討伐任務の帰り道の森の中にて、奇襲を受けた。
先の任務の消耗もあってか、その時既にゲナウの『目』は潰されており、気配を察するのが遅れた。しかも地面には幾つもの矢が素早く降ってきて突き立ち、その矢尻には小粒の蒼い鉱物が装着されていた。
ゲナウとメトーデは臨戦態勢に入ったが、ゲナウは黒金の翼を発動出来ず、メトーデは杖が出せなかった。
(これはまさか、封魔鉱……!?)
二人がそう察した時には、十人以上のならず者達が二人を取り囲んでいた。その手にも、蒼い鉱石がそれぞれ握られている。
「こりゃ運がいい……二人も魔法使いが罠に掛かりやがった」
「男女のペアか……。女の方は文句なしに高く売れそうだ。男の方は……ガタイが良すぎだな、女貴族様にでも高く売れるか」
(魔法使い狩りの連中か……。こちらを封魔鉱で無力化し捕らえ、高い値で売り飛ばすという)
(あらあら、またこういった連中が……わたくしからしたら、何度目かしら)
ゲナウとメトーデは背中を合わせ、いつでも対抗出来るよう構える。
「ほう、魔法無しでオレ達とやり合おうってか。まぁ、こういう時のために体術くらいは使えるんだろうがな。魔法使い狩りが本職のオレらに敵うと思ってんのか。────やれッ!」
リーダー格らしき男が命令すると、他の魔法使い狩りの連中が二人に向け容赦なく様々な得物で襲い来る。
「やれるか、メトーデ」
「えぇ、心得ておりますとも」
二人は冷静に軽やかにそれぞれ体術を駆使して魔法使い狩りの連中をのしてゆく。
「チッ、結構やりやがるな。だが、これはどうだ……?」
リーダー格が小さく合図をすると、木の上に潜んでいた弓使いが、後ろからゲナウの左肩をめがけ矢を突き立てた。
「うぐ……ッ!?」
「ゲナウさん!」
「これしき……問題ない」
「それはどうかな……?」
(く……、視界が、揺らいで────毒、かッ)
ゲナウは膝から崩れ落ち、メトーデが急いで駆け寄ろうとするが、魔法使い狩りの何人かにそれを阻まれる。
「女は傷一つ付けると価値が下がるからな……、男なら多少傷があっても問題はねェ。なぁ美人な姉ちゃんよ、これ以上その男を傷つけられたくなきゃ大人しくオレ達について来てくれねェか」
「………………」
「やめろ、メトーデ……。お前だけでも、逃げ───う"ぁッ」
魔法使い狩りの一人が、ゲナウの左肩に刺さっている矢ごと足で踏み躙る。
「お止め下さい。……何でも言う事をお聞きしますから」
「メ、トーデ……ッ」
「フン、それでいい。───野郎共、魔法使い二人をアジトに連れて行くぞッ。それまでの道のりは目隠しをさせとけ。両手を後ろ手に縛るのも忘れんな。あと封魔鉱付きの足枷も着けとけよッ」
「………………、?」
「お目覚めになりまして? ゲナウさん」
そこは、薄暗い牢屋のようだった。メトーデとゲナウは二人して、同じ牢屋に閉じ込められたらしい。どうせ逃げられないと踏んで、見張りはつけられていなかった。
「メ、トーデ……お前、何かされてないだろうな」
「ふふ、大丈夫ですよ今の所は。……それよりご自分の心配をなさって下さい。左肩、痛むでしょう。突き刺さっていた矢と一緒に踏まれた上に、無理矢理抜かれたりして」
そう言われた途端、左肩に激痛が走ったが何とか痛みを堪え、声は上げなかった。
「矢尻に毒が塗られていたのですよね。身体の方はどうですか?」
「殺せば捕らえた意味が無くなるだろう……死ぬほどの毒ではない、はずだ」
言いながら横になっていた身体を無理にでも起こすゲナウ。……どうやら後ろ手に縛られ、足には封魔鉱の枷が着けられているのが分かった。
「それでもやはり、苦しいのでしょう? わたくしに、任せて下さい」
「何を、言ってるんだ。後ろ手に縛られているのは、お前も同じだろう」
「いえ、見つけられぬよう隠し持っていた小さな刃で縛りは解きました。……足枷だけでなく、周囲にも封魔鉱がご丁寧に用意されていますね。今は魔法は使えませんが、毒を吸い出す事は出来ます」
「な……?」
メトーデはゲナウを引き寄せると、左肩の穴から流血している血を啜り始めた。
「くッ、うぅ"……!?」
痛みに身を捩るゲナウに構わず啜り続けるメトーデ。
……それから少ししてぺっと啜った血を床に吐き出し、何度かそれを繰り返す。
