き皆が銃を持つ。

目的は私か、それとも学校か。どっちでもいいな。

そしてアヤネちゃんの調べだとすでに校内にもかなりの数の敵が侵入しているらしい。

理事を殺したい気持ちはある

 

「さっさと行こう」

“うん!皆、準備して!カイザーを食い止めるよ!”

「分かりました」

「アビドスとアリサ先輩は渡さないんだから!」

 

私も銃を懐に入れてティルフィングを持ち敵を待ち構えた。

 

◼️◼️◼️

 

「いたぞ!対策委員会だ!」

「見鷹アリサはできるだけ傷つけずに捕らえろよ。理事とスポンサーに何言われるかわからん」

 

呑気に敵前で会話している敵の頭を掴み地面に叩きつける。

廊下にヒビが入ってしまったが一旦気にせずに銃を奪い取ってフルスイングで敵を殴る。頭部のモニター部分らしき破片が地面に転がり本体は扉を突き破って空き教室に転がり込む。

そこにシロコが手榴弾を投げ込んで確殺した。

 

「ホシノ先輩のあの声聞こえないのは嫌ですね…」

「ん、だから救出して一発殴る」

「お、私も殴っていい?」

「アリサ先輩が殴ったらホシノ先輩入院しちゃう!」

 

先輩はそんなにヤワじゃないと思うよ。

 

「止まれ!小鳥――」

「まずは一段階!」

 

胸部を貫かれてスパークを散らしながら沈黙したオートマタからティルフィングを抜き取って絡みついた配線を振り落とす。

腸みたいに量が多いからめんどくさいな…足取られそうだ。

 

“アリサちゃんはそのまま前線でできるだけ頑張って!ノノミちゃんとシロコちゃんは巻き込まないように気をつけながら敵を薙ぎ払って!”

 

オートマタの腹部に手を入れ内部のコードをかき回す。そして腕を引くとコードが内臓のように飛び出てきた。

当然オートマタは機能停止する。手の中のコードを握りつぶしてティルフィングを壁に跡をつけながら投げ飛ばしてさらに持っていく。

 

「くそっ!増援はまだか!」

「アビドスの征服に戦力を割いているようです!」

「征服…自分勝手によく言うよ」

 

頭部に銃をねじ入れて無理やり引き金を引く。一瞬壊れるのではないかという思いが頭をよぎったが無事に花の香りを放ちながら内部から撃ち抜かれて負われてくれた。

やがて地面に壊れたオートマタが積み上がり戦いはいよいよ体育館にまで移動した。

ここのを壊せば校内の敵は全員いなくなる。

 

「にしてもなんで急に…アヤネちゃん、大丈夫?」

『あ、はい。早く先に行きましょう』

「ちょっと気になるけど、話してる時間も惜しいし一気に蹴破るよ!」

 

閉じられた扉を蹴り飛ばして中に突入し、待っていましたとばかりに飛んでくる銃弾を身体で受けながら敵を跳び箱ごと切り捨てる。

強化刺青のおかげでそんなに痛くない。訓練したしね。

 

「アリサ。あまり壊さないでね」

「そんな事言ってる余裕ある?」

「…ありがとう」

 

シロコが私に向けてなにか言ってきたみたいだがよく聞こえなかった。戦いに集中してほしい。

今だって私に気を取られて撃たれかけてたし。

にしても私がいるのに敵が弱いな。理事を不意打ちとはいえ護衛もいる中壊したのにずいぶん舐められたことだ。

 

「お、戦車だ」

“アリサちゃんが敵を引きつけて……アリサちゃん!?”

