学校も結構インフルエンザ流行ってきたから、全員マスクと手洗いうがい、消毒を忘れずに。
___我にとって大王とは、我が野望に最も近い場所で、世界の頂きとなる必要な肩書きだ。
自らの容姿は説明が付かない程に異質である。
全身を中世史の争い、戦争で使用された鉄製の鎧と音楽家が被る黒の特徴的な帽子に側部には赤い羽が装飾された物を被る奇妙な姿。
世界にとって普通があるのなら今、我という存在は群衆からは『珍奇』な自然を投げられるのが分かる。
が、
我にとって人間とは群れで行動し、知恵を使い無遠慮にも自然と無数の命の上で基盤を作り上げ、土台となる小さな存在に感謝を忘れる生き物。
更には、確定された未来に反旗を翻す事もせず、ただ自然と与えられた役割を淡々とこなし、必ず訪れる安牌な未来に従う奴隷、ならば安牌な未来の逆も無論存在する。
___大飢饉、欲望、戦争。
人間が行なってきた全ての愚かな行動には必ず
___なんとも醜い生き物なのだろうか。
いっそ哀れにも思える人間という存在は確定された未来に従い、呆れる無知と怠惰で自らの身を滅ぼす愚かな存在と過去は捉えていた。だが今は、その根底は予言の書に乗らない
「…まじで、あいつらって本当にマジなんなの?ミラージュの書の予言にも載らないで未来に影響を与えるってマジチョベリバなんですけど。」
「吾輩も、幾度もプリキュアに試練を与え続けているが必ず超えられない領域をいとも簡単に飛び越える、型破りな奴らよ。」
「……。」
開く開放的な空間、自らが座る玉座の正面には無数に設置された赤を基調とする座席が広がり、その内装は劇場と同じ物だ。
その二階、ピンポイントに当てられるスポットライトの光に照らされる三人の人物も各々が奴らとの邂逅時の印象を、鬱憤混ざる声色で語る。
我が『怪盗団ファントム』の構成員、一人はコウモリの翼を模し、黄色の花が装飾された髪飾りに巷では
筋骨隆々な体格に歌舞伎役者の様な髪型と灰色の髪色、顔に施された僅かな化粧から漂う雰囲気はただ者じゃ無いと思わせる人物
そして最後に最もプリキュアと戦い、我々では姿も見た事のない
彼達もまた、突然と現れた
『ミラージュの書』突然と出土した一冊の書物。
そこに記されるのはこの世界でこれから起きる確定された未来を全て記す書で、この本の製造工程や作者は闇の中だ。
巷では、十万三千冊の魔導書の内の一冊と言われているがこの世界には生憎と魔法も魔導書なんて物は存在せず、この情報の信憑性は皆無だ。
が、その力の信憑性は凄まじく、狂いない未来の予言に我も何度も死地を救われ、信頼に値する物だと私はこの書を手に届く場所へと置いている。
しかし、書の予言に載らず、確定された未来に影響を及ぼし本来は一本しか無い未来の線路を無数に分ける存在
本来、特異点とは未来に影響を及ぼす物体、例えば地域によって異なる逸話を持つ武器や地名か何かが特異点とされてきたと、我は語られた。
だからこそ、今回のケースが稀に見る不自然な物だと私は理解している。
___突然と生まれたプリキュアという存在に、大王では無いが、同じ王の名を冠する少年。
正直に言えば、プリキュアと姿を変える二人は我にとっては然程脅威とも捉えられない存在。
