な、長くなり過ぎたから中途半端な所で終わった感が否めない俺です。
なんで右腕だけが残ったのかは一応これで説明してますが、ちょっと独自解釈が入るかも。
後、ユウトくんはプリキュアになりませんが、代わりに特別な力は持たせます。
酷く重い体は、自由を忘れ、深い闇へと着実に落ちて行く。
手足の感覚は無く、平衡感覚も嗅覚も、己の名前すらも無いと思わせる暗く、冷たい闇の中。
だが、不思議と恐怖は存在せず、寧ろ、何処か受け入れる様な心情のまま、俺の体はゆっくりと音を立てず、黒い霧となって消えて行く。
感覚も無い体が、役目を終え無感動に崩れ去って行くのは、自然の摂理に叶った行動で、広く深い海で魚が息絶え、体は分解されプランクトンとなる現象と同じだ。
けど、忘れられる程の些細な俺の死でも、きっとあいつらは悲しんでくれるからこそ、道半ばで倒れる己の不甲斐無さと言ったら、命を幾つ払っても拭い切れない。
天国か地獄か分からない、死後の先。巷では、極楽浄土というありとあらゆる娯楽と快楽が存在する理想郷へと魂は還るなど、宗教的な逸話は星の数ほどあるが、毛頭天国も極楽浄土も、引いては黄泉の国も無い。
この命は、地獄へと真っ逆様な命。死という人間史の常識を覆し、度重なる罪を犯した愚か者には花嫁衣装よりも似合う地獄の道。
___さぁ、早くやれよ。
意識は消え、死に際に捉えた丸い何かはきっと、『魂』と呼ばれる概念だと理解する。
案外色も無く、丸く白い球体となった愚か者は、地獄の門が己を向かいにくるまで、光も目的も無い暗闇を永遠と彷徨い続けた。
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「…二人とも、良い加減に飲め。あいつと違って、お前達は風邪も引くし、怪我も簡単には治らないんだ。」
神妙な趣きで、二つのカップを机へと優しく置き、出来うる限りの優しさを偽った声色で、彼女達へと話しかける。
___あいつが死んだ。
到底考えられ無い、あり得ない話。刺されても、どれだけ血を流してもおちゃらけた姿勢を崩さず、笑顔を振り撒く大馬鹿野郎は、呆気なくこの世を去った、何の前触れも無く静かに。
死の寛容など、二百あまりある人生の中で、僅かでありながらも経験し、時には人の死を看取った事もあった。
だが、彼らは所詮、顔を僅かに合わせた赤の他人。必要以上に懐に入らず、天寿を終え旅立つ時も、僕は泣かず、特に何も感じなかった。
が、どうしても、今回は到底受け入れて進む事は安易では無い。無遠慮にも土足で僕の心に踏み込んで、僕の本質を誰よりも理解し、数多さえ、僕を友達と呼んだ。
認めたくは無いが、僕は必要以上にあいつを僕の深い所に入れたいんだと、死んで初めて理解した。
あいつとの空間は、二人と喋る時とは違う同性の話。棘を言ってもあいつは受け入れて、話の解像度を上げ、遠慮も配慮も不要と言わんばかり温かい空間に僕も毒されていた。
死ぬ瞬間に気づき覚える今の僕は、天才発明家の威厳も名誉も飾りに過ぎない薄情な男。
最後の最後まで僕は感謝も言えず、貰ってばかりの自分に初めて、憤怒を募らし、口に運ぶ予定だった棒付きキャンディを強く握り締め、感情を露わにする。
___ごめんな、ユウト。
遅過ぎた謝罪の言葉を受け取る者は、もうこの世にいない。改めて突き付けられた現実に、僕は一度、呼吸を整え冷静に頭を回す。
あいつが命を賭けて救った二人を、今度は誰が助けるのか、そんなの僕に決まってる。
