中指の長姉兼アビドスの二年生、見鷹アリサ   作:柚子古豪二千

17 / 19






失った者、手放さなかった物、それでも手の中に残ったもの

 

“そしてただいまって言わせておかえりって言おう!”

「うん……うん!?」

「ん、言おう」

「セリカちゃんがしなくても私がします!」

「こういうのは言いたい時に言わないと後悔するからね〜」

「わ、私も恥ずかしいけど…」

「え、ええっ!?」

 

顔を赤くするセリカちゃんの取り囲むように皆が意思を示す。

うろたえるセリカちゃんの肩を組みながら後悔しても知らないよ、と釘を差す。

そんな事は簡単には起こらないけど状況が状況だ。

 

「あはは…それより救出のための戦力をどうしましょう?」

「私いればいいでしょ」

「アリサは強いけど大群に勝てる?」

「う〜ん…」

 

掃除屋の夜程度の戦力だったら余裕…それにカイザーの装備は見た所銃だからいけるな。

劣化版掃除屋の夜だ。それに軍隊だからボスを殺したら統率も崩れるはずだし居場所は割れてるから楽に終わるはず。思ったより簡単かもしれない。

 

「いけるよ。先生以外は銃には耐性あるんだからあの大群さえ捌ければいいじゃん」

「アリサちゃんは大丈夫でも皆は無事じゃないと思います。それにヘリもあることですし」

“それにアリサちゃんだけに背負わせるなってホシノちゃんも言ってたからね!”

「……じゃあ誰に協力してもらうの?」

「ん、便利屋がいる」

「もう一度助けてくれるでしょうか…」

「私が交渉してくる。あいつら金なさそうだし金くれれば動くでしょ。それに謝罪にもいかなきゃだしさ」

“私も協力してくれるかもしれない場所思いついたからそこ行ってくるね”

 

億劫だが手段を選んではいられない。使えるものはなんでも使わないと。

カイザーPMCを潰し理事を殺すには私達だけじゃ力不足だ。

それに先生も協力してくれるみたいだからこれは戦力が一気に増えるかもしれない。

……先生が知ってる戦力の多い場所ってどこだ?

 

⬛️⬛️⬛️

 

「上手く言ったら連絡するね」

 

そう言って校舎を飛び出し街を歩く。さて、どこにいるのか…事務所の場所知らないしな…

追い出された、ってことは流石にないはずだし…

 

「アルちゃん〜どうしたのそんな顔して。またお金ないの?」

「さっき家賃払えずに事務所追い出されたばかりでしょ」

「ちちっ違うわよっ!これは……投資よ!そう投資!」

 

いた。事務所がなくなり路頭に迷う哀れな便利屋がいた。

探す手間が省けたと喜べば良いのか本当にこんな奴らに強力を要請して良いのか…

交渉の邪魔になる紫を先に静かにさせてから交渉……めんどくさくなるのは明白か。やめとこう。

面倒事は避けたいし。

 

「便利屋」

「キャッ!……ってアリサ…よね?どうしたの…まさか今度こそ私達を消そうと…!」

「見鷹アリサ!殺します!!」

「……私は便利屋に依頼しに来たんだけど……先にあの脳みそアル一色に染まった狂信者をなんとかして。話もできない」

「…へっ?依頼?…ほんとに?……あっハルカ、一旦落ち着きなさい!アリサは今のところ敵じゃないわ。…多分」

「本当。こっちは大変なんだよ」

 

……やっぱ先に気絶させといたほうが良かったかな。

その後も十数分アル達が紫をなだめすかしてようやく静かになってくれた。

これでやっと話を進められる。

 

「やっと静かになった……で、まずは先日はごめん。私も冷静じゃなかった」

「あっ、あれはもう気にしてないわよ。貴女も律儀ね」

「……で、依頼のことだけど。今日の朝ホシノ先輩がいなくなった。調べて位置情報を奪い取って場所はカイザーPMCだって分かってる。そこで……」

「つまり私達に協力してほしいの?」

 

お、話がわかるやつだ。こういうのがいてくれて助かるよ。

キヴォトスも都市も先に手が出るから困る。

 

