俺の弟子が俺の彼女を寝取った挙句、俺の尊厳破壊してくるんですが……?復讐するけど大丈夫?〜黒蝕を纏いし英雄は復讐の果てに何を見る〜 作:αβ-アルファベータ-
「ガアアァァァァァッッ……!!!!」
シディスの口から漏れた声は、もはや人間のものではなかった。
禁薬『狂戦士の血』の乱用、そしてルクレツィアの裏工作によって与えられた秘薬、さらにはレオンの『偽魔力結晶』。
それら三つの異質な魔力が体内で異常化学反応を起こし、彼の肉体を異形へと変貌させていた。右腕の肉は黒く盛り上がり、皮膚を突き破って禍々しい骨の刃が幾重にも生え揃う。
全身の血管がドス黒く浮き上がり、瞳は理性を完全に失った血の赤に染まっていた。
「死ねよ……! レオン……死ねぇぇぇっ!!」
シディスが一歩踏み出した瞬間、酒場の石造りの床が爆発するように吹き飛んだ。
Sランク冒険者としての圧倒的な地力に、寿命を削り尽くす禁忌の魔力が上乗せされたその一撃は、まさに「災害」そのものだった。
「速い……! レオン様、危険です!!」
シルフィアが宝剣を抜き、レオンの前に立ち塞がろうとした。
「退いていなさい、金髪の騎士様」
しかしそこに静かで、だが氷のように冷たい声が響いた。銀髪を夜風にたなびかせ、ゆっくりと宙に浮遊したのは――シェラだった。
彼女の紫の瞳から、それまでの可愛らしい少女の面影が消え去っていた。溢れ出るのは、古代の深淵より来たりし「大魔女」としての、圧倒的な絶望の気配。
「レオンの復讐の邪魔をする奴は……私が直接、お掃除してあげる」
シェラが小さな手をかざした瞬間、酒場の上空の空間が歪み、巨大な漆黒の魔法陣が三重に重なって展開された。
『――黒天の刻印・解』
『ズズズズズズズズッ……!!』
大気が激しく震動し、周囲の空間そのものが重圧で歪んでいく。
「な……なによ、この魔力量は……!?」
ルクレツィアが息を飲み、後退りした。裏社会の修羅場を幾度も潜り抜けてきた彼女すら、肌の毛穴という毛穴から冷や汗が噴き出すほどの絶対的な暴威。
(この少女……ただの魔術師じゃないわ……! 一人で国一つを滅ぼせるレベルの『化け物』よ……!)
暴走するシディスは、シェラの圧倒的な気配に本能的な生命の危機を感じ取ったのか、目標をレオンからシェラへと切り替え、跳躍した。
骨の刃と化した巨大な右腕が、シェラの華奢な身体を握り潰さんと迫る。その一撃は、山すらも穿つほどの破壊力を秘めていた。
だが――
「愚かね」
シェラがパチンと指を鳴らした。
『重力概念遮断《グラビティオン》』
シディスの振り下ろした骨の巨腕が、シェラの身体の数十センチ手前で「目に見えない不可視の絶対壁」に激突し、凄まじい衝撃波が酒場全体を粉砕した。
どれほど膨大な魔力を込めようと、どれほどの破壊力を誇ろうと、シェラの展開した『概念の壁』を破ることはできない。
「がっ……!? がはっ……!?」
シディスの右腕の骨が、己の放った衝撃の反動に耐えきれず、メキメキと音を立てて逆方向に折れ曲がった。
「ぐ……あああああっ!?」
激痛に絶叫しながらも、シディスは倒れなかった。彼は血反吐を吐き散らしながら、折れた右腕を自ら力任せに引きちぎり、残された左腕で腰の短剣を抜き放つと、凄まじい執念で再びシェラへと襲いかかった。
「許さない……許さないぞレオン! 僕が……僕が真の英雄なんだ! お前らみたいなゴミ屑に負けてたまるかぁぁぁっ!!」
ポーションの毒で脳が焼け焦げながらも、シディスを動かしているのは「レオンへの異常な嫉妬とプライド」だった。
その執念は凄まじく、左腕の一撃はシェラの防御結界の表層をパリパリと砕き、その刃先がシェラの頬をかすめた。
「へーえ……?」
シェラの碧い瞳に、小さな感心と、それ以上の深い蔑みが宿った。
「褒めてあげるわ、屑でもよくやるものね。私の結界に傷をつけた人間なんて、数百年ぶりよ」
シェラは血の滲んだ己の頬を指先で拭うと、冷酷な笑みを浮かべた。
「でもね、お仕置きよ」
シェラが両手を広げると、上空の三重魔法陣から「漆黒の鎖」が数千本、雨のように降り注いだ。
『神鎖・黒蝕縛《ヘルドレイプニル》』
──ドスッ ドスドスドスドスッ
「ギャアアアアアァァァァッ!!!???」
シディスの四肢、胴体、そして右肩の断裂面に至るまで、黒い鎖が深々と突き刺さり、彼を空中へ吊り上げた。
鎖から注入されるのは、シェラの所持する純粋な『概念の毒』。シディスの体内で暴れていた禁薬と偽結晶の魔力が、その毒によって強制的に中和・解体されていく。
過剰に高められていた全魔力と筋力が、一瞬でゼロへと急速に収束していく。筋肉が萎み、血走っていた瞳から赤みが消え、シディスはただの「ボロボロの青年の姿」へと戻っていった。
鎖が解かれ、シディスは床へ無残に叩きつけられた。
「ハッ……ハッ……僕の……僕の魔力が……っ!?」
地面に伏したシディスは、必死に左腕で床を掻きむしった。右腕は根元から失われ、左腕の魔力回路もシェラの毒によって永遠に焼失していく。
