超超かぐや姫!♡ 作:匿名月人
ある程度本編未視聴でもわかるように書いていきます。
――今は昔……。
月代わりのミラーボールに薄らと照らされる竹林。
竹の間を縫うように吹くそよ風に乗って、硬い物を打ち付けあう音が響く。
――では、なくて。
「オラオラ、防戦一方か!?」
赤髪の青年が身の丈程の巨大な金砕棒を振るう。鬼を模しているようで、男の額からは黒い双角が生えており、その牙が覗く口元には優勢に進む現状に対するうっすらとした笑みが浮かんでいる。
――超未来だったり。
「……。」
金砕棒をその両手に握る小さな双刀で受け止め、時に当てて軌道をずらし受け流す未だあどけなさの残る顔だちをした小柄な少女。
青い生地に金糸で菫の刺繍が施された和服が、闇を溶かしたような濡れ鴉の黒髪と共に動くたびにふわりと風に揺れる。
動きやすいように袖と裾は短く整えられ、その先では月明りを吸ったように健康的で白い四肢が露にされている。
対面の鬼とは対照的に、その瞳は細められ、口元は固く一文字に結ばれており、頬を伝う冷や汗とぺたりとへたった狼耳が劣勢に立たされている現状を物語っていた。
――いやいや、大昔でも超未来でもなくて。
『おーーーっと!あの"SETSUNAの悪魔"が帝相手に防戦一方!今夜こそ悪魔狩りなるか!!』
『流石にいつも使わない武装では、SIKIもかなり厳しいか!?いや、そもそもなんで初めて使った武器でプロゲーマー相手にこんなに勝負になっているのか!!』
―これは勝ったな。ガハハ!風呂入ってくる
―499連勝で負けるのはキリ悪いから帝負けてくれ、頼む
―いつも挑発的なSIKIが無言なの……なんか興奮する
―↑通報した
―対戦中はいつもそうだろ
―HENTAIは出荷よー
―そんなー(´・ω・`)
実況席が騒がしく戦況を伝え、コメント欄がついに訪れるかもしれない悪魔狩りのチャンスにざわつく。ついでにHENTAIは出荷される。
――今とあんまり変わらない、少しだけ未来の話。
少女は攻撃を完全に受け流し切れていないのか、次第にその身体に幾本もの線が奔り、ピンクの花弁のエフェクトが刻まれていく。
そこからさらに数合の打ち合いの後、少女が体勢を立て直すために距離をとる一瞬、隙を突くように金砕棒の先端が投擲される。
咄嗟の攻撃をなんとか小刀で弾くものの、大きくバランスを崩す少女に対し、金砕棒の中に隠されていた一本の刀を構えた鬼が肉薄する。
そうして、小刀を握る少女の右腕を切り飛ばした。
――ゲームしている普通の……。
……取った!
右腕がピンクの花弁のエフェクトに包まれながら宙を舞い、身体のバランスを崩した少女に対し、
「……。」
ゾクリ。
先ほどまでの表情と一変して、冷静さのみが宿ったその瞳と視線がぶつかった瞬間、鬼の背筋に冷たいものが走った。何か、見落としてないか?そう考えたのと同時に、握っていた刀の重みが、感覚ごと消失する。見れば、右腕とともに切り飛ばしたはずの小刀が、その軌道上にある鬼の利き腕を切り飛ばしながら少女の腰の横を通り過ぎ、地面に突き刺さった。
――普通?まぁ、いっか♪普通の女子高生ありけり。
「……はは、やっぱ勝てへんわ。」
急に利き腕を失い武器もなくした鬼に対し、即座に体勢を立て直した少女が
――名をば、
『な、なんと!!右腕と一緒に飛ばされた短刀が……そんなんアリ?』
『カムバック機能!しかし、あくまで使用者のもとに帰って来るだけなので、完全に武器の軌道を予測してタイミングも合わせないといけない絶技!ミスったら終わりの絶体絶命の状況でこんなことやるか!?これが"SETSUNAの悪魔"の本領か!!』
―パンツ脱いだら帝負けそうなんだけど
―↑しまえや
―いや確かに武器には基本カムバック機能搭載されてるけど、攻撃に使ってる人初めて見たわ
―てかなんかウルトゲージ3本溜まってね?