「そのとおり」

「援護?弾丸も爆弾もマトモにない私たちに援護は出来ないけど…」

「要するに金さえあれば良いんでしょ?ほら、前金だ」

 

ざっと一千万円入ったバッグを地面に置く。

それを恐る恐る拾い、中身を覗き込んだアルが目を見開く。中にはアルが一度に見たこともないような額のお金が入っているだろう。

それの重みに驚愕しているアルとそれを覗き込んでいる白髪を見ながら口角を上げる。これだけあれば爆弾も銃弾も好きなだけ買えるはずだ。

懐が寂しくなるがなりふりかまっていられない。

 

「この中に一千万。これだけあれば銃弾も爆弾も買えるでしょ。あとは後金で五千万。計六千万でどうだ?」

「六千万!?アルちゃん、これだけあったらご飯三食おやつ付きがずっと食べられるよ!」

「そんなに金無いのお前ら」

「これがあれば高い爆弾良い爆弾アル様を称えるための爆弾を……」

 

一千万のバッグとそれの五倍の重みを想像して難しい顔をしているアルとそれを囲んで相談している白髪と再起動した紫の顔色がグルグル目まぐるしく変わる。

そりゃ一千万なんて到底お目にかかれない額だろう。見た感じアルには浪費癖がありそうだしそれに突き合わされる部下も金には万年困っていそうだしこの依頼は到底断れないはずだ。

 

「で、どうだ?カイザーPMCの襲撃時の援護依頼、受けるか?」

「…分かったわ。便利屋の名にかけて必ず私達が協力するわ!」

「早いね。そんなに金が欲しいのか」

「それもそうだけどカイザーには」

 

「面倒だけど…アルが決めたことなら」

「アル様が決めたことなら地獄の底でも着いていきます!!」

 

頬を緩ませてひとまず安堵する。これで少しの戦力は確保できた。

あとは先生がどのくらいの戦力を確保してくれるかだけど…そんな心配しなくていいかな。

問題は誰を味方につけるか、だけど…風紀委員会はいやだな。

 

「じゃあ9時に校門前に集合ね」

「えぇ!しっかり弾薬の確保もしておくから期待していてちょうだい!」

「頼むよ、便利屋」

 

依頼を受けてくれたことに安堵しつつスマホを開く。

便利屋が協力してくれることになった旨を伝えつつ家族たちにはどうしようかと言うことが頭に思い浮かんだ。

家族たちのことが知られたらかなりめんどくさい。

だが戦力を出し惜しみしありえないが負けるなんてことがあったら目も当てられない。

秘密か戦力、どっちを……

悩みながら歩いていた時、手に持っていたスマホが震える。

モモトークを開くと先生からのメッセージが届いていた。

 

『私も風紀委員会の方に行ってみたんだけど』

『今すぐ断って』

『残念だけど断られちゃった』

 

……まぁいいか。

 

⬛️⬛️⬛️

 

 

「委員長に会いたいんだったら土下座して私の足でも舐めたら……」

“分かった!”

 

ヒナちゃんに交渉しようとゲヘナに来たがその前に腕にアームスリングをつけたイオリちゃんに足を舐めろと言われてしまった。

少々恥ずかしいが生徒のためだ。プライドとか捨ててやる!

靴を脱がせ靴下を畳み褐色の足に遠慮なく舌を這わせる。

 

「ひゃん!ちょ、ちょっと!?大人のプライドとか尊厳とかはないのか!?」

“生徒のためならそんなもの捨てるよ!”

 

少し蒸れてるし汗の味がする。今日は暑いからね…

 

「おっ…おかしい!ヘンタイ!歪んでる!」

「……ずいぶんと楽しそうね?」

“ヒナちゃん!”

 

銃は撃てないので弱々しくも拳で私に抵抗しようとしたイオリちゃんの背後からヒナちゃんの声が響いた。

ゆっくりと、油を差していない機械のように振り向いたイオリちゃんの顔が驚愕と希望に染まる。

 

「委員長!助けて…!」

「なるほど。顔を上げて。先生。今まで自分のために膝をつく人は見てきたけど他者のために膝をつく人は初めて見た。先生。私に何をしてほしい?」

“あれ?”

 

ヒナちゃん、もしかして私がイオリちゃんに膝をついていると思ってる?

