それと、わしのAIがポンコツ過ぎて遂に誤字脱字チェックが出来なくなって、いちいち自分で確認する様になって面倒くさいです。それに伴って、誤字脱字が多くなるかも知れないので、誤字脱字の報告お願いしやす。
___痛い。
目覚めたばかりの頭でも、突然の出来事を処理する程度の頭がありながら、意識の覚醒直後に自身が放った言葉は幼稚な物だった。
己の言葉に呆れを超え、怒りが沸々と沸くも自身の状態を見れば自然と心は落ち着く。
何せ、瓦礫で頭が潰れたのだ。多少、思考回路が狂ったり記憶の辻褄が合わなくなるのは仕方が無い事だ。
俺は治癒したと言え、万全では無い体を起こして周囲を見渡す。
___その光景は、あまりにも殺風景だった。
再生と覚醒までの時間が約数分と仮定すれば、約数分で消え去った物はあまりにも大きい。
数分前。俺とるるかが居た廃墟のホテル、そのロビーと考えられる空間には椅子やテーブルに、木造の長テーブルが並ぶ、非常に広いと感じた空間。
それが物の数分で瓦礫の山に埋もれ、ロビーの広さから推定してもそれなりに規模の大きかったホテル。
それが崩落したのだ。
今、俺が足場にしている瓦礫の山も元はホテルだったと考えれば、その被害は想像を超える。
___何があった。
被害の規模に悲観的になる気持ちを切り替え、俺は必死に死ぬ寸前の記憶を辿る。
思い出されるのは、崩落前にるるかが俺へと尋ねた疑問の言葉だが、今と関係があるかと言えば、無いに等しい。
記憶を更に遡り、俺が次に思い出したのはるるかの頭に右手の指先が触れたあの瞬間。
確か、あの瞬間に俺の右手はデッチアゲインによって彼女に施された魔術を解除した。
そして、その瞬間に待ち伏せかの如く襲撃を起こったデッチアゲインと戦闘に突入。
戦闘内容は、俺もデッチアゲインも攻撃の決め手が存在せず膠着状態が続くと考えていたが、決め手を切ったのはデッチアゲインだった。
突然と奴が持つ制御霊装が、今まだに無い輝きを放ち直感が危険信号を出す。
俺は拳を振り上げデッチアゲインと殴り掛かったが時すでに遅し。
___音は無かった。
ただ、凄まじい衝撃に揺れ。更に、降り注いだ瓦礫の山に押し潰され、意識が途絶える刹那に見たのは、途轍も無い光。
一度死んだ今だからこそ理解出来るが、この崩落も全ては最後に見たあの光が原因だ。
光の正体は十中八九、魔術である事に違いは無い。
だが、こんな威力と規模を持つ物が無数に存在する魔術という分野には恐怖を隠せない。
だが、今は達観している場合では無い。
問題は山積みだが、この惨状を招いた元凶を捕まえ、事情を聞き出すのが最優先事項だ。
俺は、万全とは程遠い体の状態を確認し、少し握る時に痛みはあるが、問題無く動く右手を頼りにこの場を離れる。
幾らデッチアゲインが得たいの知らない魔術を持とうが、一瞬で別の場所に移る魔術は無い筈だ。
それに、物理法則の話が魔術に通用するかは否かだが、そう簡単に魔術は連発出来ないのがゲームなどの決まりだ。
俗に言う、MPの話だ。
だが、それは魔法に限った話で、魔術にMPがあるかは正直賭けだが、やむ終えない。
「…何処に行く?」
行動を起こそうと、足を動かしたその刹那、不気味な違和感と心臓を撫でられる様な、死を予感させる声色に俺は咄嗟に右拳を繰り出す。
「…血気が盛んだな。だが、過去に比べれば可愛い物だ。」
「……誰だ、お前。」
「名を尋ねる前に、拳を降ろせ。この場では私が貴様の命を握っているのだから。」
