消去法で与えられた遺伝子改造チートでどこまでやっていけるか? 作:適当でいいです
ここは山裾にあるキノコ猟師の小屋。俺はそこに、荷物持ち兼助手として雇われてやって来た。
「じゃあ、俺たちの荷物は頼むよ」
「ほっほ、わしの分まですまんのう」
「いえいえ、任せてください!」
聞けば、この猟師一家はちょうど親から子へと代を引き継ぐタイミングらしく、今回はベテランの親父さんと息子さん(といってもおっさんの年齢)、そして俺の3人で山に入るらしい。
荷物は3人分。日帰り予定とはいえ、山の中で遭難した際に最低でも2日生き延びられるだけの非常食や防寒具、泥縄式の備えが詰め込まれている。
助手一人が背負うにはかなりの重量だが、山に入ればこれでも『命を守るための最低限』なのだ。
(……まあ、日々のチート筋トレと高密度インナーマッスルのおかげで、軽く持ち上げられるんだけどな)
だが、ここで涼しい顔をしては一発で異常性がバレる。俺はこれ見よがしに「ふんっ……!」と重そうな声を上げ、少し腰を落として荷物を背負い直す演技を添えておいた。
◇
現実世界のトリュフといえば、訓練された豚や専門の犬に探させるのが相場だ。だがゲルグ茸の場合、そこらの普通の猟犬でも匂いを察知して探せるらしい。
『犬で探せるなら、そこまで激レアってわけじゃないんじゃないか?』
そう言いたくなったのだが、どうやらレア度のベクトルが違っていた。
なんとゲルグ茸は地中で発生してから、わずか1週間前後で一気に萎れてしまい、味も食えたものではなくなるらしい。
つまり『どこにあるか』という場所の要素だけでなく、『今まさに最も美味い1週間か』という時間の要素まで完璧に合致させなければならないのだ。
探す難易度ではなく、遭遇できる確率の低さこそが、ゲルグ茸を貴族向けの高級珍味たらしめている理由だった。
(だが――俺が本当に狙っているのは、そのゲルグ茸(大物)じゃない)
山道を歩きながら、俺はわざとらしく足を止めて落ち葉を押し分けた。
「親父さん、これって何のキノコですか?」
「ん? ああ、それは『シューリ』というキノコじゃ。美味いし普通に食えるから、籠に入れておくといい」
「ありがとうございます!」
さらにしばらく進んだところで、再び声をかける。
「あ、また何か見つけましたよ」
「おお、それも良いやつじゃ。街に持って行けばちゃんと売れるぞ。……おい息子よ、少しはジールくんの目ざとさを見習わんか」
「えぇ……。あの、ジールさん、なんでそんなポンポン見つけられるんですか?」
「ははは、昔から『目ざとい』のと『運』だけは良いんですよ」
もちろん、嘘だ。
親父さんに見せてもらった実物の遺伝子情報をその場でスキャンし、チートの探知網をフル稼働させて狙い撃ちしていた。
素人の荷物持ちがいきなり超高級なゲルグ茸を掘り当てれば、「なぜ分かった?」と大騒ぎになる。だが、手伝いのついでに『市場に並ぶ普通の食用キノコ』をそこそこ多く見つける程度ならどうだ?
道中の雑談でキノコの特徴や生える場所のコツ(他人に話しても問題ないレベルの基礎知識)を教えてもらい、それを愚直に実践したら「運良くたくさん採れた」という完璧なシナリオ。
これなら誰にも疑われず、日当以上の実利をしっかりと持ち帰ることができるのだ。
◇
「ふんふんふん〜♪」
山を下りる途中、俺が採取したキノコはそのままあの猟師一家に買い取ってもらった。
正直、素人相手だと思って多少は足元を見られているかもしれない。だが、この街の市場での仕入れ相場まで調べる能力も知識も、今の俺にはないのだ。下手に知ったかぶりをして揉めるより、言い値でさっさと売ってしまうのが一番賢い。
だが、今回の本当の収穫はそんな目先の小銭ではない。
『自力で採取できる安全な食用キノコの遺伝子ライブラリ』が一気に増えたことだ。
自分の能力(チート)のデータベースに、この世界の食料情報を蓄積していく。
もし将来、追われて山の中に潜伏したり、野宿で飢えを凌がなければならないような極限状態に陥ったとしても――これなら現地調達で確実に生き残ることができる。
目先の利益より、将来の生存確率。
ポッケに入ったわずかな金貨の重みと、頭の中に構築されたライブラリのデータを感じながら、俺は一人ご機嫌で足取りを軽くした。
◇
「次は木の実系の知識も教わりたいところだな。あの人たちは猟師だから動物や魔獣の扱いが本業だが、ぶっちゃけ察知能力だけなら俺の方が圧倒的に上だ。それよりは罠の仕掛け方や痕跡の追い方なんかを盗む方が、良い教材になるはず……」
そんな風に今後のレベリング兼サバイバル計画を立てつつ、街の中を歩いていたときだ。
突然、ボロボロの服を着た幼い女の子が前に飛び出してきて、俺の進行方向をすっと通せんぼした。
状況を把握しようと周囲に視線を走らせ――俺は『なるほど』と事態を察した。
しまった、やってしまった。
人目を避けるため、無意識に【生命探知】で「生体反応が少ない道」を選んで歩くのが癖になっていた。その結果、俺はよりによって『移動式風俗街』の敷地内に自ら足を踏み入れようとしていたのだ。
もうすぐシビアな冬がやってくる。こんな寒い時期に屋外や粗末な小屋で服を脱ぎたがる客も遊女もそうはいない。だが、秋の収穫を終えた農民たちは今、金と暇を余らせている。
その一瞬の需要(バブル)を逃さず拾うため、いつもの歓楽街からこの時期だけ出張してくる移動店舗がいくつか存在するのだ。
そして当然、彼らもタダで店を構えているわけではない。
商品である女性たちの姿そのものが広告であり、同時に展示コストでもある。だからこそ――
『おい、ここから先は見るだけでも見物料(冷やかし代)をもらうぞ』
という理屈が成り立つのだ。
俺の前に立ち塞がったこの少女たちも、店に買われて雑用をしつつ、先輩たちから夜の客あしらいを学びながら『門番兼集金係』をさせられているのだろう。
「悪いな、引き返すよ」
俺は手をひらひらと振り、素直に来た道を後ずさりして引き返した。
無用なトラブルも、余計な見物料の出費もごめんだ。
「……ふぅ。まあ、引き返せるだけマシな店か」
地主さんや周囲の農家から聞いた話では、タチの悪い店になると10歳にも満たない子供専門の店や、一度足を踏み入れた通行人を言いがかりで囲い込むような場所もあるらしい。
奴隷制が存在するこの世界、そしてこの王国において、そうした商売も法律上は『違法』ではないのだ。
『可哀想だから助けてあげないの?』と、誰かが義憤に駆られて言うかもしれない。
だが――だからこそ、そのままの方が良いじゃないか。
あの少女たちは、この道で生きていくと決めたか、あるいはそうしなければ今日を生き延びられない存在なのだ。
そこにへんてこな正義感を振りかざして物理的に助け出したとして、その後の彼女たちの生活はどうする?
養う宛ても職を与えるアテもないなら、結局また同じ道に戻るしかない。それどころか『一度足抜けした(逃げ出した)前科持ちの遊女』なんて、店側にとっても客にとっても警戒対象でしかないのだ。
異世界転移のテンプレ物語に出てくる主人公たちは、そこまで考えて『人助け』をしてるんですかと、一度じっくり問い詰めてみたいものだな。