笑えたきゃ笑えよ。
なんて冗談は要らなく、普通に学校行事で忙し過ぎて小説書く意欲消えて、名探偵プリキュアをもう一回一から見始めてまた意欲が湧いて書きました。
まぁ、色々とリメイク作るとか言ってた癖に結局、思い入れが一番書きやすい事を気付かせてくれました。後は、普通に見続けてくれた人に感謝したいです。
そんなこんなで今回、ミサンガ回である、るるかの秘密ふっ飛ばしてウソノワール襲撃まで行きます。
因みに、ユウトくんはくれあと会う時、彼女自身は苗字で呼んでいますが、文ではくれあと呼ばせて記憶喪失をした彼女を区別しています。
___何も分からん。
本来なら縁のない分厚い本を広げ、一枚一枚に詰め込まれた濃密な文字に頭をやられ、心中で不可能を嘆く俺は、煙草で栄養補給をする。
何故、こんなことをしているのか。それは、ひとえに昨晩の出来事が関係している。
るるかの抱えるものを全て知り、独力でも真相に近づこうと、足りない頭の引き出しから必死に考えを模索した結果、浮かんだのは先人の知恵を借りることだった。
思い立ったら即行動。俺はこの街にある全ての図書館から、予言の書、あるいは魔術に酷似したものを記した本を借りて、現在に至る。
だが、結果はどうか。現状を見れば分かる通り、進展はなし。
なんせ、調べるものがものなだけに、基本的には逸話か、それに通ずるものを紹介するだけの本ばかり。
更には、その情報すら起源が曖昧で、俺が欲しい情報は何一つ手に入らない。吸い終わった煙草を銀皿に押し付けながら、不満を垂らす。
「……結局、こんな手段でも見つからないもんは見つからねぇよな。」
早速、状況は手詰まり。
一番手っ取り早い方法は、るるか自身に直接尋ねる以外にない。だが、昨晩の一件から、ほぼ敵対したと言っても過言ではない関係になってしまった俺は、自身の失態を恥じる。
しかし、あの状況じゃ、あの言葉が最善だった。
別に、あの時の自分の行動を肯定するわけではないし、彼女が俺を守ろうとして全てを隠していたことに、怒りが湧くわけでもない。
だが、俺は彼女が守ろうとしたものに土足で踏み込み、あろうことか敵対宣言までかました始末だ。どちらが悪いかの勝負なら、俺に軍配が上がる。
自らの行動を責め立て、自己嫌悪で怒りが募る俺は、その怒りを忘れるために二本目の煙草へと手を伸ばす。
が、目の前の煙草の箱を、突然、白く美しい手が奪い取ってしまう。
「……おい、帆羽。」
「これは立派な営業妨害ですよ? 喫煙席でもないのに、煙草を吸うなんて。」
「一本目は見逃したはずだろ?」
「一本目はお得意様サービスです。……二本目は、さすがに頂けませんよ?」
「……うっす。」
長く艶のある青い髪を三つにまとめ、その笑顔だけで客を呼び込めるほど整った容姿を持つ彼女。まだ成長の余地を残した、将来が楽しみな美貌。
そんな美しい彼女の名は、帆羽くれあ。
俺が助けるべき人であり、命の恩人。
それと同時に、俺の行きつけの店『パティスリーチュチュ』の店員でもある。
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「……それで、今日は一体何をしにここに来たの?」
「おい、なんで普通に店員が俺の席に座ってんだよ。……営業はどうした?」
「生憎と、もうお昼休憩なの。それに、あなた以外のお客さんはゼロよ。」
「おぉ、じゃあ最後の客として、なんかサービスでもしてくれよ。」
「禁煙席で煙草を吸って、店内を煙草の匂いで埋め尽くす人にサービスなんてありません。」
「……手厳しいことで。」
「あ!……もう、また吸って。あなた、煙草がどれだけ体に悪いか分からないの?」
「俺にとっちゃ永遠の栄養補給だよ。飯や水よりも大事だ。」
テーブルを挟んで向かいの席へと帆羽が座り、営業時間にもかかわらず一般客と相席する理由を尋ねる。
だが、確かに時計と周囲の様子を見れば彼女の発言にも納得がいく。俺は誰もいない店内をいいことに、再び二本目の煙草を口にくわえ、火をつける。
