名探偵と死なない少年の話。   作:HakuGozira

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 いや、あの本当に一ヶ月ぐらい投稿出来なくてすいませんでした。
 文化祭やら部活の大会やらで予定がパンパンの中で、テスト勉強もしないといけないと言われ全然作る時間が取れずに今に至ります。

 まじで此処から頑張っていくんで宜しくおねしゃす。
 因みに閑話と書いてますが、話はユウトが生き返った後の話の続きです。
 後は独自解釈でユウトくんにあんなちゃんの学費を払わせてます。本編を考えれば、四人の学費の負担者は誰とか考えて結局ジェットが出てくるんですが、オリ主ってのは随分と便利なもんです。

 ではではどうぞ。


閑話①

 

 世の中には問答無用という言葉が存在する。

 

 例えば、討論や話し合いを続けても意味がない時や、弁明の余地なしの極悪党に、言葉の制裁ではなく、拳による物理的な制裁を加える時に使われる言葉が問答無用。

 

 が、俺の知り合いには一人も極悪党もいなければ敵もおらず、逆に自身が見劣りするほどに寛容な心と優しさを兼ね備える善人達しかいない。

 

 だがしかし、それは人(・)間(・)に(・)限(・)っ(・)た(・)話であって、無論俺の尺度には人間以外の枠も用意しており、その頑固たる例が妖精である。

 

 そして、問答無用という言葉と妖精の関係性。大体の察しのいい人は、既に答えに辿り着いているかもしれないが、一応は分からない方のために答え合わせといこう。

 

 「…てめぇ! 待てやポチ野郎! 今度こそ、てめぇを魚の餌にして一攫千金狙ってやるわ!」

 

 「逃げろ、逃げろポチ!」

 

 答えは簡単。それはポチ野郎へと怒りの仲裁を下し、それ相応の罰を与える事でした。

 

 何処からか日常茶飯事と、火に油を注ぐような言葉が天から聞こえたが、俺の心は寛容であるが故にこれ以上の詮索はしない。

 

 第一に今、俺が最も優先すべきは忌々しいポチ野郎を捕獲し、魚の餌へと変える事だ。

 

 危うく優先順位を履き違える寸前だった自らを責め、意識をポチ野郎の捕獲に集中させる俺は、縦横無尽に飛び回るポチ野郎へと苦戦を強いられている。

 

 体格差は圧倒的で、俺の方が力も体力も目の前のポチ野郎に勝っているのに対し、奴の持ち味は俊敏性と小柄な体格。

 

 勝利の女神は俺に微笑むのが道理だが、力と体力が勝っていても、あまりにも小さい物は掴みにくく、ましてやその小さい物の動きが尋常でなく俊敏であれば、力など無いに等しい。

 

 「クソが、蚊かハエの類かよ。…蚊取り線香かアースジェットでもありゃ良いんだが。」

 

 冗談交じりの嘆きを垂れ流す俺だが、実際にはそんな余裕なんてない。

 

 恐ろしい速度で周囲を飛び回るポチ野郎。俺に超人離れした何かがあれば、この状況で打開の一手を与えられるが、無い物ねだりはもうやめたはずだ。

 

 首を振って思考を振り払い、一呼吸置いて、自身の全神経を集中させて、心の眼でポチ野郎を捉えようと思考する俺は、目を瞑る。

 

 何度も言うが、俺に超能力なんて上等な物は備わっていないし、唯一持ち合わす幻想殺しも実存には効果がない。

 

 だが、人間には一時的に超人的な反射速度や力を発揮できる物が備わっており、それを五(・)感(・)という。

 

 ___視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。

 

 そして俺は今、聴覚に全神経を研ぎ澄まし、僅かに耳に入るポチ野郎が身に着けているポーチが奴の肌と擦れる音を頼りにポチ野郎との間合いを確認し、一気に奴との距離を詰める。

 

 「そこじゃ馬鹿野郎!」

 

 「ポチ。」

 

 奴は俺へと背を向けていたはず。だが、奴は俺の居場所が分かっていたように僅かに上へと飛んだ。

 

 失敗か__そう捉えるより先に、俺の体は妙な違和感を覚える。

 

 ___なんか、地面遠くない?

 

 俺の身体能力を加味すれば、空中待機時間はコンマ一秒。

 

 瞬きの内に俺の足は地面へと接地するはずなのだが、妙に俺の四肢は抵抗を忘れ、上手く力が入らない。

 

 ___ちょっと待て、これ高所落下と似てるような、

 

 違和感を確信へと変える前に、俺の体は重力に引っ張られ、一気に俺の体は地面へと落下していった。

 

 

 ____________________

 

 

 「ねぇねぇ、みくる。…本当に大丈夫かな?」

 

