鬼龍「ほう…ハンター試験か」   作:うさみんZ

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天空闘技場⑥

 それから鬼龍は、しばらくの間天空闘技場を根城とした。

 

 サダソやギド、カストロといった数多の念能力者との戦闘経験を経て、今やフロアマスターへの挑戦資格も手にしていた。

 

 成績の内訳は10勝1分3敗。9勝は初心者狩りの3人を含む下位念能力者との闘いで得たものだが、1勝1分2敗はカストロとの試合の結果だった。

 

 カストロはやはり念能力に関する知識量と実体験の点で一日の長があった。練習試合を含め、朦朧拳を使ったところでもう一人の分身に圧倒的スピードで対処されてしまうなどの悪循環に陥っていた時期もあった。

 

 だが直近の公式成績は1勝1分。鬼龍は高い学習能力と戦闘センスを持っているだけでなく、念に関する理解も早かった。硬や堅には及ばずとも、それに近い形で纏や練を応用する訓練を積んだ結果、カストロとも十分に渡り合えるほどに急成長を遂げていた。

 

 残りの1敗はウイングと名乗る男との闘いだ。200階に登ってすぐの時期に行われた試合だったのもあるが、かなりの苦戦を強いられた。カストロには最終的に勝ったのでまだいいが、この男は出現頻度が低く、最後までやり返すチャンスが到来していないのが心残りであった。

 

 今一度、最強を夢見たのだ。途上で負けるのはいい。だが最後には勝たなければ、どうしてもしこりは残ってしまう。

 

 いつか見かけたら必ず倒してやると、鬼龍はかたく心に誓った。

 

 

 

 ⭐︎⭐︎⭐︎

 

 

 

 鬼龍がこの世界に来て、1か月以上が経ったある日のこと。

 

「それで、ミスター鬼龍はフロアマスターに挑戦するのか?」

 

 港湾部を望む海鮮レストランの対面席で、カストロに問われた鬼龍。2人とも料理は平らげており、残っているのは何枚かの皿と巨大なエビの殻だけだ。

 

「そのつもりだが。あんたはなぜ10戦目を闘わない? 挑戦権が無くなってもいいのか?」

 

「……私は、とある男にリベンジするために200階クラスにいる。その男に勝って初めて、フロアマスターを目指そうと考えていた」

 

「リベンジ? なんだ、復讐か?」

 

「復讐というほどではない。だが、私がこれから胸を張って生きていくためには絶対に必要な禊だ」

 

 カストロの声には、ただならぬ決意が籠っているように感じられた。

 

「禊か。その果てで、自分に納得して生きていけるのならばそれはそれでいいだろうが」

 

 鬼龍はゆっくりとテーブルに肘をつき、にやりと不敵な笑みを浮かべる。

 

「だが俺は、(しがらみ)に縛られて生きる輩に冷静な人間を見たことがないぞ。カストロよ、あんたは今冷静か? 何か見落としていやしないか?」

 

「…………」

 

「あんたは孤独な闘いの日々を送ってきたんだろう。そういう奴は視野が狭窄になっている可能性がある。仇敵と闘うにしろ、もう少し広い視野をもって準備するべきだ。そのリベンジとやらに臨む前にな」

 

「……ああ。助言として、ありがたく受け取っておこう」

 

 

 

 ⭐︎⭐︎⭐︎

 

 

 

 フロアマスター防衛戦。これは天空闘技場という団体にとって、毎年最高収益を生むコンテンツの一つだ。

 

 フロアマスターともなると元陰獣、シングルハンター、経験豊富なブラックリストハンターなど、ハイレベルな経歴を持つ闘技者のみで構成される。ゆえに彼らの闘いを見ることができるだけでも値千金であるのに、更にはそれを娯楽として消化できるのだから贅沢な話であった。

 

 本日行われる鬼龍VSフロアマスターの試合のために、3万人を超える現地客が闘技場に押し寄せた。電子での観戦数はその10倍、30万人である。33万人以上がフロアマスター防衛戦に注目していた。

 

 鬼龍のセコンドにはカストロがついた。カストロは頭も悪くなく、武術の才もあるため、鬼龍とはかなり相性がよく良好な仲を保てていた。

 

 鬼龍も精神面は60代の頃のままで、自身が40代だった頃よりも棘が減じているのもあり、こうした現地の関係は重んじる方向へと舵を切っていた。

 

 何より鬼龍は、別段知己や友人を作れないというほど破綻した人物ではない。女性関係やスマイルジョーがその好例だ。

 

「ミスター鬼龍、対戦相手はシーハンターだ。海の人というのは粘り強い手合いが多いぞ」

 

「なぜ海の者が天空闘技場でフロアマスターなんぞをやっている? 定期的にここに来て闘わないとマスターの資格が切れるんだろう、仕事に差し障るんじゃないのか?」

 

「遠洋漁業や海軍の長期出航任務などとは業務の種別が異なるのかもしれない、港で仕事をするだけでもシーハンターと呼べなくはないからな。あるいは長期の仕事が少ないハンターなのやも」

 

「能力について知っていることはないか? 念人形を使うことについては知っている」

 

「私も念人形の兵隊を操ることは知っているが、他に詳しいことは残念ながら……と、そろそろ時間だ。行こう」

 

 カストロが先導すると、鬼龍もそれを追って歩き出す。

 

 フロアマスター防衛戦。相手はシングルのシーハンター。

 

 このハンターとやらに、鬼龍はふと興味を抱いた。

 

 この世界にはハンターという職業がある。彼らハンターはハンターライセンスのもと、多種多様な権利の行使を認められているのだという。条件付きの殺人許可から公共施設の無料利用まで、ライセンスの効力は多岐に渡るとのことだ。

 

 また身分証明書代わりにもなると聞くと、手持ちの免許証やマイナンバーカードが使えない現状、鬼龍にとってはライセンスを取得するメリットは大きかった。

 

(このフロアマスターへの挑戦が終わったら、取ってみるか)

 

 頭の片隅で、鬼龍はそう考えた。

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