「それにしても、あなたがここに足を運ぶのは、一週間ぶりかしら。」
「よく、そんな正確に覚えてるもんだな。」
「あなたみたいな、常識破りで個性的な人は、忘れようにも忘れられないわ。……ふふ、けど私は会えて嬉しいわよ。」
「まぁ、俺も多分そこそこには嬉しいぞ。」
「何よ、その曖昧な表現。……あなたは、私と会うのは嫌い?」
「それを言われたら……俺がなんて言うか、分かってるじゃねぇか。」
「……ふふ、バレた?」
本当に、彼女は記憶がないのか疑いたくなる。
なんせ、人に隔たりなく接することができ、俺が言いにくい言葉を無意識に言わせるよう仕向け、悪戯が成功した歳相応の可愛らしい笑顔を浮かべる。
俺が知っている彼女とは、確かに違うところがある。
でも、俺は彼女が記憶を失っても、帆羽くれあは帆羽くれあなのだと安心できる。
だからこそ、早く目の前の子が、るるかやあんなちゃん達と笑い合える光景が見たい。
なんて、考えるのは欲深いだろうか。
「……おい、何してんだ?」
「ちょっとだけ、あなたが吸ってるのが気になって。」
「別に大したもんじゃねぇよ。……近くの自販機で買える普通の奴だよ。」
「……へぇ、あなたはよくこれを吸うの?」
「まぁな。どことなく、最後に感じる花みたいな爽やかな感じが好きで、よく吸ってる。」
帆羽は、取り上げた煙草の箱から一本だけを取り出すと、興味深そうに黙って煙草を見つめる。
彼女が興味深そうに見つめる理由は不明だが、この煙草自体は普通に自販機で買える、なんら変哲のない煙草だ。
___まぁ、俺のいた時代じゃ考えられないことだが。
そう心の中で呟く俺だが、突然、帆羽は煙草を口にくわえ始めると、近くにあったライターを手に取り、火をつけようとする。
俺は考えるよりも先に、彼女のライターを持つ手首を掴む。
「……絶対に吸うなよ。未成年はお断りだ。」
「それをあなたが言うの?」
「俺は男だから別に良いんだよ。それに、お前には綺麗でいて欲しいんだよ。」
「それは……狙って言ってるの?」
「はぐらかすな。とりあえず、これは没収だ。」
俺は彼女の口にくわえた煙草を指で挟み、優しく口元から取り上げる。
そして、俺は吸いかけの煙草を銀皿に押し付け、取り上げた煙草を口にくわえると火をつけ、吸い始める。
「これで、吸えないだろ。……って、どうした?」
「な、なんでもないの! 気にしないで。」
「そ、そうか。」
「……もう、本当にあなたって人は。」
最後の言葉は聞き取れなかったが、俺は構わず煙草を吸い続けながら、忘れかけていた机に置きっぱなしの本へと視線を落とす。
「……まぁ、息抜きはできたことだし、もっかい行きますか。」
「珍しいわね。あなたがそんな文字びっしりな物を見るなんて。」
「俺だって好きで読んじゃいねぇよ。」
「なら、どうして?」
「……どうしても助けたい奴がいるからだよ。そのためなら、苦手だろうがなんでもやってやる。」
「その助けたい人と、この魔法の本が何に繋がるの?」
帆羽にそう言われ、確かにと言わんばかりに俺は頭を抱える。
俺が知りたいのは魔法ではなく、魔術という代物だ。使うものが杖や魔導書という至極当然のものではないし、魔力なんてものも関係ない。
魔術を唯一行使する存在は、現状デッチアゲインと呼ばれる男とるるかの二人だけ。
更に、魔術を使用するために用いているのは、制御霊装という不思議なもの。
いかんせん、魔法とはどこか似ているようで、系統は違うものだ。
「……ん?」
どうしたものかと頭を悩ませる俺は、突然、横から自分の衣服が何かと擦れる音を聞き、自然と視線を俺の隣に移す。
そこにいたのは、営業衣装に身を包み、俺がページをめくる腕に自身の腕を絡め、少し赤みがかった顔で俺と目を合わせる帆羽だった。
いや、言いたいことはあるが、何故俺の隣に座り、こんなに密着しているのか。
それに、腕に触れる彼女の成長を感じさせる体つきは、本の内容を覚えるどうこうの話じゃない。
