第四次試験の開催地は、ゼビル島という荒れ果てた無人島だった。
一切人の手が入っていない孤島のためか、そこは島全体が密林になっていた。少し歩くだけでも草木や蜘蛛の巣、倒木などが立ち塞がり、森慣れした狩人でもなければまともに進むことすら困難な構造と化している。
人工物は入り江にある波止場しかなく、飢餓や重傷などを理由に駆け込める中立地帯のプレハブ小屋などもない。前回と同じく死と隣り合わせの試験だった。
受験者たちはジェット機から降ろされた後、引き続き四次試験を務めるリッポーに「ここで1週間生活し、自身の3ポイントを含めた6ポイント以上を奪取せよ」と伝えられた。
そして試験終了時点で生存し、6ポイント以上を維持していた者だけが最終試験に進めるという話だった。
最終試験と聞いて、それまで森の悪環境を懸念していた受験者らの顔にぱっと花が咲く。これを終えればようやく最終試験なんだ、オレもハンターになれるんだと、彼らは口々に歓呼した。
そうして全員が全員、それぞれが大小の希望を抱えながら、第四次試験が幕を開けた。
⭐︎⭐︎⭐︎
黒い肌の男が、雄叫びを上げながら鬼龍に突っ込んでくる。右手には毒を塗ったナイフが握られていた。
また鬼龍の背後からも、カキン人らしき顔立ちの功夫服の男が拳を振り上げながら襲いかかってくる。
「うおおおおッ!!」
「フロアマスターが相手なのだ! 悪く思うなよ!!」
フロアマスターを狙っても1人では勝てない。遠距離武器も謎の受け流し技で幾度も防がれる。ならば2人で直接叩けばいい───そう考えての挟み撃ちだった。
鬼龍は灘の技を使うでもなく、しかし霞打ちに近い要領で上下に腕を振るう。
馬鹿正直に突っ込んでくる二者の顔面に、鉄球の直撃を思わせるインパクトが打ち込まれた。
「べぶっ!?」
「がはっ!!?」
うつ伏せに倒れる功夫男。鬼龍はついでとばかりに、男の背骨を足で踏み砕く。
「ふんっ!!」
「ぎゃああああああああああああァっ!!!?」
男の糸目が、無理やり開眼させられたかのように露出する。
背肉に折れた骨が突き刺さり、動くたびそれが食い込む。激痛と内出血が止まらず、男は腹の底から悲鳴を上げる。
「うがぁああああああっ!!!」
必死でゴロゴロと転がりながら、しかし痛みが増していく一方の功夫男。そのある種滑稽な姿からは、毒餌に苦しむドブネズミが想起された。
「お、お前……そこまですることないだろう!?」
黒人系の男が鬼龍を非難する。当の鬼龍は鼻で笑うと、顎先で男の携行する吹き矢とナイフを指した。
「調子に乗るなよクソゴミ。よりによって毒で殺しに来ている貴様が言うことか?」
「お、オレは命を取る気までは……!」
「信用できんな。真実ならばその吹き矢を折って、ナイフもこちらに手渡してもらおうか」
「………」
黒人系の男は逡巡する。勝算のない闘いを続けるか、降参を選ぶか。
だが最終的に、迷っている暇はないと判断し手早く吹き矢を折った。そしてナイフも鬼龍に投げ渡す。
背骨を蹴り折られ、今やビクビクと震えるしかない人間を間近で見てしまったのだ。彼にはそうする他にどうしようもなかった。
「これでいいんだろう……!」
「ナンバープレートも寄越せよ」
「くっ……」
男がナンバープレートもしぶしぶ譲渡すると、鬼龍は功夫男のそれも剥ぎ取って嘲った。
「ゴミが。弱者は更に弱い者を見つけて闘いを挑め」
「………!!」
鬼龍が消えた後、男は惨めさとプレートを失った焦燥感で胸がいっぱいになった。こんな屈辱は彼の生涯で初めてだった。
男は動悸を抑えるように、衝動的に草地へ拳を振り下ろす。そして叫んだ。
「くそぉッ!!」
⭐︎⭐︎⭐︎
「あ」
「む」
鬼龍が遭遇したのは白髪の少年、キルアだった。
「ようオッサン。景気はどう?」
「こんな場所で景気もクソもあるか」
現在鬼龍は5ポイント、キルアは3兄弟を仕留め6ポイントを持っている状況だった。そのことを互いに教え合う。
「そっちの保有ポイントは? あと持ってる番号も教えて」
「5ポイントだ、番号は362と384。番号だけ言え、胸にプレートがあるから3ポイントは分かる」
「おーなるほど。オレのは197から199ね、こん中にオッサンのターゲットいる?」
「いいや、いないな」
「そっか。居たら交換しようと思ってたけど、残念」
キルアは当然敵対意志を示すことなく、寧ろ鬼龍の隣に並んで一緒に歩く。鬼龍は煙草を吸おうとしていたが、仕方がないので引っ込めた。
「オッサンってさ」
「なんだ」
「やっぱ裏社会の人間なワケ?」
「そういう自認はないが、客観的にはそうだろうな。お前のゾルディック家とは毛色が違うが、俺も暗殺拳を修め裏の世界に身を投じた人間だ」
「だよね。オレとおんなじ匂いしたもん、オッサン」
逆に鬼龍も問い返す。
「お前はなぜあの坊主とつるむ。クラピカは何がしか事情があるようだが、坊主とレオリオは本来、お前のような人間と縁を持つ人種ではないだろう」
「まあ、それはそう。普通なら絶対仲良くならなかった奴らだよね、あの2人は」
キルアは一拍置くと、でもと言う。
「けどさ、ダメなのかよ? 暗殺一家がプライベートに友達持っちゃ」
「俺が禁じることではない。だが、いずれ関係が破綻する公算は高いだろう。奴らは善の側に立ち、お前や俺は悪の側に立っているからだ」
「悪ってのは否定できないけど、破綻なんてさせねーよ。オレもその気になったら暗殺稼業から足洗うつもりだし」
「そんな容易に一抜けを許してくれるのか、お前の家庭は」
「……分かんないけど。でもやる時はやるよ、アルカも連れて家を出てく」
「アルカ?」
「あ、やべ……ごめんオッサン、忘れて」
この日、鬼龍とキルアは頃合いを見て共に野宿をすることにした。
鬼龍がライターを持っていたので火おこしをすると、その後キルアが釣った魚を焼いて食べることになった。
調味料もなく味は薄かったが、焦げ目と肉汁が美味しいとキルアは喜んでいた。