 「大丈夫だよ、あんな。この恋愛マスターのみくるが考えた名案に失敗の二文字はないわ! …そもそも、あんなは何で変な所で内気なのよ! あの元気いっぱいなあんなは恋愛でも同じでしょうが!」

 

 「だ、だって恥ずかしいんだもん! 私、恋した事も初めてだし。」

 

 笑顔を見れば、たちまち周囲も笑顔に包まれるほどの元気と優しさを持ち合わすあんなは、ある一人の異性に恋に落ちているのを私、小林みくるは知っている。

 

 ___ユウトさん。

 

 今ではすっかり私達の溜まり場となっている事務所の持ち主で、このまことみらい市に何でも屋を経営する私達よりも少し年上の少年。

 

 だが、口調そのものは子供と呼ぶには少々荒っぽく、人を小馬鹿にするような冗談交じりの言葉遣いは彼の雰囲気も相まって、少年と呼ぶには些か可愛げはない。

 

 けど、あんなと同じ境遇で、きっと彼女と抱えている物も同じはずなのに、誰かの為に動けて、必死に体を張れる。そんな美しい優しさを持つからこそ、彼女の心は穏やかに甘く溶かされてしまったと私は考える。

 

 かと言って、私は初対面の時に彼に好印象を持っていたかと言われれば、絶対に私は首を横に振る。

 

 そもそも、あれほど私が彼女との心の距離や、自身とあんなの関係性の中で一歩踏み出すか悩んでいた葛藤の中で、ぽっと現れてあんなが心底嬉しそうに彼の名を呟くものだから、私はユウトさんに不信感と同時に強い嫉妬を抱えていた。

 

 でも、彼はそんな私の不信感も嫉妬も理解した上で態度を変える事はしなかった。

 

 「…本当に、凄い人だな…ユウトさん。」

 

 「そうだよね。なんてたって、私のユウトさんだから。」

 

 「本当に…そんな事が言えるなら。本人の前でもそのスタンスでいけば良いのに。」

 

 「…出来るならそうしたいよ。でも、ユウトさんの顔を見れば、顔が熱くなって頭が真っ白になっちゃうんだよ!」

 

 「あのね…これからユウトさんの所でご飯を食べる約束を焚き付けておいて、それは意気地なし過ぎるわよ、あんな。」

 

 考えにふけた思考に区切りを付け、あんなの横顔を覗き込む私は、恥ずかしげもなく彼を自分の物宣言するあんなの堂々たる態度に若干の呆れを孕みながら、ユウトさんが居る事務所へと足を運ぶ。

 

 遡る事数日前。自らの心に自覚を持ち始め、あれよこれよと様々な策を並べていたあんなは、思い付きでユウトさんと食事を取る約束を焚き付けた。

 

 最初はユウトさんが外食を提案したが、無論奢られるのは気が引けるし、第一にあの人はあ(・)ん(・)な(・)の(・)入(・)学(・)金(・)な(・)ど(・)の(・)金(・)銭(・)面(・)を一手に担っている為、これ以上金銭面での負担は掛けられないと、私とあんなの打診の元、事務所で食事会を決行する事になった。

 

 年下に配慮される男はこの世の恥など、奢らない事に何故か敗北感を感じていたユウトさんでも、あんなの上目遣いには逆らう事は出来なかった。

 

 二つ返事で了承して、今私とあんなは両手に様々な飲み物が入った袋をぶら下げている。

 

 「き、緊張してきた。」

 

 「あんな…殆ど毎日、学校帰りにユウトさんの所に遊びに行ってるんだから、今更過ぎるでしょ?」

 

 「それはそうなんだけど、一緒にご飯を食べるって考えると変に緊張するんだよ。」

 

 「…前に二人だけでご飯を食べに行った挙句、デパートで買い物デートしたどっかの誰かさんとは大違いね。」

 

 「思い出させないで!」

 

 こんなにも自覚をすれば、面倒な女になるのかとため息を吐きながら事務所が見える角を曲がった瞬間、私達の耳に奇妙な音が鳴り響いた。

 

 何かの落下音のような物だろうか。事務所の二階と同じ高さの木から何(・)か(・)が木の枝にぶつかりながら、苦しそうに呻き声を上げながら地面へと落ちてくる音は物というよりは、あまりにも不自然。

 

 そもそも、物がぶつかる度に声を出す事など無く、考えられるのは何かの生き物だが、

 

 「も、もしかして。」

 

 嫌な予感が頬を流れる汗が伝え、私は焦る気持ちで揺れる木へと駆け寄り、あんなも驚きながら私の背を追うように走り始める。

 

 木に生える葉っぱが揺れ、次第に声の主が地面へと迫る瞬間、思考よりも先に私はプリキットを使い、落下地点へとクッション性を持つ物体を作る。

 

