現実がバタバタして遅れました。ちょくちょく書いて、保存してを繰り返して完成した文章です。
けど、凄い長い文章出来ちゃった。
因みに、今回は明智ちゃん回って言いながら、最後にちゃんと爪痕残するるかちゃんと、てか文章打ち続けてたら、るるか良い女過ぎないと感じている俺ですね。
私、小林みくるは今呆然と目の前の出来事を見つめている。
一目見れば、日常に広がるなんて事の無い出来事だと常人は片付けるが、そうもいかない。
「ジェット先輩、ユウトさんの好きな食べ物とか分かる?」
「ん〜なんだったかな?確か、甘い物全般は苦手で避けてたから、無難に喫茶店に行くぐらいなら、レストランで良いんじゃないか?」
「……けど、私の手持ちじゃ。」
「いや。あいつは基本年下の女子には尻尾を振り撒くからな、金はあっちが出すな。」
探偵仲間で、私の唯一無二の相棒、明智あんなが、大事な事だから二回ほど言うが、異性と二人っきりで出掛けると言うのだ。
探偵業務も常に激動と動転の連続と言うが、基本恋愛面には疎く、更に他者との関わりが極端に無いあのあんなが、他者と関わる。
が、その関わりが男女間ともあれば、中学生の恋愛思考が働き、あわやあわやと妄想の泡が膨れ上がっていくが、あんなの性格上で恋愛が出来るか些か疑問が募り、妄想の泡は弾ける。
___ユウト、ユウトユウト。
何度もあんなが喋る男の名を咀嚼する様に連呼するが、あのあんなが一目置く存在ならば、容姿端麗か成績優秀の良い所どりの天才少年が脳裏を横切る。
けれど、あんなが選んだ異性ならば、容姿云々の関係では無いのは確定している。
あんな自身は、2027年の未来から突如として現れた未来人で、親しい友人は愚か、家族とも離れ離れとなれば、その心境は計り知れない。
不安や恐怖なんて生優しい物で、きっと今生きてる事すら奇跡に等しいのかもしれない。拠り所ないあんなにとって、人との関わりは正に苦痛の連続。
普通に話して、愚痴を言い合う仲間がこの世界、否、この時代にはいない。
心の吐き止め所が無い、永遠の棘があんなの心を蝕み始めていたのは知っていたし、手を伸ばして、己が彼女の拠り所へとなりたいし、対等の立場となりたい。
___けれど、私は彼女の対等になれなかった。
彼女が依頼人との会話を無意識のうちに記録し、そこに心は無くなって、彼女を突き動かすのはただの『解決』。
結果だけを求め、人との関わりを極度に避け、依頼の感謝の言葉を受け取らなくなったあんなに、私もジェット先輩も心を痛めている。
彼女にとって、今、言葉や関わりは畏怖の対象でしか無い。
不安や恐怖、その中で生きてる彼女には、周りが己を見る目が『珍妙』や『疑問』の類で、一度たりとも彼女自身を見ておらず、『普通』を向けていない。
そんな中だからこそ、彼女は視線だけで無く、言葉までもが自分を傷つける道具だと、自然と己と周囲を隔てる壁を作り始めた。
___それが今のあんな。
私とジェット先輩の前では、僅かに隔たりは無いが、一度たりとも彼女の本心を聞いたことが無ければ、本質すらも分からない。
___突き止める。
あのあんなが自ら関わりを求める男、ユウトを私が見定める。
今のあんなにとって、人との関わりがどれ程難しい物か理解している自分が、もし仮にその男が心無く、最悪の男ならば己が誅を下す。
これ以上、彼女を苦しめない為に。
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___財布よし、顔よし、格好よし。