軽々と俺の右拳を片手で受け止めるその人物は、正に恐怖と闇の具現化した存在に感じた。
日本とは縁も無い鋼鉄の衣、鎧を身に纏う異質な男。更には鎧に飽き足らず、黒の帽子を被るその姿は普通では無い。
極め付けは、顔に貼り付けられた白と黒の不気味な仮面、それがこの男の存在をより一層強める。
俺は拳を下ろし、見上げる様に鎧の男の仮面へと視線を合わせる。
「…ほらよ。」
「懸命な判断だ。ならばこちらも敬意を払おう。私の名前はウソノワール、怪盗団ファントムの長を務める者だ。」
ウソノワール、奴は自身の名をそう言った。
確かに、俺を見下ろす鎧の男から発せられる禍々しい雰囲気は、悪の組織を務める者の風格だ。
だが、風格だけで死を予感させる個としての圧倒的な存在感は長よりも、化け物に通ずる物があると感じる。
しかし、何故ウソノワールが突然とこの場に現れた。
こいつは表舞台に姿を出さず、予言の書が出した導きを部下に伝え、自身はその様子を見るだけの存在の筈だ。
ましてや、長が直々に引導を渡す相手は俺では無く、あんなちゃん達の筈だ。俺を倒す利点は無い。
「ウソノワール。なんで、お前が此処にいる。」
俺は、生じた疑問をそのままウソノワールへと投げる。
ウソノワールは俺の発言に答える様に、突然とその手を前に出し、人差し指で俺の右腕を指差すと仮面越しで言葉を発する。
「…私は貴様と、貴様の右腕が封じる神浄の討魔を消し去る為に此処に来たのだ。」
「……神浄の、討魔?」
身に覚えのない名をウソノワールは口にした。
___神浄の討魔。
奴は俺を見てそう呼んだ。何かの名前の語呂合わせの様に聞こえる名前は、俺とは縁も無い知らない名前。
俺は、記憶を頼りに名前の正体を辿るが、俺と神浄の討魔が直接関与した記憶は無かった。
しかし、不意に奴が告げた神浄の討魔と関係はあるか否かだが、僅かにその名前と結び付く力が俺にはある。
___竜なのか。
ある日の、俺の右腕から飛び出した異質で、強大な力を持った竜。
その正体が神浄の討魔と奴は言っているのか。だが、あまりにも竜と結び付かない名前に俺は竜と神浄の討魔との関係性を一旦断ち、疑問を投げる。
「んだよ、そんな力。俺はそんなもん持ってねぇよ。」
「持っているさ。…最も、貴様は覚えて居なくとも、我々怪盗団ファントムは貴様の神浄の討魔を知っている。」
「はぁ?…俺は、てめぇらと過去に接触した記憶はねぇし、第一になんでお前が俺を知ってる。初対面の筈だろ?」
「…貴様が思い出させてくれたのだ。きっかけは、貴様自身も心当たりはある筈だ。」
ウソノワールの発言に、俺は自身の右手を見つめる。
確かに、あの時に俺の右手がるるかの頭に触れた瞬間、デッチアゲインが施した記憶を改竄する魔術を打ち消した。
だが、それはあくまで、るるか個人のみ。俺はウソノワールには触れてもいなければ、今日初めて出会い言葉を交わしたのが関の山な関係。
目の前の存在と過去に出会った記憶も、ましてや因縁も無い筈だ。
「なら、お前は何を思い出した?」
言いたい事は山程あるが、今は素直に尋ねた方が効率が良いと考え、俺はウソノワールが思い出したと言い張る記憶を尋ねる。
「…良いだろう。今際の際の最後に、冥土の土産として語ろうか…貴様の全てを。」
仮面に手を当て、そう告げる男が語るのは、ある一人の少年が起こした力の暴走と、蹂躙の話。
そして、それは俺自身も覚えて居ない不気味な過去の話だった。
