俺の弟子が俺の彼女を寝取った挙句、俺の尊厳破壊してくるんですが……?復讐するけど大丈夫?〜黒蝕を纏いし英雄は復讐の果てに何を見る〜   作:αβ-アルファベータ-

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第7話 白銀の騎士

 

 王都の裏路地に位置する、古びた石造りの洋館。そこは、王都の闇市を仕切る女商人・ルクレツィアが所有する秘密のアトリエだった。

 

「ふふ、これで準備は完了よ。シディス坊やはまんまと食いついたわ」

 

 ワイングラスを傾けながら妖艶に微笑むルクレツィアの前で、レオンは黒い魔導書を閉じた。

 

「……シディスが例の『偽魔力結晶』を買ったのか」

 

「ええ。右腕が使えなくなって相当焦っていたみたいね。叔父であるヴァルター副ギルド長に泣きついて、ギルドの公金を横領してまで、私が出した『魔力を永久に増幅する伝説の結晶』を跳ね上がった高値で買い取っていったわ」

 

 ルクレツィアは笑いを堪えきれなかった。

 

「哀れねぇ。その結晶が、君の『黒蝕』で作られた毒の塊だとも知らずに。使い続ければ、一週間後には右腕どころか全身の魔力回路が焼け焦げて、巨額の横領罪だけが残るのに」

 

 レオンの唇が、冷酷な笑みの形に歪む。

 

 シディスは自分を偽り、他人の功績を盗んでSランクに上り詰めた。なら、その虚飾の栄光を保つためにさらに嘘と罪を重ねさせ、二度と這い上がれない地獄の底へ突き落としてやる。

 

「助かったよ、ルクレツィア」

 

「いいのよ。私は面白い『ショー』が見られればそれで満足だから。……それよりレオン、君にひとつ警告があるわ」

 

 ルクレツィアの目が、ふっと鋭いものに変わった。

 

「シディスの背後にいる男……冒険者ギルド副ギルド長、ヴァルター・フォン・クレイン男爵よ。あの狸、シディスの失敗を揉み消すために、王立騎士団や裏の権力者に手を回し始めているわ。エリスの叔父でもあるあの男、君を追放した時の中心人物でもあるでしょう?」

 

「……ヴァルターか」

 

 レオンの胸の奥で、黒い炎が静かに揺れた。三年前、レオンが怪我を理由にSランク昇格を見送られ、最終的にギルドを追放された背景には、ヴァルターの存在があった。

 

 親族であるエリスとシディスを優遇し、実績のあったレオンを「使い捨ての駒」として処理した元凶だ。

 

「ちょうどいい。まとめて清算してやるまでだ」

 

 レオンが呟いたその時――部屋の窓枠に腰掛けていたシェラが、急に警戒するように眼を紅らめた。

 

「……レオン、気をつけて。表から『招かれざる客』が来たわ」

 

「な……!?」

 

 ルクレツィアが目を見開く。彼女の秘密のアトリエは、強力な結界で隠されているはずだった。

 

 重厚な木製の扉が、一撃のもとに叩き割られた。木屑が舞い散る部屋の中に、すっと足を踏み入れる一人の影。

 

 木漏れ日のような眩い金髪を完璧なポニーテールに結い上げ、隙のない白銀の全身鎧を纏った美少女。その碧眼は氷のように澄み渡り、腰には王室下賜の宝剣が差されていた。

 

「――そこまでだ、冒険者ギルドの面汚したち」

 

 凛とした、響き渡るような鈴の声。

 

 王国騎士団・最年少副団長――シルフィア・フォン・ローゼンベルクだった。

 

「王立騎士団副団長、シルフィア・フォン・ローゼンベルク! 闇市との違法取引および公金横領の疑いであなたを――」

 

「あっ……」

 

 そこまで叫んだシルフィアの動きが、ぴたりと止まった。彼女の碧眼が、部屋の奥で黒いローブを羽織り、冷ややかに自分を見つめるレオンの顔をとらえたからだ。

 

「え……?」

 

 シルフィアの頬から、一瞬で血の気が引いた。凛々しかった騎士の表情が崩れ、信じられないものを見る目のように見開かれる。

 

「レ……レオン……様……!?」

 