―いや溜まるの早すぎッてか、体力管理的にもしかして今までの攻撃わざと受けてた!?
―激ヤバ
―帝……お前、武器が!
ウルト。多数の被ダメにより最大値までたまったゲージが全て消費される。残った左手の小刀から、武器のない鬼では防御不能の連撃が放たれ、その身体に五月雨のように殺到する。
瞬く間にHPゲージをすべて失った鬼は、悔しそうな顔を浮かべながら、ピンクの花弁に溶け込むようにその場に倒れる。
――
赤髪の鬼を下した可憐な少女の頭上に、大きなポップアップウィンドウが表示される。
勝者を示すその名の隣には、爛然と輝く"500連勝中!"の文字。瞬間、コメント欄の流れる速度は加速し、これまで固唾をのんで勝負の行方を見守っていた視聴者による驚愕や称賛の言葉で埋め尽くされる。
惜しみない万雷の喝采の中、小刀を懐に仕舞った少女はゆったりとした足取りで倒れる鬼に近づきしゃがみこむと、そのさらけ出された筋肉質な胸板に小さく細い指を這わせる。
ふぅ。と軽く息をつくと、それから対戦中は常に固く一文字に結ばれていた口がゆっくりと弧を描き、チロリと小さな舌がその口内で妖艶に左右に揺れた。
――それで静月はこう言ったの。
「よわよわ帝♡ぷろげーまーなのにかわいい妹にボロ負けして恥ずかしくないの♡」
――メスガキだよね。ヤッチョ知ってる!
◇◆◇◆◇
「だぁーーーー!!!クソ、また負けた!」
「いぇーい」
暗い部屋。モニターとゲーミング箸の光が照らすのみの少し広い室内にて、2人の男女が隣り合っていた。
男はコントローラーを手放すと、ゲーミングチェアの背もたれに深く体重を預け、額にまでかかった汗を拭いながら騒ぐ。その際、配信に声は載らないようにミュートをすることを忘れない。
その両目は怪しいオレンジ色に輝いており、今では彼の活動範囲の全てとなったツクヨミにアクセスするために必要な"スマートコンタクト"、通称"スマコン"というコンタクト型のデバイスを装着していた。
"
複数の大会での優勝記録を持つほどのゲームプレイの腕前も持ち合わせており、決めるべきところではしっかり決めるものの、ゲームプレイを興業の一種として魅せる、所謂魅せプが多い高い配信者意識を持つプロゲーマーでもある。
その隣で生意気な笑みを浮かべながら、コントローラを丁寧に机の上に置き、両手を顔の隣に持ってきてダブルピースする少女。その瞳には、男と同じようにオレンジ色の輝きがあり、"スマコン"を使用していた。
暗い部屋で、男女が2人きり。1歩間違えれば問題が起きてしまうような組み合わせではあるものの、2人の間に漂うのは甘酸っぱい恋人のようなものではなく、気心の知れた友達のような、仲の良い兄妹のようなものであった。
それもそのはず、少女の名前は
酒寄朝日の7歳下の実の妹であり、姉に
ツクヨミで大人気であるゲーム"KASSEN"。数多のプロゲーマーや企業が注目するそのゲーム内の1:1であるゲームモード"SETSUNA"において、持たない記録のないとされる隔絶した腕前を持ち、もはや誰にも塗り替えることは不可能とされる、最高ランク帯500連勝という記録を先ほど樹立した静月。ちなみに2位は"黒鬼"所属の"乃依"による48連勝という記録であり、如何に飛びぬけているかがわかる。相手の行動の全てを見切り、初見の技のはずなのに完璧に対応してくること。対戦相手のランクポイントを確定で下げることから、"SETSUNAの悪魔"と恐れられている。
「もういっぺんや、もういっぺん!」
「ええけど、500連戦見届け配信ってオタ公さんと乙事照さんに言うてしもたで?そもそもランクマやし、当たるかわからんやん」
「最上位帯やし、ちょっとタイミング合わせればマッチするやろ!2人には俺からお願いしとくから!」
「ほんま、朝日はしゃあないなぁ。ええよ。また勝つから、ランクポイント上げなおし頑張ってな」
2人は最後にコツンと拳を合わせるとまた集中するように瞳を閉じた。
静月が家を出る、1週間前の出来事であった。
帝出て彩葉出ない1話マジ?