 ___そして。

 

 「い、痛え。」

 

 「「ユウトさん!?」」

 

 

 ________________

 

 

 落下の瞬間、自らの死を悟った俺だが、突然と尻もちに感じた吸収性の何かが落下の衝撃を吸収するが、必然と俺の体も反発で大きく弧を描きながら吹き飛ぶ。

 

 痛みで顔を顰め、思考が白く塗り潰される中、頭上から突然と響いた声に釣られ、首を上へと向ける。

 

 そこには約束通りの時間に足を運んでいたあんなちゃんとみくるちゃん二人の姿があり、俺は倒れ伏す体を一度のけ反らせ、反動を使い一気に体を起こす。

 

 「えっと…何をしてるんですか?」

 

 「悪いな。少し害虫が居たもんで、魚の撒き餌にしてやろうと思ってたんだけど、勢い余って二階の窓から飛び出しちゃってな。」

 

 「飛び出すって…あのですね、ユウトさん! 貴方は一般人の身で、そんな事をやってたら命が幾つあっても足りませんよ!」

 

 「いや……命が幾つあってもって言ってもな、実際幾つもあるもんだし、何ならこんな事しょっちゅうあるし。」

 

 「しょっちゅうあっても困るんです!」

 

 見事にツッコミ役に転ずるみくるちゃんの状況適応能力に感心しつつも、自らの愚かな行動を謝罪し、二人に頭を下げる。

 

 実際問題、彼女達には不死の力と自らに宿っている右腕…幻想殺しについては包み隠さず話している。

 

 理由は色々とあるが、一番はあんなちゃんに誓った約束が大きく関係しており、『ずっといるなら、隠し事は無し』という事で、渋々と自らの力について話している。

 

 それにしても、俺が不死を打ち明けた時のあんなちゃんの目は、今でも脳裏に深く刻まれ、稀に思わず体を強張らせるほどに妙な恐怖を感じさせる目。

 

 あの時の目と雰囲気は、何処か森(・)亜(・)る(・)る(・)か(・)と似て非なる物を感じさせ、出来るならあの目と雰囲気は御免と心に訴えながら肩に乗る葉を手で払い、さり気なく彼女達が持つ袋をその手から取る。

 

 「んじゃま、とりあえず中に入れよ。…あ。あと、お前らのお供、ちゃんと躾しとけよ。危うく殺されかけたからな。」

 

 「躾って…ポチタンは特に悪い事はして無い筈ですけど?」

 

 「………そう、だったな。」

 

 奥歯を噛み締め、湧き上がる憤怒を鎮めながら事務所へと二人を案内する俺は、何故ポチ野郎に怒りを募らすのかの原因を今一度、思い出す。

 

 約二週間前、一度休業にしていた事務所を再開し、再び俺が本格的に何でも屋の経営を開始した日、俺は様々な不安を抱えていた。

 

 まず第一に挙げるのは、あんなちゃんの入学費や給食費の支払いだが、これは俺が自発的に立候補した結果で、これを一度も負担と思った事は無く、寧ろ推し活に近い感覚で、金を払っていた。

 

 推し活の次は、事務所の電気代や水道代、光熱費などを払って、俺の貯金はほぼ無いに等しい物だった。

 

 当然と言えば当然だ。なんせ、軽く一ヶ月は休業状態で、収入はゼロのほぼ赤字。

 

 そんな状態で一気に金を払えば当然、懐も貯金も狭くなる物で、流石に危機感を抱いた俺は死にかけの体に鞭を打って何でも屋の経営を再開した。

 

 様々な支払いに人生で初めて家計でも記そうかと、今後の生活を考えていた矢先に、一本の電話が入る。

 

 営業再開の知らせはまだのはずと疑問符を掲げながらも、俺は受話器を手に取り、電話に出た。

 

 電話の相手は俺とは縁もゆかりもない高級ブランド洋服店で、俺は何かの依頼かと考え、メモ帳とペンを両手に電話内容の要点を記録する。

 

 内容は、なにやら自店で販売していたセットコーデの一式が一晩で綺麗に消え、監視カメラでも犯人が分からず困っていると。

 

 当時の俺は『それこそ探偵の出番だろ』と、あまりにも諸事情ではない犯人探しの依頼に、思わず探偵事務所を頼れと言いたくなるが、あんなちゃん達は一度事務所を閉めている事を思い出し、項垂れる。

 

 ___が、巻き込まれたのなら仕方がない。

 

 一気に脳を職業用に切り替え、盗まれた衣類の特徴を聞き出す俺は、衣類の特徴を事細かにメモする。

 

 衣類の特徴は、紺色のジーンズに無地の白Tシャツと……、

 

 「…ん?」

 