ハンニンダーとの死闘を繰り広げ、幾たびの修羅場を超えたと言っても所詮はただの子供で、何処かに必ず甘さを露見する未完成な存在。
だが、客観的に捉える事は決してしない。
無能な慢心で自らの身を滅ぼす様なザマを我がする訳が無い。
時が経てば、いずれ厄介な物となる事は私の直感が予感するのなら、早めに危険な種は潰しておくに限る。
子供だろうと、我は手段を選ぶ必要も無ければ、慈悲も与える事はしない。
だが、一つだけ私がプリキュア以上に厄介視する存在がある。
同じく王の名を冠する少年。その姿を見た者はニジーを除いてこの場に居ないが、ファントムと最近加入した新人が妙に怪しいが、それも時期に綻びが生まれる。
人間とて完璧では無い。新人、嫌『森亜るるか』の目的は既に存じている。
奴が狙うのは我に眠る
だからこそ、いざとなれば最も簡単に奴を封じ込める事は出来る。
___しかし、気に食わん。
ただの少年と、書は予言した。
愚かで礼儀知らずな人間の、ただの年幼い少年と我が同じ頂に位置するのは屈辱的で、度し難い。
故にその少年に思い知らせる必要があるのだ、王たる器には何が必要なのかを…優しさ、特別な何かでも純粋な力と暴力を。
そして、我はその名を忘れず書に記された少年が司る王の名をその胸に刻む
___
____________________
その伝えを知ったのは、朝のほんのひと時の時間だった。
優雅な事務所内は文字通り埃一つ無く、程よく手入れされた観葉植物に綺麗に並べられた本棚と、朝を迎える気分は既に最高潮。
使い古したジャージを脱ぎ捨て、全ての窓を開け放ち空気の入れ替えと日光浴を同時に行う俺は、鼻歌交じりで台所に立ち、朝食を忙しなく作る。
この時、俺はラジオを聴きながら作るのが日課で、現代社会を生きる学生であった俺は起床後、直様SNSに没頭し数時間は無心で過ごす生き物であったが、タイムスリップという強制的なデジタルデトックスは俺に新たな趣味を授けてくれた。
本音を言えば、携帯電話が使えない暮らしは不便極まり無く、簡単に出来たメッセージのやり取りも今は公衆電話でテレフォンカードを使って通話するのが殆ど。
電波なんてもんはまだ安定しておらず、携帯電話を使う用途など精々、時間を確認する事ぐらいだろう。
だからこそ俺はラジオに没頭しているのだ。
字面だけじゃ分からないネットニュース。淡々と事実だけを切り取り、分かりやすい画像を添付された馴染みの物、けれどラジオは伝える事は人の言葉から出る情報。
目では無く、耳からの情報は俺に新たな刺激を与え、すっかり俺はラジオという存在に虜となった。
が、かといってラジオの内容を覚えているかと言われれば、基本的には作業感覚で内容を聞き流す為、重点だけを纏め、簡素な事だけを覚えている。
時に興味が唆る情報が耳に入れば、手を止ま真剣に聞く時はあるが、それもよっぽどな事じゃ無ければまずあり得ない。
だが、そんなあり得ない事は唐突に訪れた。
___怪盗団ファントムからの予告状。
酷く聞き覚えのある単語が耳に入り、俺は朝食の調理中にも関わらず、その手を止めた。
その後は考えるよりも先に体を動かし、俺は朝食を済まさず、寝巻きを乱暴に脱ぎ捨て仕事着へと着替えた俺は全速でキュアット探偵事務所へと足を運び、現在、事務所の中で俺はいつもの三人と対面している。