____________________
『……ほう、まだ立つか。』
___運命の日。
曇天が太陽を隠し、薄暗い息も詰まる様な日に私は、ニジー達と『ビックマコトジュエル』を背に一人の少年を何度も、何度も飽きるまで殺し続けていた。
その少年は、突然とこの場に現れた、戦う術を持たない普通の人間だった。
実際に対峙する私は理解していた。この人間には、森亜るるかの様に変身する力を持たず、更には突出した才能も、力も無い凡夫だ。
その凡夫が今、全身を自身の血で濡らし、あらぬ方向に折れた右腕を支えに不気味に立ち上がり、牙を立て抗っている。
___幾たび、殺したのだろう。
殺した回数は軽く三桁には届く程に、私は少年を様々な方法で殺し続けた。
___自身の身体能力を使い、腹部を腕で貫き殺した。
___首を手刀で斬り飛ばし、首を橋から落とた。
___首を締め上げ、呼吸を止め、首の骨を折って殺した。
___少年の体を高所から、頭を下に落下させ、頭を潰して殺した。
なのに、少年が死ぬ事は無かった。
不死。目の前の少年の再生能力を目の当たりにして、私は一つの結論を出した。
少年の身に宿る強大な力。だが、所有者が凡夫である事が唯一の欠点だった。
死ぬ事の無い強大な力でも、戦う術を持たない少年は精々が肉壁として機能すれば良い程度の、俗に言う身代わり人形。
だが、幾ら壊しても、殺しても立ち上がる少年を私は無意識に壊れない玩具の様に捉えていた。
しかし、その姿は痛々しく、愚かに見える。
『もう、辞めて。お願いだから逃げて!貴方が戦う理由は無い!』
森亜るるかは、少年へと逃げる様に声を上げる。
戦う理由は無い…確かに、私は彼女の発言に同意する。
何せ、私はこの少年と出会った事は、森亜るるか達と戦い続けた日々で一度も無い。
それに
故に、彼が私に牙を立て抗う理由など、無いのだ。
だが、それでも少年は敵の狙いも目的も知らない中で今、倒れ伏す森亜るるかを守るという理由の為に少年は何度でも立ち上がっている。
しかし、残酷な事に少年一人が加わろうと、力の差は歴然だ。
怪盗団ファントムは、五人で構成される少数精鋭の組織。
それに対し、探偵側の戦力は今、倒れ伏す森亜るるかが一人という圧倒的な戦力差。
仮に、待ち伏せで私を踏破しようにも、勝てる保証など万に一つ無い圧倒的な戦力差と実力差。
それでも、戦う事を諦めなかった名探偵達には些細な称賛を送るが、それは今、此処までだ。
全身が傷だらけの重体にも関わらず、自分を守る少年の姿に悲痛な表情を浮かべ、少年に逃亡を促す。
だが、少年はその言葉に聞く耳を持たず、機械的に何度も立ち上がる。私は、その姿に思わず攻撃の手が緩む。
『…何故、立ち上がる。』
『……守る…為だ。』
『守るだと?防戦一方の状況で、肉壁以外に機能しない貴様に、何が守れると言うのだ。』
『すぐ、なくとも…今、こうやって立ってるうちは、まだ……こいつを…守れ…てる。』
血反吐を吐き、折れた右腕を垂れ流す少年は激痛に耐えながら、私に吠える。
___不愉快。
私は突然と心に芽生えた不快感を前に、苛立ちを隠さないまま今だに血塗れの重体である少年を見つめる。
何故だ。少年を見る度に、何故心は不快感を露わにする。
少年は何者でも無い凡夫であり、弱者だ。気にも止める必要も無ければ、ただ与えられた力を頼りに立ち上がるだけの玩具な筈。
ならば、この不快感をどう結論付ければ良いか、私は無意識に理由を探る。
