「オラオラ!! オレ様の
白い海軍帽を被ったシーハンターは開幕から、兵器で完全武装した少女兵を何十体も繰り出してきた。
彼女らはライフルからマシンガン、ガトリング砲からロケットランチャーに至るまで各種揃えて展開しており、重火器は着弾時の威力からも、元のそれと比べて性能が減衰していないことがわかった。すなわち鬼龍の目の前に広がるのは等身大の兵器群だった。
少女たちの瞳に生気はない。兵器自体はハリボテではない本物であるが、動きはひたすらに単調だ。
それゆえ銃砲弾の軌道を予測するのも簡単で、念で動体視力と回避速度を強化した鬼龍からすると、彼女らはただの烏合の衆に過ぎなかった。万一小銃弾等が命中しても弾丸すべりがある。とはいえ砲弾は避けるしかない。
(対処は容易だな)
鬼龍は女性に手を出すことはないが、念人形は別である。
近くにいた金髪と茶髪の少女兵をまとめて蹴り飛ばすと、ぼふんっと可愛い音を響かせてその姿が消失した。
「ギャハハハハッ! ムダムダムダムダぁッ!!」
シーハンターはパチンと右指を鳴らすと、たった今鬼龍が消し飛ばした2体の少女兵がシーハンターのそばに出現する。そしてまた先ほどいた持ち場、つまり鬼龍が現在いる位置へと戻ろうとする。
一見すると強大な敵である。しかし鬼龍にとっては、これが本当にフロアマスターなのかと思うほど隙が多すぎる───正確に言えば、発の制約内容が分かりやすい敵だった。
(弱くはない。使いようによっては、単独で紛争を起こせるだろう)
だが使い手と使用環境がダメだ。
少女兵を何体でも出せると言いながら、同時に30体より多くは出せていない───つまり小隊規模が限界と、誇張が明らかなのがその証左である。また少女兵は持ち場に戻る間、こちらに攻撃をしてくる素振りがない。これも制約のアウトラインが明快に過ぎた。
動きが単調なのも、強力であるがゆえの代償に違いない。
(恐らくこれらの念人形は、海上で運用できるのが最大の強みなのではないか)
鬼龍はそう推測する。それならば少女たちが全員下方向のジェット付きエンジンを設けたコスチュームを着用しているのに納得がいくし、あのハンターがシーハンターとして一ツ星を獲得したのも得心がいくからだ。
(多少小回りのきく浮遊砲台を30機も海上展開できるのは有用だが、陸ではその利が大きく失われてしまう)
鬼龍は幽玄のかわしで火器類の雨を潜り抜けながら、着々とシーハンターとの距離を詰めていく。その合間に少女兵たちも何体か殴り殺しておく。
「なんだおめぇ!? オレ様に近づくなんて気でも狂ったかぁ!!?」
動揺を隠せないシーハンター。鬼龍との距離が数mまで縮まる。
「ち、近づくんじゃねえ!! 来んなボゲェ!!」
ハンターはだいぶ焦った声を漏らすが、彼を囲むように侍る少女兵たちは肝心の彼を掩護する動きを見せようとはしない。持ち場の範囲内で銃口を傾けるのみだ。
これも制約がゆえだろう。自律思考する完全武装兵隊を無限に出せるような都合のいい能力はそうそうありはしないのだ。
鬼龍がついにハンターの目と鼻の先まで近づき、殴りかかろうとした時。
「……かかったなダボハゼが!!」
シーハンターはそれまで密かに発動していた隠を止め、懐から硬のオーラを溜めたアッパー性の一撃を繰り出してくる。
元々溜めていた練を隠で隠しておき、このタイミングで更にオーラを集めて硬を完成させ、打ち出した必殺のアッパー───
(直接戦闘もそれなりに出来るか)
その拳速は鬼龍の霞打ちにも匹敵するほどで、破壊力も並外れた域にあろうことが推量された。腐ってもこの男はシングルハンターなのだろう。
だが鬼龍は、この程度の奇襲はカストロとの闘いで対処し慣れていた。当たればなるほど脅威ではあるが、当たらなければどうということはない話である。