「…それで、お前はどうしたいんだ。」
「勿論、お前達に付いて行く。この前、散々迷惑掛けられてそう易々と俺が許す訳ねぇし。…後は、単純に俺もファントムについて知りたいってのが一番だ。」
「けどユウトさん。此処からはもう危険な道のりで、また同じ事になるか分からないんですよ。」
「みくるの言う通り、私もユウトさんにはあまりファントムの件で深追いはして欲しくないです。…また私を置いて行くんですか。」
「…て、二人は言ってるが、お前は本当にどうするんだユウト。」
真っ当な正論を投げる彼女達、方やあんなちゃんは恐怖を孕んだ弱々しい声でそう尋ねてくる。
彼女達の言い分は正論も正論で、反論する余地も無ければ、反論する立場にすら俺は居ない。
まがりにも、何でも屋を営んでいる経営者という肩書き持っていたとて、俺は何も知らない一般人。
どれだけ背伸びをしたって、今の俺は彼女達が立つ場所に立つ事なんてできる訳が無く、ましてや俺が自分身勝手に飛び込めば彼女達の足を引っ張るのが必然。
けれど、あれだけの目にあって初めて俺はるるか達が背負っていた物の片鱗を感じれたのだ。
「…頼む、もう知らないままで終わるのは御免なんだ。」
「どうしてだ。お前がこの件に踏み込む理由なんて何処にあるんだ。…仮にこの行いがただのお節介って言うなら、今すぐ辞めるんだ。…はっきり言って邪魔だ。」
「邪魔なんて百も承知だ。…けど、俺にも知るぐらいの権利はある筈だ。第一に、あれだけ散々迷惑掛けたんだ、もう無関係は貫けねぇ。」
「…じゃあ、ユウトさんはファントムの事を知って、どうしたいの。」
ジェットからの明確な否定は彼なりの優しさから来る物だ。
本当に、不器用なのに根がこれ程善性の塊みたいな奴だからこそ俺はジェットの強く、明確な否定が心に響く。
そして、あんなちゃんから尋ねられた俺の確信をつく質問。
知ってどうしたいか、そんな物など俺がこの世界に来てから一度も忘れず、曲げずに持ち続けて来た心の芯。
___もう守られるのは勘弁だ。
男って生き物はカッコつけたがりの生き物で、か弱い女子を守るのが男に生まれた時に植えれた信念。
それと同じぐらい俺は、
非力で戦う力も無いのは知ってるし、特別な右手なんて結局は初見殺しありきの武器。
かと言ってそれを補える頭脳がある訳でも無い、死なないだけの普通な俺だ。頭が悪くて、弱いのも百も承知だ。
でも、せめて知る事だけはさせて欲しい。
置いていかれる辛さを俺は知っている。誰かに守られる存在と位置付けられ、散々遠ざけられた屈辱を知っている。
___だから、
「…俺の大切な人達と同じ所に立ちたいんだ。半歩後ろに隠れて、知らな間に傷ついてる俺の大切な人達を俺は助けたいから、知りたいんだ。」
「お前が言う大切な人達は、ファントムと何か因縁があって、その因縁に巻き込ませない様お前に何も伝えなかったと僕は勝手に思ってる。…それでもか?」
「巻き込まないと知らない事は別だ。俺自身にも知る権利はある筈だ。」
「……。」
「でも、きっと私もユウトさんが言う大切な人達と同じ事をすると思います。」
「あんな、ちゃん。」
何か思う事があるのか、ジェットは考え込む様に顔を下に向けるが、反論の声を上げたのは彼では無く、あんなちゃんだった。
「…どうして、そんなに誰かの為に傷を負う道を最適解にするんですか。ユウトさんの優しさは、誰かを不安にさせる物なんですか。」
「違うよ。」
「自分が傷ついて、自分の傷の上に誰かが助かれば自分は満足だ。なんて、傲慢な物じゃ無いですよね。」
「…散々自分でやった経験があり過ぎて何も言い返せないよ。」
___でも、と俺は言葉を区切る。
「その上で、俺は進むって決めたんだ。…確かに、今までの醜態も腐った性根は俺自身も擁護出来ないぐらい酷いもんってのは分かってるよ。」
「…だからこそ、今の俺があるんだ。…俺は、俺の価値を見誤ってたんだ。俺が死んでも泣く人はいない、傷ついても泣く人は居ないって身勝手にそう思い込んでた。」
だが、今目の前で俺の為に悩み、葛藤する彼女達はあの日、俺の死に悲しみ生き返った俺へと泣きながら抱き着いた光景を永遠と瞼に焼き付けている。