「……なに、してんだ?」
「その、そんなに悩んでるなら一緒に考えようと思って。」
「それでこんなにくっつく意味を教えてやがれ。……色々と当たってんだよ。」
「……えっち。」
「お前が勝手にやって自滅してんのはおかしいだろ。」
何が目的なのか、俺は結局彼女から視線が離せずにいると、彼女は片手の人差し指で頬を突き、本に視線を落とすよう促す。
___まぁ、邪魔をしてるわけではないからな。
俺は従うように本へと視線を戻し、静かに何度も何度もページをめくる。
別に会話はない。時折、帆羽が俺の肩に頭を置いたり、腕に頬を寄せたりと可愛らしい行動が目立つが、別に鬱陶しいとは感じない。
時計が秒針を刻む音、ページをめくる音だけが響く。
俺は久しく本に釘付けだった視線を上げ、時計を見る。
なんと、現在時刻は昼から既に二時間は経過しており、それを意識した途端、途轍もない疲労感が体に襲い掛かる。
「流石に、疲れたな。」
ほぼ休憩なしのノータイム朗読に、頭は疲労困憊。ひと息つこうにも、腕には帆羽が抱きついている。
流石に考えなければならない。片手で箱から器用に取り出した一本の煙草を握り潰し、シャツの胸ポケットに入れる。
流石に俺でも配慮はある。
これから彼女達は営業を再開する。その中で部外者の俺がぬくぬくとこの場に留まれば、店長にも迷惑が掛かる。
彼女は別に迷惑とは考えていないが、周囲の目があるのだ。
「……じゃあ、そろそろ帰るとするかね。」
「あら? もう、帰るの。」
「そりゃそうだ。流石に店にも迷惑はかからねぇし、待ってる奴らもいるんでな。」
「……へぇ。あなた、一人暮らしだったはずでしょ?」
「色々あるんだよ。」
名残惜しそうに声を掛ける彼女へ、俺は予定があることを伝え、この場から離れようとする。
予定があるのは事実で、これからあんなちゃん達と街中に行く予定がある。俺は頼んだ珈琲の代金を机に置き、席を立つ。
「……とりあえず、店長によろしく伝えといてくれ。また暇があったら遊びに来るって。」
「うん、伝えておく。……けど、暇って言うならいつも来るはずじゃないの?」
「俺がいつも暇なわけねぇだろ。こっちも仕事があんだよ、時折。」
心外だ。別に、俺は常に暇を持て余しているわけではない。
むしろ、ここ最近は驚きの連続で、常日頃から非日常に巻き込まれる散々な目にも遭っているし、ここ数週間で何度も死んだこともある。
「……やべ、本格的に時間に間に合わねぇな。」
「なら、早く行ってあげた方が良いんじゃないかしら?」
「だな……じゃあまたな、帆羽。」
「……帆羽。」
しかし、本格的に間に合うかどうかギリギリな時間まで時計の針は進み、俺は慌てて入り口の扉へと手を掛ける。
願うなら、もう少しこの場にいたいが、彼女には仕事がある。俺にも予定があるため、悠長にはしていられない。
入り口を乱暴に開け放ち、少しだけ時間が押した状況で、歩きではなく走ることを選択し、街中へと駆け出す。
いつもと何ら変わり映えのない街中の光景。
しかし、その上空で、僅かに濃く黒い何かが空を、街を包み込もうとしていた。
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「……そろそろ、下の名前で呼んでくれても良いのに。」
「帆羽さん? そろそろ仕込みの準備を……って、また彼のことかい?」
「……ふぇ? ど、どうして分かったんですか。」
「君の顔が、苺と張り合えるぐらいには赤いからね。にしても、まさか彼をね。」
「……彼を知ってるんですか?」
「まぁね。色々と前から知ってるさ。」
熱くなり、赤い顔を店長の浅井さんに指摘され、素っ頓狂な声を上げる私。
突然、店長が彼のことを知っていると言い、食い気味に話へと食らいつく。
「……でも、とてもじゃないが煙草に手を染めるような少年とは思ってなかったさ。……なんせ、彼自身は煙草は嫌いだと言っていたしね。」
「そう、なんですか。」