「いや、こうしたほうが早い!」

 

砲身を殴りつけてへこませる。これで内部で弾が爆発してくれたら御のだけどそんな悠長にしてる暇ない。

背後に回って旋回してくる戦車のベルトを殴り壊して移動を不可能にして最後にティルフィングを突き入れる。

 

「危ないわよ!」

「おっと」

 

セリカちゃんに首を掴まれて交代させられた瞬間に戦車が派手に爆発する。

空を切って戻ってきたティルフィングを回収して戻る。方法が何であれ敵は一掃できたし文句はないはずだ。

 

「アリサちゃん…何してるんですか…肝が冷えましたよ」

“あれは私もびっくりしたな”

「え、そんなに…?戦車は脅威度高いから一番強い私が倒したほうがいいと思うけど。仮に、万が一に私が戦闘不能になっても一人の犠牲で済むんだからそっちのほうがよくない?」

“いや…そういうことじゃなくてなぁ…”

 

まぁあんな戦車ごときに私がやられるわけないけど…でも大砲は一発食らってみたかったな。

風紀委員長のビームとどっちが強いんだろう。ミレニアムに行ったら大砲の弾食らえるか?

 

「ん、アリサがまた変なこと考えてる」

「考えてないよ」

「あと一番強いって言うなら私と勝負して。…これが終わった後に」

「はいはい。ホシノ先輩取り戻した後にね」

 

そして敵をまとめて最後に売れそうな部分を抜き取ってからそこら辺に捨てる。

これは後で端金にでも変えよう。ただの鉄くずだけど…だったらヘリの修理に当てたほうがいいな。

 

「……で、これはどういう意味だ?」

「おや、見鷹アリサか。学校に向かわせたものは全滅……」

「気持ち悪いこと言ってないでなんでこんな事したか答えろ。お前達がこの土地の所有者だろうがこんなことをする道理はない」

 

少し足を前に出せば理事も死ぬのにまだ状況がわかってないらしい。しかも新品の身体に変えやがって…

カイザー所有のオートマタを全員壊せば理事も死ぬだろうか。それとも機体へ意識を移させないほど早く殺せば……考えるまでもなく理事には速攻処刑が妥当だろう。

 

『それに学校はまだアビドスの物です!これは明確な違反行為、連邦生徒会に通報したらすぐに…!』

「ほう、面白い。やってみたらどうだ?もっとも、連邦生徒会が君達に裂く時間などあるはずもないが……よく知っているだろう、見鷹アリサ」

「…確かにな。一年の頃から今まで幾度となく掛け合ってみたがろくに連絡すらなかった。私達の願いは乱雑に捨てられたんだろうさ」

 

悔しいが認める他ない。生徒会は私達の事なんてどうでもいい、と。

恐らく上…連邦生徒会長や防衛室長には話すら届いていなかったんだろう。窓口で適当に聞き流してあとはゴミ箱にポイだ。

流石に何度も言っていれば顔を覚えられたのかうんざりした顔をしていたが。

 

「そうだろう!連邦生徒会でなくともどこか他の学園が一度でも君達に手を貸したことがあったか!?」

「……」

『…それ、は……』

「当然だな。こんな放っておけば自滅する学校に金と時間を使うわけもない。リソースは有限だから尚更」

 

我が身可愛さに私達を切り捨てたと取るか記憶の砂漠に捨てたと取るかは勝手だが事実だ。

夢を見てばかりでは生きていられない。さもなくば裏路地で死んだ無数の人のようになるだけだ。

…カイザーがやっているのは間違いなく悪なのにそれに納得してしまう私も等しく同じ穴の狢ってことか。

 

「さらにアビドスの生後の生徒会メンバーである小鳥遊ホシノが退学した。生徒会を失って自治区もないアビドスはもはや学校としての……君達にも分かりやすいように説明してやろう。公的な部活、委員会、生徒会、自治区すらもないアビドスは最早学校として成り立たない。だから私が…カイザーが引き取ってやろう。新しい学校の名前は……そうだな、カイザー職業訓練学校にでもしようか?」

「公的な委員会が存在しない…?」

 

そんなわけがない。まだ廃校対策委員会がいる。まだギリギリ、細い蜘蛛の糸だが……

だがもし…万が一廃校対策委員会が委員会として認められていなかったら?