繋ぎ止めたバトンを、僕が希望に繋げるんだ。罪滅ぼしなんて思わない。それに、あいつはこの行いを断罪だと思うのなら、最も理不尽で、最も癪に障る下劣な行動をさせる筈だ。
きっと、彼女達のあの場を見て、あいつは恐怖もあったし、動けない自らを責めていたと思う。
けれど、あいつは折れなかった。折れずに、恐怖に打ち勝って見せたのだ。
それは、ポチタンも同じ事だ。
だからこそ、僕がここで折れる訳にはいかない。ここで折れたら、更なる絶望が形を持って彼女達を襲い、本当に何もかもが終わってしまう。
あいつの意思も、ポチタンの覚悟も全部無かった事にさせない。
それは彼女達も同じ事だ。彼に最期に言った言葉、彼女達が希望の二人と、僕は宣言した。故に、彼女達もこの困難を黙って指を咥えて終わるのを待つ筈が無い。
___その時、僕が出来る事を精一杯やる。
立ち上がる手助けを、今度は寄り添うだけじゃ無い。手を引いて立ち上がらせる覚悟を胸に、僕は彼女達を信じて待つ事にした。
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「……るるか、もう帰りましょう。…雨も酷くなって来たし、傘も無いんでしょ。」
「…けど。」
「けども無いの。…受け入れる事が肝心なのよ。…彼は死んだ。もう、それは変えることの出来ない現実なのよ。」
灰色の空が、私の心を表す様に曇りを強め、耳を劈くような強い雨音と、木々やアスファルトに雨粒が滴る音だけが響く公園で、私は、雨にその身を任せ、木製のベンチに深く腰を下ろす。
お供妖精『マシュタン』に帰るよう促されるが、今だけは、帰る事も進む事も永遠と続く苦痛にも思え、今だに拭えない涙は頬を伝う。
きっと、彼なら無遠慮にも涙の訳を聞き、優しく涙を拭ってくれる。
愛おしく、離すのすら名残惜しい温かいあの手は、不治の病すらも治すと思わせる劇薬で、彼を感じれる物。
___でも、もうその温かさは二度と感じれなくなった。
永遠を共に過ごす覚悟で、私は彼の隣に居続けた。守る為に、失わない為に。
今はどうだ。守ると決めた最愛すら、簡単にその手から崩れ落ち、死の瞬間にすら立ち会えず、彼は一人でこの世を去ってしまう状況。
未来から一人で訪れ、埋まらない孤独を抱えた彼を、私とくれあは一人にしないという誓いを立てた筈だ。
が、彼は死体すら残らず、幸せになる権利すら奪われ、唯一残った彼の右腕は、今回の犯行の重要な証拠として『扱われ』元は人間だった物を、簡単に『道具』と見る奴らに、怒りが湧き上がる。
___彼は道具じゃ無い。…私とくれあの宝物で、愛する人。
怒り。否、怒りなんて生温い憤怒が、恐ろしい殺人衝動を駆り立て、全てを破壊しようとする。
闇に善意すら投げ捨て、全てを終わらそうとする私を我に返したのは、たった一人のお供妖精ポチタンだった。
「駄目よ、るるか。その選択は、彼も望んでいないわ。」
「…大丈夫、マシュタン。私は至って冷静。」
「冷静を装うのなら、今までのるるかの方が、もっと自然と誤魔化せていたわ。…感情のまま全てを終わらせたら、彼も貴女もきっと後悔するわ。」
「…じゃあ、もう分かんないよ、マシュタン。」
静かに、涙は雨と共に頬を流れ、嗚咽が喉から漏れてしまう。
声を上げて泣く事が出来れば、どれ程良いのだろうか。けど、私は声が上がらず、静かに涙を流し、体を震わすだけ。
幾らか泣いたか分からない涙の数。感情に蓋をしても、彼との思い出は、嘘で隠す事も、記憶の彼方に忘却する事すら出来ない。
