「……乱世の能臣、治世の奸雄ともいうべき人物が実在したことは、まことに驚くべき事実である。戦時のときは強固にはまっていた自制心というタガが、平和の到来とともにゆるんだか、あるいははじけ飛んでしまったとしか思えないのだ。自由共和連邦との講和が成立して訪れた、皇帝ラインハルト陛下の長く平和な御世において、彼ほどやりたい放題に生きた人物を、私は他に知らない」
メックリンガーの残したこの人物評が、誰をさしてのものか、明記はされていない。
だが、この人物評をよんで、左右でつながった太い眉毛を、黒い直毛の角刈りを、そしてカンキッヒ・リョーツナッハの名を連想しないものが、果たしているのだろうか。
「機動要塞イゼルローン事件」
「アレク大公とフェリックスのクレヨンのいたずら書きがオークションに出品事件」
「ハイネセンなんてヤン大統領に押し付けてしまえ事件」
「豪華客船ブリュンヒルト事件」
「あの……そこの雑用係の少年……ひょっとしてエルウィン・ヨーゼフ二世では……事件」
「獅子の泉をチーズフォンデュ事件」
「ミッたんとロイたんを見守り隊の逆襲事件」
「ロイたんとミッたんを見守り隊の帰還事件」
「俺をおじいちゃんと呼ぶなと叫ぶワルター・フォン・シェーンコップ事件」
「復活の握り寿司事件」
「イゼルローン交易ステーションがまっぷたつ事件」
「べろんべろんに酔っぱらってリョーツナッハにくだをまくオーベルシュタイン事件」
「ゼブラ・カラーに塗りなおされる黒色槍騎兵艦隊事件」
「獅子の泉をチョコレート・フォンデュ事件」
「わたしが独裁者だって? やってられるか、今度こそ辞任してやる事件」
「フードコート船チョウカンダィア号事件」
「アイゼナッハのマシンガン・トーク事件」
「地球観光協会と化した地球教団事件」
「獅子の泉を焼酎漬け事件」
「孫と初対面するメルカッツ提督事件」
「リョーツナッハ艦隊新旗艦カツシカーン進水式事件」
「なあ、知ってるか? ユリアン・ミンツってロリコンらしいぜ事件」
「空挺フードコート連隊事件」
「獅子の泉からあふれだす純米酒事件」
「辺境の王リョーツナッハ事件」
「落成式で倒壊する帝国議事堂事件」
カンキッヒ・リョーツナッハが引き起こした、あるいは深く関与したとされる比較的知名度の高い事件をざっと列挙しただけで、良識とともに生きている者はめまいを禁じえまい。
「なんで処罰されないんだ?」
その声は当時でも当然あがっていた。だが、皇帝ラインハルトが皇帝病を悪化させては「リョーツナッハのバカはどこだ! でてこいリョーツ!」の怒号とともに全快するのである。繰り返し発生したこの奇妙な現象は、人々にリョーツナッハの処刑はラインハルトの病没に直結するのではとの恐れをいだかせ、寛大な処置をやむなきこととさせていた。
また、キルヒアイスをはじめとして、リョーツナッハの熱烈なシンパが数多くおり、彼らに懸命になだめられると、ラインハルトの怒気も切れ味を持続させるのは困難であった。
さすがに「キルヒアイスとアンネローゼのウエディングケーキからバニーガールが登場事件」の際は、ブリュンヒルトとバルバロッサがカメアリーンを無言で散々に追いかけまわすことになったのだが。
ロイエンタールはリョーツナッハに対しては複雑な感情をいだいていたらしく、消極的肯定とでもいうような立場をとり続けていた。しかし、彼の長男であるまだ幼いフェリックス・フォン・ロイエンタールにいつの間にか一ダース半の非公式な許嫁ができていたときには、「なにやってんだ角刈り!」と激怒したという。この件については、フェリックスがミッターマイヤーの長女と正式な婚約をむすぶという落としどころを得ることで、穏便な結末を得ることができたのだが。
何か騒動がおこるたびに、「角刈りだ……」とおののく者が何人いたか、正確に把握した者はいないという。
こちら銀河英雄伝説。
「リョーツナッハのバカはどこだ!」
「イゼルローン、フェザーンに続く第三の回廊を探しにいくと言って出航しました!」
今日もこんな調子です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
両さんを銀河英雄伝説に鬱ブレイカーとして登場させたら、いくつかの悲劇は回避できるんじゃないかな。
そんな思い付きから始まったこの作品も、これにて完結です。
どうにかこうにか宇宙暦八〇一年、新帝国暦三年七月二十六日までたどり着けたので、最終回はカーテンコールとして、平和になった銀河で存分に暴れまわるリョーツナッハと、それにふりまわされるみなさんをダイジェストでお送りしました。
じつのところ、この作品を執筆するにあたって、「このキャラはこんなこといわないやろ」問題にはなやまされました。
いっそのこと、「だれであろうとも『こち亀展開』に引きずり込む……それがワシのスキル『カツシカ・ラプソディ』……神聖にして不可侵なる銀河皇帝でも、コイツからは逃れられない……」みたいな設定にしようかと思いつめたこともありました。そこまでトンチキな真似をせずには済みましたが、あとがきを書くにあたって読み返してみると、いつのまにかカツシカ・ラプソディが発動してないか? となるシーンもちらほらあるような……。不思議なものですね。勢いにまかせて、とんでもない作品を書いちゃった気がしてきました。
まあ、それはそれとして、あらためて。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。楽しんでいただけたなら、幸いです。