自身に価値は無いと散々思い込み、時には無意識に自らの命を絶っていた心境の俺にとっては、あの時は何にも代え難い宝物を見つけた気分だった。
俺は、俺が思っている程、誰かに大切にされているだとそう思えたから。
紛い物の記憶に悩んでも、自身の死に悩んでも俺には誰かが居るから、まだ進んでいける。
だから、俺は目の前の三人に感謝を含めた言葉で口を開く。
「…でもまぁ、俺が居ないと悲しんで凹む奴も泣いてくれる美少女が居るんだ。流石に、俺自身も自分を労おうって思えたし、大切にしようって思えた。」
「…そう、ですか。」
「だから俺はお前達を頼りたい。…勝手にどっか一人で向かう俺の手を止めて、一緒に行こうとそう思わせてくれるお前らだから、俺はお前らを信じる。」
「だから、俺に大切な人達と同じ場所に立たせて欲しい。…頼む。」
「だったら、もう二度と一人で傷つく選択はしないですか。」
「しない。」
「…人に甘えますか?」
「あんなちゃんの膝か胸が空いてるのなら、幾らでも犬みたいに飛び込みます。」
「……お前な。」
「…まぁ、ユウトさんはこう言う人ですから。」
呆れた声と人ならを理解した双方から各々の言葉を投げられる俺だが、何がいけないのだ。
赤子が母に甘える様に俺も彼女になら手足をばたつかせ、赤ちゃん語録を並べられる自信があるが、流石に変態にも限度が存在する。
心から生まれ、喉を通る発言を沈め、恐る恐ると言った心情で彼女の顔を覗く俺は、何故か腫れ物が取れた様に
「…なら、私はもう何も言いません。」
「えぇ!?あんな、それだけで許しちゃうの?」
「もっと考え直せ!こいつの薄情者の癖は抜けて無いし、ただでさえ女に飢えて目くじらを立てる色ボケ野郎だぞ!」
「…てめぇら、人がいるってのに好き勝手言いやがって。」
思わぬ方向での風評被害に文句を嘆く俺だが、次に感じたのは若干背筋の凍る妙な冷感だった。
別に、部屋の温度が低い訳では無い訳では無い。寧ろ、今の季節は夏で、外は猛暑日の寒さとは無縁の気候。
ならば、この身震いを感じる冷感の正体は何か。
視線をあんなちゃんの背後に佇む二人に向けるが、どうも彼等からは別に何も感じず、概ね普通だ。
___あれ。あんなちゃん、瞳の光がお留守だね?
勘違いと済ませられれば、どれ程幸運だったのだろう。
明智あんな。彼女の表情は笑顔を崩さない人懐っこい物、細い眉毛に年相応に幼いながら、芸能人顔負けの美しい相貌。
更には、成長性のある美しいプロポーションを持つ彼女の将来は有望と誰もが口を揃えるだろう。
しかし、俺を射抜く宝石の目は何処か黒ずみ、深淵を彷彿とさせる物。
その目を俺はよく知っている。
るるか達がそうだった様に、彼女にも同じ片鱗が垣間見えてる事に若干の恐怖を募らすが、その片鱗は俺の無意識に気付かない場所で現れていた。
俺は知らないのだ、彼女が理由を付け俺の側に立つ事を、最近は俺の事務所に一人だけで足を運ぶ様になった変化を。
そして、彼女の深遠な瞳に現れ始めた、表情の変化。
十代とは思えない大人びた妖艶な微笑みに、俺の言動、行動を独占し歓喜と愛で歪む彼女の心は静かに愚かな男の逃げ道を塞いでいく。
「…言質とったから。絶対に言ってないは無しだよ、ユウトさん。」
「げん、ち?」
「じゃあ、私は一生胸と膝は空けておかないと駄目だね。…一生物だから、ユウトさん。」
「……おっふ。」
「お前、あんなに一体何を植え付けたんだ。」
「俺の好きな飯と好きな音楽、後は好きな女性のタイプに髪型とか、家庭的な女性が好きかとか、好きな下着やら……。」
「それ以上は駄目です!」
小林の正義の鉄拳が俺の顎を打ち上げ、弧を描く様に吹き飛んだ俺は硬い地面にその背を打ち付け、視界が白く点滅する。
「これ以上はあんなが貴方色に染められてしまいます!不健全です!」
「…みくる、私はもう彼色に染まってるよ?」
「そんな言葉何処で覚えたの!」
「…えっと、それでユウトさんが喜んでくれたから。」
「…お前な!?」
「おぶら!?…て、てめぇ怪我人の胸ぐら掴んで揺さぶんな!?」
「修羅場、修羅場ポチ。」
「ユウトさん!貴方、ポチたんにも変な言葉を!」
「二人掛かりは違うだろうが!?…まて、待て待て待て!」