___愛してる、愛してる愛してる、愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる。
溢れ出る愛は、呪いの様に私の心で何度も呟かれ、もういない彼に届く様に、何度も、何度も愛を捧げる。
世界も大切で、でも、同じ程に彼女も彼も私は大切で、代替品なんて無い。彼を思うこの愛は変わる事の無い物で、少なからず、理性を保てている理由だ。
___会いたい。抱き締めたい。償いたい。交わりたい。
叶う事の無い想像上の戯言を何度も呟く私は、今、出来る事を模索する。
記憶を取り戻す、世界も救う、彼を、生き返らせる。積み上げられる目標の数々は寧ろ、私に停滞を望ませず、進む以外の選択肢を除外させ、希望を無理矢理にでも与えてくれる。
彼がもう一度、私の前で笑って、抱き締めてくれるのなら、私は如何なる代償も、犠牲も払う。
不可能と言うのなら、自らも不死となり、人間の理など外れてしまおう。
___だから、待っていて。
どれ程時間を費やすのか分からない。いかんせん、死者の蘇生など、古代の書物や神話。引いては、御伽話でしか存じない。
現実ではまず不可能な野望。道も、先も見えない文字通り暗黒の道を、私は歩む決意をする。
「…るるか、吹っ切れたみたいかしら?」
「うん。…悲しいものは悲しい。けど、まだユウトを諦めるつもりは無い。何年、何十年、何百年を費やしても、絶対に彼を取り戻す。」
___先の見えない迷宮。
が、目的と理想。そして、それらに勝るとも劣らない『愛』が、『森亜るるか』という、恐ろしい存在を生み出した。
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会話なんて存在しない、沈黙の場。私とみくるは、同じテーブルを挟み、向かい合って座っている。
もう、失った物が多過ぎて、何から触れ、片付ければ良いのか。課題は山積みでも、解決する為の力も勇気も粉々に砕け散ってしまった。
文字通り、今の私はあの人の命の上に立っている。戦う術は無く、器用に何かが出来る訳では無いと、自分の無力を噛み締めながら呟くユウトさんを、私は知っていた。
弱く、脆いあの人は、誰よりも臆病で、誰よりも優しい人。だからこそ、あの人はあの状況で、一人だけ動けたのだ。
絶望に折れず、最期の瞬間まで弱さを捨てず、恐怖だけを捨て去ったあの人は間違い無く、私よりもよっぽどヒーローだった。
けど、あの人の背はずっと遠くに行ってしまった。
同じ境遇、同じ寂しさを心に抱えながらも、誰かの為に強くあろうとしたあの人でも、僅かに年が上なだけの私達と同じ学生で、子供なのだ。
大人の保護下で生きていき、日の下を真っ当に歩く権利を持っていながら、その権利を奪われ、大切な人に看取られる事なく死んでしまった。
___あんまりだよ。
命を賭けて救ってくれたあの人を、あの人達は重要な参考品と呼び、まるで人として扱わ無い残酷な現実。
私は、あの時に少しだけ、人に大きな失望を感じてしまった。人の死を、誇り高い命をなんだと思っているのか、あんな人達を私は心を押し殺して守っていたのか。
失意の念が、針の様に心を蝕み、自らの守る『真実』を否定して始める。
何度も、何度も失望して、けれどふと、あの人の顔が思い浮かべば、自然と私の心は穏やかさを取り戻し、酷く安心していた。
目的も、問題も、何もかもが暗黙の中で、あの人を思えば、立ち上がる事は出来た。
進む先も暗黙でも、立ち上がる事さえ出来るなら、私は、まだ戦える筈だ、でも、その先に何があるの?