 妙に、妙に身に覚えのある特徴に嫌な予感を覚えた俺は、震える足取りで自身のクローゼットを開け放って、手探りで例の物を探す。

 

 そして、あった。否、あってしまったというべきか。手に取った服達はポチ野郎が運んできた衣服達で、当初の俺は違和感を抱く事なく服を着用していた。

 

 なにせ、俺の私服にも似た様な物は複数あり、ポチ野郎は俺の事務所から服を取ってきたのかと考えていたが、俺はポチ野郎に事務所の場所を教えていない。

 

 最悪のピースが重なり、震える手で掴んだ衣服達を広げれば、じゃらじゃらとタグが衣服に擦れる音が鳴り、タグに視線を落とす。

 

 「…あぁ、…あぁぁぁぁ!」

 

 絶望。そうでないと思いたかったが、現実は理想をことごとく潰す。

 

 だが、確定した事象を変える事は不可能。無言で受話器を降ろす俺は、全速力でタグを頼りに電話主が経営する店舗に足を運び、華麗に土下座をかました。

 

 嘘つき、弱者、凡才。男にあるまじき三拍子が揃った俺でも、盗人の名誉は汚名と何も変わらない以前に、犯罪者だ。

 

 流石に屑の自覚はあっても、悪党になる気は毛頭無い。

 

 しかし、幸いと呼んでも良いのか、店長らしき人物は器が寛大で、俺の謝罪を受け取ったのち、衣服の返品を行えば、今回の件は不問としてくれると言ってくれた。

 

 本当に、店長には頭が上がらない。

 

 だが、無償の善性は時に人の良心を抉る場合があり、俺がその最たる例だ。

 

 ___絶対に許さねぇ。

 

 あの野郎を野放しにしてはいけない。

 

 善性とか正義感とか義務とか、そんな大層な物じゃない。体と心よりも深い、俺の本能が奴を…ポチ野郎を許しちゃいけないと音を鳴らす。

 

 そして、現在に至る。

 

 「…確かに、ポチタンにも非があるので、何も言えませんね。」

 

 「ご、ごめんなさい。ほら、ポチタンも謝って。」

 

 「ご、ごめんなさいポチ。」

 

 料理を並べたテーブルの向かいに座る二人とポチ野郎の前で、俺は二階から飛び降りた理由とポチ野郎の罪を伝えた。

 

 俺としては最後まで楽しい雰囲気でパーティーと行きたかったが、二人も流石にポチ野郎の事は擁護できず、あんなちゃんも珍しくポチ野郎に僅かながら怒りを表している。

 

 俺としてはポチ野郎一人の謝罪で許すつもりだったが、こうも年下の異性二人も頭を下げるものだから、構図がいかにも犯罪の香りがする。

 

 「…謝れたんなら、それで良い。…俺も、大人げ無かった。本当に、ごめん。」

 

 年下の異性に頭を下げさせる構図に耐え切れず、自らも大人げない態度を謝罪し、両者がそれぞれ謝罪の言葉を投げ合う状況になる。

 

 「でもまぁ、これで事件解決って事でさ。早く飯、食べようぜ。折角色々用意したんだ、食べなきゃ損ってもんだろ?」

 

 そう言い、目線をポチ野郎と合わせれば、意図を理解したのか愛くるしい笑顔で料理へと真っ先に向かい、一切れのピザを手に取り、小さな口で食べる。

 

 俺も負けじと骨付きのフライドチキンを手に取り、手の平に油が付着するのもお構いなしに豪快にチキンにかぶり付く。

 

 目を見開き、驚きを表しながら見つめ合う二人は唖然とする表情のまま、オードブルの蟹グラタンを手に取って、恐る恐る口に含む。

 

 「…はなまる美味しい!」

 

 「中々いけますね! あんな、こっちはアスパラの生ハム巻きだって!」

 

 今までの雰囲気が嘘のように、手当たり次第にオードブルの料理を頬張る彼女達。

 

 その姿を共に見つめていた俺とポチ野郎は、今だけは争いの火種に蓋をし、俺とポチ野郎は拳を突き出し合う。

 

 そして、他愛のない会話を続けながら食事を取り、いつしかテーブルに並べられた料理は殆ど空となっていた。

 

 俺と二人は満腹といった様子でお腹を摩り、ポチ野郎は呑気に俺の頭の上で髪の毛を布団にすやすやと熟睡しており、最初の険悪な雰囲気は完全に無くなっていた。

 

 「…お腹、いっぱい。」

 

 「流石に食べ過ぎちゃいましたね。」

 

 「…でも良いじゃん、みくる! あれだよ、幸せ太りって奴。」

 

 「太るぐらい別に良くねぇか?」

 

 「…ユウトさん?」

 

 「デリカシーって知ってますか?」

 