「「問答無用!」」
情け無い声と共に、常識人の正論と正義の名の下の暴力に、四つん這いと言う尊厳も何も無い体勢で逃げ惑う俺は背後から投げられる投擲物を華麗に避ける。
もう話の収集は付かないが、俺は彼女達から同意は得れた事で良いだろう。
彼女達もプリキュアとして怪盗団と戦う渦中の人間。
彼女達と共に歩みば、俺はいずれ真実に辿り着く事が出来る筈だ。
確かに前進した事に心躍らせ、矢の如く降り注ぐ小物の雨にうたれる俺は、頼む相手を間違えたかと後悔した。
波乱を終え、二人と一匹と共に予告状が出された例の美術館に訪れた俺達は、受付嬢に事の顛末を語っていた。
しかし、その時の受付嬢の表情は困惑の色に染まっている。
それもそうだ。幾ら探偵と言え、年齢が幼い子供が名刺を持ち予告状に出された首飾りの警備と犯人の特定をすると言い出すのだ、困惑するのも無理が無い話だ。
俺に至っては名刺も、身分も証明する術を持た無いが、人を殺しそうな鋭い目付きに日々の鍛錬の上にある筋肉質な体付きと、低くも無く高くも無い俺の背丈は群衆からは高校生とは映らない。
彼女達は通らない話にがっくりと肩を下ろし、俺が仕方なく受付嬢に顛末を語ろうとした刹那、突然と二階に続く階段を駆け下りる人物が視界に映る。
その人物は何処かに向かうよりも先に俺達、否、あんなちゃんが肩に掛けるぬいぐるみ兼妖精のポチ野郎に心奪われていた。
謎の人物は俺と彼女達の声など諸共せず、あろう事かポチ野郎を美術館側で預かりたいと言い出し、俺は賛同だったが彼女達は断固として拒否。
しかし、その人物が放った美術館側という言葉に俺は疑問を募らす最中、受付嬢がその人物を『宝生』と呼んだ。
その名には俺と彼女達は驚愕の顔色を表す。
宝生と言えば、この美術館のオーナーを務める女性。そんな有名人が今、忌々しいポチ野郎に心奪われている。
そして、なんと宝生は俺達に例の首飾りの警備を任せると言ったのだ。
適当か、はたまた気まぐれか、どっちしろ好都合な事に変わり無く彼女達はポチ野郎を譲る気は無くとも、首飾りを守ると宝生に宣言した。
その時、ポチ野郎が慌てた挙動で、見覚えのある装いを脱ぎ捨て、冷や汗を浮かべて息を殺す。
___俺としては、貰ってくれた方が良かったが。
なんて、口が裂けても言える訳が無い。
そして俺達は、宝生の案内の元、例の首飾りが展示される展示室へと向かった。
____________________
「はぁ、結局俺にはあの首飾りの良さは微塵も理解出来ねぇや。」
美術館の主、宝生の案内で今回俺達が警護する展示物『星灯りプリンセス』を肉眼で確認した俺の第一印象は凄かったしか出ない。
展示物という事もあり、素人目で見ても高級感溢れる見た目である事は前提で、更に光の受け取る宝石は眩い輝きを放ち、確かに凄いと言われれば共感は出来る。
が、言ってしまえばそれだけだ。
首飾り自体は凄くあまりの代物に付加価値も付かないと宝生は言ったが、結局は金と宝石をあやふやに混ぜた物。
なんら料理と大差無いと感じる己の感覚は麻痺してるのか疑問だが、少なくとも俺はこの首飾りに微塵も魅力は感じなかった。
我ながら芸術には疎いと、若干自身の感性に呆れながら缶ジュースに口を付ける俺は、ふと疑問が一つ生じた。
___何故、怪盗は価値が付かない首飾りを狙うのか。
首飾りの凄さは一応理解し、あまりにも高価な物が故に、鑑定に出しても値段が付かない代物だという事は分かってる。
それなら、何故怪盗は価値の付かない物を盗むのか。
確かに名だけは通った首飾りである事は間違い無い。
しかし、価値の無い物を盗んだ所で怪盗には何のメリットも存在しない筈で、仮に今回の怪盗が度を超えたコレクターならば確かにメリットがある。
だが俺の経験上、怪盗という生き物は盗んだ物を大抵は金へと変え、貧しい家庭や地獄の環境で育つ者達に分け与えるのが常識で、俺自身は怪盗自体をフィクションの類で捉えて節があり実際に怪盗と遭遇した時に盗んだ物の使い道を聞いて驚愕したのは思い出だ。
結局怪盗も金を求め日々生きる者。
ましてや投資家でも無い限り、価値が無い物を盗み、いずれ価値がつくその日を待つ程悠長な存在では無い。