朝日が登り、群衆が街を慌しく歩く時刻に俺は、今一度ガラス越しに映る己の姿を見つめ、不明な点を見つける。
身なりは、唯一持ち合わせている藍色のジーパンに無地の白いシャツを着こなし、僅かな背伸びで購入したブランド時計を片手首に巻き付け、髪はワックスで固めている。
首筋には香水を振り掛け、男臭は対策済み。最後に行うは、彼女よりも先に待ち合わせ場所に辿り着く気遣いの精神。
今は遠く、会えるかは分からない両親達の馴れ初めで、父が母との約束の時間の数時間前には待ち続けていた事を笑顔で語っていた二人の姿が浮かび、神妙な気持ちになるが、頭を振って忘れる。
「…十五分前には来たけど、女子って几帳面とか言うし、準備に時間でも掛かるんだろうな…はぁ、会いたい。」
「誰に会いたいんですか?」
「べぇ!?」
エンジェルボイスという言葉があるが、吐息混じりの魅惑な声色が耳をなぞり、妙なくすぐったさと幸福感に支配される俺は、声の主へと視線を向ければ、可愛らしく首を傾げる明智ちゃんが佇み、俺は思わず固唾を飲む。
___時間が止まるとはこの事。
身なりは最初に会った時の物と同じだが、化粧という工程が加わるだけで、その相貌は正に妖艶なものとなり、年下がこれ程の色気を出せるのかと驚愕する。
写真集や月刊誌の表紙のモデルと呼ばれれば納得できる容姿に、俺の時代では存在自体が二次元と疑われるその姿に、文字通りハートキャッチされる。
「て、てか。明智ちゃん随分早い到着だな、まだ約束の時間の十五分前だぞ?」
「実は私、ユウトさんとの約束が楽しみで、早く来ちゃいました。…もしかして、迷惑でした?」
「…いや、迷惑じゃ無い。寧ろ、そう思ってくれて嬉しいよ。」
___天然とは時に、童心に牙を剥く。
この発言には、邪も狙いも無い。純粋に思いの丈を言葉に乗せる明智ちゃんの中に天性の人誑しの才を見出すが、これがまだ未成年という事に救いを感じる。
末恐ろしい女だ、一目惚れに近い状態の俺にとって、彼女の一挙手一投足は目に止まって、脳裏に焼きつく。
一目惚れフィルターなど不要なレベルに、美しい容姿と成長を感じる美貌。年の垣根など単なる飾りでしか無く、行き交う全ての民衆はただ一点、明智あんなを見つめる。
___無論、俺も。
「……あの〜。そんなに見られると、流石に恥ずかしいです。」
「いや、明智ちゃんが凄い綺麗で見惚れていた。…服も明智ちゃんらしい色合いで似合ってるけど、元の素材が良い分、明智ちゃんの美しさに更に磨きが掛かってる。…うん、やっぱり可愛い。」
「あ、ありがとうございます!…男の人と二人だけで出掛けるのは初めてで緊張したんですけど、やっぱり綺麗って言われるのは嬉しいです。」
「……おぉ、う。」
随分と慈悲深く、大人っぽい笑みを浮かべ、返事に戸惑う俺を他所に、明智ちゃんは一歩先を行き、さぞ自然に俺の手を取る。
「じゃあ、エスコート…お願いしますね、ユウトさん。」
___違和感。
完璧な仕草で手を取る明智ちゃん。異性に、しかも年下の女子に手を取られる場面なぞ心肺停止物だが、何故か手を取られた瞬間に感じた試す様な視線。
そもそも、距離感が正に恋人のそれで、出会ってたかが数日の見知らぬ男の手を握るなど、流石の俺ですら困惑を覚える。
が、心の内を悟られてはなら無いと直感が判断し、必死に警戒を鳴らす違和感に蓋をし、俺は明智ちゃんに流されるがまま目的地へと向かった。
「……た、高い。」
「そんなに畏まんなくたって良いぞ?中学生に割り勘せがむ男とか、男の風上にも置けんからな、じゃんじゃん頼んでくれ。」