「……みくる?」
「…まことジュエルを取り返しに行く。」
迷いの連鎖を、みくるが突然と断ち切った。
単純に意味が分から無い。どうして、立ち上がる事が出来て、やるべき事に真っ直ぐ突き進めるのか。
到底、簡単に受け入れて進む事なんて不可能だ。ましてや、まだ数時間にも満た無い僅かな時間で、みくるは受け入れて、進む事を選んだ。
他人の命の上で私達は生きている。その現実が、如何に私達の心を蝕んでいるのか、他人は愚か、当事者だって受け入れ難い罪悪感と後悔に蝕まれている。
___なら、どうしてみくるは進めるの?
「…なら、私も。」
流される様に、焦る気持ちで無責任に言葉を紡ぐ私を、みくるは察した様に静止させる。
顔色は伺えずとも、みくるも彼女なりに噛み締めて、今そうあるべきと判断して、行動をしているのだ。同じ罪悪感を胸に抱え、自らの憤りを必死に押し殺して。
私は、その背を追う事は出来ず、ただ茫然とみくるの背を見送った。
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必死に思考を巡らすが、明確な答えを得られず、僕は口にある飴玉を渾身の力で噛み潰す。
目の前の机に置かれた二つの自作プリキット『プリキットミラールーぺ』。使い方はシンプルで、みくるとあんな、二人の絆の力が揃えば扱える代物で、作った最初の僕は、然程重要な問題とは考えいなかった。
が、今の二人の状況を見れば、使い方の見直しを提案するが、時間も僅かしか無い状況で、如何に自らが天才発明家と豪語しても、僅かな時間で複数の物を作るのは至難の業。
けれど、一つだけこのプリキットに不可解な点が存在する。
「ポチタンが来た時に、この二つが光った。」
時の妖精ポチタン。少なくとも、僕ら同じ妖精でも規格外な力を持つポチタンの影響が有れば、非科学的な力の存在は頷けるが、いかんせん発動条件が不明で、ポチタン自身も、あんなを過去へと送った弊害か、本来の力を著しく失ってしまっている。
だからこそ、本来は力の発動など不可能に等しい筈。
「……分からない。なんで、ポチタンがいた時にこれは光ったんだ?」
自らが作った発明品に疑問を投げる意味不明な状況に嫌気が差し、研究室の扉を開けた僕は、リビングに一人座り込むあんなへと視線がいくが、みくるの姿はそこに無い。
「…あれ、みくるは?」
「まことジュエルを、探しに行っちゃった。」
やはりと言うべきか、みくるは一人でこの場を飛び去って行った。
今の状況では、どちらかは必ず一人で飛び出す可能性は加味していたが、みくるから飛び出すとは考えおらず、今の状況に困惑を覚える。
「…はぁ、あんなとポチタンを置いて行って、何をしてるんだか。」
「私の、せいだよ。」
___そうだよな、お前達は、絶対にそう言うよな。
とことん、今の二人の立場が逆転している状況に、自然と紡がれる言葉が分かる。
逆なんだ、今は。大抵は、あんなが一人で突っ走り、それを焦ってみくるが追いかけて、みくるは未来から来たあんなを不安にさせまいと、何処か遠いようで、近い距離を保っていた。