立ち上がる度に、僅かに後退りする体。言葉は無く、機械的に森亜るるかを守る為に立ち塞がる血濡れた少年の、私を射抜く目。
___これが理由…その名は恐怖。
『…もう良い、貴様程度では何も守れはしない。』
一瞬だけ、縁も無い感情の名が脳裏を過るが、そんな感情など普通の人間が、私に教える事は出来ない。
私は、手を少年へと向けて突き出し、強大な闇の力をその手に凝縮させる。
幾ら不死と言え、体を完全に消し去る程の攻撃なら復活点を失い、完全に少年を死に至らしめる事が可能と、踏んだ。
故に、私は一点に凝縮した全身全霊の一撃を持って目の前の不死の少年を消し去る為に余韻無く、私は凝縮した闇の一撃をその手から少年へと放った。
『…ぁ。』
だが、その瞬間…少年は突然と糸が切れた様に体を横へと倒し、偶然にも少年は私の全霊の一撃を紙一重に回避した。
___否、回避しただけだ。
彼が回避した私の一撃。その一撃は凄まじい速度と共に、彼の背後に広がる木々が生い茂る森へと着弾した。
その瞬間、木々が生い茂る森が核爆弾が着弾したかの様に、ドーム状の闇の光を出現させ、緑全てを闇が覆う恐ろしい光景が広がった。
『くれあ!』
着弾直後、各々が緑を包む闇に目を奪われ、その足を止める。
だが、その中で森亜るるかは誰かの名を叫び。
その瞬間、偶然にも着弾に巻き込まれず、戦いの行く末を見守るだけだった名探偵の助手、帆羽くれあが草木から姿を出し、倒れた少年の元へと駆け寄っていく。
『ユウト!…いや、死んじゃ駄目!』
回避は出来た…だが、無傷とは言っていない。
言ったろう、紙一重と。少年は確かに死んでは無く、偶然か無意識かどちらにせよ、私が放った全霊の一撃を回避した。
回避は成功。だが、回避と同時になんと不幸か…私の一撃は掠った程度でも、折れた少年の右腕を消し飛ばす威力を発揮してしまった。
帆羽くれあは、必死に少年の体を抱き起こし必死に声を上げる。
消し飛んだ右腕の断面。そこからは夥しい血が流れ続け、帆羽くれあは自身の衣服が血に濡れるのも厭わず、涙ぐみながら少年の名を必死に呼び続ける。
だが沈黙は、彼が流した血で作られた血の泉が広がると共に深くなる。
私は彼と、彼を今だに抱き起こす帆羽くれあの元へと、静かに歩みよる。
『…帆羽くれあ。貴様がその少年を離すというのなら、そこに倒れ伏す名探偵と共に見逃してやる。』
『…彼を置いて、逃げる事はしないわ。』
『何故だ?その凡夫一つの命で、貴様も森亜るるかも助かるのだぞ。…何故、提案を呑まない。』
『彼を愛しているから。…それ以外に、複雑な理由なんて無いわ!絶対に、ユウトは殺させない!』
『くれ、あ…駄目!私を置いて、二人だけでも逃げて…お願い。』
歩み寄り、私は帆羽くれあに生き残る選択肢を与えるが、少女はその選択を取ら無いと宣言する。
その宣言を森亜るるかは否定し、彼女に少年を連れて共に逃げる様に促す。しかし、私の前から逃げ切る事など不可能だ。
何せ、今の私にはビックマコトジュエルを手に入れると同時に、この少年を殺すのも最も重要な目的に変わったのだから。
『…愛故の迷走か。なんと愚かだな、貴様も、その少年も。ならば私が直々に貴様達諸共、引導を渡してやろう。』
私は、少年さえ死ねば、後は何がどうなっても良い。
彼を守る決意を固める帆羽くれあの犠牲などで、心を痛める理由は無い。それこそ、共に死ぬ覚悟を持っていてもだ。
私は審判を下す天秤を掲げる様に、少年と少女へと手を翳して静かに罰を下す。