 己の失言に気付き、慌てて謝罪の言葉を投げる俺は、過去にくれあ達に同じ発言で大目玉を食らった過去を思い出した。

 

 女性に体重と年齢を聞くのは御法度。ある芸能人の言葉とくれあ達の経験を思い出した俺は、話を逸らそうと話題を急いで変える。

 

 「…そう言えばさ、あんなちゃん。学校生活には慣れたか?」

 

 「はい! 最初は凄く不安で、いつもと違う環境で同い年の子と会うのは大丈夫かなって思ってたんですけど、みくるのお陰で気軽に話せたし、新しい友達も出来たんです!」

 

 「お、おう。良かったな。」

 

 学校の話題となった瞬間、思わず圧倒されそうな元気いっぱいの声で学校生活を語るあんなちゃんに思わず頬が緩む。

 

 正直に言えば、俺は不安だらけだった。

 

 きっと転校の経験も無い彼女にとって学校自体が違う事は未知の経験で、それこそ時代も違えば、会話の種も違う。

 

 当たり前に話していた話題も、こっちではそもそもが無い事だってある環境で楽しく話し、友達が出来たと語る彼女の姿は何処かの誰かの姿と被った。

 

 ___⬛︎⬛︎! これ、すっごく美味しそうなんだよ!

 

 日本では馴染みの無い純白の修道服を身に纏い、エメラルドを彷彿とさせる緑の瞳でこちらを見つめ、透き通る銀髪をなびかす少女。

 

 正直に言えば、背丈も容姿も違うはずなのに、俺の深い何かが目の前のあんなちゃんと修道服の少女を重ねる。

 

 ___気持ち、悪い。

 

 「悪い、ちょっとお手洗いに。…覗かないでね。」

 

 「誰が貴方のトイレなんて覗くんですか! てか、普通は逆でしょうが。」

 

 みくるに呆れたような声色で反論され、逃げるように俺は事務所の扉に手を掛け、トイレがある一階へと降りる。

 

 が、普通にトイレなど毛頭行く気は無く、一階に降り、外の夕日に照らされる俺は久方振りに懐から煙草を抜き取り、口にくわえる。

 

 「……。」

 

 煙草の先に火を着け、肺に空気とは違う何かを満たしながら、必死に心に降り掛かったモヤを忘れる。

 

 最近、よく夢を見始めた。

 

 夢と言っても、実際は俺にはこれが夢とは思えず、あまりにも現実的な感覚に、夢主の俺とは違う誰かの葛藤や感情が流れ込み、夢の中だけは俺は自分自身の名前も記憶すらも忘れてしまう。

 

 ___記憶。

 

 誰の記憶かははっきりと言えば分からないが、一概に無関係な人間の記憶ではないと直感が理解している。

 

 俺が知らなくとも、きっと俺と深い繋がりがある誰かの記憶。

 

 けれど、はっきりと言えば俺はこれが気持ち悪いと思っている。

 

 俺は俺だ、ユウトだ。でも、記憶を見ている時だけ、俺は俺でない感覚に陥り、二度と交わるはずのない誰かに俺の意識を塗り潰されるような気分。

 

 それが次第に現実の俺すらも蝕んで、俺じゃない誰かが身勝手にも周囲の人の顔も形も変え始め、最後には俺の形すらも変わりそうな、そんな恐怖が最近になって芽生え始めた。

 

 「…切れちまった。」

 

 考え過ぎたか、既に一本を吸い終えた俺は二本目に手を掛け、煙草の先に火を着けようとする。

 

 「…ユウトさん?」

 

 突然と一人の空間に第三者の声が響き、俺は口にくわえた煙草を口から落とし、足で煙草を踏み潰すと、自らに笑いの仮面を付ける。

 

 「どうした、あけちちゃん? …もしかして、俺のトイレでも覗きに来たの? 年頃って、やっぱりあんな事に興味津々な感じかな!」

 

 「ユウトさん。」

 

 ___誤魔化せないか。

 

 見られたのなら、誤魔化しは効かない。此処で下手に沈黙を貫けば、きっと払拭できない疑心を与える事になる。

 

 なんせ、彼女は普通の女子中学生じゃない、探偵なのだ。

 

 「…ここじゃなんだし、別の場所で話そうぜ。折角の美少女との会話で、こんな場所はロケーションが些か悪過ぎるからな。」

 

 

 ____________________

 

 

 歩いて数分の距離にある小さな公園。木製のベンチに二人して腰を下ろし、あんなちゃんは何処か浮かない顔で俺の横顔を見つめる。

 

 「…大丈夫ですか、ユウトさん。」

 

 「大丈夫って言っても、今は変に気張ってるだけに聞こえるよな。…正直に言えば、大丈夫かは自分でも分からねぇ。」

 