鬼龍はシーハンターより先に殴りかかろうとしていた右拳から、突然真ん中の指だけを力強く突き出す。合わせて左拳も出したかと思えば、同じように真ん中の指だけを突き出す。
つまるところ両指を立てて、ファック・ユーをしていた。
「は!?」
なぜこのあわやインファイトというシチュエーションでいきなり挑発されたのかシーハンターには理解できなかった。何であれば鬼龍自身、こうした副次効果は期待していなかった。
だがこの反応の遅れが、勝敗を分けた。
「灘神影流」
「あ……?!」
「一寸棒死!!」
鬼龍は両中指を、ズボッとシーハンターの耳の奥に突っ込む。
「ぉ゛あッ!!?」
それから鬼龍は、シーハンターの耳垢が指の腹まで付着するのも気にせず、グリグリグリグリと無造作に耳奥を掻き回す。
「ぐぎィいいいいいいいいいいい!!!?」
シーハンターはただ絶叫することしかできない。あまりの苦痛に耐えかねてか、広域に展開していた艦隊これくしょんの少女兵隊たちがだんだんと消え去っていく。
「はがっ、があぁあぁッ……うあ゛ぁ゛ああぁっ!!?」
「クククク………」
鬼龍はシーハンターの耳内部を完全に破壊する勢いで、グチュグチュと異音が鳴り出しても構わず蹂躙を続けた。
「や゛、やめ゛で……ぐれェッ……! お、オレの、負けでいいがらっ……」
「聞こえんな。誰が負けだって? もっと大きな声で言ってくれよ」
「がぁああ…………ッ!!」
シーハンターの作戦は見え透けていた。小さな声で降参を告げて、いざ不利な状況から脱出すれば素知らぬ顔で戦闘を再開する。そんなことは誰しもが思いつく作戦であった。
「どうした? 早く大声で言わないと脳まで達するかもしれんぞ」
グジュグジュと外耳道を虐め、鼓膜も爪でズタズタになっていく中で、刻一刻とその先をも破壊される恐怖に怯えるシーハンター……
「………いっ、言うワケねぇだろクソゴミが!!
ではなかった。
シーハンターの背後に、一体だけ黒髪の少女兵が現れる。
「ほう、足掻くか」
鬼龍はバックステップで距離を取ると、先ほどまで彼がいた場所に散弾銃の弾丸が何十発も突き刺さる。
「ハーッ、ハーッ、ハーッ……!!」
それからもう一体の少女兵が現れると、シーハンターに肩を貸した。
「それがシングルの意地という奴か? たいしたもんだな」
「何言ってんのか聴こえねえよクソが……!」
鼓膜が傷つけられたためか、シーハンターには聴覚異常が起きているようだ。それを見て鬼龍はククッと笑う。
相手が満身創痍なのはいうまでもなく、もはや鬼龍が勝つのは時間の問題であった。
「念の世界は奥深いな。お前の方が習熟度も、発の有無でも俺より優位なのに、結果はこれなのだからな」
「ああ゛!?」
「さて、虐めるのはここまでにしてやろう」
鬼龍はノーモーションで、一気にシーハンターとの距離を詰めた。
「うっ!?」
シーハンターも万全であれば対応出来たかもしれないが、この時は疲労困憊のために捕捉が遅れてしまう。
「ただの縮地だ。念だけにかまけるんじゃなく、武術も嗜んでおいた方がいいぞ」
「ね、ネイヴィッ」
言い終える前にシーハンターの顔面へ右ストレートを喰らわすと、ハンターはそのまま白目を剥き、気を失って後方に倒れた。
呆気ない終わりだった。
「しょ、勝者…………え?」
鬼龍は審判に近づくと、その服に汚れ切った指をゴシゴシと擦りつける。
「あ、え? あの……?」
「血と耳糞を拭いただけだ。文句あるか?」
「えっ……い、いえ、わかりました。では勝者………」
鬼龍はその先の言葉を聞こうともせず、カストロが控える選手入場口前へと歩きだした。
「キリュウ=ミヤザワ選手!!」
爆発的な大歓声が会場を支配し、鬼龍、鬼龍と叫ぶネーミングコールが観客席の至るところで巻き起こった。
セコンドとして近くで観戦していたカストロはというと、微妙な表情で勝者がリングを降りてくるのを見つめるだけだった。