「……久しいな、シルフィア副団長」

 

 レオンは低く短い声を返した。

 

 シルフィア・フォン・ローゼンベルク。

 

 かつてレオンがAランク冒険者として全盛期だった頃、新人騎士だった彼女が危険な魔物に襲われていたところを救ったことがある。

 

 彼女にとってレオンは、命の恩人であり、まっすぐで誠実な「理想の騎士・師」そのものだった。

 

「レオン様……生きて、いらしたのですか……! ギルドからは、貴方が弟子への嫌がらせと盗用罪で追放され、失踪したと……!」

 

 シルフィアの大きな瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。

 

「私……信じておりませんでした! 貴方がそのような卑劣な真似をするはずがないと! 独自に調査を進めていたのですが、ヴァルター副ギルド長に圧力をかけられ、手出しができず……!」

 

 シルフィアは剣を鞘に納めると、なりふり構わずレオンの前まで駆け寄り、その場にバッと膝をついた。

 

「申し訳ありませんでした! 貴方が惨めな目にあっている間、私は何もできなかった……! どうか……どうか私をお斬りください!」

 

「うえぇ……」

 

 あまりの変貌ぶりに、部屋にいたルクレツィアは呆気にとられ、シェラは不機嫌そうに眉をひそめた。

 

「……立ち上がれ、シルフィア」

 

 レオンは冷たく言い放った。

 

「お前が頭を下げる必要はないだろ。今の俺は、お前が知っているような『正義の冒険者』ではない。闇に堕ち、復讐のために手を汚す悪党だ」

 

「違います!」

 

 シルフィアは顔を上げ、強い眼差しでレオンを見つめ返した。

 

「貴方の纏うその黒い魔力……痛々しいほどの怒りと悲しみが混ざっています! シディスとエリス……そしてヴァルター副ギルド長が貴方に何をしたか、私はおおよその見当がついています! 奪われ、踏みにじられた貴方が復讐を望むのは……当然の権利です!」

 

「……騎士が復讐を肯定するのか?」

 

「私は騎士である前に……一人の人間です!」

 

 シルフィアの頬がぽっと赤らんだ。

 

「貴方は私の命を救い、正しく生きる道を教えてくださった尊いお方……! 例え世界中の誰もが貴方を悪と呼ぼうとも、私は……シルフィア・フォン・ローゼンベルクは、貴方の『味方』です!」

 

 まっすぐで、一切の不純物もない純粋な好意と忠誠。エリスが示した打算に満ちた偽りの愛とは、天と地ほどの差があった。

 

「……ちょっ、待ちなさいよ」

 

 ここで、浮遊していたシェラがすーっと二人の間に割り込んだ。不快感を隠そうともせず、シルフィアを睨みつける。

 

「なによアンタ。急に入ってきて、さも『レオンの一番の理解者』みたいな顔をしちゃってさ」

 

「……誰ですか、その子供は?」

 

 シルフィアが不審そうに眉をひそめる。

 

「子供じゃないわよ! 私はシェラ! レオンがどん底にいた時から、今まで隣で彼を支えて、復讐を共有してきた『絶対の相棒』よ! 後からノコノコやってきた騎士様が、レオンに気安く触らないでくれる!?」

 

 シェラはレオンの首にギュッと抱きつき、シルフィアにマウントをとるようにドヤ顔を決めた。

 

「なっ……!? レ、レオン様、この不躾な子供は一体……! なぜそんなに親しげなのですか!?」

 

 シルフィアの顔が真っ赤になり、可憐な悲鳴を上げる。

 

「私だって……私だって、レオン様の力になりたいのです! レオン様、私をお使いください! 貴族社会と騎士団の情報なら、私がいくらでも提供できます! ヴァルター副ギルド長の不正の証拠も、私が暴いてみせます!」

 

「ふん、そんなの私と女商人《ルクレツィア》で十分よ!」

 

「なにいっ……!」

 

 バチバチと火花を散らすシェラとシルフィア。レオンは呆れたように息を吐いたが、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じていた。

 

 すべてを失ったと思っていた自分に、いまやシェラやシルフィア、ルクレツィアといった、味方が集まりつつある。

 

 