「あぁ。だから、突然彼が煙草を吸い始めた時は、大人として注意はしたさ。」
「でも、辞めなかったんですね。」
「そうさ。……いや、正確には僕が辞めさせることに怖気づいただけさ。」
「……きっと、彼には煙草は何かの逃げ道と一緒なんだよ。だから僕は、あの時声を掛けるのを躊躇ってしまった。」
そう言う店長の顔は、どこか神妙だった。
確かに、私は彼が煙草を吸う理由を知らないが、未成年で煙草に走るのは、少し自分を大きく見せようとするのが基本的な理由だ。
でも、彼にそんな印象は抱かず、むしろ自身を強く見せようとする予感は何一つ感じない。
店長の話によれば、彼の印象は笑顔が優しい好青年だという。
故に、店長は突然変わった彼の口調と態度、そして鋭く、地獄と苦痛を経験したかのような目つきに、当時は同一人物なのかと目を疑ったらしい。
「でも、私は煙草を吸う時に優しく私を見つめる顔……好きですよ。」
「……はは、随分と面白いことを言うね。」
でも、私は彼が一服する時、私を心配するように優しく目を向ける顔が好きだ。
何故好きなのか、私は分からない。
それに、何故彼の近くにいたいと思うのかも分からないけど、これだけは言える。
___彼を、私は好いている。
どうしてか分からないけど、あの日、煙草を吸いながら私を優しく見つめるあの姿に、私は一目惚れに近い感覚を覚えた。
それは、私の知らない私が知っている何かなんだろうなと、薄々実感している。
「しかし、確かに君なら彼を変えることはできるだろうね……いや、既に変えていると言った方が良いのかな?」
「いえいえ、私はまだ彼と出会って日が浅いですし。」
「……その言葉が、彼を傷つけているんだよ。」
「……店長?」
「いや、何でもない。」
私は最後に店長が言った言葉を聞き取れず、店長の発言を追及しようとするが、店長は手を叩き、無理やり空気を変える。
これ以上の言及は、確かに時間の無駄だ。
私は忙しなく厨房へと赴き、急いでケーキのスポンジとクリームを補充する。更には、出しっぱなしの果物を冷蔵庫へと入れる。
その背を、黙って店長は見つめる。
「これで、良いかい……ユウト君。」
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「……なぁ、るるか? これはどういう状況だ?」
「何? ……今は私が上の立場なのに。」
「物理的に上に跨ってれば、そりゃある意味上の立場だろうな!」
状況の説明をしよう。
まず現状だが、今の俺は何故か突然、音もなく現れたるるかに連れ去られ、近くの廃墟になったホテルへと連行された。
そして、都合よく設置されたベッドへと押し倒され、上に跨られて今に至る。
「つか、俺はお前の態度に驚いてるわ! ……俺とお前って、すっかり敵対関係じゃねぇの?」
「私がいつ、貴方を敵と言ったの?」
「いや、雰囲気から何となく。」
「私は別に貴方と敵対する気はない。それに、傷つけるつもりもないと言ったはず。」
「じゃあ、前の俺との喧嘩は?」
「軽い夫婦間の不満のぶつけ合い。……夫婦仲が続く秘訣は、そういった一度心からぶつかることが大事。」
「俺とお前がいつ夫婦になった!」
俺が関係すれば、名探偵の名が泣くほどにポンコツになるが、逃げ道を塞いでくる計画性は恐ろしい。
だが、問題はそこではなく、何故彼女は俺を拉致する必要があるのか。
___まさか、問題追及か?
「とりあえず、この話は置いといて……お前は何で俺を攫った?」
「聞きたいことがあるから。」
「……それだけ?」
「えぇ。」
「それだけなら、いちいち攫って押し倒す必要がどこにあんだよ! こっちはお前のせいで、あっちこっち痛いんだよ!」
「これはそれ相応に意味があるわ。……私の休息と栄養補給。」
「てめぇの栄養は睡眠とアイスだけだろうが。」
「貴方と過ごす時間は特別……それこそ、深く溶け合ってしまいたいぐらいには。」
問題追及ではなく、俺に尋ねたいことがあるのは分かった。