罰は…少年が私に不快感を与え、縁もない感情を植え付けるまでに、無様にも立ち上がった事だ。私はその手に闇の力を溜める。
今度は、確実にこの少年を消し炭にする為に、私は闇の力を限界まで小さく圧縮すれば、それらを周囲にばら撒く。
これ程の数があれば、確実に少年という存在を消すまでに至る筈だ。
それに、幾ら小さくなったと言え、私の闇の力を極限まで凝縮したのだ…その威力は、言わずとも分かる。
私の周囲を漂う闇の力の数々。
それを前に帆羽くれあは少年を庇う様に抱き締めるが、それは無意味な行動だ。
私は、それら全てを消し去る程の闇の光を一斉に少年と帆羽くれあの元へと放つ。
だが、私の攻撃は
『……な!』
何が起こったのか。
私は突然と起こった出来事に、理解するまで僅かな時間を労したが、その間に空間には確かな異変が生まれ始めていた。
『ウソノワール様!ビックマコトジュエルが、砕け始めています!』
『ちょ、ちょっとマジでどういう事なんですけど!』
『お前達、急いでビックマコトジュエルから離れろ!』
三人の鬼気迫る表情と、ニジーの言葉に私は背後にあるビックマコトジュエルへと視線を向ける。
そこに映ったのは、光り輝く巨大な宝石…ビックマコトジュエルの中心部に亀裂が生まれ、今にも砕けてもおかしく無い悲惨な光景だった。
私とニジー達はただ呆然と亀裂が広がり、今すぐにでも砕けてしまいそうなビックマコトジュエルを見つめる。
突然と起こった不可思議な事象。私は、一瞬だけ少年から視線を外し…今、砕け始めるビックマコトジュエルへと視線を向ける。
___何故、砕け始めた。
疑問が、この場にいる全員の心に芽生える。だが、その疑問は一瞬で、ある一つの異変によって吹き飛ぶ。
『ユ、ユウト?』
背後で、少年の名を呼ぶ少女の声に、私は視線を少年へと戻せば、彼は残る左腕で帆羽くれあの背へと腕を回し、自身の元に強く抱き寄せていた。
帆羽くれあは少年の突発的な行動に困惑する。だが、尋常では無い様子の少年に帆羽くれあは堪らず、少年の名を呼ぶ。
しかし、その刹那…凄まじい死の予感と、得体の知れない不気味な緊張感が、この場の全員の肌を叩く。
___見えないが、あそこに何かがある。
凄まじい存在感。だが、私はその正体へといち早く視線を向ければ、私の視線は少年の…消し飛んだ右腕の断面に向く。
___何かが、いる…透明な何かが。
消し飛んだ右腕の断面。そこに何かがいるのだ。
何か…随分と曖昧な表現だが、私にはそう判断するしか無いのだ。何せ、見えないのだから。
見えない。だが、その
だが、力が増す度、少年の影が不気味に壊れ掛けの蛍光灯の様に点滅し出し、少年の存在すらも呑み込み始める様に見える。
私は少年の変化に、堪らず闇の力を解き放ち少年へと攻撃を繰り出す。
だが、少年は右腕の断面を見せる様に、鈍い動作で身を捩る。
その動きは、自身の周りを飛び回るハエを払い除ける些細な行動。だが、
その瞬間に、私の体は凄まじい衝撃と共に遥か後方へと体を何度も打ち付けられながら、吹き飛んでいた。
『馬鹿、な…ただの人間如きが、私に膝をつかせる事だと!』
それは、衝撃の光景だった。
森亜るるかですら不可能な、私へと攻撃を当てる偉業。それを、ただの凡夫が平然と成し遂げた。
酷く屈辱的な気分。怒りで我を忘れ、自身の顔を手で覆いつつ吹き飛ばされ、痺れる体へと鞭を叩き膝に手を当てながら私は立ち上がる。