 レオンは二人を制するように手を挙げた。

 

「やめろ、二人とも。……シルフィア、お前の申し出を受け入れよう」

 

「レオン様……っ!」

 

 シルフィアの碧眼が輝く。

 

「ただし、条件がある。お前は騎士団としての立場を捨てるな。表の世界から、ヴァルターとシディスに圧力をかけ続けてくれ。奴らを追いつめ、逃げ場をなくすために」

 

「承知致しました!」

 

シルフィアは胸に手を当て、深く頭を下げた。

 

「……まあいいわ。利用できるものは利用してあげる」

 

 シェラは不満そうに頬を膨らませたが、レオンの隣のポジションは譲らなかった。

 

 ルクレツィアはワインを飲み干し、愉悦に満ちた笑みを浮かべた。

 

「ふふ、最高ね。……さて、それじゃあシディス坊やとヴァルター男爵に、最高の『罠』を届けてあげましょうか」

 

 

────────────────────

 ──────────────────

 

 数日後――王都冒険者ギルド・副ギルド長室。豪華な革張りのソファに腰掛け、汗を拭いながら書類にサインをしていたのは、太った肥満体の男――ヴァルター副ギルド長だった。

 

「ふぅ……まったく、シディスの奴め、使えない奴だよ。右腕を怪我した挙句、黒竜討伐に失敗するなど……!」

 

 そこへ、部屋の扉が勢いよく開いた。

 

 入ってきたのは、右腕に包帯を巻き、どこか興奮した様子で目を血走らせたシディスと、その後ろで怯えるエリスだった。

 

「叔父様! 見つかりました! 僕の右腕を完全に治し、以前以上の魔力を手に入れられる秘宝が!!」

 

 シディスが恭しく差し出したのは、黒い布に包まれた怪しい結晶石――ルクレツィアから購入した『偽魔力結晶』だった。

 

「なんだと!?お前に渡したギルドの公金で、こんな怪しげな石を買ったというのか!?」

 

 ヴァルターが怒鳴る。

 

「違います! これは古代の真の秘法です! これさえあれば、僕は即座に完全復活し、文句を言う奴らを全員黙らせることができます! 叔父様にとっても、僕がSランクであり続ける方が都合が良いでしょう!?」

 

「う……うむ、それはそうだが……」

 

 シディスの必死の説得に、欲望に目が眩んだヴァルターは毒気を抜かれた。

 

「わかった……。ギルドの監査には、私がうまく目溢しをしてやろう。だがシディス、これが最後のチャンスだぞ! 来週行われる『Sランク定期再査定式典』で結果を出せなければ、お前のSランク剥奪は免れんぞ!」

 

「……分かっていますよ、叔父様。見せてやりますよ、僕の『真の力』をね……!」

 

 シディスは不気味な笑みを浮かべ、結晶石を強く握り締めた。その皮膚の下で、レオンの『黒蝕の毒』が静かに、だが確実に蝕みを深めていることにも気づかずに。

 

 

◇◆◇

 

一方、ギルドの廊下。

 

 エリスはシディスとヴァルターの会話を聞きながら、冷や汗を流していた。

 

(もうダメだわ……。シディスは完全に狂ってる。あの石だって、なんだか凄く嫌な予感がするわ……。もし来週の式典でシディスが失脚したら、私も一緒に破滅しちゃう……!)

 

エリスの頭の中に、冷酷な計算が駆け巡る。

 

(シディスは見捨てよう。私には、もっと力があって、優しくて、私を保護してくれる『新しい男』が必要よ……!)

 

 エリスが目をつけたのは、最近ギルドで発言力を強めているAランクの剛剣士・アルドだった。

 

(アルドなら実力もあるし、シディスと違って右腕も無事だわ。今夜、彼を誘惑して……私の新しいパトロンになってもらうのよ!)

 

 エリスは怪しい笑みを浮かべ、暗闇の中へと姿を消した。

 

 しかし――エリスのその動きすらも、影から見ていた受付嬢クララからの、レオンの情報網によって筒抜けになっていることを、彼女は知る由もなかった。

 

 崩壊していく絆。暴走する欲望。すべては、レオンが描いた復讐のシナリオ通りに動いていた。

 

 

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