「…は、はい。」
明智ちゃんに手を引かれ、辿り着いた先は王道のファミレスであり、空いてる席へと腰を下ろした俺達だが、明智ちゃんがメニュー表を開くや否や、そこそこの金額に項垂れていた。
金銭面の配慮は既にしており、無論好きな物を頼んでくれてもなんら問題は無いが、明智ちゃんの性格上、図太く物を頼む事、ましてや奢られる事に抵抗がある優しい性格な為に、値段が張らない安い物を注文する。
俺は明智ちゃんに貢ぐ事に抵抗すら無いが、当の本人が遠慮をするのなら、無理に進めるのは得策では無い。
各々が注文を終え、水を飲み干す俺は、もじもじと指を絡める可愛らしい明智ちゃんの姿が見える。
「…どうした?そんなにそわそわして。」
声を掛ければ、慌しく両腕をばたつかせる明智ちゃんだが、先も述べた通り、明智ちゃんは『何か』を俺に尋ねようとしている。
それは明白で、このデートもその『何か』を尋ねる口実を作る為の物だと涙ぐましく意識をするが、辛い物に変わり無い。
一日。一日顔を合わし、僅かに会話を挟んだ程度の関係性だと思っていたが、何故に向こうから急に距離を詰める為に奔放する理由が分からない。
近づく口実ならば、俺の不死だと仮定するが、然程重要な物では無く、重く捉えているのは、るるかのみ。
思考が渦を巻き、完結することの無い疑問の海に沈むが、明智ちゃんの言葉に我へと変える俺は、視線を明智ちゃんに移す。
「…ユウトさんに、尋ねたい事があるんですけど、大丈夫ですか?」
「良いぞ。…あ、因みに彼女は居ない。」
「なんの話ですか?」
「…そう言った話だが?」
辛辣明智ちゃんの有無を言わさぬ瞳に押され、意気揚々と回る口にチャックを掛け、大人しく彼女が尋ねる事に解答姿勢を取る。
満を持して、口を開いた明智ちゃん。その瞳には、不安や恐怖を感じるが、それ以上に興奮が混じった瞳に吸い込まれながら、彼女は不意に口を開く。
「ユウトさんは、この時代に生まれた人ですか?」
「…………ん?」
___なんと言った?
彼女の口から放たれた、この時代の人かどうかという質問。俺が未来人という事は、るるかとくれあ以外が知る筈もなく、寧ろ、独力で俺の正体を掴むのは事実上不可能。
まず、第一に俺の正体を掴んだ確信的な物はなんなのか、過去の発言に疑問を覚えるが、未来の物や言葉など、この時代に生きる人々に通じる訳が無い。
意味不明な言葉だけで、俺を未来人と結びつける浅はかな考えを、目の前の探偵が語る訳が無い。
それこそ、俺と同じ未来から来た人物以外には、
「……明智ちゃん、君の生まれを教えて欲しい。」
「…私は、2013年一月二十四日、生まれです。」
___点と点が繋がった。
彼女は、明智あんなは俺と同じ未来から来訪した同郷人。ならば、彼女が俺の『ある発言』に疑問を持つのは当たり前だ。
過去の俺の『スマホ』という発言。あの場で、俺の発言に相槌を打ったのは彼女ただ一人で、発言と周囲の人物から情報を得て、俺の正体へと辿り着いたという事だ。
「にしても、明智ちゃんもおんなじ境遇とはね。…案外、世間って狭いもんだな。」
「確かに、そうかもしれませんね。」
けど___と、明智ちゃんは俺の手を取り、彼女自身の胸部付近へと手を持っていく彼女の手の温もりと、慎みも感じながら、成長を感じられる柔らかい感触に脳が思考を放棄する。
「私、凄く嬉しかったです。…家族も友達も居なくなって、私だけがおかしいかなって何度も、何度も思ってたんです。」