連邦生徒会がそれすらも無視していたとしたら…アビドスはもう。

 

「アヤネちゃん……いや、先生。連邦生徒会に登録されているアビドスの委員会は……?」

“………存在しない。廃校対策委員会の名前も…何も無い”

「そういうことだ。君達は何者でもない。だが借金地獄から解放されるのならそれでいいだろう?君達は奪われた青春を楽しめば良い。こんな砂にまみれた価値のないものなど忘れてな」

「価値のない…」

 

そうだ。アビドスがどうなろうと知ったこっちゃない。ホシノ先輩を取り返してから皆でどこか……ミレニアムでも編入しよう。アビドスなんてどうでもいいんだ。ただ…ただ皆が笑いさえすれば。

 

「……まさかだとは思うが…本気で借金も全額返済するつもりだったのか?確かにここ最近の返済は跳ね上がったが…てっきり最後に己を慰める為に適当に頑張っているものだと……」

 

アイツの本気で困惑した電子の声が耳に届く。

なら、もういいんじゃないか。私の代わりに先輩を返してもらう。皆にはアビドスも関係ない所で自由を……

 

「アリサ。それはだめ」

「…あぁ。そうだ。これ以上痛くなくなる前に壊さなきゃ」

「よろしい。兵を見鷹アリサに集中させろ!」

 

私は地面を蹴って駆け出した。

兵が一斉に私に向けて銃を放つ。それらをなぎ倒して剣の封印を解除し、周りの様子なんて気にすることなくただ敵を壊す。

頭部を掴んでねじり取り足首を掴んでビルに投げ飛ばす。

 

「ならぶっ殺すしかないよねっ!!」

 

鎖をきつく巻き付けた腕が痛いが気にしている暇もない。

オートマタを蹴り浮かせて殴り飛ばし戦車を爆発させる。気を取られた敵兵をティルフィングで首を飛ばしながらトドメの一撃を少し硬いオートマタにぶつける。

ティルフィングで縫い留められて苦しげに手を動かす敵の頭を踏み潰す。

血と脳、骨の代わりにコードと硬い装甲が地面に散らばった。

 

“アリサちゃん!一旦止まって指示聞いて!”

「ムツキ、私達も援護するわよ!」

 

いつもは白いスーツだけど生憎今回は忘れてしまった。オートマタを片付けたらちゃんと……

 

「アリサ先輩!」

 

外野がごちゃごちゃと…戦いで気を抜いたら死ぬなんて常識なのにこんな事も分からないなんて!

キヴォトスはここまで平和ボケしていたとは。

 

「…うるさいなぁ…分かってるよ」

「ならちゃんと指示聞きなさいよバカ先輩!」

「チッ…ちゃんと見えてるから安心しなよ」

 

オートマタの横っ面を殴り貫いて内部を握りつぶす。貫通した手のひらがグシャリとチップを潰した。

手を引き抜いて一段と重いティルフィングの最後の封印を解除しようと手に力を込める。

このまま最後のオートマタを!

 

「そこよっ!」

「……は…?…便利屋!!」

 

壊そうとしたその瞬間後方から飛んできた弾が私ごとオートマタを爆炎に包み込む。これは便利屋の表の社長…!

白髪野郎め、社員の教育くらいちゃんとしろよ!

 

「おいクソ社長!今私が狙ったのみえなかったか!?ゲヘナは頭も目も悪いのか!?」

「なっ何よクソって!目は……」

「大体大した力もないくせにでしゃばんなぶっ殺すぞ!陸八悪アル!!」

 

これだからゲヘナはろくなやつが居ない…!風紀委員会があれだからそりゃ当然だ!

幼稚園からやり直せよクソ野郎どもめ!