打開策は、浮かばない。何せ、今だに少年の力の全貌や、底が見えていないのだ。だが、私に一撃を与える程の力だ。
もしや、彼は今この瞬間に、世界を捻じ曲げる程の力を持ってのか。
ビックマコトジュエルに亀裂を生じさせる。それだけで尋常では無い力を少年は示したが、既に少年は世界を捻じ曲げ始めたと言った筈だ。
『…な、なんだ?今度は、空に亀裂が生まれ始めたぞ!』
『何、これ。…っ!』
不意に、硝子細工が割れる音に全員の視線が音の鳴る方へと向き、少年と帆羽くれあ以外の視線が空へと向く。
その時、全員が声も呼吸も忘れ、呆然と空を眺める。
全員の視界。それに映るのは、曇天の空へと硝子の様に透明な亀裂が広がる異常な光景。
その光景は、まるで世界そのものが壊れるのでは無いかと錯覚する程に異常で、恐怖を感じさせる光景だった。
『…貴様は、脅威だ。だが、人の身でありながら、大王と同等かそれ以上の力を持っている貴様を、私は否定しなければならない!』
私は、素直に少年の強さを認める。人の身でありながら、私に一撃を与え、世界を捻じ曲げる力を持っている強者だ。その力は大王と同等か、それ以上。
故に、私はこの少年を殺ろし、証明しなければならない。
真の大王…そして、この世で最も強い存在であると。
私は全力で地を踏み込むと、一瞬で少年の懐へと侵入し、闇の力では無い純粋な身体能力で少年を葬る。
しかし少年は、帆羽くれあを抱き寄せた状態で身を捩ると、透明な何かを従え、私の拳は少年の顔面目前で不意に止まる。
『…ならば、これは防げまい!』
防がれようと、攻撃の手を私は緩めない。
今度は、力任せに何度も拳を少年へと放ち続け、何度も何度も拳を少年へと振り下ろす。
だが、私の拳は少年に当たる目前で幾たびも止まり、不気味な感覚に支配されるが、それでも私は拳を止めない。
『ユウト!殺しちゃ駄目!』
しかし、突然と帆羽くれあが少年へと声を上げる。
何故声を上げるのか。私は疑問を投げる前に、既に拳を少年へと振り下ろしている為、理解をする事は出来ない。
拳が少年に迫る。だが、その瞬間、突然と少年が作り出した血の泉が沸騰する様に泡を立て始める。
そして、血の泉から発生する泡が弾けた刹那、私の鎧に謎の穴が開いた。
何が……そう言い切る前に、私の視界を埋め尽くしたのは、黒い無数の何かだった。
____________________
「これが、貴様の神浄の討魔…その、力の片鱗だ。だが実際、私の意識はあの瞬間で途切れたがな。」
奴の口から語られた、俺の知らない過去の話に俺は思わず右腕を、左手で強く握る。
まず、頭に浮かんだ言葉は、訳が分からない。これに尽きる。
___全部、俺は覚えていない。
俺は、運命の日に怪盗団ファントムに立ち塞がっていた…らしい。だが、俺の記憶では自身はその現場に立ち会わず、るるか本人から事の顛末を語られた記憶が存在する。
俺が覚えている記憶と、奴の記憶が一致しない。
そもそも、奴の記憶が真実と述べるなら、俺はどんな手段でファントムと、るるか達の戦闘に介入したのか分からない。
偶然か、身勝手か、はたまた誰かの意思か、それすらもう、過去のみぞ知る。
しかし、俺が更に頭を悩ませる問題は別にあった。
___竜だけじゃ無かった。
外から飛来した巨大な力。その力は、デッチアゲインの攻撃で右腕が消し飛ばされた瞬間に初めて知覚した力だ。
過去の記憶を辿っても、力の顕現の瞬間は、後にも先にもその場面だけの筈だ。