かつて『最年少Sランクの天才』と持てはやされた男の力は、文字通り「完全に無」となったのだ。
「レ……レオン……師匠、助けて……助けてくれ……っ!」
シディスは血と涙で汚れた顔を上げ、立ち尽くすレオンへ這い寄ろうとした。
タッ、タッ、タッ……
エリスが物陰から静かに逃げ出そうとしていた。
「どこへ行く、エリス」
シルフィアの冷たい声が響き、宝剣の先がエリスの喉元に突きつけられた。
「ひっ……!? た、助けて! 私は関係ないよ! 全部シディスが……全部シディスがやったことなのよ!!」
エリスはなりふり構わず、地面にひざまずいて叫んだ。
「私は騙されていたの。シディスに無理やり従わされていただけなの! レオン……ねえ、レオン! 貴方は知ってるでしょう!? 私たちが昔、どれだけ愛し合っていたか。やり直しましょう! ねえ、私、貴方の妻になってあげるから!!」
醜く擦り寄り、シディスを切り捨てて命乞いをするエリス。その姿を見たシディスが、絶望に満ちた目でエリスを睨みつけた。
「エリス……お前……僕を捨てるのか……? 僕のために……僕のためにレオンをハメようと言ったのは……お前じゃないか……っ!」
「黙りなさいよこの無能! 腕を失ったただのゴミ屑が、私に気安く話しかけないで!!」
エリスが金切り声を上げて叫ぶ。かつて相思相愛を騙り、レオンを笑いながら踏みにじった二人の薄っぺらい「絆」。あまりにも脆く、醜く、汚い「互いの利用価値」でしかなかった。
レオンは二人を静かに見下ろした。
「……終わりだ、シディス、エリス」
「レオン……お願い、許して……!」
「師匠……僕が愚かでした……靴も舐めますから……っ!」
「許すわけがないだろう」
レオンの冷酷な言葉が、夜の闇に響き渡った。
「お前たちが求めた『名誉』も『地位』も『財産』も、すべて失われた。……近々、王国騎士団とギルドの全査定員の前で、お前たちの公金横領とポーション乱用、そして論文盗用の全真相が公表される」
シルフィアが一歩前に出た。
「王立騎士団副団長シルフィア・フォン・ローゼンベルクの名において告げる。シディス、エリス。並びにヴァルター副ギルド長。貴様ら三名を『国家背任罪』および『違法薬物流用罪』で即座に逮捕する!」
「そ、そんな……! 私は……私はSランク冒険者の妻になるはずだったのにぃ!!」
エリスが髪を振り乱して泣き叫ぶ。
シディスは右腕の断面を押さえながら、虚ろな目で天井を見上げ、ただただ正気を失ったように引きつった笑いで誤魔化すだけ。
「ふふ……ははは……僕の……僕の栄光が……」
彼らを殺さなかった。だが、生きながらにしてすべてを奪われ、一生を王国の最下層の監獄で「裏切り者」「偽物」の烙印を押されて過ごすという、死以上の地獄へと叩き落とされたのだ。
◇◆◇
崩壊した酒場の残骸の中。
倒れた二人を騎士団の手者が連行していくのを、レオンたちは静かに見送っていた。ルクレツィアがワインのボトルを片手に、レオンの隣へ歩み寄る。
「……ふふ、見事な幕引きだわ。レオン。シディスの破滅も、ヴァルターの失脚も、これで完璧に決定づけられたわ」
「ああ……」
レオンは自身の右手を見つめた。
胸の中にあった憎悪の炎が、少しだけ静まり返るのを感じていた。
「でもね、レオン」
ルクレツィアは紫の目を細め、夜空の向こう……王都のさらに奥に広がる暗闇を見据えた。
「これで終わりだと思わないことね……。ヴァルターの後ろには、さらに大きな『王国の闇』が蠢いているわ。そして……君の持つ『黒蝕』の力を狙う者たちは、シディスのような小者だけじゃない」
「言っとくが、お前のせいで始末が増えたんだが……まあ、知っているさ」
レオンはフードを深くかぶり直した。
横には、レオンの手をギュッと握り締めるシェラ。後ろには、忠義の眼差しでレオンを見つめるシルフィア。そして隣には、不敵な笑みを浮かべるルクレツィア。
――レオンの『黒蝕』の力と、彼を巡る運命の歯車は、さらに巨大な暗雲を引き寄せることになるだろう。
「行こう……俺たちの『道』を」
漆黒のローブをたなびかせ、レオンは新たな深淵へと歩み出した。
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ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
第一章はいかがでしたでしょうか?
レオンも屑弟子への復讐を果たし、歪でありながらも個性豊かな仲間たちと出会うことができました。
次話からはいよいよ第二章が始まります!
第二章では、新たな敵や新たな試練がレオンたちを待ち受けています。
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作者も飛び跳ねて喜びます!
これからも本作をよろしくお願いいたします!