消去法で与えられた遺伝子改造チートでどこまでやっていけるか?   作:適当でいいです

10 / 13
第10話

季節は巡り、秋が訪れた。

収穫の結果は――計画通りの量と品質だ。

 

この世界に、現代のような無駄な贅沢はない。

『形が悪いから売り物にならない』なんて理由で棄てられることなんて絶対にないのだ。

 

もちろん形が綺麗なものは、富裕層向けに少しプレミア価格を乗せて卸す。だが、多少不揃いだろうと不格好だろうと、庶民は気にせず買い、そして美味しく食べる。

 

あらかじめ土を弄っておいたおかげで、収穫量は周りの農地よりもやや多く、芋のサイズもひと回りほど大きい。だが『異常な豊作』と騒がれるほどではない、絶妙な『ちょっと優秀な出来』に留めておいた。

 

「お前さんのところ、かなりええ芋が採れたなぁ!」

 

「いやあ、良い土地に当たったみたいですね。俺、昔から運だけは良い方なんですよ」

 

収穫物を見つめる地主は、満面の笑みを浮かべている。

自分の投資先が初年度から見事な『好決算』を出したのだ。笑顔にならないはずがない。

 

 

「フンっ!」

 

ブオン!

 

俺は木剣を振るう。その威猛な威力は、空気を切る鋭い音からも明らかだ。

 

確かに、あの神様っぽい存在はこの世界へ送り出す際、俺の基礎的な身体能力を引き上げてくれた。だが、そんな恵まれた初期スペックに甘んじていては、いつ訪れるか分からない不測の事態に対応できない。

現に以前、採掘工事現場で巨大な岩が頭上から降ってきたことだってあったのだ。

 

だからこそ、俺は毎日の筋トレを欠かさない。そして、そこにも当然チートを注ぎ込む。

 

普通なら新陳代謝によって老廃物として捨てられるはずの細胞を、体内で即座に回収・分解。それを超回復中の筋肉細胞へ、ダイレクトかつ強制的に供給するのだ。

もちろん異常増殖(がん化)を起こさないよう、遺伝子レベルで厳しく制御をかけながら。

 

【遺伝子改造】のチートを日常的に使い込んできたおかげか、最近では【細胞操作】に近い芸当までできるようになっていた。

なるほど、システム的な数値は見えずとも、これがこの世界における『レベルアップ』というヤツなのかもしれない。

 

漫画やアニメでよく描かれる、四角いブロックのような筋肉が浮き上がった体――あれは実は、純粋な力仕事や実戦向きの身体ではない。トップアスリートたちが鍛えるのも、あそこまで極端に肥大化させた分かりやすい筋肉ではない。

 

本当に人間の体を素早く、そして強靭に動かすために重要なのは、関節や骨に密着して姿勢や動作の軸を支える『インナーマッスル(深層筋)』だ。

 

一方、ボディビルダーのような誇張された力こぶや分厚い胸筋などの『アウターマッスル(表層筋)』は、力を逃がさないための土台であり、同時に打撃などの衝撃に耐える『肉の鎧』に近い。

 

「力仕事ができる体」と「見せるための体」は根本的に違う。

だから俺が細胞操作で重点的に引き締めるのは、外からは見えない深層の筋肉と、筋繊維そのものの『収縮密度』だ。

 

インナーマッスルや筋密度をどれだけ異常発達させようが、外見が化け物のようなマッチョ体型になることはない。脱いでも『ちょっと締まった体つきの農家』で済む。

これなら、どれだけ身体能力が上がろうと周りに悟られるリスクはゼロだ。

 

「それに、筋肉細胞が増えるということは、それだけ体内に『金属イオンのタンク』を増設できるということでもある。一口で二度美味しいとはこのことだな」

 

普通の人間が体内に重金属イオンを大量に溜め込み、必要に応じて出し入れするなんて真似をすれば、一発で重金属中毒になって即死コースだ。

 

だが、俺には【細胞操作】と【遺伝子改造】がある。

毒性を打ち消す特殊な錯体を作って細胞内に封入し、安全にパッキングしておけば問題はない。

 

自画自賛だが、我ながら狂った生体改造をしている自覚はある。

だが、平穏な日常(保身)を守るための備えに、やりすぎなんて言葉はないのだ。

 

 

収穫が終わったからといって、農家に『休日』なんて甘いものは存在しない。

時代劇でよく見るような草鞋(わらじ)編みなどの内職に精を出す者もいれば、働き盛りの男なら『狩り』に出るか、街で『肉体労働のクエスト』を探すのが定石だ。

 

「……やっぱり、ここでもそうなるか」

 

ギルドの依頼掲示板の前で、俺は小さく息を吐いた。

秋の収穫を終えて暇になった農家は、当然ながら俺だけではない。この時期から冬にかけては、街に大量の労働力が供給されることになる。

 

その結果、掲示板に並ぶ『荷運び』や『土木作業』といった単純な運搬系の依頼は、足元を見られて報酬単価が軒並み半減していた。

 

だが、俺にはあのチートがある。

狙うのは、供給過剰で買い叩かれる単純労働じゃない。――『狩り』だ。

 

この世界にも当然、貴族様たちが好むような高級食材というものが存在する。その筆頭が、地球でいうトリュフによく似た高級キノコ『ゲルグ茸』だ。

地中に埋まっているため発見が極めて難しく、その分だけ破格の高値で取引されている。これ専門で食っている熟練の採集猟師がいるほどだ。

 

そして俺は、このキノコ探しに【遺伝子改造】のチートを投入する。

以前、なけなしの大枚をはたいてゲルグ茸の欠片を購入し、その遺伝子情報をすでに読み込み済みだ。一度スキャンしてしまえば、あとは障害物さえなければ周囲の土中に眠る同種の生体反応を『探知』できる。

 

これを使えば、ゲルグ茸を独占して大儲けザクザク――とは、当然いかない。

 

そんなことをすれば、『素人の農民がいきなり高級キノコを大漁発掘した』として目立ちまくるに決まっている。どこで狙われるか分かったものじゃない。

 

だからこそ、手順を踏む。

あくまでベテランのゲルグ茸採りの猟師に『荷物持ち兼、運の良い助手』として弟子入りし、彼らと一緒に山へ入って探すのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。