それに加え、俺の右腕が無くなってから顕現する力は半透明な竜のみと考えていたが、新たに俺の右腕は竜以外に別の…透明な何かを持っていた。
得体の知れなさ。その観点なら竜も、透明な何かも同列の筈だが…透明な何かは何処か、触れてはいけない禁忌と思ってしまう。
だが、奴の目的は分かった。ウソノワールの目的、それは、透明な何か…否、神浄の討魔と俺を殺す事と判明した。
判明したからこそ、俺は何故、ウソノワールが神浄の討魔と呼ばれる存在を認知しているのか、疑問が生まれる。
単なる勘では話にならない。考えられる説は、第三者からの言伝だ。
そして、その言伝を行える人間を俺は、一人だけ知っている。その人間の名は…デッチアゲイン。
奴なら、俺の知り得ない事を全て知っている筈だ。
何せ、魔術という概念を知りながら、俺の力を存じる口振りを見せる男なのだ。奴なら、俺の力も、忘れている記憶も知っている筈だ。
それに、奴がるるかを含めたあの場全員の記憶を改竄した理由と、運命の日の結末。更に、くれあの記憶喪失…全ての真相を握っていると、思う。
何せ、この現場に居ないのが、断固たる証明だ。
「余興は…既に済んだぞ。」
思考に耽る俺は、ウソノワールの言葉が耳を叩いた瞬間に、視線を前に向ければ、俺目掛け闇の力をウソノワールは放つ。
考えるよりも先に、俺は右手を前に突き出し、闇の攻撃を打ち消す。
「…ほう、前よりも自力と小賢しさに磨きが掛かった様だな。面白い。」
「こっちは微塵も戦いに楽しさなんて感じた事はねぇよ。…誰もがみんな、お前みたいに変な野望やらを持ってる訳じゃねぇからなイカれ野郎。」
「…ふ。狂っている自覚が無い者が、戯言を言う。」
闇の攻撃を打ち消した瞬間に発生した煙を手で払い、俺はウソノワールを挑発する。
が、途端に奴の雰囲気は変わり、俺は錯覚で自身の首に刃物が当てられる死の予感を感じ取ると、思わず眉間に
「そうだな…ならば、貴様に機会を与えよう。」
重い沈黙と、凄まじい死の予感で声が出ない俺にウソノワールは試す様な口調で機会を与えると言い、突然と俺の足元に何かを放り投げる。
甲高い音と共に、俺の足元に奴が投げたのは中世ヨーロッパで戦士達が近接戦で重宝した凶器…鉄の剣。
その剣は、高級感溢れる金の持ち手に、恐ろしく磨かれ、俺の顔が映し出される程の輝きを放つ刀身を持つ剣で、容易にその切れ味は凄まじいと素人目でも理解出来る。
だが、何が意図でこの剣を投げたのか。
「…んだよこれ。これで、お前と戦えって言うのかよ。」
「武器を持った所で、私と貴様では身体能力の差が大きく、勝負にすらなら無い。」
「だったら、お前は何が理由で!」
「その剣を使い、自身で右腕を切り落とせ。…そして使え、神浄の討魔を…それが、私が貴様に与える機会だ。」
奴の意図に、俺は思わず押し黙ると、足元に落ちる鉄の剣に視線を落とす。
奴の目的は分かっている。奴は、今過去に敗れた神浄の討魔に再戦を申し込んでいる…それも、一対一で。
確かに、右腕を切り落とせば、勝算は見えて来る。だが、何が出るかは俺自身も分からない賭けの要素が強い力で、竜か透明な何かのいずれかが出る。
しかし、二つの力はあまりにも強大だ。
ウソノワールは再戦を申し込む立場。無策で挑む奴には見えないが、仮にウソノワールが敗れた場合、最悪の結果が訪れる。
奴を野放しにすれば、次の標的に必ずあんなちゃん達が選ばれる。だが、かと言って俺が無策に力を使えば勝率は上がるが、先に待つのは目に映る物全てを破壊する自らの姿。