が、均衡は崩れ去り、双方の立場が逆となった。今はみくるが走り、あんなはみくるの事を考え、踏み出せずにいる。
けれど、逆になろうと消え無い事がある。それは、ユウトの死だ。
人の命の上で救われている、その事実が二人の心を蝕み、焦りと罪悪感を募らせている。
みくるは、生かされた命で必死に依頼を解決しようと動き、あんなは必死に心の整理をつけている。
「見たんだ。みくるがね、顔の知ら無い人達と笑顔で話す所を。…私の知ら無い顔をするみくるを見て、私の知ら無いみくるの世界があって、私が入る隙間は無かったんだ。」
目尻に涙を浮かべるあんなは、頬を流れる雫を意に返さず、嗚咽を噛み殺しながら言葉を紡ぐ。
「…それで、一人で依頼を受けて、なにも出来無いでみくるに迷惑を掛けて………ユウトさんを死なせた。」
「全部、私のせいなんだ。」
断罪にも聞こえる独白を受ける僕は、あんなの胸の内を理解した訳ではない。
が、一つだけ言えるのはあんなもみくるも、それぞれが、それぞれを強く想い合い、影響し合ってそれが、悪い意味で反発し合っている。
___本当に、
「あべこべなんだよ、二人とも。」
「…え?」
「そりゃそうだ。みくるは、あんなが大事だから動いて、あんなも、みくるの為を想って動いたんだろ?…それって、共鳴しあってるって事だ。」
「少なくとも、今までのお前なら想う事すらままならなかったろ。…けど、今は違う。」
影響の連鎖は断ち切られてなどいなかった。あの馬鹿は自身を価値の無い人間と低く見積もる事があったが、あいつは俺達だけじゃ変える事の出来なかった一人の女の子の心を変えた。
___全く、ヒーローみたいだよ。
「あんな、今のお前は一体なんだ?…ただ立ち止まって、己の信念すら疑う弱虫か?違うだろ、お前は『名探偵明智あんな』困っている人に手を伸ばさずにいられ無い優しい奴で、」
「…人の為に笑って、みんなを救う名探偵プリキュア…そうだろ?」
「で、でも、私一人じゃ何も。」
「だから、その為にみくるがいるんだろ。…お前達二人は、ただの相棒でも、親友でも無い。…どんな困難も乗り越えて、必ず笑顔を取り戻す『奇跡の二人』だ。」
___言いたい事は言ったぞ、ユウト。
死別に未練を残し、伝えたい言葉を僕はあいつの代わりに言ってやった。
伝えられ無い言葉を僕は生きた者として伝えるべき相手に伝えた。後は、彼女自身の問題だが、僕が変に気を配る必要も、心配を投げる必要も無い。
酷く澱み、暗闇に包まれた少女の瞳には、熱が宿る。
自らが投げ出し、取りこぼしていた物は些細な物で、『証』と『信頼』はそう簡単に失われる物では無かった。寧ろ逆だ、双方が新たな物を与え、明智あんなという存在を、再び立ち直らせる事が出来る。
消えかかった信念は、明確な形を持って再び現れる。
応えたいと思う心が、揺らぐ志しを真っ直ぐにし、力を与えられた意味を理解する。
誰かの泣き顔が嫌だから、手を伸ばしていた。不安も恐怖も今だに拭え無いが、それでも支えてくれる人が居て、隣をずっと歩んでくれる人が居て、それを教えてくれた人が居た。