 

「それか角へしおって翼も潰したら静かになるか!?」

「あなた、言い過ぎじゃない!?」

「許さないです!!何なんですかアイツは私達もアル様も侮辱して…!殺す殺す殺す殺す!!!殺してやります!!!!!」

「うっせぇ黙れ!猿以下のゴミカス野蛮人共!!四肢もぎ取ったら少しはトリニティみてぇに静かになるかもな!!もうそうしてやろうか!?つーかなんで来たんだよ大人しくしてろよ!!アビドスに首突っ込むな!」

 

溢れ出るストレスをひたすら敵にぶつけて行く。地面を削りオートマタを切り傷を負わせながら首を落とす。

今度こそ剣の封印は解かれた。

 

「クソ…!どうなっている!見鷹アリサ…!」

“私の生徒を…ホシノを返してもらうよ!”

「アレを出せ!ゴリアテだ…!」

 

ゴリアテ…あのデカいだけの鉄ゴミのことか。は、何体来たって切り捨ててやる。

 

「よく見るが良い…!カイザーの技術を集めた超強化外骨格…!最高純度の素材で組成した装甲とアクチュエーターを搭載した我が社の技術の真髄を――」

「わざわざデカくなってくれてありがとさん」

 

黒くなろうがゴリアテは所詮ゴリアテ。だが敵がデカくなった分弱点の頭部を狙うのは厳しくなる。

ならば取る行動は下を狙う。いくら腕の装備を良くしたって当たらなければ何の意味もない。

足の関節部は以前弱いままだ。そこを狙う。

 

「シロコ。銃かして。私のものはあまり戦闘武器じゃないから…」

「……ん」

「ありがと」

 

そもそもがファッションのようなものだったしな。私の銃は。ごりごりに改造したからこういう戦闘向きじゃない。

あとでシロコにはなにかお礼をしないとな。

 

「わざわざ近寄るとは…踏み潰してくれる!!」

「関節を狙って銃をねじ込む。よし、簡単な仕事だ」

 

呟いて足が振り下ろされた瞬間、銃口を関節部分にねじ込む。…だめか。

さすがに装甲が硬い。

 

「シロコ、返す」

「ん!」

 

ならばと拳に望と刺青の力を込め思いっきり殴りつける。それだけで装甲がへこんで痕が付く。

あと2、3発殴れば装甲も壊れるな。

 

“アリサちゃん!後ろからヘリが!”

「あぁ!?」

 

とっさに振り返ると墜落したヘリがこちらめがけて落ちてきたところが目に入った。

ゴリアテは交代したが私はシロコがいるので逃げるわけにもいかずにティルフィングでヘリを撃ち落とした。

跳躍してヘリを地面に叩きつける。

 

「踏み潰す…!もうゲマトリアなど知ったことか!!」

「危なねぇな…」

 

だが…これでようやく敵の装甲が剥がれてくれた。

拳を構えて剥き出しになった機構に拳を叩き込む。ゴリアテがエラーを吐き出して高々に警告音を発する。

 

「脚部負荷増大…!?」

「おいおい、デカいやつがどこを狙うかすら分かってなかったのか?」

 

ゴリアテがバランスを取れずに倒れる。

ようやくあのうるさい声も聞かずに済むな…

 

「まて!小鳥遊ホシノを解放すれば良いんだろう!?借金をなくして土地を戻せば良いんだろう!??」

「まだ分かってないのか?お前がいくらしようが…中指は絶対に忘れないんだよ」

 

ティルフィングをゴリアテに突き立てる。理事の悲鳴が聞こえ、それすらも弱まった。

死んだか、また逃げたか。どちらにせよゴリアテが爆炎へと姿を変えた。

そこから現れた理事は腹から精密機械を無様に垂れ流している。最早無事とは言えないだろう。

私はため息を付いてカイザーの項に一本線を引いた。







お試しでAI使って文章の校正などを行いたいけどAI使って許せる?

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