___なら…ここで死ぬぐらいなら、せめて役立って死ね。
俺は、震える手で地面に落ちる鉄の剣を拾い、静かに右肩の付け根に刀身を当てる。
後先なんて考えるな。ここで、怪盗団の親玉を潰せるのなら、少しはあんなちゃん達の役に立てる筈だ。
俺の命の使い所は、此処だ。
力が暴走するなら…何か策があるウソノワールと相打ちの形で共に死ねば、後が楽だ。俺は、鋭い眼光で目の前の存在を睨み付ける。
そして、俺は心底不敵な笑みを浮かべ、ウソノワールへと言葉を投げた。
「一緒に地獄に堕ちようぜ、ウソノワール。」
「地獄の業火で焼かれるのは、貴様一人だ。神浄の討魔。」
覚悟を決め、俺は鉄の剣で右腕を切断しようとする。
そして、ウソノワールは俺の行動に備え、思わず身構える…その時を
「…ばーか!引っかかったな大馬鹿野郎!」
馬鹿正直に俺の口車にまんまと乗せられた奴を前に、俺は右腕を切断する筈だった鉄の剣を力任せにウソノワールへと投擲する。
金属と金属が当たる甲高い音が鳴れば、俺の投げた剣は見事、右腕を切断すると油断し身構えていたウソノワールの頭部に直撃する。
頭部への直撃で、体が揺らめくウソノワール。俺は、間髪入れず奴の懐へと駆け込み、万力の力で握り締めた右拳を奴の顔面目掛け、振り下ろす。
お粗末で、大雑把な一撃。
だが、硝子が割れる音が鳴り響くと共に、俺の拳は奴の仮面に亀裂を生じさせ、そのまま力強く拳を振り切った。
「……痴れ者が、私が与えた機会を無駄にするとは。」
「馬鹿言ってんじゃねぇ。…機会を無駄にした?無駄じゃねぇよ、今こうやって気に食わない奴を殴れる機会を、お前自身が俺にくれたんだ。」
幻想殺しの力が作用し、亀裂が入る己の仮面に手を当てウソノワールは折角の機会を棒に振ったと俺に言う。
馬鹿を言うな…殴れたなら、結果は上々だ。
だが、奴の言う様に俺は、此処でウソノワールを倒す絶好の機会に自身の右腕をどうするか、直前まで悩み続けていた。
葛藤、非情、様々な激情が入り混じる俺は、意を決して己に住み着く力を使うと決断する。
しかし、そう決断した直後、不意に俺の記憶の中で大切な約束が、右腕を切断する剣を握る左手を止めた。
___森亜るるか。明智あんな。帆羽くれあ。小林みくる……。
彼女達に、俺は約束したのだ。
絶対に死なない。自分を大切にし、自分を諦めない。…側に居ると約束したのだ。
故に、俺は神浄の討魔を使わず、自分の力だけでこいつを殴り倒すと、覚悟を決める。
「…俺は、その神浄の討魔って奴を使わねぇ。俺は、俺の力でお前の鼻っ柱をへし折ってやるよ。」
「面白い事を言う。貴様は、私に敵うと本気で思っているのか!いずれ大王となり得るこの私に!」
「少なくとも、世界征服なんて頭の悪りぃ、ガキ見たいな夢に大事なもんを削ぎ落とし続けるお前に、負ける気はしない。」
___俺とウソノワールは、何処か似ている。
大王となり、世界征服を目論む存在は無駄な感情を切り捨て、更には従順な部下すらも駒と割り切り、切り捨てる雰囲気を感じとる。
だが、俺も似た様な物だ。
身内の幸福に感情を捨て、命の秤を捨て、己の命をいつからか消耗品として扱う様になった過去の俺は、今目の前のウソノワールと似た者同士だ。
___だが、今の俺はもう何も溢れ落ちさせない。
故に、俺は目の前の
生きる為、夢を追う為に削ぎ落として良い物など、一つも無いという事を。
「来いよ、王様気取りの傲慢野郎!お前の我儘はもう聴き飽きた。」