ま、まぁヒナちゃんには出会えたんだしホシノちゃんの事話して…

 

「い、委員長…先生はひざまずいるんじゃなくて、その…」

「……?…………!!!!!!?????」

 

ヒナちゃんの顔が瞬間湯沸かし器のように真っ赤になった。

イオリちゃんの足を私の顔を交互に見、銃を持つ腕をワナワナと震わせながら口をパクパクさせる。

 

「落ち着いて委員長!そ…そもそも頼んだのは私だから!それに先生も委員長に聞きたいことあるみたいだし!」

 

……苦労したがなんとか落ち着かせた。

 

「改めて何か用なの?先生。ここまで来て貰って追い返すのも忍びないから良ければ聞かせてちょうだい」

“うん。実はホシノがカイザーの所に行っちゃったんだ。取り返すのに協力してほしい”

「小鳥遊ホシノが?……その作戦にアビドスは…いえ、見鷹アリサは参戦のかしら」

“参戦するよ”

 

そう言うとヒナちゃんとイオリちゃんは顔を見合わせた。イオリちゃんの顔から血の気が引いて包帯を抑える。

私は思わず天を仰いだ。アリサちゃんは風紀委員会、特にイオリちゃんにひどい怪我を負わせたからトラウマになってて当然だ。

 

「……申し訳ないのだけど。風紀委員会として私達にできることは何も無いわ。先のアビドスでの戦いで風紀委員会の大半が負傷してまだ殆どが完治していない。それに見鷹アリサは私達の顔を見たら状況に関わらず私達と敵対するわね」

「私が行ったら今度こそアイツに殺される!それはゴメンだ。」

“そっか…ゴメンねふたりとも。こんな事聞いちゃって”

「その代わりと言ってはだけど私にできることがあったら何でも言って。可能な限り協力するから」

“うん。ふたりともお仕事頑張ってね”

 

分かれてアビドス方面の電車に乗りながらため息を付く。風紀委員会が味方になれば結構戦力になると思ったのに……そう簡単にはいかないな。

皆にそのことを知らせようとモモトークを開くとアリサちゃんから便利屋が味方になったという連絡がついていた。

少なくとも5人で挑むことにはならないな、と思いながら風紀委員会に協力を要請したけど断られたことを打ち込む。

 

『断って』

 

すぐにアリサちゃんから返信が届く。たしかにこれは下手に会わせないほうがいい。

でも一回戦っただけでもかなりの量だったし便利屋の子たちもいるらしいけど……

 

“断られたよっと…大丈夫かな”

 

いざとなったら大人のカードでも使ってもいい。

風紀委員会は結構当てにしてたのに…

その時スマホがアリサちゃんからの返信を知らせる。

 

『分かった。私、いい人知ってるからそこに連絡する。どれだけ集められるかは分からないけど』

『危なくない?』

『大丈夫』

 

そして熊が親指を立てているスタンプが送られてくる。

アリサちゃんがそういうなら信用していいかな…先生としてはあんまり危ない事してほしくないんだけど。

 

⬛️⬛️⬛️

 

都市へと続くポータルを作り、その先へと足を進める。

ぐにゃりと曲がる視界と不明瞭になる意識に身を任せているとやがて悪臭漂う裏路地に立っていた。

 

「よし」

 

小さく呟いて仕返し帳簿を腰に巻き近くの通りに出る。

時間がないから帳簿さえ見せれば人は寄ってこないだろう。

戦力は最低限ヒースクリフ、できれば40人は持っていきたい。あくまで理想だが。

大人数の…転送であれ輸送であれが成功するかも不明だ。

だって私が偶然見つけてそれを使っているだけなんだから詳しい使用方法なんて分かるはずもない。

 

「今の今まで都市の行き来とかに使ってるけど大丈夫じゃないよなぁ」

 

もしかしたらポータルを開けなくなって一生都市に幽閉、なんて事も起こりえるわけだ。

都市なんだ、こんな事があっても不思議じゃない。

ただ現状はどの翼でも別空間の転送はなし得ていないから実質これに頼る他無いのだ、残念ながら。

もっと確実で安全な移動方法あったらな…

 

「ヒース、いる?」

「ん?なんだ、姉貴」

 