が、いちいち俺を攫い、事あるごとに距離を詰めてくる必要は全くと言っていいほど皆無だ。
それに、体の方がいくらあっても持たない。
しかし、聞きたいこととは何なのか。俺はため息を吐きながら、彼女が尋ねたいことを聞く。
「それで、俺に尋ねたいことって?」
そう聞けば、彼女の雰囲気は変わり、どこか神妙な顔つきになる。
「……私は、あなたにひたむきにファントムのことを隠し続けていた。」
「あぁ、遠ざけられた時はショックが大きかった。」
「それは、ごめんなさい。……でも、そこで私は一つだけ疑問が生じたの。」
「……どうして、あなたはプリキュアという存在を知っていたの?」
そう言われ、俺は過去の記憶を何度も何度も遡る。
確かに、俺は彼女のあの姿を過去に見た覚えはなく、彼女のあの姿を直接見たのは、くれあが記憶を失ってからだ。
なら、何故俺は彼女の変わった姿をプリキュアと確定させることができたのか。
あるいは、俺が知らないだけで、俺はプリキュアという存在を知っているのかもしれない。
「……分からん。確かに、言われるまで全く気づかんかった。」
「私も、意識するまであなたがプリキュアという単語を話すことに違和感を感じていたの。」
「……なぁ、もしかして俺って、くれあみたいに何かを忘れてる可能性ってのは無いか?」
「……可能性は、無いとは言い切れない。」
そう言うが、俺は実際、自分が記憶喪失という自覚がなければ、記憶に障害があるわけじゃない。
だが、俺の深いところにいる誰かが、俺の脳に稀に干渉することはあっても、それが俺という存在を塗りつぶそうとする感覚はないと思う。
それに、記憶喪失なら俺はくれあもるるかも忘れているはずだ。
大丈夫。覚えてる、覚えてる。仲間も、俺を好いてくれる人も、家族も……あ、家族って俺にいたっけ。
「……ん?」
違和感が生まれるが、俺はその違和感が生まれた正体を綺麗に脳から消してしまい、何に疑問を持ったのか忘れる。
確か、凄く大切な人達な気はするが、もう覚えていないなら思い出すだけ面倒だ。
「……どうしたの?」
「いや……なんでもない。」
思い出すことに意識を削ぎ続けたのか、ほぼゼロ距離にあったるるかの顔に気づかず、俺は彼女の顔を手で優しく押す。
しかし、その時、不意に顔を優しく押した瞬間、俺の右手の指先は僅かに彼女の頭へと触れた。
「……!」
刹那、硝子細工が割れるような甲高い音が響き渡り、俺は慌てて右手へと視線を落とす。
何かを、俺は消した。
だが、異能やそれに通ずる何かに触れた感覚はなく、強いて言えば、るるかの頭に右手の指先が触れた程度しかない。
「……え。」
その時、不意に俺の上に跨っていたるるかが、突然俺の上から離れて頭を強く押さえ、悶絶の声を漏らす。
「……何、これは。」
「るるか、おい! るるか!」
俺は尋常じゃない彼女の様子に、急いで彼女の元へと駆け寄ろうと足を動かした瞬間、横から飛来する光の大剣に進路を阻まれる。
「……あぁ。全く、キミの右手は厄介な代物だな。」
「その声……デッチアゲインって奴だろ。」
「ご名答。流石は救世主……いや、今は生まれ変わりと言った方が良いのかな?」
大剣が飛来した闇へと視線を投げれば、その相貌にはそぐわない気味の悪い笑みを浮かべ、その手には制御霊装を持つ男、デッチアゲインが立っていた。
救世主。奴は一度も呼ばれたことのない名で俺をそう呼びながら、俺の元へと歩み寄ってくる。
「……救世主? 随分と、大層な名前が付けられたもんだな。」
「事実さ。俺は、キミが知らないキミを知っている……それこそ、キミが稀に見る記憶の主もさ。」
「……お前、本当になんなんだ。」
「それを語るには、キミが全てを思い出す必要があるな。」
救世主と呼んだ真意を俺は尋ねるが、目の前の男は真意を伏せ、俺が忘れたものを思い出せば話すと言い出す。
俺が知らないものとはなんだ。
あの例の竜ならば、俺の意識とは無関係に動く、俺とは一切縁のない力で、言ってしまえば俺に勝手に宿る馬鹿げた力だ。