だからこそ、価値の無い物を盗む怪盗の存在が非常に稀有であり最も厄介な存在でもある。
「……まさか、今回の件ファントム絡みな訳が無いよな。」
そう呟く俺だが、決して無関係とはならないのが奴らの常々に厄介な所だ。
ファントム自体の全貌は俺自身未だ掴めておらず、結局奴らが何をどうしたいのか皆目見当は掴めて居ないが、はっきりと断言出来る事はこのまま野放しにすれば碌な事にならないという事だ。
はっきりと今回の件にファントムが関係するのか定かでは無く、果たし状の中身を確認するまでは正体は謎だが奴らの事を視野に入れるに越した事は無い。
ファントムと今回の件、考える事は少なくとも楽観視は出来ない。
___ならば、まずは怪盗の侵入経路になりそうな場所をしらみ潰しで渡るか…そん次に、この美術館の構造確認と洒落込もう。
方針を固め、早速行動開始と行く俺はしらみ潰しで何度も予想させる侵入経路を確認し続ける俺は危険ポイントを二つに絞る。
絞るったのは空調とダクト。
ダクトは繋がる先が規模の大きい美術館では殆ど無数の枝分かれの様な構造で、一つ一つルートを確認するのは骨が折れ、更にはダクト自体の数も多い。
仮に数を覚えたとて、無数に繋がる枝分かれのダクトから侵入経路を予想するのは至難の業。
そして空調の方だが、まず人間サイズが通れる隙間の空調なんて物は存在せず、大きくとも人が入るか否かのあまりにも小さい隙間。
だが相手が仮にファントムと仮定すれば、用心に越した事は無いと考え、空調の経路も視野に入れる。
___後は、
そう独り言を呟く瞬間、無性に心が逆立ち言い表せない奇妙な違和感が俺の心臓を撫で、俺は周囲に視線を投げる。
なんら変哲も無い華やかな内装に、高級感溢れるシャンデリアが天井に設置される既に何度目かの往復で自然と記憶された場所。
そこに足りない何か、展示物などと言ったそんな分かり難い物で無く、もっとも分かりやすい何かが、
「…残念だけれど、今貴方が考えてる事は無意味よ。」
聞き馴染んだ優しくも棘のある言葉遣い、凛とした中にある確かな敵意の声が耳に響き、俺は視線よりも先に言葉を投げる。
「…よぉ、るるか。お前が此処にいるって事は例の予告状はファントム絡みで間違い無いよな。」
「貴方には関係ない。」
「悪いが、関係ある無いの話はもうねぇよ。こっちは一回殺されて、散々鬱憤溜まってんだわ。それに、もうこれ以上無関係ってのはもう無理な話だ。」
「その事実があるのなら、これ以上関わるのはやめて。…本当に、死ぬ事になるわ。」
「まぁ、あんだけ周りに迷惑掛けてもう一回同じ事しようとかそんな事は考えねぇよ。けど、死ぬ事よりも何も知らずに無知で生き続ける方が俺にとっちゃよっぽど辛ぇよ。」
「…それでも、私はこれ以上、私よりも先に貴方達が苦しむのはもう見たく無い。…その足を止めないのなら、」
「止めるか、俺を。」
「その時は、責任を持って貴方を止めた後、私の全てで貴方を守る。それが仮に、貴方が二度と日の下を歩けなくても。」
視線の先に佇むのは、心情の読み取れない機械的な表情の中に
何か決定的に違う所は見慣れた彼女の腕の中にお供妖精がいない事だが、それは別に現状と関係無い。
___人っこ一人も居ない。
どんな手品でも必ずそこにあるのは繊細なテクニックと人間の五感を惑わす術。
この事象が手品の分類に置かれるのなら、俺は今一度自らの常識を疑う以外にこの事象を説明する事が出来ない。
館内は既に人で溢れ、予告状の件で館外でもマスコミや警察機関が忙しなく動き人を視界に入れない方が困難な館内で人がいなくなる事は無い。
そんな事に気付かず、周囲に目が行かず相手の術中に嵌った自らの不徳を呪いたい。
「…悪いが、俺にはよっぽど無遠慮に踏み込むのが性に合ってるんだよ。だから、退いてくれ、るるか。」
ベージュ色の艶ある長い髪に、黒を基調とした装いに見慣れた相貌。
一挙手一投足が俺の脳裏に焼き付いた大切な人、森亜るるかは、変身機能と攻撃の二面性を備える紫の杖の先端を俺へと向けていた。
距離は僅かに離れ、双方が何か仕掛ける事は出来ない丁度良い間合い。が、一度彼女は変身さえすれば、彼女は遠距離も近距離も対応出来る。