「でも、ユウトさんに会えて、初めて自分がまだ普通なんだって思えました。…ありがとうございます。」
「…ひゃい。」
思考が回らず、脳死で言葉を返すユウトさん。
ここまでは完璧。女性経験が少ないと言われる彼、更には年下が好みを逆手に取り、彼の心を優しく陥落させる私の仕草。
己の容姿に自身がある訳では無いし、更には自慢も出来る物では無い。が、彼にとっては私は、何者よりも美しく見える高嶺の花。
___離したく無い。
辿り着いた『同じ人』。過去の世界でも、この世界を生きる人達にとっては今が現代だが、私にとっては過去の世界。
未来の普通が普通で無い過去で、同じ普通を知り、同じ物を知っている人が居るだけで、この世で一番の宝物を見つけた錯覚へと陥るが、事実、宝物なのは変わりない。
離したく無いから、何か彼を出来るだけ私の近くに置きたい。
この際、異性の関係やら何やらなんて、興味は無い。ただ、この人と一緒に居たい。
___だから、今だけは悪い女の子になっても良いよね。
「ユウトさんって、彼女居ませんよね?」
「ぐふ、ま、まぁ。居ないと言えば居ないし、居ると言えば居る訳でも無いが。」
「居ないですよね?」
「はい、居ません。」
回りくどいのは今、この場で不要。私は、出来うる限りの『本気』と『愛』を心の引き戸から引き摺り出し、ユウトさんへと言葉を投げる。
「…なら私達、付き合いませんか?…遊びじゃ無くて、本当に。」
「……。」
彼の瞳に、一瞬だけ恐怖を覚える。
私を見ている様で、もっと深い所を見つめ、探っている疑問の目。僅かな出会いだが、人柄はある程度理解した私でも、今の彼は不思議と畏怖の対象となる。
静かで、重い沈黙を破ったのはユウトさんだった。
「…良い提案なのは、認める。寧ろ、俺も君みたいな美少女と付き合えるなら、喜んで付き合う。」
だが___と、言葉を区切る彼は、空となったグラスを見つめ、口を開く。
「…俺は、君とは付き合えないよ。」
「それは、どうしてですか?…ユウトさんも私と付き合うのは嫌じゃ無いって。」
「勿論、君みたいな子と交際出来るのは大歓迎だけど、君は自分を良く分かっていない。…ある意味で、重症なのかもしれない。」
「…分かって、いないって?」
「空っぽなんだよ、明智ちゃん。…君が俺に交際を持ち掛ける…いや、依存するのは君が空っぽだからだ。」
「確かに、俺も同じ境遇で心細く、ここ一年は辛い事を数える方が楽だった。…けどさ、こんな俺でも幸せを注いでくれた人達が居たんだ。」
突如の自分語りに困惑を覚える私だけど、彼の、『空っぽ』という発言が、酷く脳裏に焼き付き、この言葉が脳を反復する。
この人は、私が知らない筈の私を見据えていて、同情や理解の範疇を超えた的確な言葉、あるいわ『攻撃』にも思える彼の言葉は着実に殻を張る私の心を、優しく壊す。
「君は、満たされているか?…誰かに頼った事はあるか?俺も、最初は全部一人で抱えて、苦しめばいずれ報われるなんて、現実的じゃ無い馬鹿馬鹿しい事ばっかり並べてたよ。」
「けどさ、気付かされたんだよ。たった一言、助けてって言えば、全部上手く行く事にすら気づけなかったんだ。本当に、気づかしてくれて、満たしてくれたアイツらには、感謝だけじゃ足りねぇぐらいだ。」
「…君にも、いる筈だ。君を心配して声を掛けてくれる人達が、絶対に君を孤独にさせないってお節介をかく仲間がいる筈だ。君はとっくに満たされているんだ。」
ふと、ユウトさんの言葉で淡い記憶の泡に映るのはいつもの二人。口が悪いけど、いつも心配を欠かさない妖精さんの先輩。