それ以外にあるとすれば、俺は思い出す以前に見たこともない。
「……その顔は、分からないということで良いかな?」
突然、耳元でそう囁く彼に、俺は驚愕し、慌てて後ろへと下がって彼から距離を取る。
だが、それと同時にるるかとも距離が離れてしまう。るるかを奴は腕で支え、その頭に優しく手を当てると、彼女は気を失う。
「……るるかをどうする気だ。」
「どうもしないさ。今は、彼女の脳へと情報が一気に流れ込み、ショート寸前な状態だったから気絶させただけさ。」
「お前、るるかに何を植え付けた。」
「何……多少記憶を弄っただけさ。あ、安心して欲しいが、彼女だけじゃなくファントムの全員にこの魔術は施しているよ。」
「何のためにだよ。」
「……キミのためにと言ったところかな?」
「てめぇみたいな男に奉仕される筋合いはねぇ!」
先制攻撃は、俺が仕掛けた。
俺は足元に落ちた鉄の棒を奴へと蹴り飛ばし、全力で右拳を握り締めながら駆け出す。
案の定、奴の手にある霊装は俺が蹴り飛ばした鉄の棒を容易に破壊するが、俺は既に奴の懐に入り込んで、右拳を振り下ろす。
だが、拳は空を切り、奴の霊装が光り出せば、俺目掛けて音速に至る光が迫るも、右手で簡単に消す。
「……聞き分けのない男だな。」
「てめぇの方こそ、常識がねぇぜ。勝手に人の頭の中を弄るなんてな! それで、くれあの記憶も改竄したのか!」
「……帆羽くれあの記憶に、俺は手を出していないさ。」
「信用がねぇな!」
魔術の効力を見たからこそ、俺はくれあの記憶も同じように改竄された可能性を見出し、俺は奴を殴り飛ばして洗いざらい全てを吐かせることを決める。
だが、奴も既に行動を始めている。
奴は俺が光を打ち消した僅かな時間で、るるかの姿を別の場所へと移し、その手にある制御霊装は凄まじい速度で回転し、尋常じゃない光を放つ。
俺は全神経が危険信号を鳴らし、デッチアゲインへと拳を振り上げながら接近するが、時すでに遅し。
その瞬間、大地が、世界が揺れた。
俺は突然激しく揺れる視界の中で、地面が割れ、上から落ちてくる巨大な光の剣を最後に、俺の意識は闇へと向かう。
この時、まことみらい市で一つの廃墟のビルが地図からその姿を消した。
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「……な、なに。この揺れ。」
「あんな、あれ!」
私達の体を突然襲った揺れに、私は咄嗟に近くの壁に手を当て、転倒を防ぐ。
だが、みくるが指を差した方向へと視線を向ければ、私は驚愕に顔を染める。
とある廃墟のホテル。その屋上から落ちる、ホテルと同じほどに巨大な白く光る剣が、ホテル全てを押し潰し、凄まじい砂煙と轟音と共にホテルは一瞬で崩落する。
私はその光景を見つめ、脳裏に浮かんだのは愛しいあの人の顔。
「……ユウトさん。」
「ちょ、ちょっとあんな! 何処に行くの!」
嫌な予感が全身を駆け巡り、みくるに声を掛けるよりも先に、私の体は勝手に動く。
彼との予定を私達は大人しく待っていたが、今は事が事だ。仮に思い違いなら、それでも良い。
でも、なぜかあの場所にユウトさんがいると直感が不安の種を植え付け、私は焦る気持ちで駆け足で崩落した廃墟へと急ぐ。
「……ポチ。」
「ごめんね、ポチタン。……今だけは我儘になっちゃう。」
首から横に吊らされたポチタンが、不安な瞳で私を見つめる。私はそれに悲しい笑顔を浮かべる。
でも、足は止めない。背後からいまだに私を止めるみくるにも申し訳ないけど、今は急いであの場に行かないと、手遅れになる気がする。
「……あんな、急にどうして。」
「あそこに、ユウトさんがいる気がするの。遅れちゃったら、手遅れになる。」
「え!? あ、あの場にユウトさんがいるって言うの? 確証もないのに。」
「……あのユウトさんだよ。」
「……た、確かに無関係とは言い切れないかも。」
なんせ、ユウトさんという存在は、私達が有無を言わずとも何処かの渦中に踏み込む人で、その運命力はため息をこぼすほどだ。