距離なんてアドバンテージは時間と共に失われるのが現状。
更には俺の右手宿る『幻想殺し』は存在する物には機能しない上に、右手と同様『願いで生まれた力』には効果が無い。
故に、『プリキュア』に俺の右手が効くのかは未知数の賭け。
ましてや、俺は一撃でも喰らえば戦線に立つ事は不可能な程に脆く、不死があったとて彼女に対策されるのは目に見えている。
「…ティアアルカナロット。」
考えにふけ、僅かに遅れた俺の初動に被せる様、彼女は杖にジェエルをはめ、変身動作を行う。
不味いと直感し、固く握り締めた右拳を振り上げるが既に時は遅く、儚げな黒の衣装に長く伸びた金色の髪、そして、鋭く光る赤い瞳が俺を射抜く。
「…!?」
一瞬の判断が命取りとなる。
流れる様に杖を操り、拳の軌道をずらしたるるか、アルカナシャドウは体制を崩した俺の横腹に杖の先端を当て、距離を取る。
その行為に痛みは無く、アルカナシャドウは最低限の力だけで俺の無力化を図ろうとし、目立った近接戦には持ち込まず、必殺技の光線も出さない。
「初めてだな、お前とサシで喧嘩するのは。」
「別に喧嘩じゃ無い。」
「…そうか、よ!」
戦力差は歴然だが、負ける気は無い。
護身術も武道も嗜んで無い一般人の、隙だらけの構えで向かう俺にアルカナシャドウは容赦しない。
予備動作無しに放たれた、変身した彼女だからこそ織りなせる音速に至る杖による突き。
その威力は計り知れないが、杖の先端には大気の壁が発生し、あれを喰らえば俺の敗北は確定する。
だが、俺は考えるよりも先に体を動かし、一瞬の脱力で彼女の突きを回避する俺を彼女は驚愕の表情で見つめる。
しかし、彼女とて一端に修羅場を潜った者、戦闘中には異常事態は付き物であるが故に、次の行動を迅速に取る。
「アルカナスターレイン。」
「んなもん!」
一気に空中に跳躍する彼女は、杖の先端を俺に向けその背に無数の紫の光の点を作り出すと、無数の光線を俺へと浴びせる。
が、そんな物がどうした。右手を突き出し、迫り来る攻撃の嵐を掻き消す俺は何度も右手に伝わる衝撃に耐え、縦横無尽に迫る攻撃の嵐を切り抜ける。
が、周囲には咳き込む程に黒煙が充満し、視界が奪われた俺は文字通りの迷宮に誘われる。
「視界が奪われれば、貴方も少しは大人しくなるわ。」
暗闇から放たれる必殺の蹴りが、無防備な俺の鳩尾に突き刺さり、俺は激痛で我を忘れる。
痛いなんてもんじゃ無いと、久しく感じなかった類を見ない痛覚に呼吸を忘れ、酸素が足りない体は俺に危険信号を鳴らす様に視界を白く点滅させる。
殆ど勝敗の喫した状況。
だが、体は動かずとも、心は諦めを知らない。
自らの勝利を確信し、杖の先端を首裏目掛け振り下ろすアルカナシャドウ。
彼女は、心を鬼にして俺の前に立ち塞がっている。その動機は、彼女が植え付けられた『恐怖』が原因で、彼女が恐れているのはあの日と同じ道を俺が辿る事。
あの日、彼女が味わった屈辱も後悔も俺は知った気になれる訳が無いし、俺はあの日の事を知らない蚊帳の外の人間だった。
けれどあの日、泣きながら俺の胸に抱き着き、ごめんなさい、ごめんなさいと謝罪を述べる彼女と絶望を瞳に宿すマシュタン。
そして、知らない所で語られた事の顛末。
いる事さえ叶わず、ましてやその場にすら立ち会えなかったあの日、俺はどれだけ自分を呪って、絶望して、失望して、殺したか。
___だから、だから。
「…負けらんねぇ。」
「……!?」
迫る杖に躊躇無く右手を突き出し、杖の軌道をずらした俺は震える足で地に足をつく。
「…ふざけんなよ、何が怖いから俺を遠ざけるだよ。お前もくれあも何一つ分かってねぇ。」
弱いから、巻き込みたく無いから、ふざけんな。
手のひらの肉が裂け、ポタポタと血が垂れる右手を諸共せず、今は有り余る怒りで右手を強く握り締めて拳を彼女の前に突き出す。
「俺には知って欲しく無い、そのままでいて欲しい?余計なお世話だクソが!こっちの気もしらねぇで勝手に決めつけやがって。」
「…なにを。」
「その通りだろうが!俺が、くれあを失ったあの日に何も出来無いで、ましてやその場にすら居られなかった自分の不甲斐さをどれだけ呪ったと思ってんだ!」