そして、私が心細くて、一人で何処かに消えてしまいそうな時もずっと隣で私の手を握って、孤独にさせなかったたった一人の親友。
「そんで、君は満たされている筈の心を無理矢理にでも空にしてるんだ。…不安と恐怖で、明智ちゃんが孤独を取るのは痛いほど分かるし、今すぐに誰かと話せなんて無理難題をぶつけて、君が助かる保証は無い。」
「…どうして、私を助けるんですか?ほんの少し話して、挙げ句の果てには、付き合おうって迫る悪い女ですよ。」
「悪い女って言っても、君みたいに顔が良くて、君みたいにやりたくも無い悪を演じるぐらい愛嬌があれば、俺は全部許す。」
「……そして、助ける。」
この人は、何を言っているのだろう。
誰よりも助けを求めている癖に、困っている人が居れば、己に降り掛かる不幸も理不尽も全てを払い除けて、手を差し伸べる。
多分、この人は凄く損をする人なんだと思ってしまった。それはそうだ、彼の気持ちを利用し、あまつさせ交際を迫るずる賢い年下の異性など、普通は幻滅するに決まってる。
けれど、この人は工程なんて吹っ飛ばして、残酷で、酷く優しい毒で誰かの心の殻を溶かす。
表現には誤解が生じるが、別に不快に感じる訳では無い。きっと、彼の人柄も多いに関係するが、最も根本的な物は言葉に混じる重みだ。
放った言葉を曲げずに真っ直ぐ貫く強い意志と、嘘をつかない真の心?___心の部分は、妥協しよう。
でも、僅かな出会いでも分かる程にお人好しで優しい彼は、こんな私を救おうとしている。否、救われている事を、わからせようとしている。
「ゆっくりで良いんだ、明智ちゃん。今すぐに、自分の心に整理をつけなくても良い。…ただ、ゆっくり君が歩んでも、隣を同じ速度で歩いてくれる相棒はきっと居る筈だ。」
「…勿論、俺も一緒に歩いて行くから。だからさ、ゆっくりやっていこうぜ、明智ちゃん。」
満面の笑みで手を伸ばす彼の手を私はまじまじと、見つめる。
きっと、彼と出会う前の私なら、誰かの手を取る事なんて不可能に近い物で、こうやって誰かと出掛ける事もしなかった。
全部、この人と出会ってから、何かの歯車が動き出したのは確実で、私はきっと今、変わろうとしている。自分の本心すらに蓋をし続け、自分の形すら曖昧になった私に今、転機が訪れている。
でも、思わず彼に伸ばす右手が震え出して、嫌な汗が服越しに伝わるのを感じる。
頼っても良い、私の救いの声を拾い上げてくれる優しい彼に頼る事はきっと良い事なんだと思う。
けど、裏切られて、見限られれば、もう私はバラバラに壊れて戻れなくなる。
___そんな心の迷いを、彼はいとも簡単に破った。
彼の手から逃げる様に引っ込む手を、彼は力強く握り込む。
肌はガサガサで、以外にもごつごつとした男の人の手に握られる経験が無いが故に、私は困惑を覚えるが、彼は無遠慮にも私の心に踏み込んでくる。
強引だけど、不思議と安心感を覚える彼の手を、何処か離したく無かった私は、彼が緊張で手汗を滲ますまで、その手を握り続けた。
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「…じゃあな、明智ちゃん。」
手を振り、彼女と別れた俺は、夕暮れの淡い光を一心に浴びながら、一日を振り返る。
明智ちゃんとのご飯は、非常に満足の行く物だったが、突然の自分語りと遠慮無く彼女の心に土足で踏み入れるデリカシーも、気品もない男と食事など拷問に等しい。
が、意外にも彼女の反応は俺を責める物でも無く、会話が僅かに途切れる事もあったが、気まずい訳でも無かった。