 「もしかして、ファントムの誰かに何かを盗まれたとかですか? それとも、」

 

 「別に盗られても困るもんなんて一つもねぇよ。…こればっかりは俺の問題だし、誰かに伝える事じゃ無い。」

 

 あえて突き放すような言葉遣いを俺は彼女に使う。心が狭いと自覚はある。

 

 だが、第一に巻き込みたく無いってのが本心であると同時に、中学生という立場で探偵業を営み、年齢にそぐわない様々な責任を背負っている。

 

 ___流石に可哀想だ。

 

 俺と大差ない歳の異性が、本来は背負うはずのない責任と使命を与えられる現状で、俺みたいな奴に構う必要はない。

 

 でも、でも。

 

 「……けどさ、あんなちゃんさえ良ければ。俺の長話に付き合ってくれるかな? ちょっと語る事が多過ぎて困るし、この話に信憑性も事実もあるか俺自身にも分からないけど…。」

 

 「話して下さい。…お互いに秘密は無しって、約束したじゃないですか。」

 

 ___約束だから。

 

 あんなちゃんと約(・)束(・)したのだ、お互いに秘密は無しにしようと、ずっと一緒にいるからと。

 

 約束破りの常習犯である俺は、今まで通りなら何かと理由を焚き付け、自ら相手と距離を取り、悟られないよう必死に自分の傷を隠してきた。

 

 でも、変わるって誓った。

 

 「……俺さ、最近よく、夢を見るんだ。けど、多分夢って言うか、誰かの記憶なんだと思う。」

 

 「全然俺とは縁もゆかりも無い不思議な世界に住む誰かの記憶でさ、そこには完全記憶能力って力を持つ女の子とか、学生だけが住む街とか、魔術なんてオカルトなもんまである世界に住んでた奴の記憶。」

 

 必死に、脳に刻まれた記憶の映像を引っ張り出しながら言葉を紡ぐ俺の横顔を、静かにあんなちゃんは見ていた。

 

 「見るだけなら、別に良かったんだ。…でも、次第にその記憶の持ち主って言えば良いのかな、そいつが俺って存在を塗り潰そうとするんだよ。…それが、怖くて、自分って存在が消えるんじゃねぇかって、そう思ってる。」

 

 ___全部、話した。

 

 恐る恐ると言った様子であんなちゃんの顔を覗き込む俺は、彼女が放つ言葉を待ち、彼女はゆっくりと口を開く。

 

 「…ユウトさんは、その人をどう思っていますか? 私にはそんな感覚はありませんし、嘘の気休めを掛ける事は出来ません。…でも、ユウトさんがその人に何かを感じてるのなら、それ次第で私はユウトさんの為に動きます。」

 

 そう言われ、俺は自らに足りなかった点を思い出して、必死に記憶を辿る。

 

 俺は最初っから自分が自分じゃなくなる感覚に恐怖を感じて、大事な物を見落としていた。

 

 それは、そいつが悪人か、そうでないかの判断だ。

 

 「……。」

 

 そいつは不幸な奴だった。

 

 学生だけが暮らす都市に行く前は、俺と同じ顔も名前も知らない誰かに虐げられ、時には街の晒し者にされた。

 

 でも、そいつは誰かに手を上げる事はせず、その性分は暮らす場所が変化しても、唯一変わらなかったそいつの美徳だ。

 

 そして、そいつは驚くほどに弱い奴で、勉強も人並みに出来ず、運動面でも酷く凡庸な当たり障りの無い普通の男。

 

 でも、そいつは弱い癖に誰かの為に動ける変な奴なのだ。

 

 数万冊の魔導書を抱える修道服の少女、火を操る男に、聖人と呼ばれる神にも近い人間、そいつらを奴は誰一人見捨てる事なく助け、自らは記憶を失った。

 

 でも、記憶を失っても奴は奴だ。

 

 魂に刻まれた奴の性分は腐る事なく輝き続け、その魂は酷く輝いている。

 

 でも、弱くてどうしようもない奴だ。弱いのに、その癖誰かの為なら自分は傷ついて、その度に誰かに心配されて、でも誰かを助ける事をやめない変な奴。

 

 何処までも平凡で、弱くても、どうしようもない奴だ。でも、

 

 「…俺は凄くて、かっこいい奴だと思ってる。」

 

 それでも誰かの為に理不尽に喰らい付き、必死に抗う奴を俺はそう思っている。

 

 「…なんて、奴の記憶思い出してたら、俺の方が大した事無い気がして来たぞ?」

 

 「そんな事、無いです!」

 

 自らが恐怖で蓋をした奴の記憶を見れば、俺の方が記憶の主ほど誰かを救った事も、ましてや誰かの大きな存在になれた事は無い。

 