嘘は、つか無い。もう、自分の心に蓋をするのはこれでおしまい。
私は、とっくに救われている。みくるが居てくれて、ジェット先輩が動いてくれるから、私はもう十分に救われている。
だからこそ、今はみくるを助けたい。きっと、彼女の心もあの人を死なせた罪悪感と自らの責任の板挟みに遭い、がむしゃらに動いているだけ。
同じだからこそ、私はみくるを助ける。
「……ジェット先輩、ポチタンの事をお願い。…私、みくるを助ける。」
「…頼んだぞ、名探偵。ポチタンの事は僕に任せて、お前はみくるの所に行ってやれ。けど、やるなら全力でだ。後で無理でしたは聞か無いからな。」
「大丈夫だよ、ジェット先輩。」
___あの目は、火のついた目だ。
「わたし、嘘つか無いから!」
嘘で練った偽りの仮面を外し、満面の笑みで笑う彼女。
嘘を嫌い、嘘を苦手とする彼女はいつしか自らの心に嘘の仮面を着け、周囲の声も、仲間の声すらも聞こえぬふりをした。
だが、今の彼女はもう違う。
やるべき事を真っ直ぐに、周りを笑顔に巻き込む人懐っこい笑顔で笑う彼女は、嘘を抱かず、嘘で覆え無い程の信念を胸に首に掛かるペンダントを強く握り締める。
そこには、嘘つきの少女などは居ず、名探偵の名を持つ者が立っていた。
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___よぉ、馬鹿野郎。
突然と魂、基俺を掴み上げるのは、奇妙な存在だった。
白い人。言葉で説明するにはあまりにも歪で、異形な存在。髪、目、口、爪に至るまでの全てが白く、言い表すのなら、人のシルエットを白で塗りつぶした様なもの。
人のシルエットを持つが、人と呼ぶには怪しい存在の手の中に収まる俺は、突然と起こった出来事に呆然とする。
___運が無かったみたいだな、なんせ、右腕が消し飛んだ状態で死んだんだっけか?
譫語の様に呟く目の前の存在の言葉に疑問を募らす俺を他所に、目の前の存在は自らの指先を魂となった俺に突き刺し、痛覚も感覚も無い気味悪さを噛み締めながら必死に抵抗の姿勢を示すが、四肢の無い状態では、自らが動いてるのかすら判断でき無い。
___悪いな。口下手なもんで、口で説明するよりかは、見た方が早い。
瞬間、暗闇の空間に色がつき始める。色は、次第に形を作り、場所を作ると、更に人を作り始め、この空間に世界そのものが完成する。
今だに俺は白い球体のままだが、そこに白い人はおらず、この空間に俺個人が残され、凄まじい光景に驚愕の声を漏らすが、口は存在せず、喋る事は叶わなかった。
作られた世界で、人々が活気に溢れる声も、華やかな街並みの中で、突然と光景が暗転し、華やかで、活気ある街からは一変し、何処か分からない薄暗い部屋へと居た。
精々人一人が住めるか怪しい狭さの中に、一面に本が敷き詰められた本棚が鎮座し、石造りで出来た地面には、厨二心をくすぐる魔法陣と、それらの説明が描かれた紙が乱雑するが、見たことの無い文字の為、解読は出来ず、あまりの汚部屋に足を踏む場もない。
壁にも、解読不明の字列が並び、何処か研究者の部屋かと予感するが、描かれた魔法陣が、探究心とは違った物に感じられ、研究者では無く、錬金術師か魔法使いの部屋と仮定する。
非現実的な仮定だが、お供妖精に、プリキュアと呼ばれる非科学的な力を目の当たりにしている日常は、常識を覆えさせ、あらぬ仮定を真実だと思わせる。
静寂の空間に、本が捲られる独特な音だけが鳴り響き、僅かに灯るランタンの光に誘われた俺は、ランタンを置く木製の机と椅子に腰を下ろす人間を見つけた。
装いは、現代とはかけ離れた中世的な衣装で、艶のある長い銀髪に、それ相応に見合った相貌。肩から掛かる黒く長いマントは、洗濯を疎かにしているのか、土汚れが目立ち、よく見ると髪も手入れがされず、嗅覚は無いが、臭いと思わせる人物。
女か男か分からない酷く整った顔立ちの人物は、机に積み重なる本達に顔を埋め、頭を乱暴に掻きむしる。
『何故だ、何故完成しない!…理論は完璧だ。だが、そこに至る過程と魔力の蓄積に問題があるのか?それとも、私には何もなし得ないと言うのか。』
この人物は闇を宿した顔で、この世の終わりの様に失敗を嘆く。
俺にはこの人物が何を完成させ、何が失敗なのか分からない。知ったとて、俺には何も助言する事は出来ず、ただその人物の背を見続ける。
場面は更に変わり、その人物は、見慣れない場所を訪れていた。
礼拝堂。あの狭い場所から一変、数百人は余裕に入る広さに、大量に並ぶ横長い木製の椅子。
一際高い天井には、美しい硝子細工に施された紋様が、太陽の光の反射によって地面に浮かび、その光に照らされる一人の人間がいた。