食事を終えれば、色々とデパートを巡ったりして時間を潰して、雑貨品や日用品を手に取る彼女の横顔を脳裏に焼き付け、これって夫婦みたいだなと、痛い想像を膨らませ、思わず舌を噛み切ろうとしたのはここだけの話。
だが、明智ちゃん自身も、最初の頃の『見定め』の視線は形を潜め、何処か『見出す』様な視線を感じたのは、彼女自身が変わろうとしている証拠なのだと頬が緩む。
妹が居れば、あんな感じなのだろうかと『お兄ちゃん』心をくすぐる明智ちゃんとはとした瞬間に、色気を醸し出す明智ちゃんのギャップに惹かれながら、近場の木製ベンチに腰を下ろす。
二人様のベンチが故に、自然と俺の隣が空くが、俺はどうしてか、隣に座るのは『彼女』だと予感し、閉じていた瞼を開け、彼女へと手を上げる。
「…よ、るるか。」
無表情に何処かミステリアスな雰囲気を醸し出す美少女、森亜るるかは、その腕の中にお供妖精のマシュタンを抱きしめながら、俺の隣へと腰を下ろす。
「…今日のデートは楽しかった?」
「まぁ、最初はデートだと思ってた自分まいたけどな。…目的は全然違ったし、明智ちゃん自身も俺に微塵も興味は無かったって感じ。」
「でも、デパートの時の二人は完全にカップルのそれだった。…弁明はある?」
「………。」
棘の様な視線が、俺の心を刺し続け、何処か言い表し様の無い罪悪感に駆られ、隣のるるかに視線を合わせられなくなる。
彼女の気持ちは、痛い程分かっている。寧ろ、あれ程の好意をぶつけられ、気付かない唐変木はこの世に存在せず、俺自身もこんな美少女に迫られるのは嬉しい。
___けど、怖いのだ。
るるかは、この時代を生きる過去の人間。対して、俺は未来から来訪した異分子。
現実世界に帰れる保証は無いが、いずれ元の時代へと戻る事が可能となれば、るるかやくれあとは一緒会えなくなる。
___だって、もう俺の知ってる世界に二人が居る訳が無い。
そもそも、俺は過去に迷い込んだと言うが、まことみらい市なんて地名は、俺の世界には存在せず、ましてやプリキュアやお供妖精など非現実的な物が普通に存在するこの世界は俺の世界とは異なる場所。
並行世界、パラレルワールド。様々な憶測が飛び交う俺の脳内は、たった一つの『別れ』に収束し、言葉に出来ない寂しさが、満たされている筈の器を更に、満たす。
溢れ出れば、取り繕って歩み進めた心が停滞するかもしれない。止まって、今進む理由を失えば、俺は本当の意味で死ぬ事になるのか、恐ろしく怖い。
刹那、何処か冷たい感触が俺の手を優しく包み込んだ。
「…るるか?」
「何も言わなくても良い、大丈夫。私は、分かってる…貴方の言いたい事。」
「言いたい事って何だよ、何も言ってねぇのに何が分かるってんだ。」
「貴方がいずれ来る別れに苦しんで、人の好意や善意を見て見ぬふりをするって事。」
「… 別に、そんな事はしてねぇよ。」
「なら、私の気持ちに気付いていながら、あれやこれやと理由を付けて離れて、必要の無い事に首を突っ込んで、人知れず傷ついて、それを見る私の気持ちに貴方は目を背けるのは、違う?」
「……。」
「沈黙は、肯定。」
彼女は、俺が思っているより俺を見ている。それが、嬉しくて、酷く寂しく感じるのは身勝手で傲慢な物だと我ながら思う。
嬉しい筈なのに、何処か寂しさを覚える神妙な気分で隣のるるかの横顔を見つめれば、夕暮れに照らされた彼女の神秘的な雰囲気は変わらず、何を考えてるのか分からない。
けれど、内に秘める激情は凄まじい。