「─────はい、終わりました。わたくし、体内の毒を吸うのが得意なのですよ。それに毒には、結構耐性がありますから。……少しは楽になったと思うのですけど、どうですか?」
「………………。楽に、なった、というより……疲れ、た」
「あらあら、ちょっと吸い過ぎましたかね。すみません、ゲナウさん」
ぐったりと項垂れている彼に、よく頑張りましたと言わんばかりに頭をなでなでするメトーデ。
「おうおう、ずいぶん仲良しじゃねェかお二人さんよ」
そこに魔法使い狩りのリーダー格の男がニヤニヤとしながらやって来る。
「……あら、親密なわたくし達の関係を邪魔なさらないで下さいます?」
「ほう、そういう仲なのかい。なら尚更、確かめさせてもらわねェとなぁ? ……おい、この美人な姉ちゃんだけ出せ」
魔法使い狩りの部下に命令し、メトーデだけを牢屋から出すリーダー格の男。
「お、い……貴様ら……、メトーデに何を、するつもりだ」
「それくらい分かるだろ、魔法使いのあんちゃんよ。───売り飛ばす前に、“味見”させてもらうのさァ」
「ッ!!」
「安心しな、傷は付けたりしねェよ。価値が下がるからなァ。……さぁこっちに来な、美人な姉ちゃんよ。分かるな? 逆らったらそこのあんちゃんがどうなるか」
「………………」
「駄目だ、行くなメトーデッ! ぁ"ぐッ」
魔法使い狩りの部下が牢屋の間から長い棒でゲナウが怪我をしている左肩を思い切り叩き突く。
「おやめなさい! 目的はわたくしなのでしょう、彼にこれ以上手を出さないで」
毅然とした態度のメトーデを、リーダー格の男は舐め回すようにみやる。
「いいねェ……そういう気の強い女は嫌いじゃないぜ……ッ?!」
その時、アジト中が激震に見舞われ、皆立っていられなくなる。
「なんだ、こんな時に地震か……!?」
「地震ではない─────“私”だ」
「!! ゼーリエ、様……?」
なんと、大陸魔法協会の創始者ゼーリエが唐突にその場に現れた。
「よくもまぁ、私の有能な弟子達を可愛がってくれたものだな」
「ゼーリエ、だと……?! あの大陸魔法協会の……ッ。とんでもねェ餌が食らいついたもんだ!! 分かってんのかい、ここはお前ら魔法使いにとって死に等しい場所……封魔鉱がそこら中に設置してあるんだぜェ!」
「だから何だ。────そんな物、この私には通用せん」
ゼーリエの身体から凄まじい波動のようなものが広範囲に放たれ、アジト内の封魔鉱を全て消滅させた。無論、ゲナウとメトーデの足枷に装着されていた物も。
「ゼンゼ、ファルシュ、魔法使い狩りのアジト内の人間を全て捕らえろ」
「「仰せのままに」」
ゼーリエの側近でもあり弟子の二人が魔法使い狩りの者達を容赦なく捕らえてゆく。
「リーダー格のお前はどうしてくれようか……。そうだな、害虫にしてやろう」
「ひ、ヒエェ?!」
ブチッ。……ゼーリエはリーダー格の男を害虫にした途端踏み潰した。
「ゼーリエ様……、直に助けて頂き、何とお礼を申し上げればよいか」
「そんな事はいい。……ゲナウの使い魔にな、ゲナウに何かあった時私の元へ来るようにしておいたのだ」
「そうだったのですね。────はっ、魔法は使えるようになったのですから、ゲナウさんを女神様の魔法で回復して差し上げませんと!」
「あぁ、そうしろ。……全く、どこまで痛い目を見れば気が済むんだ。まぁ、本人が悪い訳ではないのだがな」
「────まさか、ゼーリエ様自身が直接出向いて下さるとは。無様な失態を晒し、申し訳ありません」
一時的に気を失っていたゲナウは、メトーデに怪我を回復してもらい、ゼーリエが自分達をわざわざ助けに来てくれた事に驚きを隠せないと同時に深く恥じ入った。
「ぶっちゃけ暇だったのでな、気にするな」
「しかしゼーリエ様、貴女自身暗殺される可能性もあるというのに軽々しく外へ出るのは」
「案ずるな、今はまだその心配はない。今はまだ、な。────ともかく、有能な弟子でもたまには失態を晒す。寧ろその方が人間らしくて私は好きだがな」
「ゼーリエ様……何てお心の広いお方……! 是非今すぐなでなでさせて下さいませっ」
「お、おいメトーデ、それは本部に帰ってからに」
「メトーデ、私が許す。きっちり十分間ゼーリエ様をなでなでしろ」
「ゲナウ! お前この……裏切り者めっ」
End