だからこそ、何処かで発生する異常の先頭に、いつもあの人はいる。
「でも、こんな規模の崩落が起きれば、誰かは気づいてるはずじゃないの?」
「……それはあり得ない。」
「あ、あなたは!」
みくるは可能性の話を私に投げるが、その返答を行ったのは別の誰かだった。
私は咄嗟に声の主へと視線を向ければ、ベージュ色の長い髪に、同性でも綺麗だと思う美しい相貌を持つ、僅かに私達よりも年上の少女が、そばに妖精を連れて立っている。
「……る、るるか。……この記憶は。」
「私達が封じられた、あの日の真実の記憶。……多分、ユウトが私の頭に触れたことで、連鎖的にファントムに属する者達へとデッチアゲインが施した魔術が解かれた。」
「……なら、彼の……⬛︎⬛︎の⬛︎⬛︎が原因で……全ての歯車は狂ってしまったの?」
「……えぇ。」
私達の前に立つ、名前も知らない彼女とお供妖精は、私達よりも驚愕と困惑の色を含む顔を浮かべ、何かを伝え合っている。
私とみくるは、その情報を上手く聞き取ることはできなかったが、私はそれ以上に、あの人のことを途端に思い出す。
あの人は、昨日の首飾りを盗んだ怪盗団ファントムに属していながら、プリキュアを名乗る少女で、私の恋敵。
だが、そんなことを言う雰囲気ではなく、彼女の瞳は揺れ動き、そばの妖精も驚きで声が出ていない。
一体、何を見たのか。いや、今は優先順位が違う。
「そうなってる理由は分からないけど、私達を通して! あの中に、ユウトさんがいるの。」
「あんなの言う通りよ! あなただって、ユウトさんのことは大事でしょ!」
私達は彼女のユウトさんを大事と思う気持ちに訴え掛け、この場を切り抜けようとするが、彼女は奥歯を噛み締め、首に掛けてあるペンダントを握り締める。
「今は、今だけはこの先にあなた達を行かせることはできない。」
「……どうして!」
「……これが、彼を救う唯一の手段だから。」
静かに、鋭い眼光がこちらを射抜き、私とみくる、名を知らない彼女の間に緊張が走る。
彼女は傍らに浮くお供妖精を目だけで離れさせ、私もポチタンを離れさせ、みくると共に首に掛ける古時計を握り締める。
「あんな、みくる!」
その時、不意に聞き馴染んだ声が響き渡り、全員の視線が声の主へと向く。
そこに立っていたのは、ゴーグルを頭に掛ける金髪が似合う少年兼妖精のジェット先輩だった。額には汗が滲んでいる。
「ジェット先輩、どうして此処に!」
「此処に来たのは偶然だ! それよりも、あの空を見ろ!」
私達の疑問に答えるよりも先に、ジェット先輩は突然空へと指を差し、私達は視界を空へと向ける。
その空は非常に深く、黒い闇に覆われていた。
雲はなく、不気味に闇だけが広がる空。私達はあまりの闇に思わず、自身の姿すら呑み込まれそうなほどに黒いと感じる。
「……あれは。」
「ニジーとアゲセーヌに、ゴウエモンまで!」
「……いや、もっと見ろ。別にもう一人いるぞ。」
その闇が包む空、そこに佇むのは四人の人影で、その三人は私達が散々苦しめられたニジーやアゲセーヌにゴウエモンと、見慣れた三人。
だが、一人だけ異質な存在感を放つ、全身を鎧に包む謎の人物がいる。
その人物は、そこにいるだけで圧倒的な恐怖と威圧感を放ち、私とみくるは呼吸を忘れ、ジェット先輩も冷や汗を浮かべるほどに、歪で個として恐ろしい存在だ。名を知らずとも、その姿だけでそう思わせてしまう。
その存在は、崩落した廃墟のホテルを見下ろし、その手には謎の本が握られている。
「……さぁ、引導を渡してやろう……神浄の討魔。」
本を閉じる音と共に、私達も各々が変身を行い、戦いの火蓋を切ろうとする。
その裏で、たった一人の少年が生み出した渦中は、静かに四人の少女達を巻き込むことなど、誰も知らなかった。
頑張って文章短くしようと心掛けていますが、なんで毎回一万字超えるんだよ。
なんて愚痴は最後に、なんでくれあとの距離感が近いのか、それはこの先にやるエクレール回で色々と書きます。