その人間は、俺が見た銀髪の人間で、美しい美形の相貌は歳を重ねた影響か大きく衰えてしまうが、身を包む装いは真紅の物に変わり、身に付ける金の指輪や首輪など高価な物が目立ち、とてもじゃ無いが同一人物とは考えられない。
若さは失われ、得た物は富と名声。
『師よ、これ以上の探究は、己の身は愚か、我が祖国イギリスを、引いては世界すらも滅ぼしかねません。』
『…何を言う、もう立ち止まる事など出来ない。この道を進むと決めた以上、私の運命は破滅が共に歩む。…その破滅に、世界など小さな破滅に過ぎない。』
『何度言えば分かると言うのですか!…あらやる現象、それに通ずる事象を拒絶する力、引いては、『死』すらも拒絶する力など、我々の力を持ってしても作り上げる事など不可能なのです!』
『…それが、どうした?』
進化とは、時に犠牲を払い、何かを作り上げる事だ。言い分的には、銀髪の人を師と呼ぶ男の方が断然正しい。
自らの野望と探究に世界すらも巻き込み、身勝手に未来を捻じ曲げる狂気的な思考回路。この人は、探究者では無い、今この状況では狂気のマットサイエンティスト。
『不死、これ程に望んだ物は私の人生を持ってしても存在しない。積み重なる札束など、紙屑も同然!…富に尻を振り、私に擦り寄る伴侶など痴女も同じ。…私が欲するのは永遠の時間だ。』
『…何故、分からないのですか!自らの野望に世界を捻じ曲げ、数多の生きる未来を潰せるのですか!』
『未来など、私が永遠の中で幾らでも作り出そう。…寧ろ、私の歩む未来程度で捻じ曲げられる世界など、いっそ滅ぶべきだろう。』
なんと傲慢で、身勝手な存在なのだろう。
俺の銀髪の人の評価は傲慢の一言に尽きる。だが、目の前の存在には、それを有言実行出来る程の力を携えている。
銀髪の人に反旗を翻す男にも、それは痛い程理解している。人間とは、時に傲慢で世界すらも厭わない狂気的な存在が生まれる事がある。
ある時は時間の超越を、ある時は御伽話の妖精を、ある時は嘘をまことにする力を、ある時は全てを支配する神々の力を、人は歴史を辿り、狂気的な存在達は自らの力で野望を追い求め、その代償に世界は破滅の一手を辿っていた。
___世界を元に戻したい、死にたく無い、終わらせて欲しい。
力を持たぬ者達は、世界の破滅に伴い、自らの死に怯え、全てを終わらせて欲しいと願った。
圧倒的な力の理不尽では願いなど、叶う筈のない夢物語でも、力を持たぬ人々は願いを失う事なく、願いのバトンを未来へと託し続け、世界は一度終わりを迎えた。
理由は単縦明快。人の欲望が、本来は届き得る事の無かった破滅を生み出し、世界は捻じ曲がり、深い暗闇に覆われた。
だが、人の欲望は終わろうと願いだけは消える事なく光続けていた。
世界の破滅は避けられずとも、まことの心を持ち、世界が救われるという『真実の願い』を抱き続けた終わった世界の人々。
その真実の願いは、暗闇に覆われ、終わった世界に光輝く『奇跡』を巻き起こした。
___それは初め、一点の光だった。
存在自体はあやふやで、形を持たない光は、いわば人々の真実の願いの結晶。
その結晶は、力を持たぬ人々の願いそのもので、世界を救うという願いを叶えた。
基準点。身勝手に捻じ曲げられ、暗闇に覆われた世界で、この光は、唯一世界を覚えた存在で、自らが覚え、願われた世界をその存在は作り上げ、再び世界を作った。
だが、その存在は自らの形を持たず、世界に停滞する事は不可能で、自らの憑代となる物に、形を問わず宿り続けた。
ある時は洞窟に、ある時は争いの武器に、ある時は海に住まう魚へと宿り続けた。
しかし、幾度と無く世界に留まろうとした代償に、真実の願いを叶える力は著しく低くなった。
人々も新たに作った平和な世界で、救わられたいと願う事が少なくなり、寧ろ、世界そのものの基準点として機能し、世界を自在に操れると考えた人類達は、願いの結晶を『拒絶』し始めた。
愚かに、自らが生み出した真実の願いを否定し、嘘でもなんでも、その願いを拒絶し続けた人類は、その願いが別の力へと変換され始めた事を知らなかった。
拒絶された願いは、世界の基準点としては機能しても、願いを叶える力を失い、代わりに宿ったのはあらやる事象、現象、引いては死すらも拒絶する拒絶の力、なんと皮肉なのだろうか。
しかし、拒絶の力はあまりにも強く、本来誕生した世界からも拒絶された存在は彷徨う様に、願いを叶える力で作り上げた無数の世界を渡り歩き、その度に世界から拒絶され、絶望を覚える存在は、ある一人の少年に辿り着いた。
何故、その少年に辿り着いたのか、理由は自らでも分からないが、その少年の内に宿る『輝き』に導かれ、その存在は少年の体全体に宿る事は出来ず、宿った所は『少年の右腕』。
