ハンター試験、最終試験。第四次試験の合格者とネテロ、そして一部の試験官が見守る中、遂に鬼龍の能力が明らかとなった。
ギタラクルは何も言わないが、鬼龍の発が露わになってから堅の強度が格段に上がったことが分かる。警戒を強めているようだ。
「……」
鬼龍は構える。合わせて別々のタイミングで念人形たちも───静虎と尊鷹がめいめいの構えを見せる。
如虎添翼の能力。それは『宮沢鬼龍の兄弟を呼ぶだけ』である。
意思はない。会話もできない。動きは個々が最適と判断した行動をとるだけで鬼龍が具体的に命じることもできない。
彼らが受けるダメージは全て鬼龍にフィードバックされる。また彼らが致命傷に相当する攻撃を食らう、あるいは鬼龍が集中を切らすなどすれば、念人形は維持できずに消える。
この能力は『仮に宮沢静虎と宮沢尊鷹が鬼龍と同等の念修行を行った場合、その分だけ成長した個体を念人形として呼び出せる』という形で全てが完結する。人形ごとの発の有無、修得可能性は現時点では不明。
戦況は一瞬で膠着状態に戻った。ギタラクルはどうやら操作系のようで、そもそも針を刺すことが出来ていない現状では発を発動しようがなく、
「しゃあっ!」
仕掛けたのは鬼龍。やや遅れて、静虎と尊鷹も動く。
鬼龍は風当身を、静虎は虎腿を利用したタイガーシュートを、尊鷹は低段タックルからの拘束、ひいては組技の実行を目指し駆ける。
全員の身体能力や技量はおおよそ同程度、ではなく尊鷹がずば抜けた身体能力を見せる中で、ギタラクルは3方向からの強襲に対処しなければならなかった。
しかし灘の3兄弟はそれぞれ異なる方向から攻撃を放ってきている。タイガーシュートで上段、風当身で中段、タックルで下段の対処を強いられ、これらを全て完璧に防御することはいかに熟練の念能力者といえど容易ではなかった。
ギタラクルはまず風当身を前面防御で受け、タイガーシュートは風当身防御時の衝撃を利用したバック宙返りで避けるが、尊鷹のタックルにはあえなく捕まってしまい地面に組まされてしまう。
「やるね」
言いながらギタラクルは針で尊鷹を刺そうとしたが、横から現れた静虎の脚が刺そうとする腕を踏み潰す。ミシッと骨が軋む音が聞こえた。
「おっ……」
そこに鬼龍が龍腿のバネで跳躍すると、静虎と尊鷹に拘束されたギタラクルに向かって傾斜降下する。このまま行けば兄弟たちを巻き込む勢いだった。
「灘神影流ッ!!」
鬼龍は落下しながら、その技の名を声高に叫ぶ。
「
鷹鎌脚を鬼龍独自にアレンジした技、首刈鷹鎌脚。
通常の鷹鎌脚は上段に蹴って成立する技だが、この技はあくまで首を蹴り折る一点に特化した技。どの状況、どの体位からでも首を蹴撃するための半回し蹴りであった。
しかしこのままでは静虎と尊鷹にぶつかってしまう───という寸前で、鬼龍は静虎と尊鷹の顕現を解除する。
「死ねいッ!!」
「…………」
鬼龍の足がギタラクルの首元に迫り、ギタラクルは回避が間に合わず首にオーラを集中する。
次の瞬間、ゴキッという激しい音がコート中に轟いた。
ネテロがほうと言い、試験官たちがざわつき、受験者たちはただただ圧倒されている。
「こ、この音って……」
「待て待て待て、そもそもなんであの針ヤローは大人しくぶっ倒れてたんだよ!? あいつらの間でいったい何が起きてんだ!?」
ゴンとキルアもあまりに次元が違う闘いを目にし、身を強張らせながら動揺していた。ヒソカだけが冷静に趨勢を分析し、負傷音を響かせた者を特定する。
「今の音の発生源は……あっちだね♠」