 考え込んでいるともう家族の所に着いたようで扉を開くと談笑しながら帳簿を開いているヒースがいた。

 咳払いをして私も椅子に腰掛ける。

 

「まだ昼だろ?どうしたんだ、そんな早い時間によ」

「ちょっと急用。デカい怨恨を一つ晴らさなきゃいけないから着いてきてもらおうと思って」

「何人必要だ?風紀委員会…いや、カイザーか?」

「後者だよ。…最低限ヒースには着いてきてもらいたい。他の奴らはまだ考えてる。あんまり大勢だと苦労するし」

「遠慮すんなって。オレたちだって姉貴にはいつも助けられてんだしよ」

 

ヒースいるなら大丈夫だしあんまり大事にはしたくないからヒースだけでいいかな。

連れて行くだけでも皆に問い詰められること間違いなしだ。それもこんな不良的な見た目の大男だし。

でも私だけじゃ皆が危ないからもうそこらへんは諦めよう。

もうどうとでもなれ、だ。

 

「あまり大勢だと危険だからなるべく少人数でいきたい。詳しい作戦は私の仲間との合流地点で話す」

「姉貴が良いなら良いけどよ。シンクレア、オレたちは少しいなくなるから帰ってくるまでここ頼んだぞ」

 

 ドンキちゃんに絡まれながらこちらに向けて頷いたシンクレアを確認してヒースのみを連れて路地裏に向かい、再び次元を裂いた。

 またも吐き気とめまいが襲いかかる。慣れていないヒースの顔色がすごい事になっていて申し訳ないけど少し面白い。写真撮ったら…いや、やめておこう。

 離れないように手を繋いでいると無事に何もなくキヴォトスに戻ってこれた。

 両方とも身体に異常はない。二人までは何の問題もなく行き来できるんだな。良いことを知れた。

 とりあえず弾丸が売られている自販機を信じられない表情で見つめているヒースを廃墟に連れ込み隠す。

 カイザーを潰すタイミングになったら来いといってあるから見つかりはしないはずだ。

 皆には…あまり詳しく話すとあれだし誤魔化せるだけ誤魔化そう。

 

『協力者一人確保した。強いから安心して』

『一人だけって…大丈夫なんですか?』

『大丈夫、信頼できる相手だから。それなりに変なやつだけど』

 

 都市で変じゃない奴はいない、みんなイカれてる。

 当然、私も。

 

『作戦の説明とかはそっちでしておくから安心して』

『便利屋の皆さんとアリサちゃんの連れてきた人で10人…大丈夫でしょうか』

『いざとなったら私が何とかするけど…』

『とりあえず先輩も戻ってきてください』

 

 アヤネちゃんからのメッセージを確認して走る。

 空はもう暗くなり始め、私は帰ったら銃の整備をしなきゃな、と思いながら私は走った。

 

◼️◼️◼️

 

 そしていよいよ作戦当日になった。

 ノノミがおやつを持ってきたりと妙に緊張感がないが、それでもいいか。変に気を張り詰められても困るし。

 私は中指としての服装で鎖を鳴らしている。

 

「アビドスの地図も最新版にしておきました」

「弾薬も爆弾もバッチリだよ眼鏡ちゃん!」

「依頼は確実に遂行するから任せなさい!」

「前準備はバッチリみたいだな」

 

 あれだけ渡したからそうしてもらわないと困るが。

 

“あれ?アリサちゃんが呼んだもう一人の協力者って…”

「顔出すとややこしいことになるから戦闘中に乱入してきてもらうつもり。私以外に紫で鎖まみれのヤツがいたらそれが協力者だよ」

「作戦はちゃんと伝えてありますよね」

「当たり前でしょ。そこまでバカじゃない」

 

 銃弾もしっかり持ってるし、残香もしっかり整備しておいた。

 私は前線に突っ込んで戦うのが性に合ってるから、使う機会はないだろうがそれでも持っておいて損はないはずだ。

 

「それではホシノ先輩救出作戦…開始です!」

 

お試しでAI使って文章の校正などを行いたいけどAI使って許せる?

  • 誤字直し程度なら
  • 全然使って良い
  • 使うのは嫌だ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。