俺に好意を持って、くれあと共に三人で再び交える事を夢に願う彼女は、己の感情を必死に噛み殺して進み続けているのだ。
気付けば、俺の体はるるかの華奢な体を、突然と抱き締めていた。何か理由があった訳では無いが、無意識に彼女が俺から離れるのでは無いかと恐怖に駆られ、るるかを抱き止めている。
力を入れればすぐに壊れてしまいそうな華奢な体。けれど、俺なんかよりも確かに『命の熱』を感じるるるかの体温に安心感を覚える。
壊れそうな体でも、消えてほしくない矛盾の中で、己の軽率さに嫌気が差して、るるかを俺の腕から解放しようとするが、突然と背に伝わる彼女の腕が、俺を強く抱き締める。
「……もう良いだろ、離してくれよ。」
「離す理由が無い。後、貴方の考えてる事は分かってるって言っているでしょう。」
「流石は、名探偵様だな。」
「…知ってる。」
「ほう、それは随分と自信家な事で。」
「最初の頃の私に、自信なんて無縁な物だった。けど、この自信は貴方と彼女がくれた大切な物。…だから、この行為は親しい友人が行うスキンシップ。」
「…なんだ、それ。」
思わず笑みを溢して、彼女の優しさに再び感謝を述べる。
彼女の好意に目を背けて、けど辛い時は彼女に助けを乞う、俺の自己嫌悪を彼女は優しく否定してくれた。
本当につくづく彼女には敵わないと思わされると同時に、何処か心の泥が流された様な気分になる。
今は、悩む時では無いのだ、いずれ来る別れに怯え、自分の目的すら見失ってた自分に今一度、やるべき事を思い出させ、鼓舞する。
彼女達を救いたい、明智あんなという少女を救いたい。取りこぼしそうな己の手に、どれ程助けたい人が居て、大切な人を幾ら作るのかと我ながらの傲慢を嘲笑する。
___けど、今はこれで良いんだ。
「ありがとうな、るるか。」
「感謝を言われる様な事はしてないけど。」
「それでも、ありがとうな。」
「……どういたしまして。」
俺の胸板に顔を埋めるるるかは、その表情こそ見えないが、ほんのり耳が赤く染まっているのが見え、意外な一面に思わず笑みを溢す。
くすぐったい雰囲気が流れ、数分ほど抱き合い続けた俺は、良い加減に帰ろうと、るるかの抱擁から解放を選択するが、突如と彼女はその腕からは考えられない力で、俺を抱き潰す。
「…る、るるかさん?」
「物凄く良い感じで終わろうとしてるけど、今日の事を不問にするつもりは毛頭無いから。」
「きょ、今日の出来事って?」
「貴方が年下の異性と楽しそうに団欒し、挙げ句の果てにはデパートへと出向いて、二人だけの時間を満喫する。…何、私を煽っているの?」
___シャドウるるか爆誕。
冷や汗が穴という穴から吹き出し、すぐさま脳内は撤退の二文字を鳴らすが、時すでに遅し、背に回された腕を彼女は俺の首へと回し、芸能人顔負けの顔面偏差値の暴力がノーガードの俺の唇へと迫る。
「……ん。」
リップ音が鳴り響き、俺の唇を湿らす物と、独特な感触。
呆然とする俺を他所に、彼女は満足げにベンチから腰を上げ、妖艶に自身の唇に指を当てる。
「ユウトが私の好意に目を背けても、私は貴方という存在に私を刻み込み続ける。」
「だから、逃げないで。」
背を向けて歩き出するるかの背を眺め続ける事しか出来ない俺は、最後に、風と共に掻き消された彼女の言葉を聞き取る事は出来なかった。
「私をここまでした責任、ちゃんと取ってよね。」
あ、次回は明智ちゃんと小林の喧嘩回です。
別に、救われる予定はあっても、すぐ救われるとは言ってない。
マシュタンは因みに、空気を読んで抱き締められた瞬間、何処か遠くへ飛んで行きました。