「…良いかるるか!てめぇは一人で戦ってんじゃねぇ!俺も居たんだよ、もっと頼れを俺を!弱くても、同じ事に悩ませる事ぐらいはさせろ!」
「でも、こんな事を言えなかったあの日の俺にも、今のお前にも俺は腹が立つ!だから今、俺は負けられねぇんだ。」
負けられ無い理由は幾つもある。
けれど、今俺を奮い立たせるのは一人で暗闇に戦い続ける彼女と、知らないを言い訳に自らを呪う事しか出来なかった弱い自分への怒り。
その時、初めて彼女の貼り付けた氷の仮面が崩れたと俺は感じた。
___やるなら、今しかない。
俺は既に壊れかけの右拳を更に酷使し、限界まで握り締めた拳を振り上げる。
一瞬の揺らぎが俺に機会を与え、彼女は咄嗟に防御姿勢を取るが、これは俺の間合い。
___ここだろ。
振り下ろされる右拳に合わせる様、彼女も杖を突き出し双方へと拳と杖が迫るが、勝利の天秤は既に俺へと傾いている。
伸びる右拳、俺と彼女で今明確に違うのはリーチでは無く、速さ。
迷いが生んだ勝利への光明。彼女自身も自らの失態を悟り、冷や汗を額に滲ませる。
コンマ数秒、彼女へと迫る右拳は確かに彼女の横っ面を殴り飛ばす…
「…おや、苦戦している様ですね。手が、必要ですか?」
聞き慣れない誰かの声と共に感じたのは、腹部が急に寒くなった事だ。
「……ぅぇ。」
否、寒いなんてもんじゃ無い。感じた違和感は次第に俺の体から立つ力を奪い、重力に逆らう様体は前のめりに倒れる。
___熱い、熱い熱い。
腹部の冷えは形を顰め、次に感じるのは灼熱の燃える様な熱さで、俺は痛みを誤魔化す様腹部に手を当てる。
だが、その時に手に付着したのは赤く、鉄の錆びた匂いにも似た液体が付着している。
___これ、全部俺の血だ。
「随分と苦戦していた様だねアルカナシャドウ?」
「デッチアゲイン!…話が違う、彼には危害は加え無いと約束した筈!」
「仮にその意思を尊重していれば、君は恐らく彼に敗れていたさ。…これはほんのちょっとした先輩から覚悟の足りない後輩への細やかなお節介さ。それに彼は不死と聞く、この程度の怪我など造作も無い筈だ。」
「それでも、彼の処遇は私が付けるとそう言った筈!…こんなの、認めない。」
銀髪混じりの艶ある髪色に、男性か女性か見分けの付かない整った相貌には不釣り合いな片眼鏡は、好青年の印象を隠し、何処か悪人と感じさせる。
デッチアゲイン、確かに彼女はその男の名を呼んだ。
「……ま、っえや。」
「…ほう。不死と言ったが彼自身も相当にタフな様だ。とてもじゃ無いが、腹部を貫かれた死に体とは考えられ無いな。」
「立っては駄目、ユウト!」
腹部に伝わる熱は消えて無くなり、今度は急速に体が冷え始め、立つだけですら苦痛を伴う瀕死の重体。
立ち上がった四肢は意思とは関係無く不自然に痙攣し、喉から迫り上がる熱の液を強引に喉から押し戻す俺は体の危険信号に目を逸らし、彼女達に震える足取りで歩み寄る。
あと一歩、あと一歩で変わったんだ。
その状況に水を刺されて、簡単に死ねるか。
不死の経験が死の恐怖を和らげ、必ず迫る死を前にして俺は一歩噛み付こうと狂気じみた思考に陥る。
まだ意識があって、四肢は繋がってるなら何かはできる筈だ。
「…やはり、恐怖の感覚が麻痺した人間には痛覚など、対して意味を成さないか。うん、俺としては彼女に授けた
だからと、男は懐からある物を取り出す。
だが、死に近づく俺には視界も聴力も正常には働かず、奴が持つ物の正体は分からず、奴が何を唱えているのかは分からない。
けれど最後に見た光景は、杖すら捨て、美しい相貌には合わない悲痛な表情を浮かべ俺に駆け寄る彼女の姿。
___あ、死んだ。
その時、俺の体は不自然と俺の意思とは関係無く、上体を僅かに逸らす。
何が起こったのか、それは死に行く俺には理解の及ばない領域の話で頭で考えて体を動かした訳でも、諦めない心が体を動かした訳でも無い。
もっと俺に深い何かが俺の体を突き動かした。
___⬛︎に変われよ、偽物。
肩から消し飛んだ右腕、痛みで悶える事も呆気に取られる訳でも無い。
ただ、右腕が消し飛んだ瞬間、俺の物では無い誰かの声と共に俺は意識を手放した。
詰め込んだ感が否めない今回は文字数が多分、過去最高なのかな?