___その瞬間、拒絶の力を宿した少年は、自らが住まう世界から拒絶された。
____________________
___どうだ、色々分かったろ?
途轍も無い情報量を必死に処理し、自らの真実を知った俺は、今一度真実を整理する。
第一に、俺の右腕に宿っていたとされる『拒絶の存在』その拒絶が、俺の死を拒絶し、俺が生き育った世界からも拒絶させた。
一気に原因が紐解かれ、自らの不死とタイムスリップの全貌を知った俺だが、何故、俺にその拒絶の存在は宿ったのか、別に普通の存在で、特に力も持た無い凡人の俺に到底扱える代物では無い。
___意外だな。案外、その存在に恨みでも言うのかと思ったぜ?
確かに、恨みが無いと言えば嘘になるが、それ以上にこの力のお陰で巡り会えた人々も居るし、救えた人もいるのは事実で、存外に恨む事や怒る事はし無い。
寧ろ、感謝してる。
___そうか。まぁ、そんなお前だから、そいつはお前に宿ったんだろ。
___けどまぁ、こっから大変だぜ。なんせ、お前今肉体が世界に存在し無いからな。
さぞ平然と飛び交った爆弾発言に驚愕を覚える俺だが、死の瞬間に感じた不思議な感覚が、答えを示している。
死の瞬間、右腕が切り離された体。否、俺という存在はこの世界ではイレギュラーな存在な故に、俺の肉体は世界に留まらず、形を残す事なく消えてしまった。
だが、右腕は現世に残り続けている。
___まぁ。拒絶を凌ぐ程の力を持つお前じゃ、あの存在もただの付属物に過ぎない。…力の均衡が崩れて、拒絶の存在は世界から拒絶させる事はされ無かったが、まだ事象やら死やらは拒絶できる程度の力は残っているらしい。
つまり?
___お前に宿った瞬間が最後の世界からの拒絶の力だったんだ。お前の力が強過ぎて、お前の力を制御するあまり、本来の力を失って、残されたのは事象と死を拒絶する力程度の力しか持って無いって事だ。
概ねは理解出来た。どうやら、俺の中に宿る力が強大で、力の天秤がこちらへと傾き、その力を制御する為に力を失い、世界からの拒絶の力は消え、残ったのは事象と死を拒絶する力のみ。
理解しても、死と事象を拒絶する力をその程度と片付ける白い人の神経が知れないが、俺にそれ程の力があるのは何故だ?
そもそも、力の制御と言うのなら、あの存在が宿る前から俺は普通に生活をしており、その強大な力を感じた事など無い。
___まぁ、まだお前の器に大人しく収まってただけだ。あの存在が来るのがもう少し遅かったら、本当にやばかったな。
大体は分かった。
俺の右腕の正体に、タイムスリップの全容、更に俺自身も知らない強大な力。
だが、いちいちその存在と呼ぶのは疲れる。…一応は、俺の命の恩人みたいなもんで、それなりに感謝を覚えている分、名は欲しい。
___あ、名が欲しい?
なんせ、俺にはまだやるべき事が残っている。明智ちゃんを救う事、くれあの記憶を取り戻す事。るるかの笑顔を取り戻す事。全部中途半端に投げ出す訳にはいかない。
更に、こいつの口ぶりから察するに、まだ俺が助かる算段はある筈だ。だからこそ、彼女らを助ける為に必要な俺の右腕には名前が欲しい。
___お前、一応は願いの結晶で、名前なんて無いからな?お前、どんだけ毒されてんだ?
俺の命の恩人だぞ、その恩人に名前が無いなんて寂しいだろうが。
___めんどくさ!?
不満を表す白い人は、顎に手を置き、静かに名前を考える。喋り方から期待はしないが、少なくとも口が無い俺は名を呼ぶ事は出来ず、静かに時を待つ。
そして、白い人はその名を呼んだ。
___幻想殺し、イマジンブレイカーなんてのはどうだ?
因みに、保管をすると何故、ジェット達がユウトの死体が消滅したのか知らないのかと言うと、騒ぎを聞き付けた生徒達が現れて、みくるがあんなを連れてその場を離れた事が理由です。
その時はちゃんとユウトの死体と右腕は転がってました。
次回はプリキットミラールーペ回と主人公復活です。まぁ、復活方法はあしからず。