ヒソカが指差した先には、鬼龍がいた。
「ぐっ………!!」
鬼龍はその場から動けない。練と流だけを使った蹴り技と、硬をフルに集中した防御とでは、念の練度と攻防力の差で後者が勝ったためだ。鬼龍は足首を骨折していた。
他方でギタラクルも無傷ではない。鷹鎌脚は首に間違いなく直撃しており、そのダメージは決して小さくはなかった。頚骨には罅が入っている。
鬼龍がずるずると足を引き摺りながら離れる一方で、ギタラクルものそりと起き上がるが、首はぐにゃりとへし曲がっている。頭部が正常にすわらないようだった。
鬼龍が再度静虎と尊鷹を顕現させ、彼らを前に置いて戦闘を再開しようとした時。
「いや、もうよくない? これ以上やるなら、オレも殺すつもりでいかなきゃならないんだけど」
ギタラクルが抑揚のない声で言う。
「……もういいだと?」
ハァハァと肩で息をしながら返す鬼龍。
「うん、そっちが負けを認めるだけでいい。どうせオレかヒソカ以外なら勝てるんだから別に構わないだろ?」
「ふざけるのも大概にしろ。降参するなら貴様がすることだ、俺は絶対に負けを認めるつもりはない」
鬼龍の戦意は高い。死んでも自分から敗北を認めることはなかった。
「あっそう。じゃ、オレの負けでいいよ」
ギタラクルは言いながら、顎に刺していた針を引き抜いて首に刺す。すると刺した場所にオーラが発生し、それに合わせてギタラクルの首がぐぐぐと持ち直した。
「おめでとう。そっちの勝ちだ」
彼は、平然と敗北を認めた。
⭐︎⭐︎⭐︎
鬼龍が医務室で静養していると、しばらくしてゴンも気絶した状態で運ばれてきた。少年は目覚めると、ハンゾーという忍者姿の男と交戦しその際に怪我を負ってしまったのだと説明した。
「それよりキリュウさん、凄かったね!」
「………」
褒められた鬼龍だが、本人としては不完全燃焼だった。自分は未だに四大行と凝と流しか使えないにもかかわらず、ギタラクルなる男は四大行の応用全てを扱えるようだ。しかも針を刺しただけで首の負傷も回復されてしまった。
終盤に殺す気で云々と言っていたが、敵が本気ならば自分はどこまで張り合えただろうか? そう思うと鬼龍の拳に力が籠もる。
「き、キリュウさん?」
「なんだ」
心配そうに声をかけるゴンに、ぶっきらぼうに返事をする鬼龍。
「……試験には合格したのに、なんだか嬉しそうじゃないね。やっぱり、さっきの人が気がかりなの?」
「当然だ。あのような決着で誰が納得できるものか」
怒りを吐露する鬼龍。ウイングに続いて、次に戦う機会があれば決着をつけるつもりでいた。
ゴンが言葉選びを迷っていると、いきなり医務室の扉がバンと開かれる。
鬼龍とゴンが扉の方を見ると、そこにはレオリオがいた。
「ゴンっ!! キ、キルアが……!!」
「へ?」
レオリオはキルアがボドロを殺害して試験失格となったこと、その原因はキルアの兄が扮していたギタラクルだったこと、そしてキルアは既にどこかへと発ってしまい、姿が見えなくなってしまったことを捲し立てるように説明する。
「そんな……!」
「おいレオリオ、そのイルミというのは何処にいる?」
「ヒソカとまだ最終試験会場に残ってます!」
「よしゴン、聞け。イルミ=ゾルディックがキルアの兄であり、キルアを唆した張本人である以上、そいつが行き先を知っている可能性は高い。今すぐに追って行方を問い質すんだ」
「あ……う、うん!」
「俺もついていってやる、行くぞ」
鬼龍は歩行器を手に取ると、ゴンやレオリオとともにイルミの居場所へと急行した。