 少しだけ自身に嫌悪し、思わず口から溢れた自虐。その瞬間、俺の両手をあんなちゃんの一際小さい手が重なり、俗に言う恋人繋ぎに似た物となる。

 

 「私は、ユウトさんが見た人の記憶は知りませんし、その人が一体どんな凄い事をしたのかは知りません。…でも、私の中で、ユウトさんも充分に凄い人ですよ!」

 

 「困ってる人が居れば手を差し伸べて、誰かの為に一生懸命に動けて、一番いて欲しい時に、一番側にいてくれたユウトさんは、私のヒーローなんです。」

 

 「だから、自分を低く見積もる言葉はやめて下さい。…ユウトさんが凄いって言うのは、私がちゃんと証明します。」

 

 不思議と、ヒーローって言葉が心の深い所にぴったりとはまった。

 

 こんな俺でも、誰かの光となれた。与えられただけの光の元で歩いて、誰かに与える事は俺には縁が無い事だと自然と諦めていた。

 

 でも、こうも熱心に語られたら、俺も少しは自分の事を凄い奴だと思っても良いはずだ。

 

 何なら、こんな年下の俺好みの美少女にヒーローなんて言われたんだ、今だけはその事を誇りに思おう。

 

 「…あんなちゃん?」

 

 夕日で照らされた彼女の顔は、何処か頬に熱が溜まり、美しい相貌は磨きが掛かったように更に妖艶な物となる。

 

 指と指が絡まり、自然と双方の瞳同士が相手の顔を映し、困惑の俺とはよそに彼女の表情は何処か熱っぽい。

 

 「…ユウトさん。少し、横を向いて貰っても良いですか。」

 

 「よ、横? んで突然…あ、まさか食べかすでもあんのか。…良いよ、自分で取るし。」

 

 「違うんです、ただ一瞬だけで良いので。」

 

 突然とそう言うあんなちゃんに困惑を覚えつつ、大人しく俺は彼女に頬を向ける。

 

 減るもんじゃ無い俺の無駄に肌荒れの無い頬に何の理由があるのか、まさか俺の頬の皮でも剥ぐつもりなのだろうか。

 

 特段あんなちゃんに悪い事をしたつもりは無いが、仮に彼女の許しを得る為に頬を剥ぐ誠意が必要なら、渋々受け入れよう。

 

 なんて考えを模索する俺が頬に突然と感じたのは、水っぽい湿った感触だった。

 

 俺は、この感触に身に覚えがある。

 

 恐る恐る横に視線を向ければ、自らの唇を優しく指でなぞるあんなちゃんの姿があり、その姿はあまりにも妖艶で頬の火照り具合からも彼女の魔性な魅力が感じられる。

 

 ___違う!?

 

 「…あ、あんな…あんな、ちゃん!?」

 

 驚愕なんてもんじゃ無い。

 

 この行為の前で、俺のあれ程の葛藤や悩みなんて些細な物。

 

 頬にキスをされた。それも、俺が理想とする年下の超が付く程の美少女と。いや、その前に何故彼女がこの行為に走ったのか。

 

 考えられる線は誠意だが、人の心を虜にし、利用とする闇あんなちゃんは既に居なく、彼女の心を幾度も疑うのは酷な話や為、誠意の線は無い。

 

 なら、最後は、嫌…俺に限ってそんな訳が無い。

 

 人に好かれる以上に俺は自分自身を好きになれる事の出来ない奴で、そんな奴が誰かからの愛を受け取る事など不可能。

 

 「…あ、あんなちゃん。気の迷いなら、こんな事はもうやめよう。俺みたいな安い奴に君みたいな美人の唇は月とスッポンだ。」

 

 「……馬鹿。」

 

 「えぇ?」

 

 「バカバカ! …もうっ! 折角の私の覚悟を何だと思ってるんですか!」

 

 「…大体、誰が好きでも無い人にこんな事するって思ってるんですか! 私はユウトさんの事、あの時からずっと…ずっと。」

 

 体をワナワナと震わせ、顔から湯気が出そうなほどに顔を赤め、あんなちゃんはベンチから凄まじい勢いで立ち上がる。

 

 「や、やっぱり無理! …恥ずかしい、恥ずかしいよ!」

 

 「…いや、それは俺の台詞なんだが?」

 

 「こんな事になってるのは全部ユウトさんが悪いんです!」

 

 「理不尽にも限度があるだろうが! …てか、突然とやって自滅してるのはあんなちゃんだし、俺に非はねぇ。」

 

 なんか、最初の頃の拒絶するような姿勢からは想像出来ないあんなちゃんの仕草に思わず笑みが溢れる。

 

 が、頬にキスの衝撃を忘れられるかと言われれば、寝る前に何度も思い出し、ベッドの上で悶絶するぐらいに俺の脳裏に焼き付いたこの事実。

 

 俺は優しく彼女の唇が触れた頬を撫で、その感覚を噛み締めるが如く頬に熱が広がる。

 

 そして、俺の視線は流れるように夕陽と重なる彼女へと向く。

 

 「……でも、私も悪いかもしれないですね。」

 

 「…? 別に、悪いって事は無いだろ。」

 

 「そう言う事じゃ無いんですけど。」

 

 「違うのか…。」

 

 そう告げ、首を傾げるユウトさんを見つめる私は呆れを超え、驚愕の表情を浮かべながらため息を吐く。

 

 ユウトさんは全部が全部魅力的で、察しの良さや分け隔てのない甘美な優しさ達はユウトさんを形作る物達で、これらに私は惹かれた。

 

 けど恋となると、この人は全くと呼べるほど無能となるのは、何とも神様は酷い贈り物を授けたとしか言いようが無い。

 

 こちら側は悶々と一挙手一投足に胸が高鳴り、どう私を一番にして貰おうか考えてる中、ユウトさんは知らぬ顔で私の心を奪う。

 

 私をこんなにして、未だに涼しい顔をするあの人。私はその瞬間、心に課せられていた留め具が音を立てて外れたのを感じた。

 

 「……もう良いです。そっちがその気なら、私も此処から本気で行かせてもらいますから。」

 

 「本気て、何処の何を本気にするんだ? 探偵絡みなら、君の方がよっぽど俺よりも仕事熱心だと思うけど。」

 

 「そう言うユウトさんだから、私は本気にならないと何も変えられないって分かったので、覚悟して下さい!」

 

 そう言い、自身の相貌に自信のある物だけが許された、僅かにこちらを振り向き、俺の唇に人差し指を優しく重ねるあんなちゃん。

 

 その姿はあまりにも年齢にそぐわない妖艶で、全てを魅了する色っぽい表情で俺を射抜く彼女に、心が掌握される錯覚に陥る。

 

 「…私をこんなのにしておいて、普通に戻れる訳、無いじゃ無いですか。」

 

 優しく、耳に顔を近づける彼女の腰が抜けるような甘い囁きでそう告げる彼女の言葉に、体が震える。

 

 が、彼女は次に俺の膝の上に乗っかり、抵抗する術を流れるように奪うと俺の顔を見つめる。

 

 此処が公園とか、公共の場所とかそう考える頃には、彼女は既に小悪魔な表情で微笑み、こう告げる。

 

 「ちゃんと責任とって、私を一番にしてよユウトさん。…私、ユウトさんの為なら何でも出来るし、何でもあげるよ? 体も心も。」

 

 「でもね、私も考え無しじゃ無いから、無理矢理にユウトさんを食べちゃうのは色々と問題だもんね。」

 

 でもと、そう区切る彼女は俺の膝の上で身を捩り、衣服越しでも分かる彼女の体の熱に、理性が削られる。

 

 足の露出が極めて高い衣服が故に起こった不幸なのは知ってるが、俺の胸板に押し付けられる彼女の小柄ながら成長の余地を感じさせる体付きが更に俺の思考を鈍らせる。

 

 ___これ以上は、不味い。

 

 それでも彼女は止まらなかった。

 

 「けどね、あんまり待たせ過ぎると私、何しちゃうか分からないから。ちゃんと受け止めてね、私の気持ち(愛)を。」

 

 

 そこからの記憶はよく覚えておらず、俺は気づいたら彼女と共に事務所へと戻り、みくるちゃんに遅いと文句を言われた所しか覚えていない。

 

 けれど、一つだけ分かった事は、彼女も次第にるるか達と同じ道を辿ろうとしている事は理解した。

 

 非常に不味いと思う反面、まだ中学生という事もあり、彼女自身も過ちを起こす事は無いだろうが、中学を終えた事を考えると胃が非常に痛い。

 

 しかし、みくるちゃんが俺の首筋を見る度に顔を赤らめ、ガヤガヤと騒ぎ、隣のあんなちゃんの肩を揺さぶりながら何かを訴えるのが見えたが、何をそんなに騒ぐ必要があったのか。

 

 ___俺本当に、何された?

 

 ____________________

 

 「あ、あんな! どうしたのよ! キスマークなんて付けちゃって、きゃぁぁぁ!」

 

 「…えっと、みくる? 様子が変だよ?」

 

 「変じゃ無いわよ! 女たるもの、人の色恋には敏感になる生き物なの! それで、いつ付き合うの? 告白はどうする? それとも、」

 

 「ちょ、ちょっと落ち着いてよ、みくる!」

 

 「どうしたポチ?」

 

 「俺にも何が何だか分からん…あ、食いもんの残りでも食うか?」

 

 「食べるポチ!」

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